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ある日、森の中

第7回ネット小説大賞・ゲーム部門応募用という形で自分を追い込むことでなんとか執筆を開始できました。

処女作ですので優しくしてね。

 そこは人だけが知覚しえる幻で出来た現代科学の及ばぬ領域。

 6年前、東京の夜空に突如として出現し、一時間余りで消えた原因不明の現象。

 およそ5km四方からなる巨大な幻の空間は、首都圏を中心にたびたび出現するようになる。

 現れるたびに異なる姿を見せる、その異界に魅せられた者達が与えた名は――

 《ファータ・モルガーナ》




 鬱蒼と生い茂る森の中を、すたすたと無造作に歩きながら少女は考える。


 (いい加減何か出てきて欲しい……もっと襲われやすいようにしたほうがいいのかな?)

 

 残り時間が少なくなって来ていることに少し焦りを感じ、バカなことを考えているなと思いつつ、立ち止まり自分の体を見下ろす。

 

 少女は歳で言えば十に届くかどうかといったところ。愛らしい顔立ちに強い意志を感じさせる黒い瞳。頭には黒髪のツインテールだけでなくネコ耳までもが生えている。

 服装も白のインナーに黒のアウターに赤で装飾が施され、細い足を覆うのは赤黒ボーダーのオーバーニーと統一はとれている。

 

 とれていないのはこの場所。

 この森と欠片もマッチしていない。

 違和感が半端ない。

 非現実的すぎて逆に警戒感を覚えるレベル――

 

 そんなことを考えていた矢先、近くの茂みが揺れる。

 弾かれたように茂みと距離をとり、身構える少女の顔めがけてナニカが飛んでくる。

 半身だけひねって躱し、頬をかすめていくソレが蔦であることを確認しながら呟く。


「ティテン」


 瞬間、光の粒子が集まり右手に武器が現れる。黒刃の片手剣だ。

 頬をかすめ、伸び切っていた状態だった蔦が、今度は鞭のごとく打ち据えようと根本部分からたわみ、迫ってくる。

 現れたばかりの剣を叩きつけると一瞬だけ拮抗した後、蔦が斬り飛ばされる。

 声なき悲鳴が空気を震わせ、茂みから蔦の主が姿を現す。

 

 蔦が撚り合わさり、ヒト型になったようなその体から新たに二条の蔦が放たれる。

 少女のほうもすでに次の行動に入っている。

 蔦を斬り飛ばした反動を利用してヒト型との距離を詰めながら呟く。

 

「ティトン」


 今度は左手に剣が現れる。

 右手の剣とはシンメトリーなその剣を勢いのまま振り抜く。

 確かな手応えに追撃に入ろうとするも、違和感を感じて一歩距離をとる。

 ヒト型はぶるりと体を震わすと剣撃で受けた傷跡が修復されていく。

 蔦が蠢き復元されていくその様は生理的嫌悪を呼び覚ます。


(これだから触手生物は……)


 心の中で悪態を付きながらも、このタイミングで現れてくれた触手生物に感謝も覚える。

 その感謝に対し抗議というわけでもないだろうけど、触手を三条、連続して突き込んでくる。

 少女は回避行動に移ることなく、重心を下げて踏み込み、触手生物の左側面に回り込む。


(目のない触手の塊だ――死角はないし、フェイントも必要……ないっ!!)


 相手の情報を整理しつつ、攻撃を叩き込んでいく。

 左右の手にした双剣で、反撃の隙を与えずに切り刻む。

 右手のティテン、左手のティトン、そしてツインテールの髪が規則性をもって行き交う様は、さながら演舞のようだ。

 

 為す術もなく攻撃に晒されていた触手生物が突然、爆発したかのように膨らみ、少女は吹っ飛ばされる。

 

(油断した。全方位に触手を飛ばしたのか……でも)


 吹っ飛ばされダメージを負いはしたが、剣でのガードは間に合っていた。

 少女はすぐさま体勢を整える。


 爆発したかに見えた触手生物はその場に健在だった。

 健在ではあったものの、最初は成人男性ほどの大きさだった触手生物は、小柄な体躯の少女と大差ない大きさになっている。


(思ってたより手応えがない。配分間違えたな、2個も残すんじゃなかった)


