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191 うつらうつらと

‥‥‥魔性のコタツが村で流行りつつ、取り潰されつつとしていたが、雪はますます降り積もっていく。


 もう少しでピークとなり、それさえ超えてしまえば楽になっていくのだが…‥‥



「‥‥‥アナスタシア、雪女だからこの大雪にテンションが上がったのは分かるけどさ‥‥‥」


 ディーは呆れつつ、目の前に出来上がっているそれを見て溜息を吐く。


「‥‥‥これはもう、ある意味芸術だけど、やり過ぎなんだよ!!」

「すいません、一晩中、作ってました」


 ぺこりと謝りつつも、そこまで反省しているように見えないアナスタシアに目を向けつつ、もう一度その出来上がった作品に、俺は自身のツッコミ力不足に嘆きたくなった。





 深まる雪を、どんどんかき分けて村が雪に埋もれないようにするのは良いだろう。


 その分どかした雪を好きに利用してよかったのかもしれないが‥‥‥‥ちょっと足りないからって、自身の能力で氷を継ぎ足して、氷の城を作ってしまうのはいかがなものなのだろうか。


 なお、雪の城の形を見る限り、この国の王城をモデルにしつつちょっとアレンジを加えたのだろうが‥‥‥小さな村に大きな城はアンバランスすぎるとも言えなくはない。


「サイズは流石にオリジナルよりも小さくしているようですが、それでも規模は王城と同等ですネ」

「広すぎますわねぇ‥‥‥ああ、しかも庭の草木なども細かく雪や氷で再現しているのはすごいですわね」


 皆で入って探ってみれば、あちこち細かなこだわりも存在しており、もうちょっと改良すれば一つの屋敷が出来上がると言っても差し支えないほどの出来具合。


 素晴らしとも思うが、流石に村の中にこれを作ってしまうのはどうなんだろうかと思ったが…‥‥




「あらあら、中々すごいわねぇ」

「村の皆も、見学しているよー!」


‥‥‥思いのほか、この村の皆さん、あっさりと受け入れていたのであった。


 ちょっと心配したが、むしろ出来が良すぎたのが幸いしたようである…‥‥なお、村長あたりから流石にこれはやり過ぎなので、もう少し削れと言う注意は喰らった。



「ここまでやると、領主様の耳にも入るかもしれんな」

「マジですか」


 流石に村というか、この地を治める領主の耳に入るのは望ましくないような…‥‥いやまぁ、俺も一応城伯という位はあるけど、それはあくまでも領地無しの貴族の位の一つだからなぁ。下手にいざこざが起きるのはさけたい。


 というか、このヌルングルス村の領主って確か辺境伯あたりだったような…‥‥位としてはあっちの方が上だったか?


「辺境伯、伯爵、子爵、城伯の順で、ご主人様よりも2つは上デス」

「そうなるのか」

「まぁ、その領主の辺境伯当主は今、不在らしいがな」





‥‥‥国の爵位の中にある辺境伯は、いわば国の防衛の要となる人物がなるようなもの。


 ゆえに、腕っぷしに自身があったりしつつ、貴族としての自覚や礼儀も忘れないようにして、結構良い人が多いとは聞く。


 だがしかし、真面目過ぎる人が多く、そのせいで鍛錬のために修行の旅に出てしまうような人もいるようで‥‥‥この村が所属している領地の領主はまさにその修行の旅に出ているそうなのだ。


「聞いた話だと、おまえさんが前に帰郷した頃合いだぞ?」

「‥‥‥何だろう、俺が原因のような気がしなくもないような」

「しなくもないではなく、御前様が原因な気がするのじゃが?」


 何しろ、その前の帰郷の時は爵位持ちではなかったが、それでもそれなりに召喚獣たちがいたからな…‥‥戦力的な意味合いで見たら、確実に上だったかもしれないし、そのせいで修行に出た可能性が否定できない。


 というか、面倒ごとの予感がして逃げたような気もするのだが…‥‥うん、それは流石に無いよね?



