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97 いかんせん、分からないこともある

 冬眠状態から目が覚めたのか、いつの間にか忍び寄っており、俺に巻き付いたリキッドスネーク。


 どうしていきなり巻き付いてきたのか‥‥‥その理由は分からない。


 ただ一つ、この状況で言えるのは‥‥‥


ギリギリギリギリ…‥‥

「め、滅茶苦茶締め上げられているんだけど…‥‥」

「ぐぬぬぬ…‥‥外れまセン」

「というか、これ以上は不味そうでござるな」

「シャァァァ!」


 巻き付いてきた蛇の体を外そうと、力ずくでやってみるのだが、ノインもルビーも全力でやって外せていない。


「シャァァァ!!」

「根性で、外す気は無さそうじゃな‥‥‥どうも御前様に執着しちゃったようじゃな」

「何でだよ!?」


 執着されるようなことをしたことは身に覚えがないんだけど!?


「グゲェグゲ」

「シャァァァ!」

「グゲググゲェ」

「シャァ?シャァァァ!!」


 そうこうしているうちに、ふとリリスが会話を試み始めた。


 人語を話さない者同士、何か通ずるものがあったのか、シャゲシャゲグゲェグゲェっと会話をし始める。


 色々と聞きだし、リリスが身振り手振りを行い、俺たちへこの蛇が何でこんなことをしたのか伝えてくれた。


「‥‥‥恩?」

「グーグゲェ」

「瓶から出してくれた、その恩返しのようデス」

「グゲゲゲグーゲェ」

「ふむふむ‥‥‥そういうことですの」


 その内容を聞き、俺たちは何故このリキッドスネークが瓶詰になっていたのか、その詳しい内容を知った。



 いわく、この蛇は元々の住みかで、のんびりと暮らしていたらしい。


 肉よりも野草の方を好み、草原でむしゃむしゃと草を食べて、その他の草食動物や草食系モンスターたちと共に美味しい野草情報交換などを行いながら、平穏に過ごしていたそうな。


 だがしかし、そんな日々はある日終止符を打たれてしまった。



 最近のお気に入りの野草の群生地へ向かおうとしていた時に、突然攻撃を受けたらしい。


 目くらましのような眩しい閃光を浴びた後に、直ぐに冷たい風が吹き始め、そのせいで体の動きが鈍り、その隙にあれよあれよという間に何者かに囚われ、素早く瓶に詰められたらしい。


 そしてすぐ後に大量の何かの液体が注がれ始め、その後に更に冷凍され、冬眠状態に陥ってしまったそうな。


 自身の望まぬ冬眠に加え、ある程度の生存状態を保持できるとは言え酒へと変化していく液体漬けに、恐怖を覚えつつも何もできない。


 そして運ばれていく合間に、意識を失い…‥‥気が付いたら、この王城の庭にいた。


 冬眠から目覚め、直ぐに周囲の状況をリキッドスネークは把握し、何が起きたのか素早く理解する。


 そして理解した内容から、どうも俺が助けたと悟り、お礼の印にこうやって体に巻き付き‥‥‥




「シャァシャァ!!」

「グゲェ‥‥‥グゲグゲグゲェ」

「なんか体のあちこちが疲れているように見られたので、全身での締め付けを利用したマッサージを行おうとしていただけだと?」

「グ」

「シャ」


 それであっているというように、頷くリリスと翻訳された内容に肯定するリキッドスネーク。


 どうも液体を酒に変える能力以外にも、野生化で他の草食動物などに試していた事で、心身を健康にできるようなマッサージの施術を会得していたらしく、それを行おうとしていただけのようだ。


