96 年齢的にはまだ早いと
ボルテニックドラゴンの巣を見れば、そこにあったのは密輸などの犯罪証拠の数々。
ディーたちが選別して国へ送る物を探している中、それはあった。
マムシ酒というか、蛇漬け酒というか、モンスターが丁寧に漬けられた瓶があり、ここであったのも何かの縁でもあるし、解放することにした。
…‥‥ふたを開け、液体と共に流れ出てきたのは、一匹の大きな蛇。
いや、サイズ的にどう見てもモンスターとしか言えないが、どうもこの液体漬けになりながらも、生命反応はあるらしい。
「‥‥‥図鑑の方に、載ってますネ」
「何と言うやつだ?」
「えっと、『リキッドスネーク』‥‥‥ああ、これも取引禁止モンスターの類デス」
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『リキッドスネーク』
別名、酒神とも言われるような、珍しい蛇のモンスター。
特殊な出汁を出すのか分かっていないが、この蛇が泳いだ場所は全て酒と化し、水であろうと泥水であろうと血液であろうとも、泳いだ液体であればどれもこれも酒にしてしまう。
水に浸けて100日以上経過すると、その酒はさらに極上の代物となり非常に高値で取引可能になるのだが、その性質ゆえに酒豪に狙われて乱獲され、現在は幻と言われるほど数が減ってしまった。
モンスターでありながらも性質はおとなしく、酒を生み出すのだが全部共通してしらふで蟒蛇で、酔う事はない。
保護対象でもあるが、基本的に気ままな性格でもあり、気が付いたら何処かに行っていることが多い。
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「ノイン、ゼネ、状態は?」
「酒から出しましたが、冬眠状態のようデス」
「ふむ、どうやら冷凍されていたようじゃな。氷の魔法の形跡があるようじゃし、一気に冷凍され、冬眠状態にしたのちに漬け込んだと言ったところかのぅ」
この面子の中で、分析などに長けている二人が見たところ、このリキッドスネークは冬眠状態ではあるが健康には影響がないらしい。
ただ、幻と言われるほどのモンスターであり、出したのは良いのだが今こぼしたのは絶対に高い酒であろう。
うん、何処かの組織の違法取引の証拠の一つでもあるし、気にしなくていいか。そもそもまだ俺は酒を飲まないし、問題ない。
しいて言うのであれば、このまま野生に還しても良いものなのか‥‥‥
「‥‥‥ここって村への川の上流も近くにあるよな?農地などへの水にもなるのに、酒になるのは勘弁してほしいのだが」
「この近辺で放置するのも不味そうですネ」
ひとまずは、まだ冬眠状態のようなので、寝かせたままリリスの箱に入れることにした。
野生に還した方が良いかもしれないが、幻とも言われるような類だし、王城へ押しつけ案件にしてしまおう。国王とか、国の重鎮とかは多分酒を飲むから、必要とされるだろうし、犯罪の証拠ともいえるからね。押し付けるに越したことはない。
今はただ、証拠集めをしつつ、また王城へ向かう面倒さをどうにかしないとなぁ‥‥‥
「夏季休暇終わった後に、向かうのもありだけど、何処かの犯罪組織が隠蔽しそうだしなぁ」
「善は急げとも言いマス。それに、私たちだけでは解決できないような犯罪でもありそうですので、国へ押しつけた方が良いでしょウ」
それが一番だよな。
「‥‥‥という訳で、証拠を提供しに来ました」
「ツッコミどころがあり過ぎるのよ!!」
‥‥‥ヴィステルダム王国の王城内。
本日引き渡しに来たのだが、王子たちは何やら忙しいようだし、対応してくれたのは第1王女ミウ。
今までであってきた人たちの中でも、ツッコミ力が高い人物だが、今日は盛大にツッコミを入れた。
「百歩譲って、ドラゴン討伐の部分は良いですわ!!でも、その犯罪組織の証拠の品々とか、幻の蛇モンスターとか、貴方はいちいち何か功績を上げるような、それでいて国を悩ませるような問題を持ち込む趣味でもあるのかしら!!」
「そんなことを言われてもなぁ…‥‥」
そんな趣味もないし、勝手にあれやこれやと出てきてしまっただけである。
「で、その証拠の品々はその子の中にあるのかしら?」
「ああ、リリスの中に入れているけど、どこに出せばいいかな?」
「ひとまずは、王城の中庭の方にお願いしますわ。先日までは何処かの誰かさんが運んできた人々であふれかえってましたが、今は全員帰国いたしましたからね」
うん、何処かの誰かさんって俺だよね。間違いなく。思いっきり強調しているし、どうもそのあたりで疲れた人が大勢出てしまったことを根に持っているのだろうか。
何はともあれ、量もあるし、場合によっては耳ざとい関係者などが処分しに来る可能性があるので、王城勤務の騎士たちも来て、周囲に怪しい人たちが来ないかどうか警備する中で、その証拠の品々を俺たちは出し始めた。
めぼしい書類の山、違法薬物やその他取引の品々をリリスの箱の中からリレー方式で取り出していく。
