224 迅速丁寧自然‥‥‥それが意外と難しい
‥‥‥経験というのは、大事な物であろう。
例えいくら知識が豊富で有ろうとも、いかに鍛えていようとも、結局はその時にその場で何を自分は出来るのかということが分からなければだめなことが多いのだ。
無理にごり押ししても痛い目を見るのが関の山でもあるので、地道に積み重ねていく必要性があり‥‥‥
「‥‥‥こうやってさ、入学して騎士としての職業でどのように戦うのか、というのを見るのは良い経験だけどさ」
「うん」
「なんで、この練習場でとんでもない戦闘を見せられるんだよ」
「知るかボケ」
…‥‥適正学園の騎士学科専用練習場。
ここでは本来、職業で騎士を得た者たちが各々の剣技を磨き、ぶつかり合い、腕を高めていく場所であったが‥‥‥その一角で現在、とある戦いが行われていた。
そしてその戦いを見ながら、今年度の新入生である騎士たちはそうつぶやくが、誰も良い回答を持ち合わせることができない。
それもそうだろう。その一角で行われていた戦いは、文字通り人間離し過ぎているのだから。
「くっ、思った以上に苦戦するな!!」
「冷静沈着/行動問題無し」
ガギィンっと槍と剣がぶつかり合い、火花を散らしていく。
片や、大きな槍を構えつつ、人馬一体もとい元から下が馬なケンタウロス。
そしてもう方や、持ち手がいなくとも宙を器用に舞って動く剣であり、その異様な戦いぶりは目を見張るものがあるだろう。
何も持たぬ剣が飛び交い、槍で受け流し、ぶつけ合い、互に一手を踏み出せない。
剣の攻撃は軌道がまだ読めるので跳ね返しやすくて一手が踏み出せず、槍の方も相手の体が無いので当てようが無い。
なんというか、実力と相手の体などが様々な要因となって、まったく進めないのだ。
「というか、明かに騎士学科の生徒じゃないような‥‥‥剣と鎧を着た槍使いなのは百歩譲ってまだ良いかもしれないけど、誰だよあの二人」
「確か、二年の方にいる召喚士学科の先輩の召喚獣って話だったな…‥‥」
「はぁ?召喚獣って普通は一体ぐらいなんじゃ?」
「その先輩、普通の召喚士とは違って多くの召喚獣を従えているらしいぞ。しかも全員美女ばかりだからハーレム野郎召喚士だとか、美女専門召喚士だとか‥‥‥」
「今戦っている二体は、その枠に入らないような‥‥‥あ、いや、でも鎧を着ている方は中身が分からないか」
騎士学科の生徒たちはそう話し合いつつも、その舞踏のような剣技の応酬に目を惹かれてしまう。
騎士としての職業故か、自分の剣技やその他に生かせないかと自己研鑽を怠惰なく行うからこそ見てしまうのだ。
そうこうしているうちに、戦局がついに動いた。
「体力的には厳しいな…‥‥ならば、一気に片を付ける!!」
「望むところ/全力!!」
どごぉぉうっと地面が抉れ、瞬時に互いの素早さが急激に上昇した。
目にもとまらぬ速さで動き出し、気が付けば火花のみが飛び交うように見せてくる。
「ぜ、全然見えないんだが!!」
「火花のみが飛び散っているようにしか見えないというか…‥駄目だ、まったくわからん」
「あの動き、まともに相手できないのだが…‥‥恐ろしいな」
何処にその体があるのかと目を動かすも追いつけず、何人かの生徒がぐるぐると目を回しすぎて倒れてゆく。
そして何とか追いつく者たちが生き残り、ついにその決着がつく瞬間が来た。
ガァァァァン!!
