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183 人生はギャンブルに近いのかもしれない

‥‥‥王城に報告し終え、直ぐにディーたちは帰宅した。


 何しろ、移動方法は色々増やしたはいいものの、誰が好き好んで寒くなってくる季節に出たがると思うのだろうか。


「‥‥‥いや、アナスタシアがいたか」

「思いのほか、あっけない回答が存在してましたネ」


 雪女の彼女であれば、雪の降る季節はまさに本領発揮できる時期だからなぁ‥‥‥となると、夏は相当引き籠る可能性があるし、そっちの方も考えないとな。



 とにもかくにも、戻って来てやるべきことは、王城への報告を終えたことに関して皆に伝えつつ‥‥‥




「あとは、森に徘徊している可能性のある危険なモンスターへの対応策と‥‥‥そこのハイガドロンの扱いに関して、話し合おうか」

「グガァ?」


 森の方は、既に村の皆に注意するように伝えているから、直ぐに危険が迫って来ることはないだろう。


 田舎の村とは言え、それなりに戦える人たちもいるし、危険であれば奥深くへ行かなくてもいいからだ。


 まぁ、薪の量とかが限られてくるので、できれば近日中にどうにかしたいところだが‥‥‥それよりもまずは、そこのでかいサメの方を解決したほうが早いだろう。



「ふむ、そのサメかのぅ…‥‥まぁ、そう簡単には放置は出来ぬな」

「治療したとはいえ、ここから海まで戻すのは距離的に容易くないですわね」

「かと言って、このままリリスの箱の中に入れるのもどうなのでありんすかね」


 ハイガドロンの見た目自体が、凶暴感あふれる巨大なサメそのものだからな…‥‥普通に出していたら恐れられるだろうし、かと言って野生に還しても害をなさないとは限らない。


 とはいえ、こちらの方で召喚契約なしのままでいさせたとしても、いざという時に動きにくくはなるだろうし、巨体ともともと体当たりする攻撃能力を生かしての、ハイガドロンをぶん投げての攻撃とかも可能かもしれないが、いちいちやる必要もない。


 あと、ついでに連れ帰ってきた際に、妹に今度は猛獣使いになるのかと言われたからな…‥モンスターだから猛モンスター使い?


「であれば、できれば召喚して契約したほうが良いかもなぁ‥‥‥何かしらの変化が起きるだろうけれども、自立行動ができる可能性があるからなぁ」

「とはいえ、御前様の契約じゃと」

「グゲェグゲェ」

「っと、わっちたちのようになる可能性があるでありんすよ」


‥‥‥召喚されて姿が変わっている組にそう言われると、説得力が物凄い。


 うん、今の種族から大幅に変更される可能性が非常にあるからなぁ…‥‥傾向的には、人型の女性に近いというべきか‥‥‥


 でも、考えて見たらそもそもそれらの種族に似たような人型のモンスターがあって、それに該当したと考えるのであれば、ハイガドロンが人型になる可能性は低いともいえよう。


 ゼネの場合は生前の姿へ、リリスの場合は元から幻の体が実態を得て、リザの場合は…‥‥何とも言えない。



 それでも、一応人型にならない可能性もそれなりにはある。


 というのも…‥‥


「サメのようなモンスターも、バカみたいに多いからな…‥‥」

「海に住まうというか、水生のモンスターも種類が多いですからネ」


 

 一見して、サメに似た容姿のモンスターもそれなりにいる。


 例えばグランドシャークやプラズマジョーズ、変わり種にシャークマン、グランドジョーズマン‥‥‥あとはアンデッドに近いスケルトンジョーズにサメ型の植物プラントシャー等、考えられる変化の可能性は多々あるのだ。


 それだけあれば、流石に人型になる可能性があったとしてもほとんどないだろうし、引き当てるにしても相当運がなければいけないとか、それは運頼みというのか分からないが…‥‥まぁ、問題ないのか?


