220 趣味にとやかくいうことはないが
‥‥‥事故というのは、大抵予測外なところで起きる。
いや、起こるかもしれないと予測ができていたとしても、その情報が不足していれば対策が立てづらく、結果として起きてしまうという不慮の事故もあるのだ。
「‥‥‥だからって、これはないよな‥‥‥ああ、ようやく落ちた」
「消臭剤、全部使いきりましたが…‥‥損害はひどかったデス」
「激臭も人を殺せる可能性があると思い知りましたわね‥‥‥いえ、別件で似たような例がありましたけれども…‥‥」
「グゲェ‥‥‥」
屋敷の風呂場でさっぱりしつつ、互いにきちんと匂いが取れたことを確認し合い、俺たちはほっと安堵の息を吐いた。
というのも、調理場で見つけたいかにもやばそうな缶詰…‥‥見た目的に爆発しそうだったからこそ注意し、そっと衝撃を与えないように動かしてもらったが‥‥‥超・敏感に反応したようで、悲劇が起きたのである。
しかも、中身にどれだけ貯まっていたのかというほどの大爆散であり…‥‥中身が飛び散って来ただけならまだしも、その爆発のすぐ後に激臭が突撃して来たのである。
‥‥‥あの激臭は、以前にあった激臭の怪物を越えていたとは思う…‥‥怪物を越える激臭ってのもどうなのかとは思うが、調べてもらったところ一応まともな食品の類だった。
ただし、内部で異常に発酵が進んだ爆弾のような状態になっていたようで‥‥‥悲劇しか生まなかった。
幸い、屋敷内の入浴施設が使えたのですぐさま全員風呂に入ったが…‥‥あまりの激臭に大慌てすぎて男女別れずに勢いで一緒に入ったとはいえ、いつ殺されるかもわからないような、臭いの取り除き合いに必死になっていたし、思い返すこともできないだろう。
というか、あぶくまみれになって誰が誰か分からない状況だったけどな‥‥‥あ、前のリハビリで皆一緒に入らされていた時にほとんど体を洗う名目で泡まみれになっていれば精神的負担は軽減されたんじゃ?
今さらすぎる気が付きだが、過ぎ去った事なのでどうでもいいだろう。
今はともかく、全員激臭が取れていたことに安堵の息を吐いた。
「ノイン、調理場の方はどうするんだ?」
「消臭剤漬け決定ですネ。臭いのシャットアウトは可能ですが、それでも精神的にはきついデス」
メイドゴーレムである彼女が精神的にきつい発言…‥‥珍しいけれども無理は無いか。
というか、ゴーレムでも嫌がる激臭の缶詰ってそれだけで十分な兵器だよな…‥‥ガスマスクだったか、その装備品を全員用に携帯できるようにして欲しいかも。
それはともかくとして、体も乾かし、調理場を厳重に閉鎖したところで屋敷内の再探索である。
むしろ風呂に入ってさっぱりしたことで、より力を入れやすくなったようであり、来た当初よりも把握しやすくなっていた。
「というか、部屋数も多いなぁ‥‥‥」
「んー、元々隠居地用じゃったということは、使用人とかもいて、彼ら用じゃったのではなかろうか?」
「それもそうか」
普通の部屋数が多い理由はそれで説明が付くし、利用方法に関しては‥‥‥まぁ、それは後で考えるとして当分物置代わりになるだろう。
だがしかし、部屋の数が多い以外では、ちょっとした問題が出ていた。
「‥‥‥隠し部屋、またあったけど‥‥‥」
「今度は何でござろうか、コレ」
「こっちにもあったけど‥‥‥酒蔵になっているでありんすな」
‥‥‥元々王族の隠居地として作られていたせいか、歴代隠居した王族の趣味部屋と思われる隠し部屋が多い。
だがしかし、その趣味の内容をとやかくいうことは出来ないだろうが、ツッコミどころ満載な物が多かった。
ドMタンクマンだったのか自身のみを傷つける事だけできる道具が置かれた部屋。
酒豪だったのか酒マニアあったのか、世界中のありとあらゆる酒が眠っている部屋。
人形好きだったのか、埃まみれになって不気味さが増している人形部屋など、種類が多い。
「というか怖っ!!なんか全部こっちを見ているんだけど!?」
「あ、これ台座の方に視線に対して常に顔を向けさせる仕掛けがありますネ。無駄に高い魔道具のようデス」
「この部屋を作ったやつ、どんな思いで人形全員から見られるようにしたんだ?」
