閑話 とある雪の日と話し合い
‥‥‥雪の降る季節もピークとなり、かなりの大雪が積もった。
毎日手を抜くことがなく、こまめに除雪していたところでは特に被害もないのだが…‥‥
「やっぱり、コタツから離れられなくはなるなぁ…‥‥」
「ある意味、この時期最強の兵器ですヨネ‥‥‥」
「分かるぜ分かるぜ、水中は変わらないけど、こういうのは気持ちが良いものだからな」
ディーの言葉に、他の召喚獣たちは同意して頷き、皆コタツに体を深く入れ込む。
大雪になったからこそ、より大きく出来たかまくらと掘りコタツの相乗効果は、凄まじい威力を発揮しているようだ。
「んー、これ拙者の火もあんまり意味ないかもしれないでござるね‥‥‥ある程度やったら消すでござるよー」
「分かったよー」
コタツ内部の温源として炎を吐いていたルビーにそう返答しつつ、俺たちはゆっくりと潜る。
色々と改良に改良を重ね、全員が体をすべて沈みこめるようにしたとは言え‥‥‥皆、緩んだ表情になるのは仕方が無い事だろう。
「とはいえ、流石に鎧まで熱されると暑い…‥‥風呂場ではないが、脱がせてもらうぞ」
「どうぞどうぞ」
レイアが鎧を脱ぎ捨て、コタツに深く体を鎮める。
「わっちも、これなら外に出られるでありんすが‥‥‥あ、ここでも冬眠できそうでありんす」
「わたくしも、この内部でちょっと温かい所の植物の花を咲かせられそうですわねぇ‥‥‥」
くぴぃっと寝始めたリザの言葉に、ちょっとズレたコメントをするカトレア。
彼女の方は木々が少しづつ生い茂っているが、リラックスしすぎて成長を促しまくっているのだろうか‥‥?あ、かまくらを壊さないように木の根で補強させたりと色々やっているな。
「グゲェグゲェ…‥‥」
「こういう場こそ、平穏を感じるのぅ…‥‥お?そういえばアナスタシアの奴はどこじゃ?」
「ああ、さっき外に出て行ったな」
ふとアナスタシアがこの場にいないことに気が付いたゼネだが、俺は見ていた。
アナスタシアはここでリラックスもできるのだが、雪のピークをより楽しむためか、外に駆け抜けていったからなぁ‥‥‥この時期限定はしゃぎまくる彼女を止められる者はそういるまい。
いや、元々戦闘時の実力だけを見ればトップクラスだから止めようがないともいえるか。
何にしても、平和に全員ぼへーっとコタツで緩んでいると、ノインが腕を伸ばし、何かを持ってきた。
「流石にずっと入ってますと、水分が抜けたりしますからネ。ご主人様も定期的に水分補給をしたほうが良いデス」
「ああ、ありがとう」
持って来たのは温かい入れたてのお茶であり、受け取ってずずっと飲む。
室内の温かさに相まって、芯から温まるのも…‥‥
「‥‥‥あれ?このお茶、結構美味しいけどこんなのあったっけ?」
「ああ、わたくしが最近作り出した新茶ですわ…‥‥茶葉と薬草のハイブリッドで、保温効果を持たせる特別製ですわね‥‥‥」
「ゆるゆると栽培してもらいましたからネ…‥‥ご主人様に出すためのものとしてはけっこういいものでシタ」
コタツに入りつつ、ぐでーんっと普段以上に気が抜けているノインとカトレア。
いつもなら喧嘩もするのだが、流石にこのコタツの魔性の力によって、争う気力すら奪われたらしい。
…‥‥そう考えると、コタツ怖くないか?争う気力を奪い、何事もやる気を奪い、全てを手中に収める究極の温暖兵器…‥‥は、流石に言いすぎか。
そう思いつつ、ずずっとお茶をすすればぽかぽかと体が温まってくる。
暑くなりそうなものだが、そこは色々と調整がなされているようで、最適な状態で眠気も誘ってくるだろう。
「くぴぃ‥‥‥すぅ‥‥‥」
「グゲェ‥‥‥グゲェ‥‥‥」
「ぐぅ‥‥‥」
ふと気が付けば、他の面々もコタツの快適さにやられたようで、眠っていた。
まぁ、コタツで眠ると風邪を引くという話も聞いたので、できれば起こした方が良いかもしれないが‥‥‥この幸せそうに眠る光景を見ると、起こす気力もなくなる。
「‥‥‥今起きているのはだれだ?」
「私デス」
「儂もじゃな」
ちょっと声をかけて見れば、あまり寝る必要がない二人が即答してくれた。
「それじゃ、ちょっとコタツ出て、彼女達をそれぞれの部屋に運んで、そこで寝かせるぞ。ここで寝たら風邪を引くだろうからな…‥‥」
「了解デス」
「了解じゃ」
‥‥‥まぁ、召喚獣たちが風邪を引くのか、という部分は色々と考える部分もあるのだが、それでも最低限の健康管理はした方が良いだろう。
だらけすぎて不摂生に過ごして、体調悪化、健康最悪ってなっても困るし、こういう点で出来そうなところがあれば、できるだけ気を遣う方が良い。
そう思い、俺たちは眠った彼女達をコタツから引き抜き、それぞれの自室へ運び始めるのであった‥‥‥
「こういうときに装備があるのは良いけど…‥‥ちょっと重いな」
「ご主人様、それは口に出さない方が良いと思われマス」
「寝ているからこそ出せただけだからね?普段言ったらどういう目になるのかは、学園で学習済みなんだよ」
「なんかあったかのぅ?」
「ほら前に、バルンが学園でまた違う人と付き合いだした際に、うっかり言ってさ…‥‥」
「ああ、思い出したのじゃ。あの天の星になった生徒事件かのぅ…‥‥」
‥‥‥だからこそ、結構気を遣ってはいる。俺の場合、召喚獣全員女性だからね‥‥‥NGワードを口に滑らせたときには、地獄を見そうなのは理解しているのである。
あと、風呂覗きとかも駄目であろう。というか、うちの風呂覗こうとした村の奴ら、たまに氷像と化していたり、直ぐに連絡されて奥様方に翌日には変型させられているからね‥‥‥あれ?うちの村って女性強かったっけ?