 召喚獣にするメリットとしたら、この面子に足りない対水中における対応策になるだろうし、後は突撃隊長的なものにできる可能性も非常に高い。


「‥‥‥そう考えると、召喚獣にした方が良いか。反対意見は無いか?」

「ご主人様の決定であれば、それで良いかと思われマス」

「特にないですわねぇ」

「水中対応ができても、陸上なら拙者たちの方が上でござろうし、万が一の時にも動けるでござるよ」

「儂としては、せっかく治療した相手を失くすのも惜しいからのぅ」

「グゲェ」

「それもそうでありんすね。ここまで見た以上、共に居た方が良いでありんすよ」

「反対、ないかな。冷凍保存、瞬時にできるからね」

「マイロード、全会一致だ」


‥‥‥なら、やってみるか、ハイガドロンとの契約のための召喚。



「一応本人(?)に聞いておくけど、召喚獣になっても大丈夫か?このまま海へ帰りたかったらその意見も尊重しておくが…‥‥」

「‥‥‥グガ!」

「グゲェグゲェ」

「なるほど、問題ないと」


 リリスの翻訳もありつつ、ハイガドロン本人(?)にも文句はないようだ。


 であれば、合意はあるし、召喚獣にしてもいいか。人型になるとは決まったわけでもないし、場合によってはドラゴンそっくりなリザードシャークとかになる可能性もあるからな。‥‥‥まだそのあたりの夢は捨ててないんだよね。



「それじゃ、やってみるか」


 意識を集中させ、召喚のための詠唱文を頭の中に浮かべ始める。


 一応場所は万が一の事も考え、家の外にある庭の方で全員で囲みつつ、始めていく。


 契約には問題なさそうだし、どうせどのような姿になるなんてギャンブル的なものもあるし、ああだこうだという意味はない。


「‥‥‥『来たれ、蒼く、流れゆく者よ』」


「『汝は常に、我が元へ、大海に覇道を唱え、蹂躙する者でもある』」


 あれ、なんかしょっぱなから相当物騒な文になったような…‥‥この召喚、大丈夫か?


「『我が命を受け、何もかも喰らい尽くせ、さすれば汝に名を与えん』」


 魔法陣が顕現し始めるが…‥‥いつもとは、何か様子が違った。


 なんというか、いつもの召喚のようでありつつも…‥‥何かこう、様子が違うというか、ばちばちっと妙な音がしているというか…‥‥


「『さぁ、さぁ、さぁ、顕現せよ、汝に与えし名はティア!!我が元へ来たまえ!!』」


 唱え終わった瞬間、魔法陣が輝き出し…‥ものすごい勢いで煙を吹き出し、あっという間に周囲の視界が奪われた。


 そして、リリスの中に入っていたハイガドロンの気配が消えうせ、その代わりに魔法陣のあった場所の上に、新しく気配が産まれた。




‥‥‥そして、煙が晴れた後に…‥‥それは、姿を現した。



「‥‥‥名前、ティア。確かに受けとったぜ。召喚主様(我が君)


