出会い
爆弾のひとつでも有れば、この音の違う辺りを適当に吹っ飛ばすのだが……。
……いやいや何を言ってるのだ私は。構造が脆ければこの岩石が吹っ飛ぶかもしれない。吹っ飛ぶとまではいかなくとも出入口がここしかないとするなら、中にいる人が脱出できず餓死で全滅するかもしれない。暑さが苦痛すぎて可及的速やかに問題を対処したいのだろう。
もののふの矢橋の船は速けれど急がば回れ瀬田の長橋。つまり急がば廻れだ。
何かの仕掛けで開くはずだ。爆弾で入り口吹っ飛ばすなんて雑にも程がある。まぁ爆弾ないから仕掛けを探すだけで、爆弾持ってたら多分火薬量調整して吹き飛ばしてた気はする。
ふむ、色々と探してみたがさっぱりわからん。
隠し通路のようなものがあると推測しているが、そもそも隠している時点で怪しい。
とりあえず音の違う部分の周囲を適当に叩いてみるが駄目。
誰かが出てくるのを待つ方が最適か……。
私は諦めて音の違う壁に持たれかかる。その瞬間視界が百八十度ひっくり返り、頭を地面に打ち付ける。
「~~!」
痛みで声じゃない声が漏れる。
何事だこれは……。と周りを確認する。察するにどうやら岩石の中……?
え、なに、どういう理屈で入れたのこれ。壁に背を預けただけなんですけど。
駄目だ冷静になろう。頭を打っておかしくなっている。冷静にクールに。
まあ、どうであれ岩石の中には入れたのだ。結果オーライ。
岩石の中は薄暗く、だが目を凝らせば見える程度には明るい。電気の豆球レベルの明るさだろうか。
さて、目の前には下りの階段。本来ならば出口を確保してから行動するのだが、少し興奮しているのだろう。後ろの隠し扉の謎を解いてからどう動くか決めるべきだが、階段を進みたくてウズウズしている。クールに、と思ったハズなのに。
さてさて、死ぬために来た私だが、少しくらいの寄り道もいいだろう? なんて、自分の心に言い訳をする。
私はゆっくりと階段をおりていくことにした。
小さな灯りを頼りに階段をゆっくりとおりていく。
感覚的には螺旋状の階段だと思うが、詳しくは分からない。ただ、結構おりたと思うのだが、螺旋状の階段のせいで先が分からない。分かるのは相当下方向に広いということ。
しかし、この奥にいったい何があるのだろう。わざわざあの荒野──いや、もう砂漠だ。砂漠に、本来ならば誰も気が付くことは無いだろう場所にこんな大層なものを。
何かを隠している。それは確定。財宝か? 情報が足りないな。そもそも元いた世界と異世界で物の価値が違う可能性が高い。私の思う価値ある物が異世界ではゴミ同然……なんてのも有り得るわけだ。
まあ、何かを隠しているのは間違いない。この異世界で隠しているということは、異世界で価値ある物のハズ。つまり、それを回収し、それをナイフ等と何処かで交換し、死ぬ。完璧な未来図。
一つ引っ掛かりがあるとすれば、消えた馬車だ。
この階段を馬車がおりられるとは思えないし、やはり私の錯覚だったのだろうか。
気にしても仕方ないので馬車については放置。考えたところで、違う入り口があったのでは? くらいの答えしか出せない。
なんて考えていると、長い階段もどうやら終わりらしい。
目の前には鉄の扉。扉というか門に近い? 鍵穴の用な物は無く、代わりに木の板で扉が開かない用に固定されていた。
さてさてさて、悩むところだなこれは。
パッと見、木の板はすぐ外せるだろうが、問題はこの門の奥。
中にあるのが金銀財宝価値ある物なら万々歳。だが、中にあるのが猛獣などの生き物なら少しだけ面倒だ。
流石に扉を開けた瞬間に猛獣がいて襲われる等は無いと思う。何故なら檻などが無ければ餌など与えられないから。だが檻が無い可能性もゼロではない。
普段なら武器を所持しているので、多少は臆せず進むのだが、ふむ、我が肉体のみというのは中々怖い。意味は違うが字面だけならば、これが本当の手持無沙汰。
だがまあ、入るのだがな。死にに来たからとかそういう理由ではない。私も死に方は選ぶ。というか、私の死に方は私が決める。単純に、この階段をここまで下りてきて、なんの収穫も無いまま帰るなど今の私にはできない。物語が何も進まない。ていうか進まなければ餓死。餓死は嫌だ。
木の板は思っているよりも簡単に外れた。
少しだけ深呼吸をする。中にライオンがいたならば、左腕を噛ませ、右ストレートを鼻に連打しよう。なんて事を真剣に考える。
よし、開けよう。
両手で門のようなものを押す。少しだけ重い。
扉の中の部屋には灯りの用な物は無く、ほとんど何も見えない。だが、いきなり猛獣等に襲われるということもなくて一安心する。
部屋の中に入り、目を凝らす。部屋の半分くらいに檻のような物が見える。猛獣のような生き物を飼育しているのか、それとも宝箱等をさらに厳重に保管しているのか。
目が暗闇になれてくる。檻の向こうを見て私は少しだけ驚いた。
檻の向こうには宝箱や猛獣等がいたのではなく、真っ赤な髪の少女が一人、こちらを睨み付けていたのだった。
えぇ……。これ、何故か既視感があるんですけど。
ふと、あの神が笑っているような気がした。