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死にたがりの異世界転生(仮)  作者: 十ヶ目
第一章 リンゴとナイフ。
1/76

確かに死んだのだ。

 私は死んだ。

 確かに死んだのだ。

 死んだ後なんてただの無だと思っていた。でも意識はハッキリとしていて、なんなら五体そのまま認識することも出来ている。


 さて、現状把握からはじめるとしよう。


 私は確かに死んだのだ。

 泥と汗と生乾きの臭いと、そして硝煙、血生臭さと腐った肉片の臭い。


 そんな環境に身を置いていた。

 一日目は体が言うことを聞かずに吐き続け、一週間で体が慣れ始め、一ヶ月で目の前で吹き飛んだ名も知らない仲間を見て大笑いできる神経になった。


 そう、端から見れば私は、生きながらに壊れたのだろう。

 寝る前は常に思ったものだ。死にたいと。

 目の前で吹き飛んだ仲間を見て笑うのも、蔑んだり等ではなく、ただ単純に、羨ましかったのだ。

 先に逝けたのか。羨ましいな。来世は頑張れよ。


ただそれだけ。


 現状把握するつもりが思い出に浸りすぎて脱線してしまった。しっかりと死亡確認。


 さて、私はとある町の侵略戦に参加していた。

 小さな町だが、ここを叩けば敵の主力部隊に圧力をかけられる。そんな立地の町だった。

 結論から言ってしまうと、私はここで味方を撃ち殺し、子供を庇って死んだのだ。

 あまり思い出したくないが、『死んだ』事を確実にするために思い出す。


 その時、住民は避難したと聞いていた。

 銃撃音が響く中、私はたまたま町の隅の教会に来ていた。たまたまと言うと嘘になるかもしれない。曇り空の中、ボロボロになった教会の十字架にのみ、雲の切れ目から光が差していたのだ。


 私は、何故かその時、今なら神がいると直感したのだ。


 別に私は、信仰心などは特になかった。無宗教である。だが、無神論者ではない。今の私の現状を見て、神はなんと言うのか、救って頂けるのか、それとも罰して頂けるのか。


 そう、私は死という救いを求めていた。

 罰でもなんでも良かった。なんなら教会で自分に引き金を引いても良いレベルの精神状態だった。


 精神が疲弊しきった者のほとんどが神に声をかける。神からの返事は普通はない。聞こえたと言うものは須らく戦場から足を洗う。

 それの方法のほとんどが死なのではないだろうか。と、教会を目の前にして思った。


 さてさて、余計な事ばかり考えて話が進まない。私の悪い癖だ。

 教会を目の前にして、少しの違和感を感じた。

 私が見てきた戦場では、教会等の信仰的場所などは扉がしっかりとバリケードで固められている。

 戦場にいる者も、変にそのバリケード等を破壊したりはしない。

 何故なら、最後にすがるのは神だと、皆が心の片隅に在るからだろう。


 ただ、ここの教会の扉は破壊されていた。

 それも、バリケードの残骸らしき者が散らばっているのを見る限り、誰かが無理に抉じ開けたのだろう。

 さてさてさて、これが私と同じ救いを求める者──な可能性はとても低いだろう。

 ホルダーの中の銃──爆発して吹き飛んだ先輩の形見、シグザウエルP230らしい──を取り出し安全装置を外す。


 ゆっくりと扉だった物の隙間から中を覗く。教会の一番前──新郎新婦が愛を誓い合う場所辺り──に一人の男の背中が見えた。こちらにはまだ気が付いていない。

 武装は……なんだコイツ?

 その男、上の装備を見る限り、私に支給された装備と同じなので、名前が分からないが仲間なのだと言うのは分かるのだが……だが、下半身が、その、なんだ、何も身につけていないのだ。

 ぽかーん、と。擬音を使えば、本当にぽかーんと、私は口をあけて数分間はアホ面を晒していたのだろうが、いや、私よりもアホな男が目の前に居たのだ。


 戦場だぞ、ここは。何を考えているのだ。コイツが味方だと? もし私が敵なら、コイツを射殺して、敵は戦場で下半身を出して興奮する変態の集まりだと言いふらすだろう。つまり、敵に見つかったら、私達全員が下半身露出する変態集団のレッテルを貼られる可能性がある。ここで私がコイツを殺して隠蔽するべきか?


