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145 それはぎっちりとしておりまして

‥‥‥‥学園最中の適正学園から離れた場所。


 そこは、主に都市を訪れた者たちが一夜の宿か、あるいは長期滞在のために宿泊する宿屋が立ち並んでおり、その中の一室で集まっている者たちがいた。


「ちょっと待て、なんだその報告は」


 その者たちの中で、恰幅も良い…‥‥いや、贅肉が無駄に付き、動くのだけでも大変そうなその人物は、受けた報告に対して頭が痛くなったような気がした。


「はい、先ほども申し上げましたが…‥‥聖女捕獲のために、学園祭とやらを利用して侵入させた者どもが捕らえられたようです」

「‥‥‥聖女の手ではなくか?」

「ええ、どうも祭りの勢いに任せて、ついはしゃいでしまい、資金を費やして尽きさせ、途方に暮れていたところで…‥‥」


 その報告を聞き、周囲にいた他の仲間たちも頭が痛いような気がした。


 なんというか、予算を少々ケチって質の悪い者を利用したつもりではあったが、どうも自分達の予想よりも酷かったようである。


 ケチらなければまだよかったのかもしれないが、自分達の贅沢を止めにくい以上、どうしても削るしかなかったのだ。


‥‥‥ケチらずに豪勢に使い、確実に成功させて、その上で金を確保できればいい話というツッコミもあったかもしれないが、彼等にはそのツッコミができるほどのツッコミ力も脳も考えもなかったようである。


「‥‥‥聖女を手中に収め、あの上に立つ者どもを押さえつける役割をしてもらおうかと思っていたのだが‥‥‥これでは意味が無いな」

「どうやら神聖国の方から、その上の奴らも来ているようですが‥‥‥現状、何処かへ奇声を上げて消えた目撃情報があり、行方知れずです」

「それはそれで問題しかないような?」


 何にしても、最初にやって見たこの案は、大失敗に終わったのは間違いないだろう。


 自身の贅肉で息苦しくなりながらも、その場に集う者たちはいっせいに溜息を吐く。



「はぁ…‥‥前にも差し向けた時にはうまくいかなかったが、今回も行かなかったか」

「むしろ、接触前にやらかされているだけより酷い結果になっているな」


 運が悪かったというべきか、それとも彼らの人を見る目が濁っていたというか、身から出た錆に自業自得という言葉が今まさに似合っているだろう。


 だが、こうなってしまった以上彼らには引くことはできない。


 やらかした以上、そこから確実に捜査がなされ始める。


 しかも、ここは自国ではなく他国内なので融通なども利かず、場合によっては神聖国側から掃除のために確実に切り捨てられるか、あるいはいなかったことにされるか…‥‥はたまたは、聖女の信者たちによって死よりも酷い末路を辿らされるしかない。



「どうしたものか‥‥‥予算はもうないぞ」

「3日分の宿泊しかない以上、これら全部を使ったとしても成功する確率は低そうだしな‥‥‥」


 諦めて自首するという手段が無くもないが、彼らにその手段は使えない。


 あきらめの悪さは非常に強く、まだまだどうにかできるという甘い考えを持っているのだ。


 一度腐った根性、そうやすやすと復帰するはずもなく、より腐れ切った考えを頭に巡らせ始める。


 だが、何事を成すにしてもどうにかするには予算も人員もなく、動きようがない。



「ぐぅ‥‥‥どうするべきか」

「何かしようにも、予算も人員も資材もなければ意味が無いからなぁ」

「待てよ?そう言えば…‥‥」


 っと、ここで何かを思い出したかのように、ふと一人が贅肉のたるみから紙を2枚取り出した。


「なんだ、それ?」


 紙を見れば、一枚には何やら複雑な呪文がびっしりと書き込まれており、黒く塗りつぶせるほどである。


 そしてもう一枚には、円状に文字が敷きつめられており、何かの魔法陣のようであった。


「この国へ来る前に、娼館に出入り禁止を言い渡された際にな、それなりに関係を持っていたとある組織に頼み込んで、これを貰ったんだ」

「だから、なんだそれは?」

「確か、召喚士が使う召喚獣に関しての実験を行う際にできた副産物でな…‥‥これは召喚士の召喚獣を呼ぶものとは違う、とある召喚のための代物だ」

「…‥‥まさかとは思うが」

「ああ、『夢魔』と呼ばれる類を引き当てる、一度きりの使い捨て召喚陣。抑えきれない時にでも使えば、1回だけ確実に指定したような淫魔が飛び出て、3個だけ指示を聞いてくれるそうだ」