「‥‥‥何と言うか、無理やり剥がそうとして済まなかったな。お礼をしていただけだったのか」

「シャァ」

「グゲグゲェ」

「そうなんだよ、と言っているようデス」


 言われなくてもこのしぐさでわかった。


 全身蛇締め付けマッサージ…‥‥このリキッドスネークが会得した施術のようで、聞く限りこれまで受けた者たちからも中々の高評価を受けていたようである。


 ただ、問題としてはその絵面。


 一見すれば、大蛇に巻き付かれ、一飲みにされそうな光景だからな…‥‥


「シャァシャァ」

「グゲェグ」

「まさにその通りって、自覚していたのかよ!」


 何にしても、このまま巻き付いていても問題ないらしく、施術自体は10分ほどで済むらしい。




 なので、大人しく言われたとおりに身を任せ、時間が立ち、リキッドスネークが離れたところで確かめてみると…‥‥



「‥‥‥うわぉ。本当だ、なんか体が軽い!」

「シャァシャー!」

「グゲグゲェ」

「ふむ、身体の締め付けでの血流操作、および筋肉の動きに合わせた微細な自身の震動及び、変温ゆえに利用した無駄な熱吸引…‥‥中々面白い方法ですネ」


 ノインが分析するが、そんなことを言われなくても分かるぐらい、本当に体がすごいスッキリしている。


 疲れによる肩こりとか、ストレスの胃痛とか、マッサージでどう癒すんだというようなことまで全部やられていた。


「凄いなこれ!!本当にありがとう!!」

「シャー!!」

「あ、これ通訳なくても分かりましたわね。どういたしまして、かしら」


 俺の身軽さに、満足いく施術と恩を帰せたのか嬉しそうに鳴くリキッドスネーク。


 酒を生み出すだけかと思いきや、天然ゴッドハンド…‥‥いや、スネークボディを持っていたというのだろうか。


「シャァァァ!」

「…‥‥コレ、本格的に貴方の方へ押しつけコホン、召喚獣にした方が良いのではないかしら?酒も生み出せるけれども、凄腕のマッサージ師なんて、絶対に引き取り手が多すぎて困ったことになるわよ」

「今さらっと押し付けるとか言わなかったか?」


 王女の方にそう問いかけて見れば、さっと横に目をそらされた。


 まぁ、ここまでの体の健康状態への施術を受けると、しても悪くもないとは思える。


「‥‥‥でも、リリスの例もあるしなぁ。召喚獣にしない方が良いよな?」


 ずっとあの子犬サイズの小さいミミックだと思っていたのに、召喚獣にして変貌したリリスの例があるので、そう口にする。


 単なる名づけだけでも、特に問題は無いとは思うが‥‥‥


「でも、いざという時に困るんじゃない?召喚士は召喚獣を呼びだせるけど、召喚獣でなければ無理よ、攫われでもしたら戻せなくもなるわよ?」


…‥‥そう言われると、逃げ道が無くなる。


「…‥‥お前、俺の召喚獣になるか?」

「シャァァ♪」


 問いかけてみると、リキッドスネークは文句ないというように答えた。


「んー、リリスの例もありますが‥‥‥まぁ、ご主人様の事ですし、文句はありまセン」

「今さら増えたところで、大丈夫ですわよ」

「そもそも、変化するとも限った話ではないでござるしな」

「変化例のその一としての立場があるのじゃけど、御前様がしたいのであれば文句もないのじゃ」

「グゲェ」


 皆に聞いてみれば、全会一致のようだし…‥‥まぁ、流石にこの蛇の姿だし、リリスのような例はないだろう、多分。


「それじゃ、契約するぞ」

「シャァ!」


 そういうと、準備万端と言うようにとぐろを巻いて待機するリキッドスネーク。


 前のリリスの例もあるが、流石に今回はそんなことあるまい!!むしろ色々言われている噂を払拭するぐらい、とんでもないモンスターになってほしいとは思う!!


 あ、でもゲイザーみたいな単眼はやめて欲しいかな‥‥‥正確には複眼の奴ではあったが、喰われたせいでちょっと苦手意識がね…‥‥後頭部に口ができるパターンもやめて欲しい。






 とにもかくにも、契約のために召喚用意。


 頭の中に召喚のための詠唱文?OK!相手との合意?Ok!では、レッツ召喚!!


