186 遊びにマジになり過ぎないように
「…‥‥温かい‥‥‥でもリザ、体温奪ってないよな?」
「大丈夫でありんすよ。しっかりと、熱を取り込んでおいたでありんすからな」
ぐっとこぶしを握り、その長い蛇の部分で俺を温めてくれているリザはそう答えてくれた。
雪合戦、中々白熱して楽しかったのだが…‥‥いかんせん、途中でノインとカトレアが喧嘩に発展させてしまい、各々の雪上攻撃手段で色々とやらかしまくった。
まぁ、他の人達もいたし、きちんとある程度は気遣っていたのか雪玉のみで抗争していたが‥‥‥そこに、アナスタシアが加わったことで、さらなる悪化となった。
というのも、雪女である彼女は森の中を駆け回ってもまだテンションが上がっていたようで、意気揚々と雪合戦の第3勢力として参戦。
そして雪女の本領発揮かつ喧嘩を止める気も多少はあったのか猛烈な吹雪を引き起こし‥‥‥雪合戦場は雪に埋もれたのである。
かろうじて雪かきしたところの配慮もして器用に合戦上だけを積もらせたが、それでも巻き添えを喰らった者にはたまったものではなかった。
ゴォォォォ!!
「ふぅ‥‥‥だいぶ溶けてきたでござるな」
「これ、カチコチじゃのぅ」
ブレスや魔法を使いつつ、氷を溶かしているルビーとゼネ。
そしてその氷の中には、見事に固められたノインとカトレアがいた。
「すいません、調子、つい、乗り過ぎました…‥‥」
「こっちもまだ固まっているぜ」
しょぼーんっとうなだれるようにしているアナスタシアに、かつんかつんっと中途半端に足とサメの尾っぽの中間になっている部分の氷を自身のナイフを使って砕くティア。
各自、なんとか雪から助け出されたが、体が冷え切ったので、今は風呂を沸かして待機中である。
「グゲェ、グゲェ」
「薪、急ぐよー!」
無事であったリリスが妹と共に、風呂を沸かすために奔走しつつ、母さんの方は冷たくなった皆が温まれるように、スープを作ってくれている。
何にしても、雪遊びはほどほどにしないと本気でヤヴァイと、身に沁みさせられるのであった…‥‥
「というか、ノインとカトレアの方は見事に固まっているなぁ…‥‥」
「解凍して大丈夫でありんすかね?復活早々に暴れられたら困るでありんすよ」
それもそうである。まぁ、そうなったらきちんとお仕置きするか…‥‥個人的には召喚獣にお仕置きはしたくは無かったりもするが、度を過ぎたら流石にびしっとしないとな。
「‥‥‥温かい風呂が本当に、ありがたい…‥‥」
風呂が沸きつつ、全員が一度に入りきれないし、凍っている面子もいるので順番にして、自分の番になったが、今更だけど本気で風呂のありがたみを実感する。
じわじわと、リザで温まりつつもまだ足りなかった温かさを浸透させ、ほんわかと安心させる風呂。
先ほどまで冷えていた体が、外側からだけではなく芯からもゆっくりと温められるだろう。
「この雪の季節、風呂は本気で欠かせないなぁ…‥‥」
寒くなって来るし、温かい場所というのはどこでも求められるだろう。
防寒具を着ていても芯からの冷えには対応しきれないことも多いし、風呂だからこそ芯から温めてくれるのだという事を時間する。
「腕時計の装備に、簡易風呂スーツとか付けてくれたら、それはそれで良さそうなんだけどなぁ…‥‥」
「では、開発いたしましょうカ?」
「できるならそれはそれで…‥‥んん?」
なんか今、思いっきり聞こえたような。
そう思い、真横を見れば‥‥‥
「‥‥‥ノイン、何で入っているんだよ!?」
「氷が溶けましたので、温まるためにデス」
‥‥いつの間にか、ノインが隣で湯に浸かっていた。
いや本当に、音もなく、湯の波もたてずに、気配も悟らせずって‥‥‥
「裸なんだけど!?というかお前、さっきまでまだ凍っていたよな!?」
「私の装備、全部濡れましたからね…‥‥水着も着ることもできましたが、残念ながら凍ってまシタ」
慌てて出たくもなるが、生憎風呂の出口に近い方に彼女が入浴しており、目視しづらい裸状態。
どうやら氷漬けになっていたせいで、彼女の持っていた全部がまとめて凍ってしまい、現在解凍及び乾燥中らしい。
ついでに氷の方は、半分ぐらい溶けてきたところでフルパワーで粉砕し、吹っ飛んできたようである。