 助けてください。と、か細い声が聞こえた。


 すぐさま声の方に視線をおくるが、そこには半裸のバカしか見えない。どういう事だ、罠か? あの半裸は実はもう死んでいて、私を誘き出す罠ならあの半裸も納得が行く。というか、あの半裸が死んでいることを切に願う私がいる。


 だが、その願いは届かない。


 半裸がじりじりと動いているのが分かった。生きている。私は頭を抱えた。


 もう少し近付いて見る必要がある。


 教会の中にできるだけ音をたてずに入る。椅子の後ろに隠れ、またそこから顔を出して現状把握。

 そこには10代……? ぐらいの女の子がアザだらけで、涙目で、服はボロボロで、見るに堪えない姿で、怯えながら後退りしていた。何に脅えているかは一目瞭然だった。

 そして全てを理解した。私が近付いても全く気がつかない男──警戒心が散漫になるほどの興奮状態なのだろう──手にはナイフ。

 ああ、気持ちが悪い。本当に気持ちが悪い。


「止まれ」と、男の後ろから銃を向ける。心が体を勝手に動かした。


 男は見て分かる程に体が跳ねた。それもそうだ。私が逆の立場なら……考えるのも嫌だなあ。


「武器を捨て、手を頭の後ろに。そのままゆっくりと此方に向け」


 今思うとこっちに向ける意味はなかった。

 ただ顔を確認しようと思っただけなのだが、もしかしたら御互いのために顔を見ずに床に伏せる命令をだし、彼女を救っておさらばで良かったのかもしれない。


「そうだ。ゆっくりとだ。」

「頼む、撃たないでくれ」と男は此方に振り返った。


 私を見た瞬間、絶望の表情が急に晴れやかになった。


「なんだ、味方かよ。」と彼は手を下ろした。だが下は上げっぱなしだ。この状況でもソコが上げっぱなしって本当にコイツはド変態か。


「何をしている」と私は形式上、銃を下ろした。安全装置は外したままで。


「何をしているだって? ハハ、見てわかんねぇのか?」

「見て自分の理解が間違いだと思いたくて聞いているのだ」


「間違いじゃねぇよ」と男は自分の上げっぱなしのモノを指差し、その後脅えている少女をアゴで指した。


「お前はバカなのか。百歩譲ってその少女を連れ帰り、その後どうにかするのは自由だ。許容しよう。だがここは戦場だぞ。銃撃音が貴様には聞こえないのか」

「銃撃音? ほとんど聞こえねぇじゃねえか。こんな町はずれまで来ねぇよ」


 それに──と男は続けた。


「お前も戦場から逃げてきたんだろう? 俺の後で良いならお前もコイツでスッキリしていけよ。こんなちっこいんだ。ぜってぇ気持ちいいぜ。絞まり良いだろうなあ。あ、でも俺のコイツで広げちまうからお前の時はガバガバかもなハハッ! ああ、もしかして巨乳派か? ならちょっと物足りないかも知れねぇな。でも穴さえあれば別に何でもいいだろ。あ、俺やってみてぇことあんだわ。お前ケツの穴使え。俺は」


