121 身代わりの術ってちょっとやってみたい時もある
「…‥‥うわぁ、上空って確かにノーマークなことは多いけど」
「上から見ると、結構見えますネ」
…‥‥学園からちょっと飛んで、はるか上空。
次の授業までの合間にある休み時間の間に、ノインたちだけに任せず、自分も共に探ろうと思って、ホバーブーツの改良型の試運転とやらも兼ねて、来て見たのは良いのだが‥‥‥
「双眼鏡もあれば、細かく観察できるでござるよ」
「空を見ない人って、意外といるんだな…‥‥いや、意外でもないか?」
「飛行方法自体が、さほど多くないのもあるのでしょウ」
この場には、俺にルビー、ノインの3人だけである。
まぁ、言われてみれば確かに上空を飛んで観察する方法なんて普通はあまり考えないし、鳥型の召喚獣とかもいるので偵察させる方法などもあるのだろうけれども、注意するようなことはないのだろう。
ゆえに、何かと後ろめたい人たちがこっそり活動していたとしても、真上から見ればバレバレである。
「というか、そもそもあれだけ目立つ仮面をかぶって活動できているって言うのもなんだろうな」
「都市の防衛とか、そのあたりの部分を今度問い合わせたほうが良さそうデス」
何にしても、色々とやらかす貴族家の裏で、こっそり蠢いているのは、あの下で動く仮面の集団。
そこまで長く観察できないが、それでも動きを実際に見るには十分なほどである。
観察をして見ると、都市のあちこちで2~3人ほどに分かれて動いているようだ。大人数だと目立つだろうし、それだけの仮面軍団がいたら流石に怪しすぎるからだろうか。いや、人数減っても不審者感は溢れ出しているが‥‥‥堂々としている分、怪しまれにくいのか…?
「怪物をまた作っているのか、はたまたは別の悪だくみがあるのか‥‥‥」
「地図でも書いて、確認してみるべきでござろう」
あちこちでの動きを確認しつつ、休み時間も終わりそうだし、そろそろ退散時であろう。
「ひとまず俺は戻るけど、二人はあの集団監視できるか?」
「お任せください、ご主人様」
「こなしてみせるでござるよ」
「それじゃ、頼む」
こういう時に飛行して観察可能な彼女達がいることに、ありがたさを覚えるのであった。
‥‥‥他の面子だと、飛行できないからね。いや、やろうと思えば実はできたりするらしいが‥‥‥地上の警戒を薄めるわけにもいかないからなぁ。
地上に戻り、本日は召喚獣とのコミュニケーションを築くというもので、軽く会話をしたり遊び合ったりする授業であり、ついでにこの授業内で各々の更新できた情報を聞くことにした。
「‥‥で、今はノインとルビーの二人は上空にいるわけだけど、こっちはこっちで、新しい情報ないかな?」
「んー、今のところ、件の侯爵家が動き出そうとしていて内部分裂している情報ぐらいですわね」
「内部分裂?」
その件の侯爵家は利害の一致で一致団結していたと思ったのだが…‥‥
「次期当主が、儂らを手中に収めようと目的にしておったのじゃが、そのついでに他にも手を出そうとしたようでな‥‥‥」
「金使い、火の車、悪化」
‥‥‥どうやらこちらが行動を起こす前に、勝手に自滅しそうな状況らしい。
というのも、元々領地経営能が親子3代にわたって皆無に等しかったせいか、現在その侯爵家は火の車状態。
わざわざ俺たちの情報を集めるためにも金を使い、ギリギリのところでありつつ、無駄な貴族としてのプライド故か生活を改めずに過ごしていたらしいが、それでも借金で何とかなっていた。
だがしかし、ここでとどめを刺すようにというか、若さゆえの過ちというか、次期当主である子息が欲望を抑えられなかったのか、娼館通いを始めてしまったらしい。
実はその家の祖父、父なども常連客だったらしいが、ここでその子息も始めてしまったことで、家計に大打撃が走り、更に貢ぎまくっていたようで、さらなる財政の悪化を招いたようなのだ。
「馬鹿なの、そいつら本気で馬鹿なの?」
「呆れたとしか言いようがないのぅ」
しかも、元々領民から搾り取っていた税もこれ以上引き上げても限界らしく、領民たちが逃亡し始めさらに金が無くなって来たらしい。
その上、借金自体もそもそも貸す方はある程度の返却予想を立てて貸すのだが、流石にこれではもう無理だという事で貸すこともできず、返済を迫りだしたそうである。
「悪質なところも、元々はいずれは借金奴隷落ちだろうなぁと思っていたようでありんすが、ここまで一気に下落するのは流石に予想できず、他の借金取りに奪われる前に慌てて動き出しているようでありんすよ」
「悪人すら予想できない馬鹿の奇行ってか…‥‥」
中々すさまじい没落ぶり過ぎて、感嘆すら覚えそうである。
「それゆえに、金策で話し合いをして、そこで集める方法で仲たがいをしたようなのじゃ」
「それで、内部分裂か」
「そう言う事じゃ」
金策方法は、それぞれで似たり寄ったりで違いが分かりにくいのだが、その違いのせいで反発しあったらしい。
「この様子だと、放置して良くなりそうだが‥‥‥」
「それは無いじゃろうな。人間、そう言う危機的な状況程何をしでかすのか分からないんじゃよ」
借金すらできず、金すら受け取れず、もはや家計は火の車が大炎上状態。
借金というのは返済できなければ自己破産手続きなどもあるだろうが、それを行うと爵位返上などもしなければいけないようで、貴族という位にしがみつくそいつらにはできない手段。
残されたのは、借金の肩代わり、借金分の働きをさせる借金奴隷とか言う道だろうが、おそらくそれも拒絶するだろうし…‥‥
「‥‥‥で、そうなってくれば、当然」
「そこに付け入る奴もいると」
…‥‥丁度ノインとルビーが帰還し、情報をまとめるとその予想が当たっていた。
仮面付けた組織が接触を図り始めたようで、藁にも縋る気持ちでそいつらは飛びついたらしい。
「そのまま気絶させられ、搬送されまシタ」
「多分、何か作っている場所へ連れて行ったのでござろうなぁ」
予想できるとすれば、その親子三代は、その組織の材料にされる末路であろう。
されてしまえばまた厄介な怪物が生み出されるのだろうが…‥‥何だろう、このすっごい助けたくない気持ちは。
自業自得すぎるというか、そもそもノインたちを狙ったせいというか…‥‥でもなぁ、厄介な怪物がまた出てきても困るだけである。
「搬送先は?」
「都市北西部にあった建物の中にですが、エコー検査で地下を確認。規模は小規模ですが、それでも部屋がいくつかあるようデス」
森林国の例もあって、ある程度は警戒されていたはずだが、それでも隠れて作業されていたようだ。
「王子たちの方へ即座に報告して、騎士団とか動かしてもらう方が良さそうだな‥‥‥」
何にしても、早めに行動したほうが良さそうだが、多分その親子3代は間に合わないだろう。
間に合わなくても問題は無いような気もするが…‥‥うん、怪物にされて余計に面倒くさいようなものになっても嫌である。
とにもかくにも、俺たちはさっさと行動を開始するのであった‥‥‥‥
自爆しそうな相手が、窮鼠猫を噛むような厄介事を引き起こされても困るからな。
きちんとやるのであれば徹底的に潰して、どっちも成敗できるのが理想的である。
そもそも、うまい話しには裏があったりするのに、なぜ簡単に飛びつく人は絶えないのか…‥‥
‥‥‥いつの間にか地下を掘られていたっていうけど、相手は地かが相当好きなのか?