 とにもかくにも、このアナスタシアが創り上げた氷の城は、一応領主が不在のために届け出ることはないようで、しばらく村の名物にしてもらうことにした。


 ある程度はごまかしがきくし、村としても面白そうなものが目玉となれば、この雪ばかりの時期の暇つぶしになるらしいからなぁ…‥‥何と言うか、今更だけど結構寛容的というか、懐が深い村である。


 まぁ、問題にならなかったのであれば、必要以上に気にする必要もないか…‥‥


「でもアナスタシア、次からはきちんとやり過ぎないようにしろよ?流石にかばいきれないというか、やり過ぎたらどうしようもないことがあるからな?」

「了解です。次からは、きちんと聞きますね」

「にしても、これはすごいでござるよなぁ…‥‥拙者の火で溶けそうでござるけどね」

「ルビー、一気に溶かすなよ?」


 流石にこの規模、ルビーの火炎放射で瞬時に片付けられそうな気がするが、溶けたら物凄い量の水となって襲い掛かってくるのが目に見えているからな…‥‥













‥‥‥村の方で、ディーが何とか解決していた丁度その頃。


 王城の方には、ようやくたどり着いた第3王子(エルディム)の姿があったが…‥‥


「…‥‥何があった、弟よ」

「なんかすっごい、落ち込んでいるね?」

「あ、兄上たち‥‥‥」


 ずぅぅんっと、目にも見えるほど物凄く黒いオーラをだして落ち込んでいるエルディムに、兄である第1王子(ゼノバース)第2王子(グラディ)が声をかけると、彼はものすごく鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔を向けた。


「盗まれたんだよぉぉぉぉ!!必死にダンジョンで手に入れた、夢の秘薬がぁぁぁぁ!!」

「おいおい、滅茶苦茶汚いからまずはその涙と鼻水を吹け!!」

「というか、落ち着いて!!なんか色々洩れているじゃん!!」


 



 少々時間を掛け、ようやく落ち着いた頃合いに、兄である王子たちは改めて質問し…‥‥帰ってきたその内容に関して、首を傾げた。


「はぁ?ダンジョンで得た秘薬を、宿で泊まったら盗まれただと?」

「手にしっかりと持って、寝ていたんだよね?」

「そうだよ!!流石にその状態で動かされたらわかるはずだし、従者もいたし、盗むのであればすぐに分かるはずなのに、いつの間にか盗まれていたんだよぉぉ!!」


 席を用意し、そこで話し合いをして内容を整理したが…‥‥どうやら、ココへ帰宅する前に寄った宿屋にて、手に入れた品を盗まれていたようなのだ。


 その品は、老人であろうとも子供並みに若返らせる秘薬であり、エルディムにとっては自身の性癖を満たす夢をかなえることができるような、まさに夢の薬だったのだが…‥‥


「‥‥‥盗む意図が分からんな。老人を子供に変えるほど効力が強いのであれば、流石に普通の若返りの薬として服用できないだろうからな」

「薄めて効果も‥‥‥とも、ならないんだろう?」

「ああ、ちょっと実験してみたら、原液じゃないと薄まる事もなく、効果をなくすようなんだ」


 効能が効きすぎるがゆえに、扱いも非常に難しく、利用できるのかどうかよくわからない。


 というか、エルディム以外にとっては超若返り過ぎる薬は流石に価値がない。


 これが物凄いお年寄りの方が治めている国とか、はたまたは長生きしたい人が求めるとかというのもあり得そうな話でもあるが…‥‥生憎、それの効果はあくまでも若返りをするだけで、寿命までは戻らないようだ。


「寿命が変わらず、単純に子供に戻すほどの薬‥‥‥価値が特殊な性癖を持つ人たちぐらいにしかないよね?」

「はたまたは、その効能を分析して、完璧な若返りを作ろうともくろむ輩が…‥‥いや、作るにしてもそれなりの材料とか必要になるだろう」

「そもそも、人の手で作れるようなものだったら、まず自身の私財で買い占めるよ」


 エルディムのその言葉に、グラディたちはその通りにしかねないと思いつつ、物凄く納得する。


 ダンジョンで得ることができるような類は、そもそも人が作れないようなものばかりだからこそ価値があるのだ。…‥‥その薬に関しては、本当に特殊性癖の人達ぐらいしか価値がない気もするが。