そもそも、俺が入っているのに何で入浴を…‥‥いや、ツッコミ入れるのが何か面倒かもしれない。
吹っ飛んだ先が外だったようだが、寒かったので直ぐに室内に戻り、風呂に入ったぐらいだろうなぁ‥‥‥いや、メイドゴーレムが寒さを感じるとはこれいかに?でも、感じるらしいと言えば感じるらしいが‥‥‥
考えない方が良いか。リハビリ中にも一緒に入られたし、ここでこれ以上変に叫ぶのはやめておこう。前の全員風呂の例を考えると、続けて全員突撃される可能性が非常に大きいからな。
「…‥‥まぁ、今だけ黙っておくけど‥‥‥できるだけ、離れてくれ」
「無理です、狭いデス」
嘘こけ。レイアも入浴可能にしているから、深い部分とかを作るためにちょっと広くなっているんだぞ。
とはいえ、流石に口に出して言うと他の皆にバレるだろうし…‥‥うん、できるだけ現状維持にしておくべきか。
むにゅん
「!!」
「まぁ、ご主人様も結構冷えていたようですしネ。メイドたるもの、雪山遭難などの際には、温めるためにくっつくというのも…‥‥」
「ここ風呂場だからな!?」
叫びかけつつ、声を抑えつつ、ツッコミを入れる。
かろうじて外には聞こえていないようだが、それでも背後からさらに迫って来て、押し付けられると男の子心的に心臓に悪い。
「メイドたるもの、ご主人様の体の状態を最適にできるようにするのですが…‥‥あと、ちょっとばかり私の私情もありますネ」
「半分ぐらい、絶対にその私情じゃないか?」
ちょっとばかりとか言うが、絶対にそれ以上あると思う。というか、私情って何?
そう思いながら、ふと彼女の顔の方に目を向けて見れば…‥‥いつもとは違った表情をしていた。
「‥‥‥あれ?」
なんというか、真っ赤‥‥‥でもないが、ちょっと赤い。
頬の部分に赤みが増しつつ、顔が少し湯船に沈もうとしているが、ちょっとその胸部の凶器でうまいことなってないが‥‥‥恥ずかしがっている?
それが普通な様な、何か様子が違うようなと思いつつ、ふと気が付いた。
‥‥‥なんか彼女の周辺、泡立ってないか?というか、少し熱いんだが。
「ノイン、ちょっとこっち向いて」
「何でしょうカ?」
顔をこっちに向けさせつつ、何となく予想した疑問の答えを得るために手をそっと彼女の額に当てて‥‥
じゅわぁぁぁ!!
「…‥‥熱ぅぅぅぅぅぅぅぅ!?お前、熱あるじゃん!!しかもけっこいうヤバいレベルで!!」
道理でなんか、おかしいと思ったよ!?
このメイド、リハビリ時を除いては一応風呂を分けて入って、ある程度わきまえていたからここまで堂々と来ることはなかったのに、こうも来ているから変だと思ったよ!!
というか、メイドゴーレムが熱を出すって、風邪なのか何かの故障なのか分かりにくいけど、ゆだってきた時点で色々と不味いとしか言えないんだが!!
「召か、いや、ダメか!!」
流石脱風呂で全裸の状態で召喚するのも不味く、この状況にちょっとこっちも混乱しかけているので、とりあえず最善の方法として直ぐに湯から彼女を出した。
その際に色々見えてしまうのですぐさまバスタオルを持ってきて被せつつ、素早く着替えつつ、他の皆を呼んだ。
‥‥‥風呂場にノインが入り込んできた点は言いたいことがあっただろうが、今は不味そうな事態なゆえに、不満なども言わず、全員ですぐさまノインの看病をするのであった…‥‥
「というか、氷が一瞬で溶けるんだけど!?今何度の熱が出ているんだよ!!」
「すいま、セン、ご主人様。手間、をを、かけかけ、してしまい、マシテ」
「言葉おかしいんだが!?お前さては、相当頭がぼうっとしているな!!」
「氷、直ぐに追加!!外の雪も利用して、頭、急速冷凍!」
「氷以外に必要になる水は任せろ!!こういう時にも水魔法は使えるぜ!!」
ノインがまさか、体調を崩すとは思わなかった。
というか、彼女の場合これなんだろう…‥‥ゴーレムでもあるから故障なのか、それとも風邪なのか分かりにくい。
今はただ、頭を冷やすのが最優先とは思うが‥‥‥‥どうしたものか。
‥‥‥はしゃぎ過ぎたというべきか、氷漬けになり過ぎたのが原因か…‥‥まぁ、そこはきちんと調べないと分からないか。ゴーレムの医者ってそもそも何だろう‥‥‥錬金術師とか?




