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死にたがりの異世界転生(仮)  作者: 十ヶ目
第一章 リンゴとナイフ。
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出会い3


「お名前を聞いてもいいですか?」と少女が私を見る。


「好きに呼んでくれて構わない。私も君のことを適当に呼ぶ」

「そうですか……」と少女はまた三角座りをする。今度はこちらに向きながら。しょんぼりと。


 調子狂うなあ。


「あー……。傭兵ってわかる?」

「ヨウヘイさん?」

「お金を貰う代わりに戦う。そんな人を傭兵って言うんだ。私はそれだったんだよ」

「たくさん戦ってきたんですか?」

「沢山戦ったよ。でね、私みたいに長く生き残ると名前が消えちゃうの」

「どうして?」

「気が付いたら自分の名前より、そうだなぁ、あだ名のようなもので呼ばれる事のが多くなっててね」

「どんなあだ名だったの?」

「……恥ずかしくて言いたくない」


 少女と話していると口調が変わってしまう。こんな姿見せられない。というか、他の人もこういう話し方になるだろう?


「では、ヨウヘイさんって呼べばいいですか? それとも私があだ名をつけてもいいですか?」

「……どっちでもいいよ。私は君のことあだ名で呼ぶね」

「あだ名……! はい! どんなあだ名ですか!?」と少女はどうやら嬉しいようだった。


 少し考える。ふーむ。赤い髪から連想するに……。


「リンゴ」

「りんご?」

「私は君のことをリンゴと呼ぶ」

「リンゴってどういう意味ですか?」


 リンゴを知らない? もしくはこの世界では違う言い方をするのか?


「君のその赤い髪と同じで、真っ赤で綺麗な食べ物だよ」

「私と同じ……。私、この髪がきらいです」と少女は自分の頭に手を起き、さらに小さくなる。


 ん? これは地雷を踏んでしまったかな。早めに話を変えてしまおう。


「そうなんだ。でもかわいいよ。それで、私のあだ名は決まった?」


 少女は少しだけ顔をそらした。


「本当に、私をここから出してくれるんですか?」

「……それは必ず守るよ。死んでもね」

「なら、なら、私をここから出してくれるのなら、アナタは私の……ゆ、勇者様です」


 少女が目をそらした理由が分かった。

 なぜなら、私も目をそらした。恥ずかしくて。


「まだ助けてないから勇者じゃないなあ。他のあだ名は……」

「勇者様! 私は何をしたらいいですか?」

「あ、もう決定なのね」


 まあ、いいか。なんでも。


「リンゴ、そっち側には何がある?」

「えーと、私と、ごはんを食べるときに使ったフォークと……」

「フォークか。フォークをこっちにくれないか」

「なにに使うのですか?」

「このまま何もなければこのフォークで鍵を開ける。何もなければ……ね。ちなみに、そのご飯はいつ食べた?」

「勇者様がくる少し前ですね。……あ! ゆ、勇者様! もうすぐここに見回りの方が片付けにやって来ます隠れないと! ああでもどこに隠れれば」

「落ち着いてリンゴ。大丈夫だから」


 リンゴは頭にはてなマークを浮かべながら私にフォークを差し出す。

 フォークを受け取りながら私は自分の口の前に人差し指を立てる。

 リンゴもそれで理解したのか自分の口を手で塞ぐ。異世界でも通用するのだなこのアクション。


 さて、静かになった。

 私は鍵穴を覗く。やはりこの古臭いタイプならば道具があればピッキングできる。だが、手元にはフォークしかない。

 フォークでピッキングする人間など居ないだろうな。なんなら私もしたくない。

 昔、捕らえられた仲間を助ける任務で似た状況があった。

 あの時は別にフォーク以外にも開ける手段はあったのだが、私の師匠のような存在に「どんなものでも開けられるようにしておくと便利だよ」と言われ、近くに落ちていたフォークを握った。

 フォークでピッキングするなら、まず先端を折る。三本の細いフォークだった物ができる。持つところも合わせると四本か。はい、道具の完成。

 雑だ。自分で言うのもおかしいが雑。

 それでピッキングをする。鍵穴にフォークの先端を突っ込み、上手くいけば鍵は開くが、中で折れたり傷がついたり詰まったりしてしまえば、もう本物の鍵ですら開けられなくなる。

 ……ああ、大変だったなあ。鍵にフォークを詰まらせた私は、最終的に銃で鍵を破壊し、その音で敵に見つかり、先輩に大笑いされ、助けた仲間に罵倒された。

 二度と経験したくない過去だ。

 私はフォークを持ち部屋のスミにもたれ掛かる。

 リンゴは不思議そうに不安そうに私を見るが何も聞いては来なかった。頭のいい子だ。


 扉が開きっぱなしだからなのか、階段を下りる足音が聞こえる。少しずつ大きくなって、近付いてきているのが分かる。


「どうして扉が……! 誰かいんのか!?」


 ガタイのいい男が部屋に飛び込んできた。身長差が結構あるな。

 キョロキョロと部屋の中を見渡す男に瞬時に詰め寄る。反応される前に決めたい。いや、決める。

 詰め寄った勢いのまま左足を軸に回りながら小さく飛ぶ。右足で着地と同時に大きく飛び、空中で威力を上げるために左足を大きく回す。その勢いのまま相手の後頭部めがけて右足で蹴る。上段三百六十度空中回転回し蹴り。……字面で見るとめっちゃ回ってる。

 男は急な衝撃に倒れそうになるが、なんとか踏ん張った様だ。

 私も、別に後頭部に衝撃を与えて気絶させるとかそんな技術は持ち合わせていない。身長差が地味にあるので、相手の頭を届きやすい位置に移動させたかったのだ。

 流れ作業の様に、スムーズに、垂れ下がった頭──いや、顎に向かって力一杯の掌底を擦るように──中心をえぐるように打ち抜く。

 男はそのまま地面に倒れた。


「よし。邪魔物は排除かな」


 フォークを使わずにすんで良かった。小さい子の前で流血沙汰も気が引けるし、赤髪を気にしてたからもしかしたら赤色が嫌いかもしれない。

 そう思いリンゴの方を見ると、口を手で押さえながらぷるぷると震えていた。


「もう喋ってもいいよ」

「ぷはぁ! す、凄いです! 勇者様すごい! 凄くカッコいい!」


 小さい子に誉められるとどうしてかこそばゆい気持ちになる。

 同年代に言われても何とも思わないのに。この差はあれか? 純粋かどうかみたいな差か?

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