ツッコミどころが多い部屋や、まだ利用できそうなモノが多い部屋、扱いに困るので廃棄処分したいけど王族の方へ問い合わせして見ないと分からないモノが多い部屋…‥‥何と言うか、隠居後の各自の心の闇が見えてしまうような気がする。
王族というものは、それだけ闇を抱えるのか…‥‥まぁ、仕事大変そうだしなぁ。
そう思いつつ、様々な隠し部屋を探索する中で、ある一つの隠し部屋を俺たちは見つけた。
「っと、今度は本棚の本を動かして出る部屋だったが‥‥」
「‥‥‥おー、これはすごいな」
「武器を扱う身としては、ちょっと面白いのがあるぜ」
ガチャコンっと動いて出てきた隠し部屋に入ってみれば、そこは武器庫と言って良いぐらいの部屋だった。
槍やナイフを扱うレイアにティアにとっては、ここは興味が惹かれるようで、ちょっと目が輝いている。
「ん?でも触ったら不味いのばかりじゃな」
「え?」
っと、興味を持って振れかけたところで、ゼネがそうつぶやいた。
「この部屋の武器、全部何かしらの呪いがかかったやつばかりじゃな…‥‥」
「呪い!?」
「まぁ、死ぬ類でもなく、物凄く微妙な呪いばかりのようじゃがな」
「あ、ここに手帳らしきものがありますネ」
室内に置かれていた武器の中心地に、何か色々と書かれた手帳があった。
呪いがそれにはかかっていないことを確認し、回収して中身を見れば…‥‥どうやらこの部屋は、ちょっとした呪いの武器マニアのコレクションルームだったらしい。
「流石に死ぬ類とか永遠に取れない呪いのは危険すぎるからこそ、微妙な呪いのかかった武器だけを集めた訳か…‥‥」
「とはいえ、これだけの微妙な呪いのみの武器を集めるのもすごい根性じゃな。ヤヴァイ類は多いのじゃが、ここまで微妙な武器の方が希少じゃからのぅ」
持っただけで死に至らしめるとか、永遠に外れない呪い付きの武器の方が数が多く、こちらの微妙な呪いだけの武器は数が少ないそうだ。
「手帳にあるのだと‥‥‥装備すれば『3回回ってワンとなく鉄球』、『投げるたびに一発ギャグをかます投げナイフ』、『どんな禿でも爆裂アフロになるメイス』…‥‥呪いというには、確かに微妙な類だな」
「一部、需要ありそうなの、混ざってない?」
何にしても装備さえしなければ呪われることはないようだが、呪われても微妙な類しかないだろう。
装備すれば素っ裸になる棍棒、火を纏う魔剣に見えて冷え性になる剣、しゃっくりが出続ける鎖鎌‥‥‥微妙な呪いの武器とは言え、この数を集めるのは大変そうである。
「でも、使い道無いよな?」
「解呪するかのぅ?」
あったとしても、俺たちはほとんど使わないし、微妙な呪いばかりとはいえちょっと放置したくはない。
コレクションとして集めたようだが、こんなのいる人はいないだろうし…‥‥これも王族宛に相談しておくかと考えていた時であった。
「あれ?マスター、これだけ手帳のリストに無いですわ」
「何がだ?」
手帳に書かれていた武器の数々と照らし合わせて確認していたところ、カトレアが一つの武器を見つけた。
それはどうも手帳の中には入ってないようで、いつの間にかここに混ざっていた類のようだが‥‥‥
「‥‥‥何だろう、すっごい禍々しい雰囲気を纏っているんだけど」
「なんというか、これはちょっと警戒したいでありんすな‥‥‥」
室内の奥の方に鎮座していた、一本の剣。
なにやら台座に刃が刺さった状態で置かれており、小説とかにありそうな選ばれしモノが引き抜く剣のように見えなくもないが…‥‥思いっきり禍々しい雰囲気しかなかった。
刃先が刺さって見えないとはいえ、刃の側面部分にはギザギザした凹凸が多く、持ち手や装飾部分も真っ黒でありつつ赤い線で血濡れられたようにされている。
「ゼネ、これは?」
「これも呪い付き武器のようじゃが‥‥‥ほぅ、これはこれは、一番とんでもないものというか、引き寄せられた類かのぅ?」
「というと」
「微妙な呪いの品々が多い部屋とは言え、塵も積もれば山となる…‥‥どうやらこやつ、ここの呪いの数々からあふれ出たわずかな呪いが積み重なって生まれた‥‥‥自然発生した呪いの魔剣じゃろうな」
‥‥‥いくら微妙な呪いの武器の数々とは言え、呪いな事は呪い。