 その背には、サメの背びれを模したかのような‥‥‥いや、それをさらに湾曲させ、鎖を付けた鎖鎌のような武器を背負っていた。


 足腰は人のものに近く見えるが、ひらひらとしたひれのようなものを纏っており、靴は履いておらず素足である。


 腰には牙を模したかのようなナイフを所持しつつ、顔の方も牙のような物が見えている。


 そして目が吊り上がりつつ、ベルトで強調されたモノを持ちつつ、ニヤリと笑っているかのような…‥‥何と言うか美しい悪女というかのような顔である。


 そしてちょっとくせっけのある髪も目の瞳も灰色だが、その纏う雰囲気はびりびりとしており、全体的に荒ぶるような感じを覚える。


「種族、『ハイガドロン』から本能的に変わったと感じ…‥‥『マリンデビル』、ここに爆誕!!」


 どおぉぉんっという音と共に、彼女の背後に煙幕が噴き出したかのように見えた。



「‥‥‥『マリンデビル』?」


―――――――――――――――――

『マリンデビル』

海の悪魔というべきモンスターでありつつ、陸地であれば人の足を、水中であれば魚の下半身を得るという、二つの体を持つモンスター。

水中を自由に泳ぎまくりつつ、ありとあらゆる液体そのものを支配下に置き、操ることができる。

多彩な武器を身にまとっているが、武器そのものがモンスターの一部であり、補強も可能だが壊れても自動的に修復して、より強靭な武器へ変えてしまう。

グランドジョーズマンのさらに上位の存在でもある。

―――――――――――――――――



「‥‥‥どうやら、ご主人様の手によって、超強力な海の怪物を一体、生み出したようですネ」


 クラーケンなどに次ぐ怪物の一つであり、サメのようなモンスターすべての頂点に立つ存在。


 さらに、人間のように武器をしっかりと扱うようになりつつ、戦えば戦うほど向上していく戦闘民族とでも言うべき種族らしいが‥‥‥‥



「…‥‥またかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


‥‥‥纏う雰囲気がびりびりと来る悪女というか、姉御と言えるような感じというべきか…‥‥そうだとしても、モンスターなはずなのに、また人型に変えてしまったその事実に、俺は思わず叫んでしまう。


 ちょっとリザードシャークとかかっこいい奴になってほしいなぁ、と望んでいた気持もあったが、その気持ちを見事に粉砕されたよ!!


「ふふん、命の恩人とも言える我が君たちの役に立てるような変化に、自身が一番驚くが‥‥‥なるほど、この変貌は具合が良いぜ!!」


 ぶおんうおんっと鎖鎌を振り回し、ナイフを軽く振るい、ニヤリとティアは笑みを浮かべる。


 悪役風味というべきか、悪女というべきか‥‥‥他の召喚獣には無いような悪のカリスマというべき雰囲気はあるのはまだ良い‥‥‥のか?


「体の変化にもすぐ慣れたし…‥‥我が君、さっさとその他に迷惑をかけるであろうやつらを叩き潰そうぜ!!」



 ぐっとナイフを握り締め、牙が見える笑みを浮かべるティア。


 物騒な感じというべきか、新しい仲間に喜ぶべきか‥‥‥‥物凄く複雑な想いを抱くのであった。


「っと!?」

べちぃ!!

「転んだようだけど、大丈夫か?」

「問題ない!!足があるけど全然陸上歩行に慣れていないだけだ!!水があればあの前の足(尾びれ)になるから、そっちで跳ねて行った方が早いと本能が告げているぜ!!」


‥‥‥どうやら急激な体の変化に、彼女自身が追い付けていないらしい。


 物は試しに、水を足にかけて見たらあのハイガドロンの尾びれに早変わりし、そのまま器用にすくっと垂直に立って、跳ねて動き始めた。


「こっちの方が、やっぱり良いな!!」


「…‥‥何だろう、悪女感から一気にすごいポンコツ感がにじみ出てきたような気がする」

「それは気のせいではないと思うのじゃが…‥‥凶暴性が斜め上に修正されてしまったのかのぅ?」


 常識的な人間の思考があるゼネに、そう言われると納得してしまう。


 何にしても、先に普通に歩けるような歩行訓練をさせたほうが早そうだと思うのであった‥‥‥‥




 なお、後で妹に彼女を改めて見せたら、物凄い目で見られた。


 言いようが無いというか、呆れ果てすぎたというべきか…‥‥兄という立場であるせいか、かなり痛い。


「お兄ちゃん‥‥美女生成召喚士なの?そのうち何でもかんでも美女にして、一大ハーレムでも築く気なの?」

「そんな気はないんだけど」

「でも、説得力がない。なんかそのうち、お兄ちゃんなら猛獣以外にも妖精とか精霊とかも召喚獣にしそうな勢いなんだもの‥‥‥」


‥‥‥モンスターではないし、召喚獣にはならないだろう。それらを扱う職業だってあったから、絶対にないとは思う。




‥‥悪女からポンコツへ様変わりした速度、トップかもしれない。

まぁ、悪い子ではなくなったというか、これもある意味更生というべきか?

色々ツッコミどころはありつつも、新しい召喚獣だから良しとするか‥‥‥ようやく、水に対応できる奴を得たことにも変わりはないからな。




‥‥‥男勝りの元気いっぱいなポンコツ悪女。人魚に似ているかもしれないが、あっちは下半身魚のままで、こっちは足が出せる違いがある。

どうしてこうなった。本気の悪女的な物を出したかったのに、なんでこうなった。

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