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第1章 こんにちは異世界 「ごふぇんなふぁい」

 20分くらい経っただろうか、ヒメナが落ち着いたので会話を再開する。


「お恥ずかしいところ見せてしまってすいません。シンジさん、さっきの提案をお受けしたいと思います。迷惑をかけると思いますが、これからよろしくお願いします。」


 意思は固まったようだ。これで断られてたら、さっきの感動シーンが恥ずかしさでいっぱいになってしまう。


「そうか、受けてくれて良かった。最初は難しいかもしれないけど、一緒に住むんだしもっとくだけた口調でいいんだよ。」


「そうですね、頑張ってみます!」


 いつか家族みたいに話せる日が来るのだろうか。楽しみだ。


「それにしてもなんでヒメナは俺たちを信じたんだ?俺たちが言うのもなんだけど、そんな簡単に信じるのは危なくないか?」


「さすがにお二人のように信じ込みに近い、思い切った信用はできませんよ。」


「信じこんで悪かったな。」


「いいえ、そのおかげでずいぶん気持ちが救われました。」


 クスッとヒメナは小さく笑って続ける。


「それなら何故なのかというと、私のスキル【心感】のおかげです。このスキルで相手がどんな感情を抱いているのか分かるんです。


 分かるといっても、直接感じるのではなくその人の感情がオーラのように視覚的に見えるだけですけど。


 例えば、怒りなら赤、悲しみなら青…優しさなら緑といった具合です。お二人は両親のようにとっても綺麗な緑でした…。」


「そんな風に言われると、なんだか恥ずかしいな。」


 中身を褒められて、嫌な気持ちになる人なんていない。ちょっと気恥ずかしいが。


「ふふっ、ちょっとくすぐったいね。」


「そういえばスキルってのもあるんだよな…冒険者カードをまだ確認してなかった。」


「それもいいですが、もうすっかり夜中なのでお風呂に入ってからにしましょう。」


「お風呂!」


 この世界でも入れるのはとても嬉しい。死因ではあるが、トラウマではないし、むしろ今日1日の疲労を癒したい。


「はい、お風呂です!こっちです。右が男性、左が女性です。」


 受付の右側が食堂、左側お風呂になってるようだ。ここは二階建てらしく受付のすぐ横に階段がある。


 お風呂と聞いてからラフィがかなり嬉しそうだ。スキップ姿を見送りながら、男湯の脱衣場に入る。


 俺も初めてのことばかりで、かなり疲れていたので嬉しい。早速、着心地だけは良い真っ白な服たちとおさらばする。


「おぉー、湯船は1つだけど十分な大きさだな。」


 今日の疲れを取るためにしっかりと体を洗い、ちょっと熱めの湯船に浸かって体をほぐす、っと同時に女湯の方に体を寄せる…さっきあんなにカッコいいことをして、心にまで誓ったことがあった後なのに、すぐにこんなことが出来るなんて自分でも信じられない。


 男の本能には勝てないようだ。


 しかしあちら側からは何も聞こえない。なにか喋ってるのは分かるのだが、全く聞き取れない。


 どうにかして聞きたい、ていうか覗きたいので必死に壁を調べる。…おい、今ロリコンって思った奴ら、違うからな、ヒメナは俺の守備範囲には入ってないからな!


 確かに将来は、それは美人になるだろう。でもまだ可愛らしい子供の範疇だ!なら、ラフィが好きかって?それも違うな、俺は慎重な男だからそんなすぐにコロッとはいかないのさ!


 つまり、今覗こうとしているのは二人を見たいわけじゃない、本能に従って覗きという行動がしたいんだ!!!




 それはもう頑張った、今まで生きてきた中で一番考えて考えて、考え抜いた…結果、全く覗けなかった。今の俺ではこの壁を超えることは出来ない。


 今日の疲労を取る絶好の機会であるにもかかわらず成果の全く出なかった作業にさらに疲労感は増した。俺は溜息とともに浴場を出た。もう自分が風呂で死んだなんて忘れてしまった。


 さっきの食堂で待つこと5分、二人は帰ってきた。男の任務に失敗し、しょぼくれている俺とは違って、二人は交流を深めたのか楽しそうに会話しながらやって来た。


「あ、シンジさんはもう出ていらしたんですね。すいません、お待たせして。」


「いや、いいんだ。だけど俺は疲れたよ…。」


「なんでお風呂入って疲れるの?あ、分かった!どうせシンジは覗こうとでもしたんじゃない?」


ギクッ!


「でも覗けなくて、覗こうとした苦労が無駄になってそんなに落ち込んでるんでしょ!」


「そ、そ、そんなわけないだろ!誰がお前なんかを見たいと思うんだよ!」


 会った時から思っていたが、こいつの直感はどうなっているんだ?


