181 やってよかったと聞かなきゃよかったと
珍しく、本日2話目
「…‥‥つまり、あれか?仮面の変な奴らに囚われていたと?」
「ガァァ、グガァ」
「グゲグゲ」
治療を終え、包帯でぐるぐる巻きにされているハイガドロンの言葉をリリスが訳し、こちらに伝えてくれたが‥‥‥何と言うか、その内容にディーたちは頭を抱えたくなった。
というのもこのハイガドロン、元々海のモンスターなのになぜここにいるのかと言えば、その原因を辿っていくと仮面をつけた変な奴ら‥‥‥該当するのがどう考えても仮面の組織フェイスマスクしか思いつかず、そいつらに捕らえられていたらしい。
もっと正確に言えば、このハイガドロンを捕らえる目的は当初は無かったようだが、そのハイガドロンの近くにいたモンスターを捕らえるための罠に巻き添えにされてしまってついでのように運ばれてきたようだ。
そしてどことも知れぬ研究所の水槽に放され、泳いでいたが、その研究所がどういう訳か爆破されたらしく、水槽の水に利用されていた地下水の出所を無理やり利用して脱出したらしい。
だがしかし、その水槽の中にはハイガドロン以外の水のモンスターが大勢いて、脱出の際に我先にと逃げ出そうとする輩たちの中でも‥‥‥
「『ヒュドラ』、『百面ナマコ』、『ハルゲー』、『クラゲリアン』‥‥‥いくつかの危険なモンスター及び生物が脱走し、各々が自分を優先させるために攻撃しあい、互いに潰しまくったのですカ」
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『ヒュドラ』
多頭の龍に似たウミヘビのような容姿を持ち、毒や呪いを周囲にまき散らし、全てを腐らせたりする危険なモンスター。ドラゴンの仲間に入りそうだが、分類的には蛇のモンスターに近い。
討伐するには全部の頭を同時に潰す、切り飛ばすしかなく、どれか一つでもあると瞬く間に再生するという厄介な特性を持つ。
『百面ナマコ』
人面が100以上体表に存在するのだが、数えるのが面倒なのでおおむねそのぐらいであるという事で名称が決まったナマコの一種。モンスターではなく、普通に海洋生物の一種で食用可能。見た目が色々とあれなので好んで食べる人はいないが、珍味とされている。
ただし捌くにはきちんとした知識が必須とされており、間違った方法で捕食した場合その人面の一つにされてしまうと言われている。モンスターっぽいけどそのカテゴリに入らない謎生物。
『ハルゲー』
うねうねと全身に足が生えている奇怪なモンスター。大体の生物は頭が上なことが多いのだが、このモンスターは頭を下に持ち、頭のように見える上の部分の尻尾には衝撃波を発する器官が備え付けられている。尾でバックしているような動きで岩を粉砕してその粉々になった欠片に潜り込みつつ、獲物を待ち伏せする習性を持つ。
『クラゲリアン』
見た目はクラゲそのものだが、ぶよぶよした身体の中にはしっかりとした透明な骨が存在しており、陸上でもしっかりと足を付けて歩行することが可能。
しかも触手は巻き付くためにあるかと思いきや、それ自体が鋭利な刃物となっており、触れただけでもズバッと切れてしまうほど切れ味が良い。加工すれば見にくい刃として扱えるのだが、電気を流したりするので中々討伐しづらいとされている。
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その他にも多種多様なモンスターや海洋生物がいたが、脱出できたのは今名を挙げた者たちぐらいらしい。
しかもその組織の研究所が爆発でもしたようで、急激に水が押されまくって互いにぶつかり合い、怪我を増やし合い、地下水脈の別れによってそれぞれバラバラになって吹き上げられて…‥‥今に至るそうだ。
なお、水脈自体は色々枝分かれしており、バラバラに出てきたらしい。
「爆破か…‥‥もしかして、証拠隠滅とかかな?」
「その可能性は大きいですネ。先日の一件で、大体の場所が判明している施設が多くありましたので、狙われる前に証拠隠滅を図ったのでしょウ」
