126 ちょっとはつかめても
「…‥‥そうか、ようやく組織名程度か」
「その通りのようです」
王城内の議会室にて、国王及び王子たち、その他重臣たちはその報告を聞き、はぁっと溜息を吐いた。
先日、都市に潜んでいたとある仮面の組織の怪物が暴れ、どうにか討伐し終えたあと、辛うじて生き残っていたその元凶の仮面の組織の一人を捕らえ、尋問を行っていた。
だが、どうも下っ端というべきか、さほど重要な情報を持っていたという訳でもなく、むしろその騒動の中で失われた者の方に情報が集中していたらしく、残念ながら大したものは無かった。
それでも、辛うじてその組織についてのちょっとした情報なら手に入ったのである。
「組織名は『フェイスマスク』…‥‥そのままというか、怒りと笑いの半々な仮面をつける意味はあるのか?」
「どうも調べたところ、ちょっとした魔道具のようです。効果としては、目立ちそうな格好をしながらもさほど目立たないように人ごみに紛れ込む程度のようですが…‥‥」
「それはそれで、厄介そうだな…‥‥」
調べて見たところ、どうもその着用していた仮面に関して、こちらの方に技術が詰め込まれており、ただの仮面ではないらしい。
なんとか王城の錬金術師たちや魔導士たちで解析を進めて、その機能をまずは暴けたのだが…‥‥いかんせん、単純な効果ながらも組織として活動するにはうってつけすぎる機能である。
そろいの物を着用して一致団結するのに役立つだろうし、目立ちそうでありながらも存在をあやふやにするらしくて、無理に探そうとすれば人込みに紛れやすい。
人知れずに首都内へ紛れ込んでいたのもこの仮面の効果のようで、しかもまだまだ分からない技術が盛り込まれており、下手すればさらに厄介な相手であるということが分かっていく。
「目的に関しては、依然として不明だが…‥‥一つの稼業というか、そう言うところは見えてきたな」
「なにやら怪しげな怪物を作製し、売買しているという事か」
フェイスマスクなる組織とやらの情報はさほど手に入らずとも、これまで判明している事件などを照らし合わせると、どの様にして資金を稼いでいるのかが推測できる。
今までにない怪物を生み出し、売りつけ、その資金を元に更に怪物を創り出し、半ば実験、半ば資金作りと、そう言った体制を取っているように思えるのである。
とはいえ、その真の目的自体は未だに分からず、今回のもトカゲのしっぽ切りというべきか、これ以上情報を引き出せない。
「まったく、何でこんな面倒な組織が出てくるのやら」
「自滅するならまだしも、周囲を巻き込まないで欲しいものだ」
「しかも、自然に無い怪物を創り出すとか、どうなっているんだ?」
その部分も謎が多いが、今回の騒動でこれ以上分かることはない。
「うむ…‥‥ひとまずは、その仮面の分析、および引き続き調べるしかないだろうが‥‥‥こうも後手に回されると、腹に据えかねそうだ」
国王のその言葉に、一同はうんうんと深く頷き合う。
遊び人の職業を有し、それを利用して情報を収集しまくり、国政に活かしている国王でさえ、組織の情報については収集できていない。
徹底して隠蔽されているのか、もしくはその仮面のようなものが他にもあって、その場にいるのに存在感がないモノ、もしくはあるのにないモノとして扱われているようで、手ごたえがないのだ。
「こういう怪しげな組織の場合、いつもならば殿下方が潰せますが」
「影の者とか、そういうものを動員しても、中々捕まらん」
「情報がないとねぇ」
重臣の一人がつぶやいた言葉に、第1王子、第2王子共々そう答える。
森林国、この王国…‥‥こうなってくると他国の方にも根を伸ばしていそうであり、警戒するように言ったとしても、潜り込まれていたら意味がない。
何とも手ごたえがないというか、つかみどころがない怪しい組織すぎて、捕まらないことに一同は溜息を吐く。
「…‥‥こういう組織の場合、単純に探すからこそ探しにくいってのもあるのかも」
「それもそうか。今回の発見でも、偶然だったそうだからな」
無理に探せば見つけにくく、ならばその偶然に期待するしかない。
けれどもその偶然が起きた時には、既に住居などが作られているようであり、どこぞの黒いG並みに繁殖している可能性もある。