 私は引き金を引いた。


 足を抑えて叫び回る男。殺してしまいたいが、身内殺しは許されない。男を尻目に少女に駆け寄る。


「大丈夫か?」と伸ばした手をパチンと叩かれた。少しフリーズしたがすぐに正気に戻る。


「安心していい。私は君に何もしない」

「う、嘘です。あの男、もそう言って、助けを求めるフリをして、私を」


 精一杯の反抗なのだろう。心では救いを求めているのだろう。私の伸ばした手をすぐに掴みたいのだろう。くしゃくしゃになった顔が、それを物語っていた。


「本当だ。信じてくれ」

「でも、救うフリをして、酷いことするんだ」

「君の身の安全は保証する。そうだ、個々に私の先輩が孤児院の用なモノをやっている。私が信用できないなら個々に──」


 言葉を言いかけて──いや、言葉が意思とは反して止まった。止められたのだ。足の痛みによって。


「この、くそ野郎が!! コロス! 殺してやる!」と後ろから声が聞こえる。武器を持っていないと油断した。どこから銃を出したんだコイツ。


「ハッ! くそ野郎は貴様だろう。大人の女性に相手にされないから少女に手を出す。しかも無理矢理」

「ダマレ! てめえ散々痛め付けてから殺してやる」


 幸い、足を撃たれたが動かすことに問題はない。配給されたズボンに多少の防弾性があったのだろう、良い仕事だ。だが私は奴の足に直接弾をぶちこんだ。今は立っているが辛いだろう。隙を見て奴の痛めた足側に飛び込む。バランスを崩し、銃を奪い、それで殺すか。


 身内殺しは御法度だが、仕方がない。

 男を背に自ら銃をその場に落とし、両手を上げて無害アピールする。熟練の兵士ならば、両手を上げている相手でも油断はしない。だが未熟な兵士なら話は別だ。更に足の痛みもあるだろう。


 私に対する意識を弱めた瞬間が貴様の終わりだ。


「てめぇ、少しでも妙な動きしたら後ろのガキを殺すからな」


 少女は私を見る。くしゃくしゃの泣き顔で。救いを求める顔で。複雑だろう、手を叩いた相手に、そんな顔をおくるなんて。


 その顔を見てまさか自分が動けなくなるとは微塵も思っていなかった。私自身もっと冷たい人間だと思っていたのだが、死にに来たという精神上、なんだろう、優しくなっているのかもしれない。


「中々悪どいな」

「思い出したんだよ。男か女かわかんねぇ、華奢で弱そうなのに必ず戦場から帰ってくる奴の話」


 戦場では隠れてるって噂だったんだがな。と、なんて失礼な奴だ。


「だが、もうひとつの噂だ。そっちが本当なら俺はお前に油断しねえ」

「その判断が下せる者が戦場で下半身露出してたとは知りたくなかったな」

「ハッ、だが、そっちの噂は嘘みたいだな。ガキ一人守るために全く動かねぇ」


 そういい男が私から少女に銃を向けたのが、少女の表情で分かった。

 すぐさま少女に抱き付いた。瞬間激痛が走る。


「ハッ! ハハハ! 滑稽だ傑作だ! どうやってガキに銃を向けたの気付いたんだコイツ。やべぇ! やっぱり噂は本当じゃねぇか。そんなヤバイ奴殺せるなんて、やべぇ、なんか気持ちよくなってきた」

「とんだ、ド変態だな」


 さらに激痛が走った。やべぇばっかりかよ語彙力! とか言える余裕が痛みでなくなった。腕の中の少女は震えながらごめんなさいごめんなさいと謝っていた。何に? と思っていたら彼女が漏らしているのに気がついた。ああ、粗相くらい気にしないのに。というか、この温もりは自分の血だと思っていた。


 そして、流石にこれは死ぬな。と、死を覚悟すると途端に面白くなってきた。

 数分前の私は何故個々に来たんだっけ? 神がいると直感した。とか、何を言っているんだ本当に。それこそ男の言う通り傑作だな。

 神がいると思い箱を開けてみれば居たのは下半身露出で興奮するド変態。ああ、嘆かわしい。


 そして、次に怒りがわいてきた。


 今からその変態に殺される。


 ふむ、これが神からの罰なのか? まあ、死にに来たようなものだし別に良い。


 別に私が死のうがどうでもいい。だが、この少女は何かしたのか? この変態に陵辱され、あげく殺されるような罪を犯したのか? これほどの罰を与えるとはどれ程の罪を犯したのか。私が戦場で敵の食料全てに毒薬を混ぜ壊滅させた罪より重いのか? 例え犯していようが、神は年端もいかない少女相手に更生する機会すら与えず罰を下すのか?