「‥‥‥相打ち、か」
「残念無念/不満」
体が止まり、その姿が目に収まった。
いつのまにか鎧の兜が脱げその美しい顔が出ていると同時に、剣だけだった方には青い体の者が剣を持ち、互の首をそれぞれの手で捉えていた。
どうやら剣のほうが武装を剥がし、ケンタウロスの方は相手の実体化をさせたような感じではあるのだが…‥‥
「「「「いや、結局素手で決着がつくのかぁぁぁぁい!!」」」」
その決着のつき方に、思わず見ていた騎士学科の一同はそうツッコミを叫ぶのであった…‥素手も武器な事は武器かもしれないが、予想外な付き方であった。
「‥‥‥って、話があったけど、何か申し開きは?」
「いや、つい熱くなってしまって‥‥‥」
「良い経験/でもまだ不足」
…‥‥座学の授業を終え、合間の休み時間。
次の授業では召喚獣たちと共に取り組む授業があったので、研鑽しにあちこちの学科などに出向いていたりする召喚獣たちを呼び寄せたのは良いが、レイアとルンの呼び出し時にある問題が起きた。
「互いに熱くなって研鑽を積むのは良いけど…‥‥流石にこの惨状はやり過ぎだろ!!」
そうツッコミを入れつつ、それぞれがやらかした惨状に指をさすと、二人とも目を横に向けた。
いや、ルンの方は実体化せずに剣だけなので側面だけを向けたというべきだろうが…‥‥体のある状態なら絶対に思いっきり口笛を吹いてごまかす感じに横を向いているだろう。
「凄まじいというか、これは酷いのぅ‥‥‥地面が抉れ過ぎているのじゃ」
「剣技も上達したようですが、ちょっと上げ過ぎですネ。一部、かまいたちが起きたかのように、裂けかけてマス」
その惨状を見てゼネとノインがそうつぶやくが、どうしようもないだろう。というか地面が裂けるってなんだそれ。
とにもかくにもそのせいで、彼女たちが自己研鑽のために互いにぶつかり合った模擬戦が行われた騎士学科用の練習場の一角は、かなり変わり果てた状態になっているのだ。
地面が踏み砕かれ、抉れ、高速で移動した故か空気抵抗で熱を帯びたのか一部が融解した形跡あり過ぎて、整備し直さなければ使えない酷い惨状と化しているのだ。
「授業中など、召喚獣の呼ばれる時がない時は、研鑽のために動いても良い校則はあるけどな…‥‥他学科の練習場を滅茶苦茶にするなというのもあるんだよ」
「「はい」」
「で、滅茶苦茶にした場合、監督不行き届きってことで、俺の方にも教師陣からのお叱りが来るからこそ、できるだけやらかさないようにと言っておいたんだが‥‥‥‥」
‥‥‥なんというか、これ完全にやらかした惨状としか言いようがない。
修復すれば使いようにはなるが、直している最中は当然使えないので…‥‥
「という訳で、次の授業は皆で動く奴だけど、レイアとルンはここの修復作業で残っていてくれ。ノイン、彼女たち用に修復道具を頼む」
「了解デス」
そう言うと、ごそごそとスコップやバケツを彼女は取り出し、手渡した。
「あの/マスター。剣/スコップ持てない」
「剣でスコップを持てるように頑張れ。あとレイアの方も、やらかさないように槍をちょっと没収ね」
「うう、マイロードが手厳しい‥‥‥‥」
ずーんっと二人がうなだれるが自業自得。
こういう時は、きちんと叱ることは叱るのであった。‥‥‥純粋な力では負けるけれども、こういう時に召喚士という立場が役には立つ。
「…‥‥まぁ、見れていない時の方も悪いのは分かっているけどな。手加減とか何かとそう言う部分を覚えて欲しい」
「んー、ですが、彼女達の場合私たちよりも戦闘よりですので、難しいところがあるのかもしれまセン」
言われてみればそうなんだけどね。
向き不向きを考えると、レイアもルンも戦闘方面向きだからなぁ‥‥‥というか、それを言ったら全員思いっきり体を動かす方が得意ではあるだろう。
リリスとリザの場合はそれぞれ防衛に後方支援てきなものがあるが…‥‥時たまやらかすのは仕方がない。
「いっその事、一旦全員の完全な全力戦闘状態を見るために、何処かで戦って見た方が良いのか?ダンジョン当たりで‥‥‥」
「先に御前様に言っておくが、近場のあのダンジョンはダメじゃ。がっつり崩壊するのじゃ」
うん、それもそうだ。
前に一度、崩壊しかけたし…‥‥かと言って、近くにあるのだと嫌がらせのようなダンジョンしかないし…‥どこかで思いっきり動かせるような場所無いかなぁ?
