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124 それなりに時間があればそれなりに対策も

【ぶっしゅぐるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!】


 咆哮、いや、体表の穴を利用して笛の原理と同じように音を出し、ガスを噴き出す怪物。


 ボールのような造形に、あちこちの穴から色々と出すその光景は見た目で精神的に、激臭で物理的にと、隙が無い二段構えのおえっぷとくる気持ち悪さ満載であった。



 それでも、この怪物相手に騎士たちはひるむこともできない。


 何しろ、ここまでひどい激臭を放つ相手とはいえ、ここは人々が暮らす都市でもあり、近くには未来溢れる若者がいる適正学園や、王族が滞在する王城などがあるので、放置すればそれらへ向かい、害をなす可能性が非常に大きかったのだ。


 ゆえに、守るために彼らは戦いの道を選択する。


 幸い、地下から出てきてくれたおかげで、密室での戦闘という訳でもないし、風などで臭いも流れやすく、短期決戦で望めれば被害は最小限で済む。


「うおおおおおおおお!!」


 まずはそのぶよぶよとしているようにも見える体に、剣が通じるのかどうかを確かめるために、臭いの隙間をかいくぐり、騎士の一人が剣をふるおうとした‥‥‥その時であった。



ぶっばぁぁぁぁぁん!!

「ぎゃあああああああああ!!」


 今まさに、剣で斬りつけられようとしていた部位の穴から、猛烈な勢いでガスが噴射され、騎士が吹っ飛ぶ。


 鎧を装備しているのでそれなりの重量は確保しており、吹き飛ばされないかと思っていたのだが、それでも宙を軽く舞ったのだ。


「気を付けろ!!一人で攻めればその部位から一気にガスが噴出されるぞ!!」

「大勢で向かえば拡散して、威力は減るはずだ!!」

「あるいは誰かに集中して出ない可能性もあるし、一斉にかかれぇぇぇぇぇ!!」


 素早く状況を判断し、周囲を取り囲んで斬りつけに向かう騎士たち。


 その判断は正しかったのか、再び穴からガスが噴出されたが、その勢いは吹き飛ばすほどの力にはなっていない。


 内部で精製できるガスの量もおそらくは限りがあり、短時間ではそこまで貯めきれないと思われた。


「ちぇすとぉう!」

「せいやっさぁぁ!!」

「ふんばばぁぁ!!」


 それぞれが声を出し、勢いよく剣を振りかぶり、それが怪物の体へ当たり‥‥‥


ぶっよっよ~~~ん!!

「「「なにぃ!?」」」


‥‥‥斬ることができず、はじき返された。


「なんだ今の感触は!?」

「滅茶苦茶気持ち悪いぶよぶよさというか、柔らかいけど楽しめるような類じゃない!!」



 ボールのような形状とは言え、どうもその体は贅肉以上の贅肉というか、文字通りの肉の壁が存在するようで、切断が不可能のようだ。


 何度も騎士たちは挑戦したが、その度に剣で突き刺すことも、切り裂くことも、叩きつける事もできず、ただぶよんばよんっと肉壁によってさえぎられる。


「くっそ!!おそらくコイツに剣は無理だ!!」


 そう判断し、直ぐに騎士たちは防衛の方に構えを取った。


 剣や刃物などで攻撃が通じないのであれば、次は魔法による攻撃である。


 とはいえ、職業魔法使いの魔導士部隊がそろっていても、攻撃を受け手は困るので、その盾となって前に出るのだ。


 タンクマンな奴らも積極的に飛び出し、なんとか臭いも防ぎつつ攻撃が放たれる。


「氷や水で!ガスを出すが、可燃性ではないとは言い切れない!!」

「火を使って大爆発だけはさけろ!!」


 念のために用心するように警告しつつ、魔法が解き放たれ、怪物へ向かう。


 氷や土の塊や、風の刃、水流などが発生し、一斉に襲い掛かろうとしていたが、次の瞬間怪物が急激に膨れ上がった。


「なんだ?」


 何かを感じ取ったのか、身構える騎士たち。


 っと、急に膨れ上がった怪物は、一気に全身の穴を膨らませて…‥‥


ぶっぼぉぉぉぉぉん!!