「なのに盗まれるとか…‥‥その盗みの手口も鮮やかすぎるというか、そもそも狙うにしても情報いるよね?」

「そうなんだよなー。ダンジョンのあった都市、国などに情報はあったかもしれないけど…‥‥欲しがるような人なんて、思いつかないよ」


 泣き叫んでもいたが、既に心が落ち着いたようで、肩を落とすエルディム。


 自身の性癖が性癖だけに、その薬に価値を見出すような人はそう無い事ぐらい、よく理解しているのである。


「あれ?でも待てよ?」


 っと、そこでふとグラディはある事に気が付いた。


「なぁ、その薬って老人を子供にするほどの超絶若返りの効果がある事は分かるが‥‥‥老人でもない、普通の大人とかだとどうなるんだ?赤ちゃんにするとか?」

「ん?植物で実験したし、その効果が発揮された村でも見聞きはしたが…‥‥言われてみたら、それに関して情報なかったな?」


 老人を子供にするのは良いが、それを大人に服用した場合、どうなるのだろうか?


 最悪の場合、若返り過ぎて大人から赤ちゃん‥‥‥いや、もっと前のお腹の中にいる未熟な状態にまで戻る可能性もある。


 けれども、もう一つの可能性としては…‥‥


「もしかして、勘違いしている可能性もあるんだよなぁ…‥‥超・若返りとかじゃなくて、単純に子供にする薬だったりしないのだろうか?」

「それはそれで、使い道が無いような…?」

「いや、結構あるよ、兄上。寿命がそのままなら、年を取ってきたら大体の部分で服用して子供になって、往生する頃合いには美貌を持っていたいとか、そう言う人には需要があるだろうし…‥‥子どもになってしまえば、どうとでもしてしまえる可能性があるからね」

「…‥‥何だろう、すっごい不味い可能性が考えられるような…‥‥」


 兄弟そろって顔を見合わせ、嫌な予感をなんとなく感じ取りかけた…‥‥その時であった。




「きゃああああああああああああああ!!」

「「「っ!?」」」


 突然、城に響き渡った悲鳴に、思わず彼らは席を立った。


 その声は、彼らの妹でもあり、この国第1王女でもあるミウの悲鳴だったのだ。



「どうした妹よ!!」

「どうしたんだい、この悲鳴は!!」

「何があったんだ!!」


 慌てて兄弟はその場を駆け抜け、瞬時に彼らの妹の悲鳴の場所までたどり着く。


 この時間は、第1王女は王城内での王族としてのレッスン中で、今はダンスを学んでいたはずだったのだが…‥‥


「お、お、にいちゃま!!どうなっちぇんのこりぇ!!」

「「「!?」」」


 そこにいたのは、衣服が物凄くぶかぶかなものを着ていた小さな女の子がいたのだが、彼らの目には直ぐに分かった。


 その少女は…‥‥まぎれもなく、彼らの妹であるミウ。


 だが、その背丈は小さくなり、幼児みたいな容姿になっていたのだ。


「しまった!!一服盛られたのか!!」

「嫌な予感が的中というか、何を飲んだ!!」

「れ、れっしゅんの、合間の休憩に、置いていたこっぴゅのみじゅで…‥‥」


‥‥‥悪用される可能性を考えていた矢先に、起きてしまった事件。


 様々な悪用方法も頭に浮かべていたが、第1王女へ向けるメリットはあるのかという疑問がある。


 とはいえ、いそいで王城全体に緊急警備が敷かれ、すぐさま捜査が行われるのであった。


「な、なおゆのこりぇぇ!!」

「ああ、妹が物凄く幼い姿に…‥‥」

「小さいというか、本当に昔のというか…‥‥防げなくて済まない」

「思いっきりストライクゾーンと言いたいが、流石に肉親はアウトだ…‥‥おのれ犯人!!手に入れた秘薬を、何故使ったぁぁぁ!!せめて最初は老人たちへつかってやれやぁぁぁぁぁぁ!!」

「「お前だけ、怒りの場所が違うよな?」」


‥‥‥燃え上がるエルディムへ、案外冷静なツッコミが下されたのであった。


季節限定氷の城が出来上がりつつ、問題にならなかったのは良いだろう。

というか、これどうやって作った?歌いながら?

‥‥‥まぁ、芸術なのは認めるけど、次からはここまでやらないでくれ。




‥‥‥一方で、なにやら面倒事が冬眠せずにやってきたようで…‥‥

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