えっさほいさっと出されていく山に対して、王女は頭に手を当ててツッコミ内容を考えつつ、使用人たちに指示を出してそれらをさらに細かく分別していく。
重要そうなものばかりで、その他の幌馬車もサンプルとして入れてきたのでそれも出し、ボルテニックドラゴンに関しては薬物中毒の可能性もあるのでその肉片を切り分けて出した。
‥‥‥ドラゴン全部を出さなかったのは、その素材としての利用価値からである。
というか、ノインが俺のホバーブーツのような、その他の武装するための道具の材料として扱うからと、全部の提出をしない方が良いと言ったのである。
個人的には全部出した方が良いかもと思ったが‥‥‥中毒状態だったとはいえ、素材としては良好なようであり、使えるなら使った方が良いだろう。ツッコミを入れたくもなるが、期待する自分もいるな。
とにもかくにも出せるだけ出し終え、リリスが箱のふちについた汚れをふき取ったころには、山のように積まれていた。
「あとはこの蛇かな。今はもう、液体も出しているし、冬眠からそろそろ覚めそうだけど‥‥‥」
出してみると、リキッドスネークの体はぴくぴくと動き出していた。
この様子だと、あと数分ほどで冬眠から目が覚めるだろうけれども、そこまで気にする必要性はないだろう。
結構大きいし、人を丸呑みできそうにも見えるが、気性はおとなしいはずである。多分。
「あれはもう、王城の方で保護してもらう方が良いよね?」
「取り扱い上、そうなるかもしれませんが…‥‥あなたのほうで召喚獣にする選択肢は無かったの?」
「今の召喚獣たちで良いと想っているし‥‥‥それに、そっちも知っているはずだよな」
そう言いつつ、俺がちらっとリリスの方へ視線を向けると、王女はそのことに気が付く。
‥‥‥以前、ゲイザー騒動の時に彼女のもいたのだが、その騒動後に起きた時にもいたはずである。
そう、あのゲイザー内にいた小さな手乗りミミックが、俺の召喚獣になった途端に今の防御滅茶苦茶箱へ変化したその事を。
正確に言えば、モンスターらしからぬ姿へ変貌を遂げたその事実を、彼女は知っているはずなのだ。
そして、その事を理解しているのであれば、俺が何を心配しているのかもわかるだろう。
「‥‥‥召喚獣にしたら、あのリリスさんと同様に、リキッドスネークも変化する可能性がある事を、恐れているの?」
「その通り」
これ以上、厄介事を増やして貯まるかという思いもあったりはする。
召喚士なのに、たまに噂される内容には美女軍団創造機だの、ハーレム製造機だの、強制肉体変換美少女機‥‥‥召喚士という立場でないような噂に、ちょっと心に刺さるのだ。
うん、今一番厄介に思えるのはそれだからなぁ…‥‥これ以上余計に増やしてしまうのも恐ろしい。
いや、召喚獣が増えるという言葉だけならまだしも、そういう噂が増えるのを避けたいのである。諜報志望だし、そういう余計な噂が多くなるのはちょっとね。
何にしても、召喚獣にするにはまず互いの合意がないといけないのもあるし、冬眠から目覚めたてのこの蛇が俺の召喚獣になろうとかいう訳もないだろう。
「ふーん‥‥‥でも流石に今度はないと思うわよ?だって蛇のモンスターが人の容姿を取るような話って聞いたことないじゃない」
有名どころで言えば、キングスネーク、ジャイアントハブ、ヤマタノオロチ…‥‥いや、これは別だったか?
何にしても、変化する類を考えてみると、今までどれも人型になれる、もしくは人型に近かったというのもあるし…‥‥
「王城の方で保護もできるとは思うけれども、それよりも貴方の側に置いた方が良いかもしれないわよ?いざとなればリリスさんでしたっけ、その方の箱の中へ入れる事もできますし、酒に関しても将来的に飲める事を考えれば良いと思うのよね」
「国に引き取ってもらう方が、酒関係だと良いと思うんだけど‥‥‥」
‥‥‥なんとなくだが、王女は王女でリキッドスネークの管理を俺の方へ押し戻そうとしていないか、これ?
いやまぁ、幻の酒を造れるような蛇だし、王城に置いておいて狙う輩も出て、警備がより大変になる可能性もあるけど…‥‥
「なんというか、交渉事はご主人様不利ですネ」
「あっちの方が上手のようですわね‥‥」
「まぁ、そもそもその蛇が主殿と契約を結ぶ気がなければ意味ない話しでござ‥‥‥おや?」
「どうしたのじゃ?‥‥‥あ」
っと、何やらノインたちの方で、何か話しているなと思っていた次の瞬間であった。
しゅるるるるる!!ぎゅぅ!!
「ぐえっ!?」
「何!?」
突然、気配すら感じさせずに何かが俺の体に巻き付く。
何事かと、状況を博するためによく見れば…‥‥
「シャー!!」
「‥‥‥目ばっちり覚まして巻き付いているのかよ!!」
どうやら、冬眠から覚めたらしいリキッドスネークが、俺の体にぐるぐると巻き付いていたようであった…‥‥何で巻き付いた?
突然巻き付かれたけどなんでだよ!!
何もしていないし、いつの間に背後に!?
…‥‥そして思った以上に巻きつかれると生暖かい。