「それじゃいくぞ!『来たれ、癒し手のものよ、我が元へ』」


 うん、マッサージ技術とかを考えると、妥当なものである。


 元聖女のゼネもいるが、こちらは物理的に行うし…‥‥


「『汝は常に、我が元へ、悪しき者なら、砕く者へ』」


‥‥‥ん?あれ、妙なもの混ざらなかった?


「『我が命を受け、癒し砕き祝福し滅亡させよ、さすれば汝に名を与えん』」


 うん、なんか絶対に変なものが混ざっているんだが、大丈夫かなこれ?


「『さぁ、さぁ、さぁ、顕現せよ、汝に与えし名はリザ!!我が元へ来たまえ!!』」



 何やら色々物騒な文が混ざったが‥‥‥うん、大丈夫なはずだ。


 似たような例にゼネがいたが、死の魔法とかを扱えるとは言えそう凶悪なモンスターには‥‥‥いや、種族的には結構ヤバい奴だったか?


 色々と不安が入り混じる中、契約による召喚が成功し、魔法陣が出現、発光の工程を経て、その姿を現す。


 

 蛇の体自体は、先ほどのものよりも少し細くなりつつ、長さを増す。


 鱗の艶具合がより向上しつつ、すらっとした印象を与え、どことなく空のような青さを持ちつつ、うっすらと白い模様がある。


 そのまま上の方へ目を向けて行けば…‥‥



「‥‥‥ディー、一つ言っていいかしら?」

「‥‥‥何だ?」

「美女軍団創造機、ハーレム製造機、強制肉体変換美少女機っている噂は、わたしの方でも聞いたことがあったのだけれども…‥‥これを見ると、物凄い説得力を感じさせられるわね」

「…‥‥」


 王女の言葉に、俺は返答ができなかった。


 否定したい噂なのに、その否定を見事に真正面からぶち壊されてしまっただろう。


 上の方には、温かさを重視してなのか着物を着ているとか、そういうのはまだ良いだろう。


 衣服を着ているのは、ノインとかの例で十分理解はしていたつもりである。


 それでもまだ、できれば召喚のための詠唱文の物騒さから、凶悪そうな蛇モンスターができていたと思いたかったのだが‥‥‥‥残念ながら、それは叶わなかったらしい。


 すらりと伸びた()に、ノインたちに劣らぬ美しい顔(・・・・)


 長い髪が簪と呼ばれるようなものでまとめ上げられつつ、片方の手で腰にあたるであろう部分には何やら短刀のような物を装備。


 髪も目の色も、その鱗と同じ空色をしつつ、自身に起きた変化を見てぱちくりと驚愕したようなそぶりを見せたが、こちらに向き直り、把握した内容を告げる。


「召喚完了でありんす。わっち、名前『リザ』をいただきまして、種族『リキッドスネーク』改め『ヒールラミア』になったようでありんすなぁ。末永く共に居するでありんすよ、召喚主様(ダーリン)



…‥‥うん、『異界の召喚士』という名の職業が仮に人だとしたら、俺は今、全力でぶん殴っていたに違いない。


 何をどう間違えれば、あの大蛇が半人半蛇の美女に変わるんだよ!!


「ふふふ、どうやらわっちはわっち自身の能力も理解できるようでありんすねぇ。酒以外も可能のようでありんすが、まぁ、今はまず…‥‥」


 獲得した手の感覚を確かめるように動かし、ニヤッと笑みを浮かべるリザ。


 その感じに妙な気配を感じた‥‥‥‥次の瞬間であった。



コン

「ッ!?」

トトン

「ひゃうっ!?」

ドトン!

「へぐわっ!?」

ドドドン!!

「みょいっ!?」

ココン!