‥‥‥ディーたちが眠りこけた召喚獣たちをそれぞれの自室へ運び入れいる丁度その頃。
とある場所では、ある集まりが開かれていた。
「‥‥‥では雪明け頃まで活動停止と」
「ああ、だが明けた頃合いには、再び再開だ。何やら今は、捜査の手がかなり及んでいるようだからな‥‥‥」
地下ではなく、とある農村に模したところにある一軒家で、話し合いが行われる。
「ああ、無能とか馬鹿とか、材料にできるからこそ引き入れていたが‥‥‥足を引っ張り始めたからな‥‥‥組織の拡大に、整備が追い付いていないのか?」
「そうだろうな。技術は上がったが、人の精度はまだまだ発展途上‥‥‥ゆっくりと熟成させねばならん」
重々しく話し合いつつ、一つ一つの議題に対して策を練り、それぞれこなすことを決定していく。
「さてと、後は我が組織との敵対人物だが‥‥‥案外、数が多くなってきたな」
「秘密裏に進めるはずが、どんどん暴露されたからなぁ…‥‥正義感、復讐心、欲望成就の利用…‥‥様々な目的が入り混じって、面倒だ」
「特に、最近はとある召喚士に関しての敵対レベルが向上か…‥‥召喚獣の規模や、能力などを見ても、かなり高いな」
「一度薬を打って、失敗しているしな。あれで始末とか配下に置ければよかったが、ダメだったようだからなぁ」
はぁっと呆れるように溜息を吐く者や、内容にいら立ちを見せる者など様々ではあったが、それでも敵対する者に対してはしっかりと対応すべきだろういう認識は同じ。
「ハニートラップも効きそうにねぇなぁ。むしろレベルの高い奴らのせいで、こっちが欲しいぐらいだ」
「珍しい召喚獣も多いし‥‥‥配下に置ければいいが、無理だろうなぁ」
「力づくでだからだろう?今行っている催眠・暗示系の道具で従わせるのはどうだ?」
「最近やらかした馬鹿がでたからこそ、良いデータが取れたが…‥‥不完全さもあるようだ。だからこそ、完璧になるまでまだ出せない」
様々な対応手段を模索するも、良い手段は出ない。
いや、出せることは出せるかもしれないが、それでも完全とも言い切れないので、より良いのが出るまでお預けとなる。
「とりあえず、今は潜んでおくのが良いだろう。幸い、匿ってくれる後ろ暗すぎる貴族様方や商人様方もいるだろうし、そちらで待つのが良い」
「それもそうだな」
‥‥‥話し合いつつ、この雪の降る時期はそろそろ活動を停止した方が良いと判断し、その場は閉場された。
それと同時に彼らの姿は消え失せ、見せかけの農村自体も消滅し、何もない雪原へと変貌する。
時期的には移動も限られてくるし、休んで力を蓄えるのも良いだろう。
だが、その力を蓄える者たちが休みを止め、発揮し始めた時が厄介でもある。
早期発見が望ましいのだが、今はまだ出来ないようであった‥‥‥‥
「しかしなぁ、こいつの召喚獣羨ましいぜ。ああ、美女だらけってのも良いなぁ」
「でも苦労性なんじゃないか?髪が白くなっているし」
「…‥‥だが、それでも羨ましい事には変わりない。ああ、できれば奪ってやりたいがな…‥‥」
間もなく季節も変わり、再び学園へ戻る時。
新しい風も吹く中、面倒ごとの風も吹くだろう。
だが、今はとりあえずのんびりと実家で過ごしたいのだ…‥‥
「‥‥‥というか、運んで思ったが…‥‥装備一式、結構改良したな」
「私自身のアップデートのおかげで、さらなる性能向上を可能にしましたからネ。空気圧ではなく、そろそろ重力方面で手を出せそうデス」
「それ、もうホバーブーツと呼べん代物になるんじゃなかろうか‥‥?まぁ、御前様のパワーアップを考えるのであれば別にどうでもいいのかもしれんがのぅ…‥‥」




