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死にたがりの異世界転生(仮)  作者: 十ヶ目
第一章 リンゴとナイフ。
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そして、ここにたどり着いたのだろう。

「そして、ここにたどり着いたのだが」


 ふむ、やはり分からん。なんだこの謎の場所は。

私以外は全て真っ黒。流石に怖い。

 あれだけの重傷で生きていられる訳もない。ということはここは地獄?

 思わず笑ってしまう。そしてため息。

 どうすれば良いのだろう。何をすれば良いのだろう。

 この暗闇に、この暗黒に、一人ポツンといることが罰なのだろうか。

 昔読んだ3億年ボタンとか言う話を思いだし、また一人で笑った。


「あの少女は無事だろうか」

「ええ、無事ですよ」


 咄嗟に飛び退く。どこから声がしたか分からないが、この意味の分からない状況では、ただの一人言に対する返事であっても油断はできない。できない環境で生きてきたのだ。


「誰だ、姿を現せ」

「はぁい」


 間抜けな声と共に私の視線の先がライトアップされる。

そこには豪華な椅子と、そこに脚を組みながら座る偉そうな女性が私に手を振っていた。


「どうですか、気分は。どこも痛くないですか?」

「……何者だ」

「大丈夫そうですね。良かったあ。」と彼女は微笑む。

「何者だ……と言われると、そうですねえ。神様……ですかね?」


 不意に少女の泣き顔が私の脳裏に走った。


「今私が一番聞きたくない単語の一つだ」

「いやいや、嘘だと思ってますね? 本当に神様なんですよ」

「別にどうでもいい」

「仕方ない、証拠を見せましょう!」と彼女は指を鳴らした。


 その瞬間、足下の暗闇が映像に変わる。少女の映像だ。


「これは……」

「気にしていたようなので。あなたの死後、後日談です」


 足下に映る少女が笑顔で家事をしている。沢山の子供に囲まれながら。


「あの後、少女はあなたの持ち物を探り一枚の手紙を見つけました。その手紙を頼りにたどり着いたのがこの映像の場所──孤児院のようですね」

「ああ、良かった。たどり着けたのだな」

「少女は孤児院にたどり着き、あなたの手紙を見せたようですね。血で汚れた手紙を相手に渡し『ごめんなさい』と、ずっと泣いていたようです」


 どこまでも良い子だな。そんな子を最後に救えたのだ。私の人生も捨てたものではなかったな。


「その後、保護された彼女は『救われた命、救ってくれたあの人の分まで精一杯生きる』を口癖に頑張って生きていくようですね」

「そうか……。ふふ、ありがとう。最後に良い事を聞けた」


 これで心置きなく、逝けるというものだ。既に死んでいると思うから逝けるというのも表現的にはおかしいのかもしれない。

 そうだ、その辺をハッキリとさせなければ。


「神とやら。私は死んだのか」

「はい」


 即答だった。


「そうか……。最後に未練を解消してくれてありがとう。神とやらは好きにはなれないが、貴女は好きになれそうだ」

「ありがとうございます。でも、このアフターサービスはあなただからしているのですよ?」

「んん? もしや天国に行けるのか?」

「行けませんよ」

「なら地獄か。最後に1つの命を救った程度ではどうにもならない程の命を奪ってきたのだ。仕方ないか」

「地獄にも行けませんよ」


 ならどこに行くのだろう。というか、この特殊な環境に早くも慣れてきたのか冷静になってきた。


「ここからが本題なのです。実はですね、あなたの救った少女は──」と彼女は椅子に座り直し、笑顔で言った。

「──運命によって死んじゃうことになりそうです」


 気がつくと彼女に殴りかかろうとしていた。というか、殴りかかったのだが、気がつくと何処から出ているか分からない鎖に動きを封じられてしまっていた。


「やはり神など信用できんな。今ここで貴様を殺してやる」

「そんな力もないくせに? 口だけは立派ですね。ただの人間が神相手にどうこうできるわけないでしょう? それに最後まで話は聞きなさい」


 彼女は私の頭を撫でる。鎖で縛られているため抵抗できない。


「運命によって少女の死は決まっています。そもそも何故少女の死が決まっているのか。それは、少女にあの世界は『合わない』と判断したからです」と彼女は私の頬をぷにぷにとつつく。やめろシリアス展開だろ和ませようとするな。


