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死にたがりの異世界転生(仮)  作者: 十ヶ目
第一章 リンゴとナイフ。
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脱出3


 階段を上りながら考える。

 私がリンゴの髪に触れたのは二回。犬を撫でる姿はまるでム○ゴロウを彷彿させると言わしめた撫でテクを駆使した一回目と、先ほどのリンゴの言うところの呪いに魅せられ、無意識に抱きしめていた二回目。


 一回目と二回目の違いはなんだ? 何故一回目は意識を落とさず、二回目は落とした?


「リンゴ」


「はい?」


「犬のモノマネをしてくれ」


「……はい?」


「犬のモノマネ」


「聞こえなかった訳じゃないです。聞き間違いかなって思ったんです」


「犬のモノマネ」


「急にどうしたのですか?」


「犬のモノマネ」


「怖いです」


「わんわんわん(犬のモノマネ)」


「ゆうしゃさまが壊れた!」


 このままだと何か誤解を生みそうなので事情を説明する。


「……てなわけで、一回目と二回目の差がしりたい」


「一回目の時に犬と思われていた事がショックですし、先ほどのワンワンワンが犬のモノマネと言っていたのもショックです ゆうしゃさま」


「犬と思っていた訳じゃない。まるで犬のように扱っただけだ」


「何が違うんですか?」


 怖……。まるで浮気がバレて怒られている男の気分だ。

 浮気なんて悪即斬だが、私から言わせてもらえばバレる方が悪い。更に言わせてもらえば、そのあとの言い訳──釈明が下手。仕方がないから世の男性諸君が羨み、女性が虜になる話術でリンゴを説得してみせよう。


「良く聞いてリンゴ。私の住む国では桃太郎という話があってね。そのお話では、ゆうしゃの一人目の仲間が犬だったんだよ」


「やっぱり私のこと犬って思ったんじゃないですかぁぁあ!」


 このあと数分間、素直に謝り続けた。


「じゃあ……犬のモノマネ? しますね……」


「ああ、頼む」


 リンゴは恥ずかしいのか、少しだけうつ向き、こちらにチラチラと上目遣いの視線を送る。本来ならば頭の上に手を持ち上げ、犬の耳の様にしたいのだろうが、恥ずかしさからか、両手が両頬辺りで止まる。それがまた招き猫のような、もう犬か猫か分からない状態で小さく呟く。


「……ぁん」


「……ふむ。可愛いだけだな。ありがとうリンゴ」


 リンゴにポカポカと胸を叩かれる。痛くはない。犬がじゃれている様なもの。


「ごめんごめん」


「ゆうしゃさまのばか! ゆうしゃさまのへんたい!」


 謝りつつ、赤髪をヨシヨシとしてみる。

 少しだけあの落ちる感覚を感じたが、意識を強く持てばなんとかなるようだ。

 お酒を大量に飲み過ぎた後に寝床まで意識を保つ状態に近いものを感じる。


「え、あれ? ゆ、ゆうしゃさま! 髪は、ダメです!」


「大丈夫。ちょっとコツをつかんだ」


「でも……」


「……そうだな、もうやめる。先を急ごうか」


 さてさてさて、ある程度の事は分かった。ム○ゴロウさんモードの私なら意識を強くもって動物と接しているので大丈夫ということだな。それよりも、いい加減脱出について考えなければ。


 それから数分。たぶん頂上についた。頂上? こういう場合はなんと言うのだろう。地下に降りていたので、一階についたというのだろうか。ともあれ、階段を上りきった。


 リンゴが両手を上げ達成感に浸った顔をしている。確かに階段と言うものは、下りる方が楽に早く、上りは辛く遅い。そう感じる。身体的に言うと下りる時の方が膝やらなんやらに負担は大きいらしいが。


「ゆうしゃさま。行き止まりですね」


「そうだな」


 少し前の私も、まさかリンゴを連れて来るとは思っていなかった。だから、脱出経路を確保していなかったのも仕方がない。そう、仕方がないのだ。

 行きと同じように壁を叩こうと思うが、逆にその時の記憶がフラッシュバックし、叩くのを一瞬躊躇う。……入るとき痛かったな。


 そんな事を思い出しつつ壁を見つめていると、私の見ている壁の少し隣の壁が音を立てて大きく開く。

 見知らぬ髭面の、小柄な男が馬を引きながら、入ってくる。いや、入ろうとしたところで私と目が合う。


「「あ」」


 お互いが一瞬止まる。時が止まったかの様に感じるというが、あれは脳の理解を越え、脳がフリーズし、そう感じるのではないだろうか、と私は考えている。


 流石に向こうの男がハッと、意識を取り戻したのか、こちらに腕を伸ばし指を向け口を開く──いや、開こうとしたが、遅い。

 相手のその腕を力の限り引っ張る。前に崩しながら、相手の懐に瞬時に潜り込む様に体を沈め、おんぶする様に相手を背負い、相手を担いで、投げた。


「かは」と地面に叩きつけた男に瞬時に覆い被さり、先ほどリンゴからもらったフォークを相手の喉元に突きつける。


「吐け。知っていることを全て」


 ふと、大きく開いた壁の方を見る。

 馬が我存ぜぬと言わんばかりに明後日の方向を見ていたが、私が何となく見たのはその奥の景色。

 ああ、やっぱり砂漠にしか見えないよ出てこい神の野郎。




 

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