みかんの皮を置いていく
上空約10000m。
飛行機がその航路を持つ広大な空間に、悪魔が一体佇んでいた。
「愛媛のみかん。うめえなー」
透明化術で姿を天空に溶け込ませ、最後の一粒を食べた後、悪魔がつぶやく。
悪魔が食べているのは愛媛県産のみかんである。右手には魔術を使いこの世のものとは思えないほど美しく剥かれたみかんの皮を持っている。
「くくく、今回俺の仕事の範囲外であるが、この直下、深森町の魔力分布を攪乱しておくか。ここには怪しい存在もいるようだからな。後々、我々の計画に支障をきたすかもしれないし、そのためのデータを取得しておくのもよいだろう。このみかんの皮、これを置き土産にしてやる」
悪魔は右手の平に乗せたみかんの皮に左手を翳し、こう唱えた。
「トランスミット!」
直後、みかんの皮が手の平の上から姿を消した。
悪魔は北へ向けて音も無く飛び去った。