‥‥‥ディーが各々の全力を全部見る場所が無いか考え始めていた丁度その頃。
王城にある国王用の執務室内では、国王が頭を悩ませていた。
「‥‥‥むぅ、やはりここが少々怪しい状態か」
何故か今朝、起きた時には枕元にごっそりと毛が抜け落ちまくっていたホラーに悩まされていたのだが、それはまた別の悩み事。
「ガランドゥ王国の動きが、読めない状態になっているか…‥‥」
その執務室内に届けられていたのは、各国からのとある報告書。
それは、仮面の組織フェイスマスクについての協力体制を取っている国々からの物ではあったが、全部の国々から一致した報告が出ていたのだ。
いわく、このヴィステルダム王国の友好国の一つであるガランドゥ王国の動きが、最近妙に読めないのだとか。
「各国の諜報機関も動くも、情報を得たようで得られず、あやふやな状態‥‥‥何らかの精神作用を及ぼされているかもしれないが、国内情勢が読めないとな」
仮面の組織フェイスマスクについて、被害に遭った国々は対策を煉るために協力している。
だが、周辺諸国では唯一そのガランドゥ王国だけから連絡もなく、また連絡をよこそうとしても‥
「盗賊増加、商人の行き来はあれども国内の記憶がない…‥‥どう考えてもおかしい事ばかりだろう」
怪しさ満点過ぎるのだが、それでも情報が何故か得られない。
内部へ入る流通の道はあるのだが、その道を通ると何故かガランドゥ王国内の記憶などがすっぽりと抜け落ちているのだ。
「こういうところへ向けられる間諜は…‥‥いや、いないな」
しいていうのであれば一人、可能そうなのがいるのだが、生憎彼はまだ学生の身。
城伯という地位も持ち、王城からの命令であれば動かせないこともないのだが、如何せん時期的にはまだそう動かせない。
先日の作戦での功績もあり、褒美を授けたばかりでもあり、短期間で動かしまくる事もできないのだ。
というか、仮にガランドゥ王国内を探らせて何か功績を得たとしても‥‥‥その分、他の帰属からの面倒ごとが増えるだけで有ろう。
元が庶民の立場だった者ゆえに、その地位を貴族に引き上げたのは未だに快く思わない者もいるだろうし、そんな短期間にどんどん褒美をもらうようなことをしているのも何かとやっかみが増えるのだ。
「そう考えると、動かしづらいな…‥だが、彼らでなければできなさそうなこともある、何か都合のいい理由があればいいのだがな…‥‥」
ううむと悩みつつも、流石に良い案は出てこない。
何しろ、他の間諜たちも腕はいいのだが、万が一の臨機応変を考えるのであれば、対応力の高さでは神獣たちが多い彼が一番上を行くのだ。
悩み過ぎたせいか、はらりとまた一本失われた気がするが、それを気にする余裕もないし、彼に負担を掛け過ぎるとその周囲の者たちからの反発が怖ろしい。
というか、ごっそりと逝ったのはその者たちが原因ではないかと思える部分があるのだが、確証も持てないし、少々手詰まり気味であった。
「ああ、何かと動かすための都合のいいことがあればいいのだが…‥‥いや、待てよ?」
そこでふと、国王は妙案を思いついた。
都合のいいことが無ければ、作ればいい。
「‥‥‥とは言え、相手がのってくれるかが不安だ。何しろ、あちらでも彼の有用性は十分理解しているだろうし、下手すると持っていかれかねないが…‥‥」
‥‥‥物事には、何も代償が無いわけではない。
せめて、それが軽い物であれば良いと国王は心の底から願うのであった…‥‥
‥‥‥なお、翌日にはさらに悲惨なことになっているのだが、それがストレスによるものか、それとも密かな報復期間だったからかは不明である。
「‥‥‥まぁ、国の顔ともいえますし、ある程度の心労もあるようですので、加減してますけれどネ。小型荷電粒子砲の命中精度テストにはちょうど良いのデス」
「というか、期間を設けてやってみたのは良いんじゃが、なんか御前様向けにまたやらかそうとしておらぬかのぅ?ああ、悪夢もちょこっと入っているのじゃが…‥‥これ、ちょっと相乗効果が起きているようじゃな」
「「何にしても、面倒ごとによる報復はやめないデス(のじゃ)」」
‥‥‥ついでに、城内でこっそりとアンケートを取った結果、追加も少々あったりしたが、それはまた別のお話。
全力状態を、そう言えば早々見る機会はない。
何かと最近振るう事はあっても、全員一気にという事は数がそうないからな。
流石に狂愛の怪物時のようなと気があるのも嫌だが、一旦全員の現時点での全力を見てみたいような気がする‥‥‥下手すると国無くなりそうだからそうできないが‥‥‥
‥‥‥何やら怪しい動きが見えてきた模様。できれば避けたいのだが、そううまくいくのだろうか。