捕らえられた海洋生物たちはそのまま置き去りにしていたようだが‥‥‥まさか脱出されるとは思ってもいなかったのだろう。
とはいえ、話を聞く限りだとそれらが全部野放しになっているということになるだろうし…‥‥非常に迷惑過ぎる二次災害とでもいうべきものをまき散らされたというべきか。
「あれ?ところで一つ聞いて良いかのぅ?」
っと、ここでふと何かに気が付いたように、治療のために召喚して呼び寄せたゼネが問いかけた。
「海洋生物‥‥‥まぁ、モンスターもいたのじゃろうけど、そ奴らって普段海水で住んでいたんじゃろう?研究所とやらの地下水で水槽に入っていたそうじゃが、そっちは淡水。海水の生物が淡水の中でそう生きれるとは思わぬのじゃが…‥‥」
同じような水でも、淡水と海水では違うし、それぞれに住む魚はその水によって適応しているので、違う環境に置かれた場合死に至ることが多いのは分かる。
海洋生物が普通に淡水に住めるとは、確かに思わないのだが‥‥‥‥
「グガァ、グガガガァ」
「グゲグゲ」
「…‥‥塩を大量投入か。それで海水と同じぐらいにしていたんだろうけれども‥‥‥」
「その塩を、どこから調達したのか、という部分が気になるのぅ」
一応モンスターの方は、海水淡水違っても、水さえあればそこはどうでもいいらしい。
だがしかし、その他の海洋生物はそうもいかないので、海水を模すために塩をまいていたそうだが‥‥‥そんなに大量の塩って手に入れられない。
いや、海から塩がとれることぐらいは知っているのだが、それでも中々の貴重品。
調味料として扱う事も多いけれども、そこまで大量なうえに、海から遠く離れていたらそれこそ大金が動く訳で…‥‥
「この件、絶対に王城に報告した方が良いかな?」
「その方が良さそうですネ。バラバラに分散して買い付けをしていても、何処かで集まる可能性はありますし、支配下に置いて資金源にしている可能性も考えられマス」
薪を得るために来たというのに、思いもよらない情報を得るとはこれいかに。
‥‥‥まぁ、知っておいてよかった情報だし、このまま何もわからずにいるよりはよかったが‥‥‥これ以上の情報は無いようだ。
となると、塩の件に関しては王城の方に手紙などで報告すればいいとして、この地でやるべき問題が二つ。
他にも何処かに出ているかもしれないモンスターへの対応策と‥‥‥この目の前のハイガドロンの扱いだ。
情報を得るために、生き永らえさせる手段として治療をした。
けれども、元が色々と凶暴かつ凶悪なモンスターらしいし‥‥‥放置は出来ないだろう。
「とはいえ、流石に討伐するのもないなぁ」
せっかく治療したのだし、わざわざ絶命させる意味もない。
大人しくしているし、言葉が違えどもある程度理解する程度の知能もあるのか戦意もないようだし‥‥‥
「‥‥‥ちょっと扱いに困るし、一旦リリスの箱に入ってくれないか?」
「グガァ?」
「グゲ?」
‥‥‥モンスターなので、契約して召喚獣にする手段をとることはできるだろう。
ハイガドロン自体は相当強力なモンスターでありつつ、この面子には足りない水中戦を担当できるし、召喚獣にできれば結構良いのかもしれない。
だがしかし、そこに大きな問題があった。
「そもそも、リリス、リザの例があるからなぁ…‥‥あとゼネもか」
モンスターを契約して召喚獣にした際に、起こりうる可能性という問題。
それは元の種族から大幅に変更され、パワーアップする可能性も考えると悪くないが…‥‥たいていが人型化しているからなぁ。
ゼネは骨から肉が付き、リリスは小さな箱から箱入り娘に、リザは巨大酒造り蛇から遊女風蛇にと、色々と姿が変貌しすぎている。
あと美女化しすぎているんだよなぁ…‥‥目の保養となるかもしれないが、一緒にいる身としては理性とかの点で色々とどぎまぎしやすいんだよ。リハビリ中の一緒の入浴とかも、正直精神がおろし金でゴリゴリ削られるかのような状態にされたし…‥‥。
「だからいったん保留というか、そこに入ってくれ。扱いに関してはゆっくり考えた方が良いからな」