 失敗したと嘆く少女の頭に、背後から触手が打ち下ろされる。

 とっさに左手の剣で受け止め、追撃がくるよりも早くその場を離れる。

 対峙していた触手生物とは別の場所からの攻撃だった。

 両方を確認出来る位置まで、移動をすればその意味は明らかだった。


「二匹目、ね」


 そう呟く少女の顔は喜色に染まり、やがて肉食獣の笑みへと変わる。

 歯を見せて笑った瞬間、少女の中でスイッチが入る。


「ヒートクリムゾン」


 処刑開始とばかりに放ったその言葉で、少女の前に魔法陣が現れる。

 魔法陣は赤い輝きを放ち、次の瞬間にはスゥと消えていく。

 消えると同時に両手に持つ双剣の刀身が炎に包まれる。


 そのまま、燃え盛る引っさげ、今しがた現れた二匹目の触手生物に向けて突撃する。

 触手生物は迎撃に触手を放ってくる。けれど足を止めない。――むしろ加速する。

 

 一本かすっただけで、一気に触手生物に肉薄した少女は炎を纏った剣を突き入れる。

 草の焼け焦げるような臭いが立ち込める中、突き刺した剣を捻る。

 

 顔がどこかもわからないが、その苦悶の様子から有効打になっていることを感じ取る。

 更に一撃入れようとしたところで、地面が僅かに光っていることに気付く。

 

(や、ば……)


 それが魔法発動の兆候だと理解する。

 理解はするがもはや回避する時間はない。

 何かの植物で出来ているであろう槍が、地面から無数に突き出される。

 急所はガードしたものの何本か喰らってしまう。

 

(最初のヤツか……魔法を使ってくるとはね)


 相手の脅威判定を更新しつつ、自身の状態を確認する。

 衣服は何箇所か破け、それなりの痛手を負ってはいるが継戦するのに問題はない。

 触手生物たちは合流しようとしているのが見て取れる。

 

 間合いと詰めようとすると、再び魔法を放ってくる触手生物。

 近づけさせたくないのだろう。燃える剣相手に近接戦闘を避けたいのだ。

 

 魔法の発動がわかっていれば回避は簡単だ。

 しかし、回避した先で間髪入れずに地面が光る。

 慌てて飛び退り辛くも槍衾を回避する。

 

(連続詠唱?……いや違う、交互に使ってるのか)


 合流を果たした触手生物たちは、交互に魔法を使い、連続して攻撃してくる。

 少女は魔法に阻まれて、なかなか近づくことが出来ない。

 一進一退の攻防が続く。わざと続けているようにも見える。

 

 やがて、少女の持つ双剣から炎が消える。

 今度は逆に距離をとってから、少女はニヤリと笑う。


「時間稼ぎはオシマイ。決めるよ」


 そう宣言すると、左右の剣を頭上に持っていく。

 一瞬の輝きの後、少女の両手は一本の大剣を頭上に掲げるように握っていた。

 少女の身の丈を超える長大な大剣だ。


「ラストピース! ファイアーレッド!!」


 魔法陣が現れ、消えるとともに、大剣と少女自身を炎の渦が包み込む。

 立ち昇る炎の渦は剣先に集まり、やがて巨大な火の玉を形作る。

 

(これでフィニッシュ。今回は貰った!)


 勝利を確信した少女が、不意に動きを止める。

 白いナニカに羽交い締めにされている。


「へ?」


 間の抜けた、でも可愛らしい声が上がる。

 状況が理解出来ない、そんな声だ。

 いや、状況は理解している。

 ギリギリまで時間稼ぎをしたせいで、この不測の事態でフィニッシュが間に合わなくなったという現実を受け入れられないだけだ。

 意味もなくもがく少女を、嘲笑うかのように足元の地面が光る。


「や、そんな、待って、あ、あ――」


 パニックに陥る少女に、触手生物の魔法は待ってくれない。


 そして、森の中に少女の悲痛な叫びが木霊した――

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