215 やられる前に的確に
‥‥‥その地にやって来たのは、多くの仮面の者たち。
同じような仮面を統一して装着している集団というのは、ちょっとした不気味さを醸し出すだろう。
それぞれの移動手段は徒歩や馬車という統一性の無さはあるが…‥‥それぞれの纏う不気味な雰囲気は同じだろう。
「‥‥‥ついでに色々、荷物もありか」
「集合ついでに、ちょっと読まれている可能性もありますネ」
先ほど、ゼネたちからの報告があったが、どうやら予想通り良からぬ輩が精鋭部隊に紛れ込もうとしていたらしい。
そちらの方はノイン御手製の鎧などを配布したことによって防ぐことは出来たが、精鋭部隊を集めているという情報が漏れていた時点で、こちら側が動く可能性を組織は考えていた可能性が非常に高い。
ゆえに、まだ行動に移す前にじっくりと観察させてもらっているが…‥‥その可能性が当たっていたようだ。
「うわぁ‥‥‥何と言うか、こりゃ酷いのぅ」
「何がだ?」
バレないように声を抑えつつ、戻って来たゼネのそのつぶやきに問いかける。
ゼネいわく、組織側にこちらが先手を打とうとしているかもしれない情報が渡っているようだが、どうやらその防衛手段に毎度おなじみの怪物兵器と言えるような類は見えないようだ。
その代わりというのか‥‥‥
「呪いでがっちり守りを固めているようじゃ」
「呪いを使っているのか‥‥‥」
一口に呪いと言っても、そのすべてが物凄く悪い物ばかりという訳でもない。
人に病気を患わせたり、大怪我を負わせるような類の呪いはもちろんあるのだが、呪いの中には他者の幸せをちょっともらって自分に付け足したり、代償を支払いつつも代わりの物をうけとるようなものもあるそうだ。
「それって『呪い』というよりも『呪い』って言う方が正しいような‥‥‥」
「使う文字は同じ様な物じゃからな…‥‥まぁ、そう言うにしてもあれは生易しい物じゃないのぅ」
そう言いながら、ゼネは仮面の集団に目を向ける。
「儂は今でこそナイトメア・ワイトじゃけど、元が聖女じゃから大体の呪いの類は見れば理解できてしまうのじゃが、あれは嫌な類じゃのぅ。生贄を使って強化しておるようじゃ」
「生贄だと?」
「うむ。人の命を使った方が呪いとしては単純かつ強力になるからのぅ。今発動させておるのは、全体に守りの呪いじゃな。攻撃されてもかき消し、やってきた相手に鈍化の呪いをかけるというカウンターのような奴じゃなぁ…‥‥」
要はカウンター付きの防壁を集団全体に覆わせているようで、このまま普通に周囲から攻めたとしてもまともに攻撃が通らないらしい。
むしろカウンターが発動してこちらの動きが鈍らされてしまい、人数差で一気に押し切られる可能性があるようだ。
「とはいえ、これが普通の魔法の防壁とか魔道具によるものじゃったらきつかったが、呪いの類じゃしむしろこっちの方が楽じゃ」
「解呪可能ってことか」
「そう言う事じゃ。生贄を使って効力も高めているようじゃが‥‥‥こういうのも何じゃが、贄の質も悪かったようじゃのぅ。失敗作の怪物あたりでも利用したのかのぅ?」
何にしても、解呪すればその防壁は消え失せ、こちら側から攻撃を仕掛けられるらしい。
通信機ですぐに部隊の方に連絡を取り、動く前に解呪を試みる。
「解呪は楽じゃが、防壁が無くなったらすぐに察知するじゃろうな。だからこそ、先手を打たれる前に解呪と同時に攻撃してほしいのじゃが‥‥」
「可能らしいな。こっちの方も連絡が来た」
「通信機があってよかったでござるな」
こういう時に、直ぐに状況を把握しやすい通信機は便利である。
そう思いつつ、ゼネが解呪作業に取り掛かり‥‥‥‥直ぐに効果が表れた。
ボンッ!