微妙とは言え不幸にするようなものもあり、それらが集まっているからこそ共鳴し合い、ちょっとずつ呪いがあふれ出たようで‥‥‥年月をかけて、生み出されたのが目の前の魔剣らしい。
「思いっきり放置できない理由がここに生まれたのかよ…‥‥」
「といっても、これ今できたばかりじゃな」
「本当かよ」
長い年月を経ていたようだが、ゼネの見立てでは俺たちが室内に入るちょっと前に生まれたばかりの物らしい。
ゆえに、いかに禍々しい魔剣で有ろうとも、俺たちがここへ来る前には撤去されていなかったのだろう。
「‥‥‥解呪できるのか?」
「生まれたてだから可能じゃな。これがさらに数年ほど月日を経ていたら、それこそ目も当てられぬことになっていたかもしれぬが‥‥‥運が良かったのぅ」
生まれたての呪いの魔剣ゆえに、まだ解呪は可能らしい。
他の微妙な数々は置いておくとして、最優先すべきなのはこの呪いの魔剣だろう。
「というか、リスト入りしてないやつだし、今出たばっかりなら相談する必要もないか‥‥‥一気に解呪してしまえ、ゼネ」
「了解なのじゃ」
杖を鎌え、呪いの魔剣に対峙するゼネ。
ぶつぶつと呪文をつぶやき始めたかと思うと、魔剣の下部分に魔法陣のような物が出来上がる。
「それじゃ、産まれたてのようじゃが…‥‥呪いだけでも消し飛ばすかのぅ」
ふわっと杖を振ると、魔法陣が輝き、一本の光の柱ができあがって剣が呑み込まれる。
そして数十秒ほどで光が消え去り…‥‥残されたのは、禍々しい雰囲気が無くなった剣であった。
「うむ、解呪完了じゃな。呪いが消し飛ばされた魔剣になったのじゃ」
「あ、魔剣なのは変わりないのか」
「それはそれじゃからなぁ…‥‥まぁ、単純にダンジョンで見つかるような魔剣になったと思えば良いじゃろう」
そう言うものかと思いつつ、触っても大丈夫だというので剣の柄の部分を持ち、台座から引っこ抜いてみる。
「よっと‥‥‥思ったよりもあっさり抜けたな」
軽く掲げて見れば、呪いが無くなって清々しくなったのか、微妙な呪いが蔓延する室内には似つかわしくないほど輝きにあふれている。
「‥‥‥これで魔剣?なんか違うものになってないか?」
「ふむ、ちょっと解呪が効きすぎたのかのぅ?」
ゼネが首をかしげるが、それでも一応まだ魔剣の類らしい。
けれども、自然発生した剣とはいえ、素人目で見てもかなりの業物っぽい感じがする。
…‥‥でも、扱えるかどうかは別なんだよなぁ。俺そもそも、剣使ってないし。
「これはむしろ、国へ献上したほうが良さそうだよな…‥‥あ、レイアはこれ使うか?」
「剣も使えるが‥‥‥やっぱり、槍の方がしっくりするからな」
剣を使えそうな面子もいるが、彼女達は使う気もないようだ。
だったら、これは国へ献上した方が良いだろう。ああ、その他の微妙な呪いの武器や他の面倒な品々がある部屋の相談ついでに持っていけばいいか。
「だったら今は使わないし‥‥‥国へ献上するまで、保管しておくか。リリス、これを頼む」
「グゲェ」
良いよというように蓋を開け、剣をしまい込むリリス。
剣を覆う鞘はないが、彼女なら傷つかずに保存できるようなのでも問題なし。
「それじゃ、後はもうちょっと探索してから寮へ戻るか」
「「「「了解」」」」
一日で全部を見て回り切れないだろうし、今後のこの屋敷の管理方法などもまだまだ決まり切ってないので、切りの良いところで引き上げた方が良いだろう。
そう思いつつ、俺たちは屋敷の探索を夕暮近くまで行うのであった‥‥‥‥
「というか、今のケースもあるし、この部屋を放置できないよな?」
「年月はかかるようじゃが、また出てもおかしくはないからのぅ…‥‥処分方法が決まるまで、簡易的な封印を施しておくかのぅ」
微妙な呪いの品々って、あっても困るからなぁ‥‥‥‥処分が決まり次第、さっさと運び出すか。
ちょっと考えたら、微妙な呪いだからこそ地味な嫌がらせに使えるのではないか?
そう思いついたが…‥‥嫌がらせをするような相手は特にない。
いい利用方法が無ければ、このままゼネに全部解呪してもらって武器屋に売ってしまう方が良いかもなぁ‥‥‥
‥‥‥禿アフロメイスに関しては、ちょっと需要あるかもしれんが。類似した武器もあるようだし、いっそこれを献上した方が良いか?