「どわぁぁぁ!?」

「ぐへえぇぇぇぇ!?」


 先ほどとは比較にならないほどのガスを大噴出し、迫っていた魔法を全てかき消した。


 塊などは地面に落下し、そうでない者はガスに押し返されたり粉砕される。


「くっ、自己防衛のために動いたな!!」

「どうやって倒すんだコイツは!!」


 剣も魔法も通じず、攻防をすべてガスで行い、隙が無い。


 ぶよんぐにょんのぶすぶすんっとガスを放つ怪物相手に、これ以上どうすればいいのかと、手段が無くて考え込む中、ふと彼らの前に一人の者が降り立った。



「‥‥‥ふむ、ある程度はもう分かったのぅ。こやつ、浄化でガスが消えるし、ちょっとアンデッドに近いようじゃな」

「‥‥‥何者だ?」


 現れたその人物に対して、騎士のうち一人がそう問いかける。


「儂か?ただの召喚獣じゃ。流石に他の皆はこの臭いで近寄れぬが、儂の場合は元人でもあるがゆえに、原始的な対策程度で済むので、ここまでこれたのじゃよ」


 そういう者の顔を見れば、鼻に栓を詰めていた。


 確かにその手段ならましかもしれないが、いかんせん結構整っている顔の相手がしているのを見ると、残念感が漂った気がしなくもない。


「何にしてもじゃ、色々調べる事もできたのじゃが‥‥‥これが多分一番効くじゃろうな」


 そう言って取り出したのは、何かの液体が入った瓶。


「ほいやっさっと」


 ふたを開け、それを怪物へ投げつける。


ぶっばぁぁぁぁん!!


 何かに気が付いたのか、怪物が激臭を持つガスをその液体へ向けて放ち、吹き飛ばそうとしていたが、どういう訳かその液体は吹き飛ばず…‥‥


ばしゃん!


 すぐに怪物へ降りかかると同時に、妙な音がし始めた。


ぶじゅ、ぶじゅわわわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

【ぶっしゅぐるわああああああああああああああああああ!?】

「なんだ!?」


 先ほどまで、どの様な攻撃も受け止めつつ、ガスで弾き飛ばしていた怪物。


 そんな怪物に、わずかな量の液体だけで、かかった部位が急速に焼けただれるように変化を見せたことに騎士たちは驚く。


「これかのぅ?アンデッドの天敵でもある聖属性たっぷりの水‥‥‥まぁ、聖水に近いような、酒ゆえにちょっと違うようなものじゃ」


 そういうと、その者はさらに多くの瓶を懐から取り出した。


「さてと、儂だけが前線に出ているのも何じゃし、お主らも手伝え!」

「は、はい!!」


 手渡された瓶を持って、蓋を開け、騎士たちは怪物へ向けて投げ飛ばしていく。


 その度に怪物は抵抗しようと噴射するが、どういう訳か吹き飛ばされることなく液体がどんどんかかっていき、怪物を襲っていく。


【ぶっしゅぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!】


「おおぅ、ここまで効果抜群すぎると、自分にかからぬようにしないと怖いのぅ。‥‥‥お、もう用意できたようじゃな」


 上を向き、そうつぶやいたのでその視線の先を見れば、上空に人影があった。


 空を人が飛べるのかという疑問はさておき、協力して何かどでかいものを持っているのだが、騎士たちはすぐにそれの正体に気が付いた。


 そのどでかいものは、とても大きな瓶。


 そしてその中身には、たっぷりと何かの液体が入っているようだが、おそらくは先ほどから投げていた液体と同様のものであるだろう。


 それをこうやって上に持ってきているということは‥‥‥


「よし、逃げた方が良いのじゃ!」

「一斉避難!!」


 そのつぶやきと同時に、騎士たちは素早くその場から離れると、上にいた者たちはその様子を見て瓶の中身をひっくり返して、怪物めがけて降り注がせた。




‥‥‥さて、ここで思うのだが、わずかな量でも怪物を苦しめていた液体。


 それが一気に、豪雨のごとく大量に降り注げばどうなるのか。



 その回答はすぐに、その場に現れた。


ざばぁぁぁぁぁああああ!!

じゅわっぁあああああああああああああああああああああ!

【ぶるごごぶぶしゅうざぁあああああああああ!?】


 ガスを噴射し、なんとかそらそうとしたが、軌道が変わることなく液体が怪物へ降り注ぐ。


 一気に全身から焼けただれたように変化するも、その液体の勢いはやむことなく、まんべんなく怪物へ降り注ぎ、その穴からさらに体内へ入り込み、内部へ攻撃を仕掛けていく。


 そして数十秒ほどで、怪物は最後の断末魔を上げ、ピクリとも動かなくなるのであった‥‥‥‥



「な、なんだったんだ今の。そしてそちらの正体は一体‥‥‥」

「隠しているわけではないのぅ。儂は、」

じゃぶんっ

じゅわっ!!

「あっつわあああああああああああああああ!?」

「水たまりを踏み抜いて、なんか焼けている!?大丈夫かあんた!!」


‥‥‥約一名、犠牲が出たようであったが、遺体となった怪物は動かないように、念のために縛り上げる作業が開始されるのであった。



約一名、還りかけたが無事生還(?)

効果は抜群だったようだが、まだ問題は色々とある。

臭いとか臭いとか臭いとか臭いとか…‥‥



…‥‥あと、衣服着用靴履き組は防水用のものに変えた方が良いかもしれない。

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