「!?」
「なんだ今の音は!?」
「おい!!防壁が失せているぞ!!」
っと、解呪と同時に出た音に対して、仮面の集団が行き成りの出来事で慌てているようだ。
すぐに原因が判明して動くだろうが…‥‥その前に、先制攻撃である。
「部隊とつげきぃぃ!!」
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
潜んでいた精鋭部隊が一気に立ち上がり、すごい勢いで迫っていく。
とはいえあれでまだ全員ではなく、周囲を何重にも逃げられないように囲んでいるのだ。
ついでにまだ見ぬ怪物所持の危険性も考慮して、素早く危ないものを持っていないか判断したら…‥‥
「冷凍、保存、氷像化!」
「差し押さえの時間ですわ!!」
「スタンガン弾連射デス」
こちらも一斉に動きまくり、取り押さえ作業に移っていく。
無理に攻撃するわけでもなく、相手の動きを徹底的に拘束するために動けなくしていくのだ。
凍らせ、蔓で縛りあげ、痺れさせ…‥‥尻尾や蹄で叩きつけたり薙ぎ払い、ナイフ乱舞で切りつける。
もちろん、召喚獣任せにするのではなく、俺の方もノイン御手製装備があるので、そちらをフルに活用する。
「粘着ガトリング!!」
装備品の数々から、今回の作業にうってつけの装備の一つである、超強力粘着弾入りのガトリング砲を取り出し、一気に打ち出しまくる。
狙いに関しても補正しつつ、混戦しても味方に当たらないように注意しつつ、次々に粘着の海へ沈めていく。
「っと、どうやらまだやらかす輩がいたようでありんすな!」
自身の蛇の体でぎちぎちと仮面の者を締め付けつつ、リザが視線を向けた方向を見れば、ちょっと時間的に捕縛が間に合わなかったらしい奴らが変貌していた。
「「「ぶもああああああああ!!」」」
「なんだありゃ!?」
仮面をつけているという事は、仮面の者たちである事には間違いなかったであろう。
だが、その肉体は大きく変貌しており、5メートルほどの筋肉質な大男に変貌していたのだ。
‥‥‥しいて言わせてもらうのであれば、すんごいマッチョな人っぽいはずだが、残念なことに頭が豚である。
「オークとかそう言う類にも見えなくはないが…‥‥思いっきり怪物になっているなぁ」
人を化け物にする薬を作っていることは今までの事で知っていたが、どうやらそれらを所持していたようで、飲まれてしまったらしい。
瞬時にかつ強靭な肉体を手に入れたようだが…‥‥生憎こちらとて何も準備していなかったわけではない。
というか、いちいち怪物を相手にする可能性を考えると面倒にもなるので、今までのサンプルなどもちょっと参考にして‥‥‥
「ノイン!!例の物用意!!」
「了解デス!」
ノインにそう指示すれば、彼女の腕が変形し、巨大な注射器が現れる。
中身にある液体は色々とこっちはこっちで大問題レベルな色合いをしているが、今回のような怪物対策に作ってもらった試作品である。
「『怪物強制変換薬プロトタイプ』発射!!」
ドオオォォン!!っという音と共に、巨大な注射器が打ち出され、怪物化した一体に突き刺さる。
巨体になった分、当てる箇所が多くなったので腹のど真ん中に直撃したようだが‥‥‥痛みなどは意にも介していないようだ。
だがしかし、薬液がどくどくと注入され…‥‥数秒ほどで効果が発揮される。
「ぶ、ぶもわああああああ!?」
突然がくがくと震えだし、でっかい注射器を慌てて引き抜いたようだがもう遅い。
ぶしゅうううっと鼻や口、耳の穴から煙が噴き出したかと思えば、見る見るうちに縮んでいき…‥‥一気に人間と同等サイズへ変化した。
とはいえ、全部が元通りという訳でもなく、鼻部分が豚鼻ではあったが、効果はあった。
「よし、ノイン続けて連射だ!!暴れ出される前に全員無力化しろ!!」
「既に用意済みデス!!」
続けて巨大な注射器が用意され、次々に怪物へ打ち込まれ、人間へ戻していく。
とはいえ、やはり試作段階なだけあって、相手の方には後遺症というべきものがあるようだが…‥‥それでもかなり有効なのは間違いない。
普通に怪物が暴れたら、それだけで結構被害出たりするからな‥‥‥ぶっつけ本番みたいなものだったとはいえ、ひとまずは成功しただろう。
‥‥‥怪物たちを次々に鎮静化させていくと、いよいよダメかと思ったのか組織の者たちの抵抗が薄くなっていた。
中には情報を引き出される前に自決しようとする輩もいたようだが、毒などで即死される前に様々な種類の毒対応の薬草をカトレアが生やして手分けして口の中に押し込みまくり、舌を切ろうとする輩もレイアが瞬時に動いて踏みつけて気絶させていく。
その他皆で手分けして無力化させつつ、精鋭部隊の人達の尽力もあり‥‥‥‥数十分後には、ようやく全員を確保することに成功したのであった‥‥‥‥
人手があって、非常に良かった。
人数も多かったし、怪物とかも大変だし、下手したら大怪我を負う人が出た可能性あがっただろう。
けれども、用意を万全すぎるほどやっただけあって、無事にやれてよかった…‥‥
‥‥‥まぁ、無能とかを処分しているっていう話もあったし、怪物になる覚悟を持ったやつがいてもいいようにとできる限りの方法を用意しておいたのも良かったかもしれん。
精鋭部隊だけで、怪物たちを抑え込めるかもしれないが‥‥‥‥精鋭とはいえ人だし、無事にできる可能性もなかったからな‥‥‥




