18 一応、ここ学び舎だからね
‥‥‥先日の、人操り潰れ人生方向転換騒動。
短くまとめてなにこれ意味わからない、と言われるかもしれないが、俺自身もどういえば良いのか分からない。
ただ一つ言えるのは、勝手に自滅したぐらいかもしれないが…‥‥とにもかくにも、その騒動は、元凶が哀れなので忘れることにした。
今はただ、別の事に…‥‥
「‥‥‥本日の授業は、召喚獣とのコミュニケーション方法が多種多様ゆえに、それらを試すってやつだけど‥‥‥ノイン、一つ良いか?」
「何でしょウ?」
「なんで今、熊から全速力で逃げなきゃならないんだぁぁぁぁ!!後何故お姫様抱っこしているの!?」
「正確には、熊型のモンスター『ジャイアンガグリズリー』デス。適当に立ち回れば振り切れますのでご安心ヲ」
いや、全然安心できないんだけど。
‥‥‥‥本日、ディーたちは召喚獣学科の授業の一環として、首都からちょっと離れた位置にある、小さなとある森へ訪れていた。
召喚獣たちはどこからか召喚したものたちであり、コミュニケーションを積極的に取っていくのも必要。
けれども、いつも同じ環境というのも何なので、ちょっと変わった場所‥‥‥今回は、自然豊かな森へ来て、それぞれの召喚獣と遊ぶことになったのである。
徒歩で1時間弱で着くほどの距離であり、その道中でノインに因縁のあるヘルールがちょっかいをかけて来て蒸し焼きになりつつも、無事に到着。
森の広さはそこまでではないとはいえ、それなりに湖や、山菜なども多くあふれており、各自で泳ぐ、森を探索する、薬草などを狙うなどして召喚獣たちと過ごしていた。
俺たちの場合は、ノインが今度ご飯を作る時用に、食材を手に入れたいと言ったので、山菜などを目当てに森に入ったが…‥‥そこで、熊のようなモンスターに遭遇してしまったのである。
死んだふりとかは通用せず、肉を見つけたらそれだけで只貪り食うとされる、ジャイアンガグリズリー。
例え他の肉食動物の獲物だとしても、お前のものは俺のものと言わんばかりに、食欲溢れて襲撃してくる凶暴性があるのだ。
「武装的には討伐可能ですが、討伐後が面倒ですからネ…‥‥幸い、頭は悪いようですので振り切るだけで充分デス」
「倒せるという点には驚愕するけど…‥‥」
確かに、倒したところでその死骸をどうするかというのが面倒そうである。
ならば、逃げられるのであれば逃げたほうがいいし、他の人の被害も出ないように奥地へ誘い込んだほうがいい。
そういう訳で、現在ノインに抱えられて、逃走していたのであった。
‥‥‥逃走から30分ほどが経過したころ、ようやく相手は俺たちを見失ったらしい。
「ついでに、あちこちに猛獣用の罠を仕掛けましたので、出ようとしたら確実に捕まりマス」
「抱えながらいつの間に⁉」
何にしても、無事に振り切ったのであれば良いだろう。
「とりあえず、元の場所へ合流して帰還できたらいいけど‥‥‥道大丈夫?」
「大丈夫デス。逃走経路も記憶してますので、問題なく帰れマス」
そう大きくない森でもあるけど、迷子にならないのはありがたい。
そう思いつつ、先生たちのいる場所へ、俺たちは帰路につくことにした。
「あ、ちょうどいいところに結構珍しい山菜がありますネ」
「そうなの?」
「あらかじめ、図書室での資料を閲覧していましたが、どれもこれも今の時期ならそれなりに値がつくものデス。高級食材とまではいきませんが、それでも良いものデス」
機嫌良さそうに、ひょいひょいっと彼女はそれらを採取していく。
ノインとしては、良い食材が手にはいったことに喜んでいるようだけど‥‥‥その時、ふと俺はあるものを見つけた。
「ん?」
何かこう、ガサっと茂みが動いたような気がして、のぞき込んでみると‥‥‥そこにあったのは、大きな卵だった。
「なんじゃこりゃ?ノイン、ここに卵が」
「エ?」
山菜取りを一旦止め、ノインもその卵に近づいた。
その卵は大きく、ちょっとした人間の子供サイズ。いくつもあり、よくみれば大きな足跡などもある。
普通の鳥が生むような代物でもなさそうだが‥‥‥
「ふむ‥‥‥なるほど、正体は分かりまシタ」
「なんだ?」
「これ、ワイバーンの卵ですネ。ドラゴンとは異なり、空飛ぶトカゲにして毒の爪などを持つモンスターのものデス」
「‥‥‥それが幾つもここにあるってことは?」
「ここ、巣ですネ」
‥‥‥何だろう、すっごい嫌な予感がしてきた。
ここ、そこまで大きくない、ただの普通の森のはずなのに‥‥‥何で、ワイバーンの巣が。
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『ワイバーン』
一見、ドラゴンに類似した容姿だが、まったく違う種類のモンスター。
両手が長くなって翼となる被膜が付いた巨大トカゲのような物であり、その手足の爪には毒がある。
凶暴なモンスターで群れをつくり、各地に襲撃をかけて獲物として人々を襲う、凶悪さもある。
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「‥‥‥この森に生息地があったというデータはありまセン。おそらくは、今できたての巣なのでしょウ」
「ということは?」
「放置すれば被害がでますが…‥‥その前に、ご主人様、上」
「…‥‥」
ノインが指を上に向け、指し示す。
すごい嫌な予感がするので見たくないのだが、従って見れば…‥‥うっそうと茂っているはずの森なのに、その部分はぽっかりと開いていた。
そして、そこに大量に居るのは…‥‥
「「「「「ギャオオオオオオオオオオオオオス!!」」」」」
「げぇっ!?ワイバーンの群れじゃん!!」
「この巣の主たちのようですネ。逃亡を推奨いたしマス」
「いわれなくても逃げるよね!?」
‥‥‥授業の一環として、遊びに来たはずの森。
それなのに、なぜ俺たちは今、ワイバーンの群れの襲撃に遭うのだろうか。
その運の悪さに嘆きつつも、熊の時同様に逃げ始めるのであった‥‥‥‥
一難去って、さらなる一難。
陸の凶悪生物から、今度は空の凶悪生物の群れと、凶悪性が向上した。
何にしても、今は逃げなければならない!!というか、なんでこんなにやばいのがいるんだぁぁぁぁあ!!
‥‥‥わざとではない。そして主人公の運の悪さは今更の事でもある。
ノインの戦闘能力は高いけど、流石にこれは逃げたほうがいいかも。




