01 小さな冒険
星屑の森に魔法使いがやってきた。近隣の村に住む少年アランは謎多き魔法使いの正体に興味津々。
意を決して森へ魔法使いを探しに出かけたアランは、そこで思わぬ事態に遭遇して…
「よし決めた!」
アラン少年はここ最近になって放置せずにいられない好奇心の扉を開くことにした。もっとも、扉というのはものの例えで、実際は村のはずれから広がる深い森への冒険を意味している。
メルフォルト王国の西……地図で言えば端も端に位置する星屑の森は、アランが住むカタルの村のすぐそばに位置する。
草が鬱蒼と生い茂り、巨木が壁のように立ち並ぶ広大な森に足を踏み入れる者は少ない。
それでもアランは冒険を望んだ。
森に越してきたという魔法使いに会うために――。
魔法使いが他所の土地からやってくるという話はひと月前から村中の噂になっていた。
「さてなぁ……本当にくるものやら。あんな迷路みたいな場所で暮らしたがる者がいるとは思えん」
アランが村長に尋ねても答えをはぐらかされるばかりだった。おそらく村長も半信半疑だったのだろう。
村人の目から見ても星屑の森は人が住むには適さない土地なのだ。地図もなく、大人でさえ迷えば簡単に抜け出せないいわくつきの森。
ところが夏の到来とともに村に魔法使いが現れたのである。村長に挨拶にきただけでわずかな時間しか村には滞在しなかった。
遠まきに見たその姿は、想像していたよりも小柄で、外套についているフードを目深に被っていたため顔もろくに見えなかった。
――いったいどんな人なんだろう?
その日以来、アランは魔法使いの正体を知りたくてうずうずしている。
魔法使い。
おとぎ話や、大都市から流れてくる噂でしか聞いたことのない存在。困っている人の悩みを魔法で解決してくれると聞いたこともある。
――魔法って、どんなものなんだろう?
そもそも八歳のアランは魔法がどういったものかを知らない。絵本で伝えられているような風を吹かせたり、病気を治したり、呪いをかけて人間を動物の姿に変えることが本当にできるのか?
だから、アランは事前に立てた計画を決行したのだ。
学校が休みで、両親が畑仕事のために出払ってしまう週末を利用して。