221 抜いても生える
‥‥‥趣味部屋や呪いの武器の数々の報告に関して、明日に王子たち経由で都合をつけて王城へ向かおうという事でディーたちがぐっすり寮で眠っている深夜。
ディーの部屋にある扉の内、ノイン用の部屋では、ノインとゼネの二人が起きて作業をしていた。
「‥‥‥ふむ、儂も眠る必要性が無いから手伝えるが…‥この布、使えるのかのぅ?」
「色々考えて、耐性に関してのテストを行いたかったのですが…‥‥ええ、これなら大丈夫ですネ」
ゼネの杖の先から出る小さな電撃や炎、水などに対して、的にされている布の状態を見てノインは満足そうにうなずく。
今彼女達がやっているのは、主であるディー用の装備品に使用される資材のテスト作業。
こういう寝静まった夜中には音はほとんどなく、静かだからこそ作業を行いやすいという利点がある。
室内の音も外部へ洩らしにくいようにしつつ、ディーの身の安全のためにも協力しているのだ。
‥‥‥ついでに言うのであれば、彼女達は眠る必要性が特にないので、夜中にこうやって時間を潰すことができるとも言えるだろう。
まったく眠らないわけでもないのだが…‥‥それでも、彼女達の主のためを思って作業をするのである。
「しかし、呪いからヒントを得て、ちょっと魔法方面に手を出してみようと思ったのですが‥‥‥これはこれで難しいですネ」
「儂としては、その異様な武器の数々が魔法にしか思えぬのがのぅ…‥‥」
「魔道具でもありますし、魔法と言ってもおかしくはないとは思えますけどネ」
拡張されている室内の一角に山盛りにされている、ディー向けに開発されつつも没になって解体待ちされている武器の数々を見てゼネはそうつぶやき、ノインは返答する。
たくさんの没になった武器の山を見るが、ゼネとしてはこれだけでも相当ヤヴァイ類なのは理解できるのだ。
何しろ、彼女は元人間元聖女…‥‥最初からモンスターだったわけでもないし、それなりの常識は召喚獣たちの中で一番持っているはずであると自負はしている。
まぁ、死の魔法とかそういうのを扱えるようになっていることに関しては、思いっきり顔を背けてごまかすレベルではあるが…‥‥それでも、常識人と言えるような感性ぐらいは持ち合わせているのだ。
ただちょっと、最近は朱に交われば赤くなるというか、常識外すぎる召喚獣と一緒なせいでその感性に少々不安を抱いていたりする。
「で、この布が御前様の防具に使用可能なのかのぅ?」
「可能ですネ。耐火・耐水・耐爆‥‥‥それらとは違う、耐魔として使えそうデス。ありとあらゆる状況を想定して、万全にできるようにした方が良いですからネ」
「過剰防衛となりそうな気もするのじゃが…‥‥仕方がない事かのぅ」
やり過ぎな気がしなくもないが、ディーが大事な気持ちなのは同じなので、反対する意味もない。
ちょっとばかり突出しすぎた守りがある方が、自分達も安心して動きやすいのであれば良いと思うのだ。
「あと、万が一の全員の戦闘服にも応用可能デス。そこまで大規模な戦闘はないとは思いたいのですが‥‥‥組織の件とかありますシネ」
「あれは面倒そうじゃからなぁ…‥‥全員、きちんとした戦闘用の防護服は確かに欲しいかもしれん」
召喚獣である彼女達とは言え、その耐性は万全ではない。