 私は少女を庇い死ぬという罰を、少女は陵辱され殺されるという罰を、そして男は足に一発の銃弾という罰を。

 これほど不公平で理不尽でアンフェアな採択を神は為さるのか。


 私は無宗教だが、無神論者ではない。


 私が、神に代わり罰を与えてやる。


 って息巻いてもどうしようもない現状なのだけれど。

 術が無いわけではない。だが、それは私一人では成し得ない。


 どうにか一人で男を抹殺する方法を模索するが、やはり少女で引っ掛かる。

 試しに少女を起点にしたら奴を殺すことができた。脳内だけれど。

 そしてそれ以上の案が浮かばない。つまり、これが正解なのだろう。

 私は少女に抱きつきながら耳元で囁く。


「そのままうつむきながら黙って聞け。スキを作る。私の近くに落ちている銃を拾え。君のタイミングで私の肩に銃身を起き、三秒たったら撃て。狙いはこちらで合わせる」


 少女は無理だと言いたいのだろうが、状況が状況だ。動くことなく黙って聞いていた。

 分かっている。精神的にほぼ死んでいる彼女が出来るわけがない。


 だが、完全に死んでいないのならどうとでもなる。


「奴が憎いだろう──」


 私の台詞に少女は体を一瞬震わせた。


「──なぜ君がこんな仕打ちを受けなければならない。君は何をした? 救いを求める者に手を差し伸べただけだ。」


 少女は黙ってうつむいている。


「分かっている。銃で人を撃つなど、そんなこと人の常識では許されないだろう。だが、神ならばどうだ? 良く聞いてほしい。なぜ神は今、君を助けない? 救いを求める君を、なにもしていない君を、信仰深い君を、神はなぜお救いにならない?」


 信仰深いかどうかは知らないけれど勢いだ、こう言うのは。


「神がいないとは言わない。これは試練なのだ。神が、君に、試練をお与えになっている。動け。諦めるな。君の信仰心が本物なら、その手に武器をとれ」


 少女は静かに顔を上げた。言葉は発しない。だが、目を見れば、分かる。


 この決意が憎しみからなのか信仰心からなのかは一生分からないだろう。


 さて、次は隙を作る。だが奴は油断していない。が、こんな一方的な状況で油断しないのは逆に難しい。なぶり殺ししようとする人間など基本的に油断する精神の持ち主なのだ。


「す、少し待ってもらえないだろうか」

「あ? なんだよ急に命乞いか?」

「……そ、その通りだ」

「信じるわけねぇだろ」

「なんなら、ここで全裸にでもなろう。死にたくないのだ私は。最初に言ってたではないか。戦場では逃げていると思っていたと。強がってみたがその通りなのだ。死が怖い。だからここに来た。すまなかった。殺さないでくれ」


