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136 ノルときはノルけど

 トントンカンカンっと、リズムを打つようにあちこちで釘を打ち込み、出店の軸や、出す品々の製作音が学園中に響きわたる。


 今年の学園祭は各々の学科での店であり、その店を構えるための製作音とはいえ、何故かそのリズムはあちこちでほぼ合っているのだ。


「普通バラバラだと思うのに、タイミングが同じなのはなんかすごいな‥‥‥」

「自然となってしまうようですし、不思議と言えば不思議デス」


 何にしても、あちこちの学科で店のための‥‥‥まぁ、正確に言えば、借りることができた空き教室の改装などが行われている中、ディーたちも召喚士学科として例外なく、出す店のための部品作りに取り組んでいた。



「この材料何処へ運べとー!!」

「あっちの召喚獣のいるところが目印だー!!」

「こっち、ある程度できたけど、強度検査が必要だよー!!」

「重量級のやつにでも踏みつけてもらえー!」


 あちらこちらで、出す店の準備でてんやわんや。


 慌ただしく動きつつ、俺たちも準備をする。


「というか、目の回るような忙しさとはまさにこの事か」

「それもそうでござるなぁ、大規模でござるし‥‥‥」

「召喚士学科の場合、召喚獣を魅せるための場所や物の確保が必要でありんすからねぇ。防火・防水・防爆などの対策が必須なのでありんすよ」


 召喚獣たちを魅せる店にするのは良いものの、その魅せ方は様々であり、安全をきちんと確保するためにも念入りな準備は必要なのだ。


「んー、忙しい、暑い。でも皆楽しそう」

「こういう大きな行事って、中々無いからなぁ」


 あったとしても、酷い目にはあった。来年度の夏は、ゲイザーみたいなのは来ないで欲しい。


 何にしても、今はただ、学園祭が成功するように作業を進めていくのみ。


 組織関係で問題もあるだろうけれども、こういう楽しみの場で邪魔もされたくないし、王子たちいわく王城から警備を増やすようにしているらしいので、蟻の這い出る隙も無いそうである。


 油断する気はないが…‥‥攻める時は控えても、守りを過剰にするに越したことはない。


 というか、今までの経験上痛い目に見ることが多かったし、しっかりと生徒会の一員でもあるから、警備なども確認する必要性があるだろう。


「というかノイン、部屋の改装とかできる腕前なら、この作業とかも一瞬で出来るんじゃ?」

「無理ですネ。私はただ、ご主人様のために働くだけですし、このような大勢の楽しむ場で、野暮な手出しを行う事はしまセン。こういうのは大勢が協力しあい、作り合う事で達成感が生まれるのデス」

「そういうものか」


 ちょっとその疑問もあったが、確かにそのまま彼女に任せても意味はないだろう。


 こういうのは全員で協力して作り上げたほうが達成感もあるだろうし、喜びも大きいはずである。


「ご主人様の命令であれば、やる事もできますガ‥‥‥」

「今の話を聞いたからこそ、その命令をする気にはならないな。‥‥あ、でも念のために、手抜きになりそうな場所とか、安全性を確認してくれ」

「了解デス」


 一応、店づくりとは言え全員素人作業というのもあり、その部分に関しての監修をしてもらう必要性がある。


 作った後の、召喚獣たちを魅せる演目に関しては協議し合う必要性があるのだが‥‥‥他の召喚士の場合数は少ないけど、俺の方は数が多いからなぁ。どう魅せるべきなのだろうか?


