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死にたがりの異世界転生(仮)  作者: 十ヶ目
第一章 リンゴとナイフ。
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脱出


 倒した男の持ち物を探る。

 鍵があったのでそれで牢屋の鍵を開ける。


「ありがとうございます、勇者さま。」


「この大男を牢屋にぶちこむ。手伝ってくれ」


 リンゴと二人で倒れている大男を牢屋に入れ、鍵を閉める。


「さて、脱出するか。ところでリンゴ。コイツらがどこから来たか分かるか?」


「分かりません。私も散歩しているところを急に襲われ、気が付けばここに閉じ込められていたのです。ですから何者かも分かりません……ごめんなさい」


 まあ、期待はしていなかった。

 私が欲しい回答は、『この大男はどうやってこの牢屋に来たのか』だ。この大男の組織関係には興味がない。

 リンゴの話から推測するに、ここに食べ物を運ぶ人間がいると言うことは、どこかに隠し扉がもうひとつ存在する……?

 どちらにしても消えた馬車を探して移動手段を確保しなければあの砂漠は越えられないか。


 大男を叩き起こすか……? いや、素直に話すとも限らない。それに、あまり時間をかけるのも得策ではないか。


「行こうリンゴ」


「はい! 勇者さま!」


 大男を探しに誰かが来る前に隠されている馬車を見つけ、それで荒野を脱出。なかなかハードな任務だな。


 無言で階段を上る。ただ、私のペースで上るとリンゴがたぶん辛いので、出来るだけ歩幅を合わせてゆっくりと上る。


「勇者さまはどこの国からきたのですか?」とリンゴが質問してくる。

 無言で階段を上るのも疲れてきていたし気晴らしには良かった。


「どこの国から……。そうだな、リンゴも知らないような遠い国かな」


「私、地理には自信がありますよ!」


「地理とか言うレベルを越えているんだよなあ」


「?」と不思議そうにしていたが、まぁ説明はしなくて良いだろう。


「今度はこちらが聞きたい。ここの外は荒野……いや、砂漠のような場所だったのだが、見覚えはあるか?」


「荒野……砂漠……。もしかしたら、迷いの砂漠と呼ばれている場所かもしれません」


「迷いの砂漠?」


「はい。高い気温で思考を鈍らせ、景色がほぼ変わらない。平衡感覚が狂って行き、気がつけば同じところをぐーるぐる。って先生が言ってました」


 一瞬子供離れした知識と思ったが、そうか。ちゃんと教えられていた場所だからか。

 逆に言えば、教えられるレベルで面倒な場所。

 そして、まだ確定はしていないが本当にその砂漠だった場合は声を大にしてあの神を罵倒してやる。


「どうしたものかなー。その、迷いの砂漠って場所ならリンゴを家に送るのはとても大変そうだ」


「私が言いましたが、まだ迷いの砂漠と決まった訳じゃないですよ! ただの砂漠かもしれませんし希望を持ちましょう勇者さま!」


 最悪の事態を想定して動け。そう教えられ生きてきた。希望という言葉とは程遠い──程遠いというか、それこそ物理的に希望なんて言葉を考える余裕がなかった。

 私に頬笑むリンゴを見て、むしろリンゴの思考の方が勇者じゃないかと思った。


「リンゴ」


「はい?」


「えい」と私はリンゴの髪をくしゃくしゃに撫でる。犬をよしよしするイメージ。


「えええ! な、なんですかゆうしゃさま! なんですかぁあ!?」


 無視して撫で続ける。


「よし。行こうか」


「えぇ……なんだったんですかぁ」


「リンゴ。希望っていうのは、こうなればよい、なってほしいと『願う』言葉だ」


「はぁ」


「私がその願い。成就させてみせる。安心してくれ」


 弱音を吐いたのは私でそれにたいしての願いに私が対応する。まるでマッチポンプ。

 そんな私のマッチポンプにリンゴが突っ込む訳もなく「はい! ゆうしゃさま!」とキラキラした顔で言われる。守りたいこの笑顔! と柄にもなく思った。




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