 男は高らかに笑った。


「ならそのまま、上から一枚ずつ服を脱げ」

「わ、分かった。だがすまない。痛みで服を脱げない。この少女に少し手伝わせて良いだろうか。」


 勝手にしろ。と男はニヤニヤしていた。

 ふむ、男がバカで良かった。私は少女の方に向き、上の防弾チョッキのファスナーを外してもらう。


 血だらけの防弾チョッキを近くの銃の上に重ねる。

 次に上のシャツのボタンを少女に一つずつ外してもらう。ふむ、手が震えていない。なかなかキモの座った少女だな。

 シャツをまた、防弾チョッキの上から重ねる。

 最後に黒のインナーを脱ぎ、重ねる。


「次は下だな。下も手伝ってもらうか?」と男は卑しく聞いてくる。


「ああ、そうだな。なんなら痛みで動くのが辛い。手助け無しでは無理だろう」


 これは本音。命乞いはしたが、自分で分かっている。これは死ぬ。血が出すぎだ。

 私はわざと体を仰け反らせ、胸を左手で隠しもう片方の手を銃に被せた服の前に置く。さながらヴィーナスの誕生だ。座ってはいるし、腕の位置も違うが。


「すまないな。ベルトを外してもらっても良いだろうか」


「……はい」と彼女は私のズボンに手を伸ばす。


 後ろで男の笑い声が聞こえる。耳障りだ。だがそれでいい。


「外れないか? このベルトはこうなっているんだ」と自分のベルトに手を伸ばす拍子に重ねた服ごと彼女の前に持っていく。


 物凄く不自然な動きだったろうが、タイミング良くある事が起きた。


「ごほっ!?」と、口から大量の血──そう、吐血である。


「だ、大丈夫ですか!?」と心配する少女を嘲笑うかのように男が言う。


「なんだよ、お前もう助からねぇんじゃねぇか? まぁそれでも全裸にはするけどな。皆には説明しといてやるよ。全裸で戦場にいると興奮するド変態が死んだってな」


 ナイス吐血だ。狙った訳ではないがお陰で違和感無く少女に銃を渡すことが出来る。

 少女が私の服の山に手を入れてこちらを見た。準備が出来たのだろう。

 さて、もう一踏ん張りだ。


「すまない。痛みで下を脱げそうにない。これで勘弁してはもらえないだろうか」

「そのガキに手伝わせたら良いじゃねぇか」

「私の血を見て恐怖で固まってしまった。もう無理だろう」


 男は舌打ちしたあと、少し考える素振りをしてから言った。


「なら、俺が脱がせてやるよ。こっち向きやがれ」

「勘弁してはもらえないだろうか」

「うるせぇ! 黙ってこっち向けっていってんだろ!」


 私は振り向く前に、少女の目を強く見た。それに返すように少女は小さく頷いた。

 振り向き、足を男の方に伸ばした。伸ばす拍子に血がドバドバ出たのか、急激に寒くなる。


「ああ、たぶん靴を脱がさなければズボンが最後引っ掛かると思う。先に靴を脱がせてくれないか」

「ッチ。面倒くせぇなあ本当に!」


 お前が命令してお前が勝手にやっていることだろう。面倒なら止めればいいのにバカじゃないの……なんてことは言わない。


「靴紐キツく結びすぎだろ! なんだよこれ」


 彼女が私の肩に銃を置いた。

 それを頬と肩で位置調整をし、熱心に靴紐と格闘している男に銃口を向け、反動で狙いがブレない用に力強く挟んだ。

 余談だが、ここまでの動作に全くの無駄がなく、静かで、歴戦のパートナーの用に意志疎通がとれていた事に少しの驚きと、笑みが溢れた。


 私はカウントを始める。


「さん」

「くっそはずれねぇ」

「にい」

「おい、お前これどうや……なにしてんだてめぇ!」

「いち」


 男は咄嗟に離れる。下半身ぶらぶらで。

 このぶらぶらが物凄く記憶に焼き付いていて凄く不快だ。

 咄嗟に離れる男だが、申し訳ないのだが、それを予想して位置調整してあるんだすまない。

 頬に物凄い衝撃と共に頭痛と目眩が私を襲う。

 それはそうだ。耳元で銃を撃てば鼓膜は無事ではすまないし、頬からくる衝撃が骨伝導となり内部からの爆音。それらが頭を、脳を揺らした……のだと思う。ただの想像。

 衝撃がキツすぎて視界が合わず目が使えない。耳などもってのほかだ。どうなったのか状況確認ができない。

 それに加えて寒気と吐き気だ。血を吐いているのか、さっき食べたレーションを吐いているのか分からないがゲロゲロと出てくる。

 吐いているせいで呼吸ができなくなる。が、そういうとき人は逆に冷静になる。ゆっくりと、吐いて、ゆっくりと、空気を少しずつ吸う。

 そうしている間に視界が元に戻っていく。耳はあまり聞こえないが、少女が私に何か言っているのが見えた。

 泣いてはいるが、笑顔で、口の動きから「ありがとう」と言っている気がした。


 最後の力を振り絞り、私は散らばる服を指指した。


「」


 言葉は出なかった。だが、少女は私の顔を見ながら何度も首肯く。それを見られて安心したのだろう私は、目を閉じた。












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