 その言葉に、その場にいた者たちは本当かと一瞬疑問に思った。


 というのも、夢魔というのは色々とややこしい性質を持つ生物なのだ。



―――――――――――――――――

『夢魔』

サキュバス、インキュバス、バクなどと言った、夢に関する者たちが当てはまるカテゴリー。

モンスターの一種でもあるが、獣人やエルフと言った亜人の一種とも言われており、どちらなのかハッキリしづらい生物の類である。

召喚士の召喚によって召喚獣にされるのでモンスターの類のようにも思えるが、普通に現実世界で生活しており、娼館を営み人々に溶け込んで亜人のような行動も行っている。

――――――――――――――――――


「‥‥‥職業召喚士でなくとも、夢魔限定で召喚することができる‥‥‥失敗作らしいがな」

「失敗作だと?」

「大失敗に終わってしまいつつ、使い道を探るために提供されたそうだが…‥‥それはそれで良いだろう。使い道を探るのであれば、今がまさにその時であり、これが利用できそうではないか?」


 問いかけに対して、彼らは首をかしげる。


 夢魔と言っても強い力を持つとかは聞いたこともないし、そもそも夢に関する出来事にしか干渉できないような類で、どう動くのかが読めないのだ。


「それをどうするんだ?まさかとは思うが、何もできないからこそ夢へ現実逃避をするのか?」

「まさか、それをしているのであればとっくの前にしているだろう」

「じゃあ、何のために?」

「これで呼び出せる夢魔は、実はある程度種族を指定できる。本当はサキュバスを読んで、夢のような、嫌実際には夢なのだが…‥‥それは置いておくとして、これでインキュバスの方を呼ぶ」

「…‥‥そうか、その手があったか」


 その案を聞き、一人が意味を理解した。


「どういうことだ?」

「これを聖女に憑りつかせればいいって話だ。聖女と言えども女であることは変わりないだろうし、インキュバスであればどうとでもなるだろう」


‥‥‥インキュバス、それはサキュバス同様に性に関するものであり、対象は女性が多い。


「‥‥‥1個目の命令で憑りつかせつつ、2個目の命令でインキュバスから聖女へここへ来るように誘導できればいいという事か」

「いくら夢であってもインキュバスの望みを振り切ることはできないだろう。こちらから無理やり攫うよりも、夢見心地のまま平和的にやってきてもらえれば、手間も予算も人員も省けるだろう!」

「3個目に関しては…‥‥まぁ、それは後でどうとでも考えられるか」


 説明に納得がいき、彼らはおおっと思わず感心の声を上げる。


 確かにこれであれば成功率も高そうだし、相手からの意思で動かせるのであれば血が流れる事もあるまい。


 ただ、問題がないわけでもない。


「そもそも、それは本当に夢魔を呼び出せるのか?」

「問題ない。指定すればある程度その種族に沿ったものを召喚できるそうだ。見た目とかは流石に選べないが‥‥‥サキュバスだろうとインキュバスだろうと、呼び出せるはずだ」

「あと、聖女に本当に効果があるのかという話にもなるが‥‥‥」

「聖女であれば、悪しき者を確かに払ってしまうだろう。だが、自ら堕ちてしまえば効果は出るはずだろう」


…‥‥色々と不安要素は多いが、それでも彼らにとってしてみれば、成功確率が非常に高い。


「もったいないような気がするが…‥‥それでも、可能性があるならばやってしまうべきか」

「ああ、そうしてしまおう。早めに動かなければ、先にこちらが潰されかねないからな」


 やる前にやってしまえという意気込みで、彼らはその召喚陣を利用する。



…‥‥だが、彼らは大きな見落としをしていた。


 相手が普通の聖女であれば、確かに可能性は非常に多きかったはずである。


 けれども、その相手は今…‥‥ナイトメア・ワイト。アンデッドのモンスターであり、堕ちているといえばそうなのかもしれないが、こういう類に耐性がないわけではない。


 そもそも夢を見るのか見ないのかという話にもなり、この時点で非常に不確定要素が大きすぎたのだ。


 そしてもう一つ、更に言うのであれば彼らは大きな勘違いをしていた。


 サキュバス、インキュバスは確かに淫魔と言われるものであり、それぞれ女性と男性を対象に憑くこともあるのだが‥‥‥いつ、だれが「異性限定」で憑くと言っただろうか。


‥‥‥‥彼らは誰も、その末路を予想できない。


 今はただ、目先にしか見えないその案に対して動くだけであった‥‥‥‥


…‥‥今回、出番無し。

「平和と言えば平和‥‥‥なのか?」

「学園祭を今は楽しんだほうが良さそうデス」

「あとは、封じているはずの妹たちを、より厳重に封じる方法を練らぬとのぅ‥‥‥‥」



‥‥‥氷漬け、力抜け、草木でぎっちぎち。この程度の封印でどうにかなるのかという話があるのだが‥‥‥不安しかないような気がしてきた。どうしよう、あっちでも陰謀あるけど、こっちのほうでもやばいモノが動きそう。

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