「少女は余りにも純粋で純白で純情です。どうにか救いたかった。だから死んでもらうように運命の歯車に仕込みました」

「ハッ! 死が救いだと神まで言うのか? バカにするなよ。必死に生きようとしている者の足を引っ張るな」


 最後まで聞きなさい。と頬を引っ張られる。痛い。


「私は神です。死後、少女を別の世界に転生させ人生を謳歌してもらう手筈だったのです」

「転生?」

「転生は転生ですよ。私たち神の最近の流行りです。ですが、あなたが救ってしまった」

「当たり前だ。それに言わせてもらうが、百歩譲ってその転生とやらは認めよう。だが、方法だ。方法だけが私は許せない」

「はい。死の方法までは選べないのです。その事に関しては弁明の余地もありません。ですから、そこに関してはお礼を言わせてください」


 彼女は先ほど引っ張った私の頬を優しく撫でながら、目をしっかり見つめて「ありがとう」と微笑んだ。


「そして、ここからは私からのお願いです。少女はこのままではまた運命によって命の危機に瀕します」

「実行犯のくせにまるで他人事だな。その運命の歯車から少女を外せば良いだろう」

「できたらやってますよ! ほんと、融通がきかないんですから!」と彼女はプンプンしている。本当にシリアスな空気でいる私が馬鹿らしくなってくる。


「運命の歯車に組み込んだ時に『少女が死に、少女を転生させる』までが運命なんです。ですから、転生するまで死の運命から逃れられない……のですけど」

「方法があるのか」

「はい。ですが、それは『死』が救いだと信じ協会に来たあなたには酷かもしれません。」

「聞くだけ聞く。方法は?」

「あなたが少女の代わりに死に、少女の代わりに転生するのです」


 ……薄々察してはいた。が、おかしな所が何点かある。


「神とやら。運命の歯車に組み込んだ時に『少女が死に、少女が転生』という条件なのだろう」

「大丈夫です! その辺はちょちょいのちょーいで」

「いやもうガバガバだな! それができるのならなんとかできるだろ! そもそも少女の意思を無視して勝手に転生させようと言う考えがエゴにも程がある。神様の特権か? 素晴らしいな神様は! そんなにガバガバなら少女が死ぬ瞬間の運命ももう少しどうにかできただろ。デスノートですらできるわ」

「できひん言うてるやろ! 困ってんねんこっちも!」と、逆ギレ後に彼女は恥ずかしそうに咳払いをする。


「まあ、ですから」

「無かったことにはできないぞ」

「ですから! 既に死んでいるあなたが転生してくれたら、少女は運命から解放されます」

「1つ聞きたい。少女を転生させるのが目的だったのだろう? その代わりに私が転生して、少女は救われるのか?」

「分かりません。ですが、男に襲われ死ぬという不幸を越えるものはこの先ないと思います。それに、今の少女の笑顔を見て命なんて奪えません」と彼女は足下の映像を優しい顔で眺めていた。


「何故そこまでして少女に肩入れする? 何か秘密が有るのか?」

「そんな大層な理由はありませんよ。ただただ本当に、少女と世界が噛み合っていないんですよ。目につくんですよそういうの。例えば、Zガンダム、ウイングガンダム、フリーダム、ooガンダム、アッガイ、ゴッドガンダムって並んでるとするじゃないですか」


「ちょっとまって」


「あなたの思った通りです。アッガイだけ目立ってるでしょう? どうしてガンダムの中にアッガイが混じってるんだー! ってなるでしょう?」

「いやそっちじゃない。目立ったのは趣味全開の説明全ての方」

「もしかしてゴッドガンダムをガンダムとは認めない派ですか? 毛嫌いせず一回観てほしいんですけど。神だけに」

「話を聞いてくれ」

「私も見てみぬフリを徹底しようと努力はしたのです。でも一度気になると、気が付けば少女を目で追ってしまっている自分がいて……」

「なんだその恋する乙女みたいな理由。こんなのが神で良いのか」

「神様だって恋がしたい!」

「恋って認めちゃったよ! まあでも、好きな人が乱暴されて殺されるなんて運命にならなくて良かったな」

「はい、はいはいはい! 本当にそうなんですよ! あなたにはいくら感謝しても足りないくらいなんですよ! ついでにパパーッと転生も認めちゃってくれると助かるんですけどね」


 徐々にキャラ変わってきてないかこいつ……。


「今転生にご協力いただけると、いくつかの特典もご用意しております!」

「なんだその街頭アンケートみたいなノリ。結構だ」

「私を助けると思ってどうか」

「気が乗らんな」

「少女を助けると思ってどうか」

「ぐぬぬ」


 一度助けてしまったからか、情がわいている。少女を出されると弱い。


「それに、あなたがイエスと言うまでここから出られませんよ? 天国も地獄も、ましてや幽霊になって地上を彷徨うなんてこともできません。一生この無の世界に有り続けるのです。あ、一生は終わってますね」


 神様ジョーク! と笑う彼女に、鎖で縛られている私ができることと言えば、恨みと軽蔑を混ぜたような目線を送ることだけだった。


「はぁ。まあ転生した後は自由にしてもいいのだろう?」

「ええ、それはもう。好きに死んでくれて構いませんよ」

「なら転生してくれて構わない。救いそこねた少女の命、きっちり救おう」

「そうですね。中途半端はだめです。ちゃんとやりきらないと!」

「誰の尻拭いだと思ってるんだこいつ本当に腹立つな」

「それじゃあ善は急げですね。転生にも種類があって赤ちゃんからのゼロスタートとかもできるのですけれど、死にたいと仰っていたあなたです。赤ちゃんで始まった場合自殺すらできないでしょうし、そのままの姿で転生スタートさせますね」

「ああ頼む」


 赤ちゃんでスタートということは、それは実質地獄をもう一度体験するということ。私からすればアホのすることだ。


「死にやすい用に転生場所も荒野くらいに設定しておきますね。変に人が来て失敗とかしたくないでしょう? んー! 至れり尽くせりですね」


 死ぬための至れり尽くせりってなんだよ。なんて思っている私の足下に魔方陣の用な物が浮かび上がる。


「神とやら。最後に一つ、頼みたい事がある」

「なんですか?」

「……少女を、今度こそちゃんと見守ってほしい。もうあんな泣き顔してほしくない」


 神とやらは少し驚いたような顔をしたあと微笑む。


「はい。 本当にありがとうございました。それでは転生させますよ」


 私の周りを光が包む。眩しくて思わず目を閉じる。

 目を閉じると意識が遠くなっていくのを感じた。その薄れ行く意識の中で声が聞こえた気がした。


「願わくば、良き異世界ライフを」






 





 




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