137 誰であろうとも起きる時はある
他の方々の小説を読み、ちょっと宣伝とかありかなと思い、少し載せます。
アルファポリスにて開催されている第12回ファンタジー小説大賞にも、この小説を応募しています。
あちらでは少しこことは異なる作品も掲載してますので、興味があればぜひどうぞ。
「ふわ、ふわ、ふぁ…‥‥ぬぅ、止まったのじゃ」
「あー、わかるわかる、くしゃみって出そうで止まる時があるよな」
むずむずとしつつ、くしゃみが出なかったことに対する不満をゼネが述べ、俺は深く同意した。
学園祭開催まで、残り3日となった本日。
出店などは既に完成しており、後は各学科で出すものにたいしての調整作業が行われる中、召喚士学科でもその作業に追われていた。
何しろ、召喚獣たちを魅せる店だけに、魅せ方の追求が必要となる。
毛並みに鱗の艶、爪の手入れに牙の鋭さの確認など、身体的部分の管理の徹底から、普段は着ないような衣装も着用させ、より見た目に関して向上させていく。
そしてそれは俺たちも例外ではなく、ノインたちの衣装や髪の手入れなどに余念が無いようにしているのだが‥‥‥
「ぐごべぇ!?」
「げぼっばぁぁ!!」
「‥‥‥やっぱり、迂闊なメイクは入れない方が良いな。赤い花が咲きほこりそうだ」
「うーん、ナチュナルメイクをベースにしたかったのですが、極力減らしたほうが良さそうデス」
周囲での咲き誇る真っ赤な花々を確認しながら、俺たちは改善点を見つけあい、直していく。
少々周囲に被害が出ているような気がしなくもないが、好奇心で見に来たやつらが悪い。
何しろ、ノインたちは元々全員美女であり、化粧をしなくても自然体そのままで美しい。
でも、そこにさらに美の要素を付け足せば、どうも良い意味での美がより過剰となり、歩く災害になってしまうようなのだ。いや、災害ともまた違うし、良い言い方無いかなぁ?
そして窓の外を見れば、真っ赤な滝に、流れていく赤い河なども見えたが‥‥‥うん、まぁどうしようもない。
俺の場合は、彼女達と過ごしているからこそ耐性が付いたともいえるからな…‥‥何もいなかったら、同じようになっていた可能性はある。
「こういうメイクも、楽しめるかと思ったのでありんすけどね。元々蛇のままであったでありんすし、少々楽しみにしていたのでありんすが‥‥‥」
「人間、単純。でも、それが人間でもある」
「儂としては、なんで他の皆が綺麗なドレスを着ていたりするのに、儂の方はタキシードなのか疑問なのじゃが、ふわ、ふわ、ふわぴゃっくしょん!!あ、ようやく出たのじゃ」
「なんだそのくしゃみ」
‥‥‥ゼネに関しては、男装が似合いすぎるからね。元聖女というのに、男装の令嬢という姿が似合うのは仕方が無い事である。あ、遠くの方で、女性陣数人ほどが爆発した。違うな、その他も卒倒したか。
「こうなると、魅せ方は容姿よりも普通にやる演技で十分かな‥‥‥被害を増やしたくないし」
「演技と言いましても、こういうので良いのかしら?」
そういってカトレアがパチンと指を鳴らせば、周囲に赤い花ではなく、ちょっと薄く発光する綺麗な花々が咲き誇る。
淡く発光、彼女を照らす光景は、元々の妖艶さと相まって、中々幻想的にも見えるだろう。
「そうそう、こういうので良いんだよ」
「拙者の火球もどうでござろうか!」
ゴウッと炎を吐き、素早く丸め、お手玉のように火の玉を扱うルビー。
確かにこれもこれで、結構いいのかもしれないが‥‥‥というか、お前のその火、掴めるのか。
「火事になりそうな類だし、控えた方が良いかな?ルビーの場合は機動力があるし、空中アクロバティック飛行なんかが良いかも」
召喚獣たちが見せる店にしただけあって、防弾、防水、防火、防爆、防氷‥‥‥その他諸々の対策がとられているとはいえ、見る人たちに危険は無いようにしたい。うっかりとか怖いからな(昨日の角等の経験)。
「儂の場合は、いっその事幻術で眠らせて、夢で見させる方が良いかものぅ」
「それはそれでどうなんだろうか」
なにはともあれ、各自一芸ぐらいはきちんと持っているようで、魅せることに関して問題は無いだろう。
「となると、後は研鑽してより良い感じにするべきか‥‥‥」
工夫によってはさらなる魅せ方も見つかるだろうし、やりようはいくらでもある。
まぁ、全員の魅せる作業は流石に時間がかかるので、当日は交代制になって一度に行うことはないが‥‥まとめて確認している方が楽ではあるな。
「一応、衣装などに関しても激しい動きやその他技の影響を受けないように作った方が良いですネ。となると、ちょっと材料不足ですガ…‥‥」
「材料かぁ‥‥‥金なら、一応あると言えばあるかな」
忘れがちだが、城伯という貴族位を獲得したおかげか、貴族たち御用達の店で割引をしてもらう事もできる。貴族でも節制を心掛ける人もいて、何気に人気なのだとか。
それに、お金に関しては褒賞などで少々もらっており、持ち合わせぐらいなら何とかあるのだ。