「グゲッ!?」


 一瞬、残像を残したかと思ったすぐ後に、ノインたちが妙な声を上げ、地に伏していった。


 バタバタッと倒れ、ぴくぴくと痙攣する。



「な、何をしたリザ!?」

「あらあら、ダーリン、声を荒げる必要はないでありんす。せっかく新しく手を獲得し、自分の体の把握をするために、軽くウォーミングアップをして‥‥‥」


 そう言い、彼女はこぶしを握った後に、親指だけ立てて前に向けた。


「皆に指圧を施しただけでありんすよ♪快感過ぎたようでありんすけどね」

「め、メイドゴーレムである私には、効かないはずですガ…‥‥」

「儂も、アンデッド…‥‥要は死体じゃし、その感覚はないはずじゃが…‥‥」

「グ、グゲゲ…‥‥(特別意訳:箱も体だけど、滅茶苦茶硬いはずなんだけど‥‥‥)」

「どうやらこの姿になって、わっちの腕前も向上したようでありんすね。人工物であろうと、死体であろうと、強固なものであろうとも、的確に効果的な部分を押せるようでありんす♪」

「ま、マジか‥‥‥‥」


…‥‥召喚士として召喚獣である彼女達を見ていた俺でも、その光景は信じがたい。


 不意打ちに近い形とは言え、彼女達はそれなりに強かったのに‥‥‥まさかの指圧で全員撃沈するなんて、思わなかったのだ。


 カトレアやルビーは生身の部分があるから良いとして、メイドゴーレムであるノインやアンデッドであるゼネ、脅威の耐性・防御力を誇るリリスたちも感じさせるってどれだけのものなのだろうか。


「ええ、ダーリンのおかげでこの力を得て、非常に嬉しいでありんす。せっかくなので、マッサージをしたばかりですが、ここでまた、ヤッテしまうでありんすよ」


 こちらに顔を向け、笑みを浮かべるリザ。


 嬉しいだけなんだろうけれども…‥‥何だろう、この言いようのない恐怖感。目の奥も笑っているのだが、こう、巻き付いてきたかのような、感覚を感じるのは気のせいだろうか。言葉もちょっと、おかしいような気がするのは気のせいだろうか。


「というわけで、善意の一撃、受け止めて欲しいでありんす。全力で!」

「ちょっと待てリザ!!彼女達にはウォーミングアップとか言うから軽くやったんだろうけれども、それでもあの状態!!なのに本気のお前のそれを受けたら、なんか絶対に不味い予感が」

「大丈夫でありんす!!ついでに王女様の方にもやってあげるでありんす!」

「えええ!?い、いやちょっと待ってくだ、」


「えーい、でありんす☆」

ドゴン!!

「「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」






…‥‥その日、王城内に絶叫とも嬌声とも分からないような悲鳴が響き渡った。


 何事かと駆けつける者たちもいたが、その前後の記憶を彼らは失うことになる。


 ただ一つ、残された謎とすれば、何故か全員疲労回復、健康増進、集中力、筋力など強化されており、仕事の効率が非常に上がったぐらいであろうか。


 何にしても、絶対に召喚してはいけない類を召喚してしまったかのような、物凄い罪悪感をこの日俺は味わう羽目になったのであった‥‥‥‥


「‥‥‥ええ、今回のではっきりしましたわ…‥‥貴方、今度から増やす際には、まず自分で試してからにして欲しいです…‥わ」

がくっ

「いや、本当にすいませ‥‥‥ん」

がくっ


「おや?皆眠ってしまったでありんすか?ぬぅ、初めて召喚獣にされて、華々しく全員を癒したが‥‥‥ちょっと加減を覚える必要がありそうでありんすな」


(((((((ちょっとどころじゃない!!)))))))


…‥‥その言葉に、全身を襲う快感ゆえに動けなくなった俺たちは、心を一つにしつつ、意識を失うのであった。

100歩譲って、この体の変化ならまだいいかもしれない。

だがしかし、酒を生み出す力以外に、この指圧能力はやらかした類ではなかろうか。

そう思ったが、すでに遅かったようであった‥‥‥‥



…‥‥癒されはするだろうけれども、この力が抜ける感覚は怖い。これ、下手すると暴力とかそう言う類よりも凶悪過ぎる力なのではなかろうか…‥‥

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