弱点だって一応ある事はあるし、自分達が崩されれば主であるディーの身に危険が迫ることにもなりうる。
だからこそ、有事の際を想定した個人ごとの防護服も必要なことぐらいは理解できるが‥‥‥
「‥‥‥じゃけど、このデザイン案は無いと思うのじゃが。何で、全部メイド服なのじゃ?」
「すいません、そのあたりは自然と指が動いてまシタ」
「何故自然とメイド服になるんじゃ…‥‥」
一応、彼女達が着ている衣服はノイン御手製なのではあるが…‥‥どうやら気を抜くとメイド服に仕立て上げてしまうようだ。
メイドゴーレム故の本能というべきか、それとも完璧に見せかけたうっかりが入り込むのか‥‥‥それは誰にも分らない。
ただ一つ言えるのであれば、このデザインでも十分すぎる性能を持った衣服が作れる技能に驚けるぐらいだろう。
「しかも、各自の身体特徴をきちんと把握していながらもこれにしたのはどうなんじゃろうか‥‥‥」
「一応、全員のスリーサイズぐらいは把握してますからネ。健康診断時のデータも収集してますし、稼働領域なども計算に入れているのデス」
無駄に高性能さが発揮されているような気がしなくもないが、ゼネはツッコミを放棄する。
生憎彼女のツッコミ力はそこまで高くはないので、許容量越えには対応できないのだ。
「そう思うと、御前様の妹殿の方がすごいのぅ‥‥‥‥あと王女様のツッコミも冴えわたっておったし、儂もツッコミをちょっとは勉強するべきなのじゃろうか‥‥‥」
ちょっと迷った考えが浮かんだ気がするが、直ぐにその考えを彼女は振り払う。
ツッコミを鍛えたところで、この面子だとツッコミ過労死というシャレにならない死因になってもおかしくはないと気が付いたのだ。…‥‥ゼネ自身は、もう死んでいるようなものだが。
とにもかくにも夜が更けつつ、ある程度の作業を協力して行い、だいぶ進んできた丁度その頃合い‥‥‥
ガタガタリ!!
「ン?」
「何の音じゃ?」
ふと、何かがぶつかっているような音が聞こえ、二人はその音がした方向を見る。
「あの扉は‥‥‥確か、リリスの部屋じゃな」
「まだ眠っているはずデス。寝ぼけて転がったのでしょうカ?」
音がした方向を見て見れば、その先にあるのは召喚獣たちの私室への部屋。
その中で、リリスの部屋の方から聞こえてきたのだ。
ガッタンガッタン!!
「グゲェーーーーー!?」
「!?」
「なんか叫びましたネ」
音がしていたかと思えば、リリスの悲鳴が聞こえ、二人は慌てて部屋に飛び込む。
暗くなっている室内に、ゼネが明りの魔法で素早く照らしてみれば‥‥‥‥
ガッタンガッタンガッタンガッタンガッタンガッタンガッタンガッタン!!
「グゲグゲグエェ――――!!」
「…‥‥どういう状況じゃ、コレ?」
「サァ?」
室内を見れば、リリスが飛び回って‥‥‥いや、違う。
彼女の人間のように見える体の部分が、自身の本体ともいえる箱部分に振り回されているかのような状態になっている。
箱が飛び回り、その本体にいるべき体の方が引っ張られ、あっちこっち跳ねまわっているのだ。
「グゲェグゲェー!!」
「っと、とりあえず押さえるかのぅ」
「そうしましょウ」
涙目で助けてといわれたので、あっけにとられる前に彼女達は素早く動く。
ゼネの魔法で動きを鈍らせた隙に、ノインが片手を発射して、無理やり箱を床に押し付けた。
どっしぃぃん!!
