06 珍客(3)※挿絵あり
「青年貴族を気取ったつもりなんだがなぁ」
「おまえに役者の才能がないってことを証明するには十分な時間だったぞ」
ディランの鋭いツッコミにホプキンズが恨めしそうに睨み返した。
――妙な組み合わせというべきかしら?
しかし、意気の合った掛け合いだ。
ポーシャは気を取り直して質問をつづける。
「では、おふたりとも剣士として仕事をしているの?」
「ああ。コイツ……ロイとは腐れ縁だ」
アヒルが椅子の座面に座り直し、話しながら安定した姿勢を見つけたようだ。
ロイ。アヒルに変えられたディランは、ホプキンズのことを日常的にそう呼んでいるらしい。
「俺も緊急事態だからここまで同行したけど、ディランの抜けた仕事のしわ寄せがあるから王都へとんぼ帰りだよ」
ホプキンズが溜息まじりに窮状を嘆くと、ディランはムッとして反論した。
「自業自得だろうが! そもそも誰のせいでこんな目に遭ったと思ってるんだ?」
アランだけは、お茶を飲みながらふたりのやりとりを楽しそうに見ている。
「まぁ、落ち着いて。今の話ではディランがアヒルに変えられた件にホプキンズさんも関係しているように聞こえるけど?」
ポーシャの指摘にホプキンズ……ロバートがウッと言葉に詰まった。
「俺のことはロイって呼んでくれ。街の女のコたちもそう呼んでるから」
「呼び方はあとで考えるので、こちらの質問に答えてちょうだい」
ロバートの喋り方が変わったように、ポーシャの丁寧な言葉遣いが徐々に語気の強いものへと変化していた。
「その場に居合わせていたとなれば、あなたの証言は重要なの。第三者の視点が役に立つことも多いから」
ポーシャの駄目押しにロバートは視線を彷徨わせるが、友人の不満そうな表情に行き当たり、ますます居心地が悪そうだ。
「ロイ、彼女にあの日に起きた出来事をありのままに話せばいい」
アヒルの言葉にロバートは観念したらしい。
「わかった……ありのまま、だな」
ロバートはお茶をひとくち飲んでから、気まずそうに口を開いた。
「たしかに俺が元凶と言えなくもない」
「あなたと例の魔法使いが喧嘩をしたの?」
「いや、そうじゃなくて……」
口ごもるロバートのそばでディランが咳払いをする。
「だから、魔法使いを雇っている貴族のボンボンがやたら気位の高いヤツでさ……」
もっと簡潔に事情を話してもらえないのだろうか。ポーシャが言及しようと思った矢先、明瞭な答えがアヒルのくちばしから発せられた。
「コイツが通ってる酒場のお気に入りってのが、貴族の息子が惚れこんでる女なんだ。男同士が店で鉢合わせして大騒ぎになった。運悪く相手が問題の魔法使いを連れていて、仲裁に入った俺が巻き添えを食らったというわけだ」
「……」
言葉もなく、ポーシャはディランとロバートを交互に見遣る。
「単なる好奇心で聞くけど、その女性はどちらかとつきあってたの?」
これは、ロバートに対しての質問だが彼からの返事はない。どうやら女性のほうが何枚も上手なのだろう。
だとすれば、ディランはとばっちりを受けた最大の被害者ということになる。
普段あからさまに人を憐れんだりはしないポーシャだが、ディランがとても気の毒に思えた。
「同情よりも早く治してくれ!」
憐れみのこもった眼差しに気づいたのか、ディランはふいと彼女から視線を逸らす。
「全力を尽くします」
ポーシャは改まった口調でディランの背中にそう応えた。
居た堪れないロバートと三者の緊迫感が漂うなか、アランだけが事情を半分ほど理解できずに首を傾げる。
「大人って色々あるんだね。なんだかすごく大変そう……」
大人たちは子供の言葉にどう反応するべきか困ってしまった。
「僕もポーシャを手伝うよ。ヨロシクね!」
無邪気な笑みを浮かべたアランが、ディランの頭頂部にある黒羽を撫でる。
「……よろしくな」
抵抗する気力も失せたのか、ディランは子供の手を拒まなかった。