 そもそも魅せるべきなのか…‥‥全員、普通の召喚獣とも異なるし、そのあたりは良く分からん。


 問題になりそうであれば、ここは丸投げできそうなところへ投げればいいか‥‥‥‥


 









「‥‥‥おおぅ、なんか悪寒がしたね」

「大丈夫か?」


 騎士学科ので店づくり作業中の中で、悪寒がして震えたグラディに対して、作業中であったランが尋ねる。


「ああ、大丈夫と言えば大丈夫かな。この手の悪寒の場合、さらに上に流せることを経験上理解しているからね」

「どんな経験を積めば、そういう判断ができるのかが謎なんだが…‥‥」


 グラディの返答に、ランは首を傾げつつ、知らない方が良い事もありそうな気配も感じ取り、それ以上問いかけないでおく。


「さてと、そんな悪寒は放置して、店づくりだけど‥‥‥今回、全部釘無しで建築できているのはすごいね」

「全員の剣の腕前が上達し、思い通りに斬れるようになったからこそできる手法のようだからな」


 他学科であれば、店づくり時にはノコギリや釘を使って建築している。


 だがしかし、今年の騎士学科の場合は、全員の剣の腕前が向上したのもあり、今回は釘無しで組み合わせて作れるような建築に挑戦したのである。


 教師陣の評価を考えるのであれば、それだけ剣の腕前や、その設計を行うだけの力を考慮して、評価が高くなりそうな店づくり。


 とはいえ、少々問題が起きないわけでもなかった。


ばっきぃぃん!!

「あああああ!!剣が折れたぁぁぁ!!」

「あちゃー、力を入れすぎたな…‥‥」


「…‥‥腕前向上すれども、持つ武器の方が持たないのか」

「これもある意味、腕前向上による弊害なんだろうなぁ‥‥‥」


 剣の腕前が向上したからと言って、武器の扱いがより上手くなったわけでもない。


 場合によっては武器に余計な負担がかかる形となり、耐久性があってもダメになることがあるのだ。


 人によってはどのような武器であろうとも、ある程度の耐久性を考慮して揮える事を考えると、まだまだ未熟でもあるという証にもなった。


「はぁ、できればそろそろ良い剣が欲しくも思うなぁ」

「今度、武器商人とかの店に買いに行った方が良いかもなぁ…‥‥神聖国の方でも売っているが、この国だとまた違うし、そこが楽しみでもあるな」

「そういうものなの?」

「そういうものだ。まぁ、最近神聖国の友人からの手紙だと、何やら絵柄が付いたものが売れ行きを上げているらしいけどな」

「絵柄?」


 武器のオリジナリティとか特注品などと印象付けるために、柄や装飾品などに何かしらの絵を彫るなどの事は聞いたことがある。


 とはいえ、流行などもあるので、その情報にグラディは興味を示した。


「何でも、かつて腐敗していた国を変えるきっかけとなった聖女の絵らしいが…‥‥ちょっと変わったんだよね」

「変わったって、どの部分が?」

「現物は神聖国限定販売で、ここでは手に入らないが‥‥‥より聖女様に関する絵のリアリティが向上したらしい。手紙で送られてきて、その絵を手に入れたが‥‥‥えっと、これだな」

「ん?」


 その絵に描かれていた人物を見て、気になりつつも、何かが頭から抜けているような気がしたグラディ。


 何かこう、抜けているというか、忘れているようなことがあったような気がしなくもない。



「あのー、副生徒会長殿はいるかのぅー!」

「おや?」


 っと、首をかしげて考えこもうとした中で、ふと作業現場の入り口の方で、声が聞こえてきた。


「いるけど、今向かうよー!」


 呼ばれたのは自分のようなので、ささっとそこへ向かうグラディ。


 そこにいたのは、声の時点ですでに分かっていた、ディーの召喚獣の一体、ゼネであった。


「あれ、ゼネさんどうしたの?」

「うむ、本日も生徒会の開催という事で、放課後に集まることは分かっておるよな?」

「ああ、兄上がきちんとスケジュールを立てて、皆が無理しないで集まれるようにしているからね」

「それで、今日の分なのじゃが‥‥‥ちょっと御前様に事故があってのぅ、今日は欠席させて欲しいのじゃ」

「事故?」


 何かと物騒な単語が聞こえてきたので、顔をしかめるグラディ。


「事故といっても、重傷を負ったとかいう訳じゃないんじゃよ。ただ、建築中に足を滑らせ、落下しただけじゃ」

「十分大怪我になり得そうな事故なんだけど」


 落下と聞いて大丈夫なのかと聞いたが、2階から1階へ落ちるぐらいだったそうだが、それでも一応無事ではあったらしい。


「儂らがいるから、怪我はさせておらん。ただのぅ‥‥‥追撃があって、そっちにやられたのじゃよ。御前様が無事にノインに受け止められ、大丈夫だったのじゃが、一応確認のために駆け寄ったリリスが盛大にこけて転がって、角部分が頭に直撃して気絶したのじゃ」