「ぐ、グゲェ…‥‥」
「あ、ちょっとやり過ぎましタ」
「あれ、水への飛び込みとかでだいぶダメな落ち方をしたように見えたのじゃが‥‥‥‥」
とりあえず押さえつけてみたが…‥‥どうも箱の方がガタガタと暴れているようだ。
「グゲグゲ!!」
「落ち着くのじゃ、何があったのじゃ?」
「グゲェ!!」
「箱の中で、何かが暴れている?」
「箱の中に、巨大な虫でも入ったのでしょうカ?」
話を聞いてみると、どうやら彼女の本体でもある箱の内部で、何かが滅茶苦茶に暴れているようで、そのせいで身体が勝手に動き回っていたらしい。
人間の体に見える部分も本体な事は本体なのだが、こっちは元の種族的には幻でもあるので、強制力が弱く、箱の方に振り回されていたようである。
「グゲー、グゲ、グゲエェ」
「しかも、出そうとしても変なところに入り込まれてつっかえたじゃと?」
「その内部は私でも把握しきれないところが多いのですが…‥‥ひとまず探りましょうカ」
押さえつけている手とは反対側の手の方を腕から外し、箱の内部へノインは潜り込ませる。
「っと、無線誘導及びセンサーで範囲確認ですが…‥‥ああ、これですカネ?」
ある程度内部を進ませたところで、ノインがその原因を見つけ出す。
「これ、他にも収納してもらっているものが多いですが…‥‥その収納品に動き回る何かがひっかったようデス。これなら、その周囲事出せば‥‥‥っと、片手の状態ではうまいこと行かないですし、ちょっとこれを使いましょウ」
一旦手を元に戻したかと思うと、変型させ直し、今度は巨大な筒のようなものに切り替える。
「なんじゃそれ?」
「拘束用超合金性ネット弾入りバズーカ砲デス」
そういいつつ、ノインはリリスの箱の問題個所に対して狙いを定めた。
「発射」
引き金を引くと、ボンッという音と共に、筒の中からぶっといロープに括り付けられた弾が内部へ入り込んでいく。
そして数秒ほどで、がしっという音が聞こえてきた。
「良し、捕獲できまシタ。あとはロープを巻き取って…‥‥」
きゅりきゅりきゅりと音がしつつ、ロープが巻きあげられていく。
そしてそのままずるずると箱の中に入れていた収納物と共に、その蠢いていた元凶が引きずり出されてきた。
「グゲェ…‥‥」
「っと、これは大量じゃが…‥‥動いていた原因は?」
「センサーですと…‥‥ッ!!」
ノインのアホ毛が急にピンっと立ち、彼女はさっとリリスとゼネの体を飛ばしていた別の腕の方で横に寄せる。
すると、彼女達がいた真横を、いきなりその山の中から何かが飛び出して、床に突き刺さった。
「な、なんじゃ今の‥‥‥って、え?」
いきなり飛び出してきたものに、かなりビックリしていたゼネであったが、直ぐに警戒して戦闘態勢に移れるようにしたところで、そのものを見て目を丸くする。
驚くのも無理はないだろう。その床に突き刺さっていた、飛び出してきたものは…‥‥
「…‥‥アレ、儂が昼間に解呪した剣じゃけど‥‥‥何で動いているんじゃ?」
「それは私が聞きたいぐらいデス」
「グゲェ」
そこにあったのは、昼間に解呪され、国へ献上しようかと決めていたはずの剣。
うっすらと光り輝いていたはずの剣は、どういうわけかさらに輝きを強めた状態で、床から抜けようと動いていたのであった…‥‥
ぐらぐらぐらぁ!!
「何で抜けなくなっているんじゃ、アレ」
「あ、そう言えば、拘束用ネット弾のネット部分に、暴れるのを防ぐための超粘着液も混ぜてましたネ。それをもろにかぶった状態で、床に刺さると同時に接着したのでしょウ」
「なんちゅうもんを作っているんじゃ‥‥‥あれで人拘束したら、余計にヤヴァイことになっていたと思うのじゃが」
「下手に動けば毛を抜かれるようにしてましたからネ。対人対毛根根絶兵器にも使えないかとちょっと検討中だった試作品でシタ」
「それはそれで、人によっては効果抜群過ぎるのじゃが‥‥‥‥」
夜中の作業時に起きた、突然のハプニング。
献上予定だった剣が動き出したようだが、何がどうしてこうなったのだろうか。
原因は色々と思いつくが、ひとまずは接着した部分を乖離させる方が先決である…‥‥
‥‥‥なお、余談だが、粘着弾にしていたのはなんか混ざった。
本当は対人地味な嫌がらせ用に案を練っていた時に、ガムテープで毛を引っこ抜くような物もありなんじゃないかと思っていた。とある動森漫画で鼻毛版を思い出したからなぁ…‥‥知っている人、ほとんどないだろうが。