「見つけたとしても、下っ端なことが多いし、本体が見つからない。その本体をそもそも探して潰さない限りには、いたちごっこか」
「どうにかならないか…‥‥できればまた騒動でも起こしてくれれば、迅速に動いて出来そうなものだが」
「また起きて欲しくはないんだけどねぇ」
うーんっと全員首をひねって案を出しつつも、これと言って良い物がない。
たいした対抗策を立てにくく、もどかしいような気持ちにさせながらも、この日の会議は終了するのであった‥‥‥‥
「‥‥‥ディー君たちに、どうにか見つけてもらえればいいんだけどなぁ」
「今回は偶然らしいから、そこまで期待するのもどうかと思うが‥‥‥あの者たちだと、また見つけそうなことが否定できないな」
「というか、潰す際に出ているんだし、目を付けられている可能性もあるよね?ということは、もしかして情報を探るために諜報が向けられている可能性もあるよ」
「それなら良いのだが…‥‥一番厄介なのは、その組織の者が、取り込もうと画策してきた場合だな」
会議終了後、王子たちは寮の方へ戻るべく、王城内の廊下を歩き、外へ向かいながらそう話し合う。
「取り込もうって‥‥‥いやいや、無理でしょ兄上。まず、彼の周囲の召喚獣たちが怪しげなものを近づけようとしないでしょ」
ゼノバースの考えに対して、そう口にするグラディ。
組織フェイスマスクとやらがどの様な規模を持つのかは分からないが、騒動の経歴からして既に怪しさ満点であり、そんな勧誘をまず、彼の召喚獣たちがさせないように思えるのだ。
そもそも、彼自身がそう言う類には関わらないだろうし、以前の褒賞でもある推薦も蹴ることはないとは思うのだが…‥‥
「だが、召喚獣は所詮召喚獣。それがどれだけ無茶苦茶で、常識はずれで、むしろこちらの胃を痛めつけるほどの問題ごとを引き起こせる者だとしても、召喚主の方に手を出されてはどうしようもないだろう」
「まぁ、それはそれで納得できるけど‥‥‥」
「それにだ、あの仮面‥‥‥未だに分析できていないとはいえ、ある可能性も考えられる」
「…‥‥洗脳機能だったっけ。付けられたら組織の一員として働くようになっているとか、そういうものが付いている可能性もあったね」
「そうだ。もし、その機能が存在しており、仮に何かの拍子にその仮面が召喚主に取りつけられたら‥‥‥」
「…‥‥うわぁ。考えたくないなぁ」
今でこそ、彼…‥‥ディーの召喚獣たちの凄まじい実力に、助かっていることは多い。
だが、もしその彼が洗脳され、召喚獣たちを使役して敵に回ってしまえばどうなるのか。
想像しただけで、恐ろしすぎる。
「流石に顔に付ける類だし、やるとしても正面からだろうし、一気に向かう馬鹿をやらかしはしないかもだけど‥‥‥でも、怪物とかを使役して、やるようにやったら」
「可能性は無きにしも非ずか…‥‥警戒するように、伝えておくべきか」
「そうするべきだろうねぇ」
王子であり、将来的に王になろうとしている彼らとしては、彼も国民の一人であり、どうにかしたいところ。
学友でもあるし、そんなものが洗脳されることは見たくないと思い、一応出てきた可能性について伝えることにするのであった‥‥‥
「そう言えば、あのメイドの子、彼に自己防衛のための装備を作っていたらしいけれども、ちょっと見たんだけどあれ自己防衛になるかな?」
「過剰防衛な気がするのだが‥‥‥‥いっその事、フルフェイスマスクな装備でも作っておけと言った方が良いかもな。仮面対策になるだろうし、頭装備となれば流石にたいしたものは付かないだろう」
「足から空気ジェット、手で腕力強化ある時点で、頭にもやらかしそうな気がするんだけど…‥‥」
「…‥‥気にしたら負けだ。あれはああいう物だと納得しなければ、絶対に心労で倒れるぞ」
「ああ、妹がいればなぁ、ツッコんでくれるのに‥‥‥‥」
今日もどこかでツッコミ力不足に嘆く者が出る。
だがしかし、人材不足な今の時期、中々期待の新人は出ない。
出ていたとしても、他国にいたりとするので、なかなか解消しづらい問題なのだ…‥‥
…‥‥考えてみたら、大抵のライトノベルとか、なろう系小説ってツッコミ役一番大変なのでは?ボケとかそう言うのは多く出来ても、ツッコミを入れる人たちの過労死が問題になるかも。