「盛大な事故になっているんだけど!?大丈夫なのかそれ!?」

「一応、衝撃強かったからのぅ‥‥‥‥命に別状はないが、現在気絶中じゃ。保健室の方で寝かせており、今日中には目覚めるとは思うのじゃけど、生徒会時に起きない可能性もあるし、先に知らせに来たんじゃよ」


 はぁっと溜息を吐きながらも、そう伝えに来たゼネ。


 その内容に副生徒会長としての立場でも心配していたが、より詳しく聞けば何とか血も流さずに済んだようである。


「角部分って結構危険そうなのに、気絶だけで済むってすごいね」

「それは儂も思ったのじゃが‥‥‥まぁ、御前様は運が良い方じゃしついておったのじゃろう。とにもかくにも、後は生徒会長の方にも伝えに向かうからのぅ」

「ああ、分かったよ」


 そう告げた後、ゼネがその場から去り、今日の生徒会にディーが来ないことをしっかりと確認したグラディ。


「にしても、確かリリスだったっけ…‥‥あの角、凶器にもなり得るのによく無事だったなぁ」

「内容が聞こえてきたけど、なんかすごく頑丈そうだよなその召喚士…‥‥」


 話を途中から聞いていたのか、いつの間にかランが近くにいた。


「まぁ、ディー君はそれなりに運が良い方だとは思うからねぇ…‥‥召喚獣もそれなりにいるし、悪くはないんじゃないかな?」

「ああいう召喚士は、神聖国にはいないのだが‥‥‥数とかを考えると、確かに良い方なのかもな」


 とはいえ、数がいるからと言って苦労がないわけでもないのを理解しているのだが…‥‥その部分を考えると、プラスマイナスとなって、相殺しているのだろうか。


「まてよ?‥‥‥そう言えば‥‥‥」

「ん、どうしたの?」

「いや、今のってその件の召喚士の召喚獣…‥‥ゼネとか言うのだったよな」

「ああ、そうだけど」

「あの顔って確か‥‥‥ああ、これだこれ。この絵に似てないか?」


 そう言ってランが取り出したのは、先ほど話していた中にあった、聖女の絵。


 見れば、その聖女の顔が…‥‥ゼネに非常に酷似していたのだ。



「…‥‥」


 その絵を見て数秒ほどで、ふとグラディは思い出した。


 そう言えば、ゼネは前に報告を受けた際に、元聖女だという話を聞いたことがある、と。


(‥‥‥‥えーっと、そう言えば、前にそういう話があったような‥‥‥‥)


 結構前なので忘れていたが、その報告を聞いた後にある可能性が非常に大きく、それはそれで問題なのではないかという話題があった。


「‥‥‥ま、まぁ、他人の空似ってやつじゃないかな?」

「そうかな?」


 グラディの言葉に、首を傾げつつも絵を見るラン。


…‥‥ちょっと内容が内容だけに、内心焦ったグラディゆえに、彼女のその微細な変化に気が付かなかった。


 グラディのその様子を見て、首を傾げたふりをしているだけである、という事を。


 彼女は神聖国からの留学生であることを。


 何にしても、少々不審に思えそうな表情の変化もあったが、その時に彼は気が付くことが無かったのであった…‥‥







身内の追撃は、油断していた。

というか、角って非常に凶器になるんだなぁ。痛い。

痛みを与えられつつも、辛うじて一命をとりとめたのであった‥‥‥



‥‥‥角って地味に危険。タンスの角~に…‥‥

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