大金怖いから、普段は預けているが。うん、領地持った貴族となっていたら領税とかでどんどん入って来ただろうけれども、それはそれで管理が面倒そうでもあるからな。
「そうですネ。では、今からちょっと買い物に出かけてまいりマス」
「ふむ、一応儂も行って良いかのぅ?幻術の類の参考に、店の品々なども見ておきたいからのぅ」
「何を見せて魅せようとしているのやら…‥‥まぁ、別に良いか」
ノインとゼネ、二人がそろって向かうのであれば大丈夫であろう。
非常識と辛うじて常識のペアなら何があっても対処できるだろうしな。まぁ、何かあるわけでもないか。
そう思い、二人に買い物に向かってもらうのであった。
「グゲェ!グゲェ!」
「え、リリスも一緒に行きたいのか?お前にしては珍しいような」
「グゲグゲ!」
「魅せ方の参考で、店の金庫とかを見たい?‥‥‥見せてもらえるのかは分からんけど、どこを参考にする気だお前は?」
「…‥‥えっと、目的地はこっちの店の方ですネ」
「確かそこなら割引とかも多かったはずじゃな」
「グゲェ」
ディーたちといったん離れ、街中へ出てきたノイン、ゼネ、リリス。
各店で売られているものを把握しつつ、まずは衣服の材料となる布の販売店へ目指し、歩んでいた。
「にしてものぅ、衣服の布ってのは種類が多そうじゃな」
「原材料の種類によって結構異なりますからネ。耐性や洗濯方法なども異なりますし、家事を行うものとしては中々面白い違いもあるのデス」
ささっと買う予定の品々のリストを見てつぶやいたゼネに対して、そう答えるノイン。
メイドゴーレムとしてメイド業にはしっかりと研鑽を欠かさず、それでいてある程度の研究なども行っているのだ。
「まぁ、新しい素材として先日、こっそりスライム材料を混ぜましたが…‥‥逃亡されましたからネ。どこかでたくましく生きているでしょウ」
「‥‥‥ちょっと待つのじゃ。今の口ぶりじゃと未知の生物を生み出して逃げられたようにしか聞こえぬのじゃが」
さらっと出てきたとんでもないことに関してツッコミを入れるゼネ。
「グゲェ?グゲグゲ?」
「ええ、そのスタコラッサッと逃げたあの衣服がそれですネ」
「リリス、お主も目撃しておったんかい!」
何にしても、一応害は無さそうであり、何処かで勝手に倒れていそうだと思いつつも、ゼネはその事実にあきれ果てる。
元聖女でもあり、アンデッドに堕ちた身としては、その命を勝手に作ってやらかすような行為は少々許容しがたいのだが…‥‥ノインのしでかしたことなので、どうしようもないと諦める。
「はぁ、それは御前様に報告しているかのぅ?」
「してマス。逃亡されて捕獲した方が良いんじゃないかと言われましたが…‥‥アレはアレで何処かに逃げてしまい、現在捕まえられまセン」
「なんか不味いものを生み出したような気がするのじゃが、気のせいじゃろうか?」
ツッコミを入れつつも、不味そうな類であれば経験上、ゼネにとっては妹に匹敵するものはない。
そう考えるとたいしたことはないような、それはそれで妹の脅威が凄まじすぎるような、良く分からないことになるので考えるのをやめておく。
「ま、今は買い物に集中したほうが…‥‥ん?」
「おや」
「グゲ」
頭が痛くなりそうな問題を忘れようとして、目的の方へ動こうとした矢先、ふと彼女はとある気配に感づき、ノインもアホ毛を立て、リリスも気が付いたようである。
「‥‥‥気のせいかと思ってましたが、やはり付けられてますネ」
「数は‥‥‥4~5人ぐらいじゃろうか。そこまで多くはないが‥‥‥なーんか怪しいのぅ」
「グゲェ」
振り向いて確認せず、感じ取ったその気配に関して彼女達は話し合う。
何気に普段、気配もなく動けるリザのおかげでそう言う部分が鍛えられているのか、より正確に相手を把握できる。
「これはあれかのぅ。儂らが偶然見つけちゃった、排除予定のやつらか?」
「それとは違いますネ。ご主人様が知る前に、片付けようとしていた対象とは異なりマス」
「グゲグゲェ」
そうこうしているうちに、その気配が少しづつ近づいてきているのが感じ取れてきた。
どうやら相手はまだ自分たちが察しているとは理解しておらず、白昼堂々動くつもりのようである。
「‥‥‥ここは一旦、路地裏に入って誘い込むことにしましょウ」
「人目に付くのは厄介そうじゃからな。ついでに幻術も展開してより動きやすいように細工をしておくかのぅ」
「グゲェ」
ささっと案を作り、実行するノインたち。
人気の無さそうな路地裏へ彼女達が入り込んだ直ぐ後に、その気配の発生源たちはそろって誘い込まれていくのであった‥‥‥‥
魅せ方でも色々あるなと勉強にはなる。
というか、場合によっては撃沈させかねないかもしれない。
その部分をどう調整するか‥‥‥非常に悩むなぁ。
‥‥‥さて、何やらきな臭い気配もしてきたが、どうにかしたいところではある。