「グガァ‥‥‥グガ!」
その言葉に理解したのか、ハイガドロンは頷く。
念のためにリリスの方にも聞いてみたら、彼女としても入れることは抵抗がないらしい。
しいて言うのであれば‥‥‥
「グゲェ、グゲグゲゲ?」
「グガァ?グガー」
「グゲェ」
「‥‥‥海水無くても、大丈夫ってか」
「肺呼吸がもともとできるモンスターですからネ。そこは問題がないのでしょう」
ちょっと気になっていたが、箱に入っても一応呼吸は可能らしい。
ただ、一応水生のモンスターゆえか、時折肌を湿らせる必要はあるようで、霧吹きなどをして欲しいようだ。
「それならそれで、問題ないかな。後は、王城への報告と他にいるであろうモンスターの問題だし‥‥‥今はとりあえず、薪になる材木を確保して帰宅してから話し合うか」
治療にちょっと時間もかけたので、さっさと帰宅したい。
ハイガドロンの重傷を負っていた様子から考えても、他にヤヴァイモンスターたちもおそらくは同じような状態になっている可能性はあるし、直ぐに何かが起こるわけでもないとは思う。
ゆっくりとルビーと共に空から探したりするなどの方法がとれるだろうし…‥‥帰宅してから考えよう。王城の方も、手紙よりも夏の時のように直接出向いた方が良いかもしれないしな。
そう思い、ハイガドロンをリリスの箱に入れつつ、俺たちは当初の目的のために薪を得るための木材確保に向かうのであった‥‥‥‥
「まぁ、流石に契約してもそう変貌することはない可能性もあるけどね…‥‥サメの美女って想像つきにくいからな」
「それもそうですネ。もしかすると『グランドシャーク』や『プラズマジョーズ』などの強力な類に変貌する可能性も大きいデス」
「それかあるいは『人面魚』とかもあるかものぅ。あれは案外普通にいるモンスターじゃけど、ハードボイルドのような輩が多く、出くわしたら相談に乗ってくれるやつが多いのじゃ」
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『人面魚』
顔面偏差値は個体差によって大きく異なるが、人語を話して会話が可能な奇妙奇天烈摩訶不思議な人面の魚のモンスター。
人を襲うことはなく、悩める者の前に現れることが多く、相談に乗ってくれる。
そしてその相談に乗ってくれると、悩み事が解決することがほとんどであり、大成功をおさめやすいとされ非常に縁起のいいモンスターとも言われている。
なお、ハードボイルドな個体が多く、とある海洋国では女王が恋に落ちて国王になったという事例があったりする。なお、一応食用可能なモンスターでもあるらしい。
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「それはそれでちょっと興味があるような…‥‥いや、普通にいるの?」
「遭う可能性は低いのじゃが、モンスターの中で友好的な中でも、かなり珍しい相談受付じゃな。聖女時代に出くわしたのぅ…‥‥まぁ、見た目がおっさんの人面魚じゃったせいか、相談した翌日には妹たちが満面の笑みで頭をバッサリ切った焼き魚を喰っていたがのぅ‥‥‥‥」
‥‥何だろう、その人面魚が物凄く不幸すぎたというか、哀れに思ってしまう。
一応、出くわしても大丈夫で、気軽に相談に乗ってくれるようだが‥‥いつか出会える時はあるのかなぁ‥‥?
ひとまず召喚獣にしてもいいかなと思いつつも、これまでの経験を考えるとすぐに判断はできない。
とは言え、足りない部分を補えるのは間違いないし、悩ましい所ではある。
なので今は保留にしつつ、薪をさっさと刈り取っていかないとなぁ‥‥‥
‥‥‥なお、人面魚の話に関しては、また別の機会にやる予定あり。実はハイガドロンではなくこっちを先に出してやろうかなと考えていたこともあった。
あと出番的には、実はもっと早くに出す予定もあったんだよなぁ‥‥‥カトレア~ゼネの間ぐらいに。まぁ、出す機会が中々無かったというべきか、今さら感もあったので、人面魚の話はもっと先にお待ちください。




