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円卓のない円卓会議

予定は未定!

遅くなりました。

エッセイとか書いてたせいです。


 「おぅふ」


 いつも通り『円卓』で姿を確認するなり、タックルかましてきたオオカミ娘(ティロノエ)を受け止めきれず、気の抜けた声とともに押し倒されるネコ耳娘(ティティス)


「うー、ティロー、どいてー」

「うゆ……もしかしてティティスちゃん、おつかれ?」


 そういってティティスを後ろから持ち上げるティロノエ。

 頭一つ分以上も背の違うティティスは引っこ抜かれるように抱き上げられる。

 足が地面に届かない状況に一瞬不安を覚えたが、すぐにだらりと力を抜く。

 そのままの格好で答える。近づいてくるウサ耳娘(フォセッタ)をジト目で牽制しながら。


「お疲れです。誰かさんにこき使われたからね」

「こき使うなんて心外だよー。稼ぎたいティティスたんのために仕事を与えたのだ」

「ブラック企業……」

「ソンナコトナイヨー。定時終わりのホワイトな職場デス」

「ホワイトなのは定時に終わる『フロンテ』であって、性悪なウサギじゃない」

「ちゃんと上司を立てられないと出世できないゾー」

「知らないよ。だいたいボクは部下でもないし」

「ティティスちゃんとフォセッタちゃんは仲良しさんなの?」


 フォセッタとのやり取りのたびに、視線を行ったり来たりしていたティロノエが割り込んでくる。

 顔を覗き込むようにしてくるティロノエに目だけ向けて答える。


「どこを見るとそうなるんだ……」

「そう見えるの!」


 即答。力いっぱい言い切られてしまった。

 反射的に否定の言葉を探していると、周りが騒がしくなる。


「どうやら出たみたいね。リザルト」


 ――リザルト。

 『本戦』での戦闘結果はスコアという数値で裁定が下される。その結果だ。

 ランカーであるティティスが重要視している要素だ。


 スコアを稼ぐ方法はふたつ。

 ひとつは、『フロンテ』内に現れるファンタズマという敵性存在を倒すこと。ゲームで言うところのモンスターやエネミーなんかと同じだ。

 もうひとつが、戦闘行動そのものである。どれだけ派手にかつ、観客を沸かせるように立ち回ったほうがより稼げる。

 戦闘に関係する行動である必要があって、無関係なところでどれほどパフォーマンスをしてもスコアにはならない。

 

 逆にスコアが減る条件もふたつ。

 ひとつは、HPが0になって『円卓』に戻されるとリタイアだ。これがペナルティになる。

 もうひとつは、『本戦』に持ち込んだカラーピースのうち使い切れなかった分がペナルティになる。通称、抱え落ちだ。

 

 『本戦』は開始から終了まで、ジャスト1時間。

 この1時間でどれだけスコアを稼げるかが、ティティスにとっての『フロンテ』ということになる。


 リザルトを確認する。

 まずまずのスコア。というか、予想よりもだいぶ高い。

 消化試合で倒したミノタウロスは2体。出掛けの1体と合わせて3体しか倒していない。

 それでいて、いつもと大差ないスコアが出てしまっている。


「どう? 少しは見直した?」


 得意満面の笑みで言ってくるフォセッタ。ウザい。


「……? いつものティティスちゃんと同じくらいなの」


 事情を分かっていないティロノエが当然の疑問を口に出す。


「そうなんだ。さすがランカー様は稼いでるわねー」


 辻ヒーラーなフォセッタはスコアなんか興味ないから、普段のティティスの数値なんて知らないんだろう。

 非ランカーでもこの数値が出るなら美味しいのかもしれない。

 

「……マゾ絵さんに捕まった」


 足をプラプラと揺らしながら、ティロノエにも分かるように教えてやる。


「う、あのおねーさん、ティロは苦手……」


 安心しろ。マゾ絵さんを得意な者などいない。

 無意識だろうか――ティティスを抱き留める手に力が入る。

 背中から伝わる体温や感触が強く感じられてドギマギする。

 落ち着き無さげに身を揺するティティス。その動きに合わせるように抱きしめる力を強めるティロノエ。


「あんたら、こんなとこで何やってんのよ」


 降りかかるフォセッタの冷めた声。

 もぞもぞと動いていたティティスはその動きをピタッと止める。

 一拍の間を置いた後、ティロノエを振り払おうともがくティティス。抑えるティロノエ。


「もー、動かないでティティスちゃん」

「わー、違う! 違うんだ」


 一体何が違うというのか。そもそも誰に対して言っているのかも分かってはいない。


「誰に言ってるんだか。それじゃ、わたしは帰るね」

 

 狼狽するティティスを尻目に呆れた顔を覗かせていたフォセッタがそう言って踵を返す。


「今日"も"楽しかったよ。ティ ティ ス たん」


 最後に振り返り、いつもの調子で煽りながらフォセッタは帰っていった。

 リザルトの終わった『円卓』から戻るのは任意だ。戻らなくても時間が来れば強制送還される。


「降ろして」

「わかったの」


 ようやく地に足がつく感覚にほっと胸をなでおろす。

 

「ね、ティティスちゃん、3人目はフォセッタちゃんがいいと思うの」

「却下」


 出し抜けに投げかけられた提案をノータイムで棄却する。


「うー、少しは考えて欲しいの」


 考えても変わらない。フォセッタ(アレ)は不倶戴天の敵だ。

 

「そんなこと考えてる暇はない。それよりも考えることがあるし」

「もうちょっと考えてくれても…………考えることって?」

「新しい武装とかピースとかイロイロだよ」

「そっか……ティティスちゃんは熱心なの」

「……ボクのじゃないよ」


 そう言ってビシっと指を突きつける。

 しばらく首を傾げていたティロノエは、やがてハッと気付いたように自らを指差す。


「ティロの?」

「そう。今まで何もしてこなかったでしょ?」

「ゴメンなの。ティロは……」

「いいさ、責めてるんじゃない」


 誰にでも得手不得手はあるし、中には込み入った事情だってあるだろう。


「とにかく次は『シェーナ』にいくからね」

「『シェーナ』?」

「『シェーナ』も分からないか……」

「よく分からないけど、ティティスちゃんと同じとこに飛べばいいの」


 なにそれこわい。よく分からないのに着いてこれるとか監視されてるんじゃないか?

 そもそも妖精保護区(アヴァロン)に住むすべての住民は監視されている。

 モニタリングしているのは人工知能(AI)制御のコンピュータらしいけど、蒼ちゃんならその情報にアクセス出来るに違いない。

 

 ――蒼ちゃんが情報の横流しをしている?


 それはないとすぐに否定する。蒼ちゃんは情報の横流しをしてもおかしくない人だけど、その場合、横流ししていることも隠さない人だ。


 考えても分からない。ティロノエの能力だと考えることにする。ティティス自身、ファータの能力に関してはまだ分かっていないことが多すぎる。


 何もない『円卓』をゆっくりと見渡して一息つく。


「……それでいい。いつもみたいにボクのとこ来ればいいよ」

「わかったの! 楽しみなの!」

「じゃ、今日は解散だ」

「またなのー!」


 ――笑顔で手を振るティロノエに見送られながらティティスは現実へと帰っていった。

今週は忙しいので週末に1話更新が目標……

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