「言ったわね!」


「お、お二人とも落ち着いてください。そうです、これからお部屋に移って冒険者カードの確認をしましょう!」


「ヒメナちゃんが言うなら仕方ないわね、今回は見逃してあげる。」


 ラフィがまるで見ていたかのように、俺の行動を当ててきて動揺してしまった。ヒメナが止めてくれなかったら、もしかするとボロが出てしまったかもしれない。


「ヒメナちゃん、私たちの部屋って二階に上がってすぐ横の部屋よね?私先に行って、見てるから!」


「はい、合ってますよ。私たちもすぐに行きますね。」


 ラフィは修学旅行で旅館に着いた学生のように、早足で二階に上がった。


 俺も後を付いて行こうとすると、ヒメナに袖を引っ張られる。


「シンジさん、覗きなんてもうしようとはしないでくださいね?」


 ヒメナは目の笑ってない笑顔で、そう告げた。


 とても怖い。


 ヒメナから黒いオーラが見えるのは目の錯覚だと思いたい。


 しかし疑問なのが、なぜあたかもその真実を知っているかのようなのだろうか。ラフィのせいで少し焦ったのを見破られたとしても、決めつけれるほどの証拠ではない。


 だが12歳の女の子なのでそういうこともあると思い、覗きを否定しようとした…


「え、なんのことで…」


 のだが、ここで思い出す。ヒメナは感情を見ることが出来るのである。それでラフィとの会話での感情の動きを見て、覗きの真実が分かったのだと納得すると、後の行動は早い。


「すいません、もうしません。」


 俺は頭を下げて謝罪する。出来る男はすぐに謝ることができるのだ、たとえ相手が年下女の子であっても。


「分かればいいんです。ラフィさんには黙っといてあげますね。」


「ありがとうございます!」


「でも!もう少しお互いを知っ…なら私と…お風呂、」


「え、なに?」


「なんでもありません!では私たちも上がりましょう。」


 ヒメナは顔を真っ赤にしながら部屋へ向かうが、後ろからついて行く俺もおそらく顔を赤くしているだろう。


 聞こえてないフリをしたが昔から耳は良いので、ヒメナが小声で言っていたことも断片的に聞き取れてしまった。


 12歳とはいえ、ヒメナに好意を持たれてることは素直に嬉しいし、照れる。今度誘って…いやだから、ロリコンじゃないから!


「お待たせしました。この部屋はどうですか、ラフィさん。」


 ここが俺たちの共同の部屋になるようだ。かなり広いので3人で使ってもまだまだ余裕はありそうだ。


「うんうん、ちょっと広すぎる気がするけど綺麗だし私は気に入ったよ。ベッドもふかふかで気持ちよかった!あ、シンジのベッドはこれね。」


「それはベッドではなくて玄関用マットですよ、ラフィさん。お布団もないし。しかも今、俺とヒメナがそのマットの上に立っていますよ。おやおや、布団はそこにあるって?これは雑巾ですよ…。」


「当たり前でしょ、可愛い女の子二人が一緒の部屋で泊まるんだからそれくらい譲歩してよ。」


 おい、この野郎は自分で可愛いって言いやがったよ。見てくれは確かに良いけど、台無しにも程がある。仕方ないので、今日2回目の罰だ。


「ふざけんなよ!」


「いふぁい、やふぇて!(痛い、やめて!)」


「せめてそこのソファだろ!」


「ひっふぁらなひふぇ、わふぁったから、わふぁったからはなひて!(引っ張らないで、分かったから、分かったから離して!)」


 残念ながら、ちゃんと謝れない人を許すつもりはない。しっかりと頬はつまみ続ける。


「謝れたら許してやる。」


「なんふぇあふぁまらなひゃ、いふぁい、いふぁい!ごふぇんなふぁい!(なんで謝らなきゃ、痛い、痛い!ごめんなさい!)」


「最初からソファにしとけばいいものを。」


「痛い…。」


 赤い頬をさすりながら、睨みつけてくるが無視だ。


「ヒメナ、俺がこのソファを使うけどいいか?」


「いえいえ、シンジさんはベッドで寝てください、私がソファで寝ますので。」


「そんなこと俺もラフィも許さないって。」


 そうだそうだ、と外野がうるさいが同じ意見だ。


「…そうみたいですね。布団は後で持ってきますね。それにしても仲良しなんですね、お二人は。」


「「誰が!」」


「ふふっ、だって二人とも喧嘩のようで楽しそうだったので。スキルを使わずとも明らかですよ。」


「まぁ、こんなことで本気で怒るのもバカバカしいからな。」


 ヒメナともそうだが、ラフィと会ったのも今日なので、まだまだお互い知らないことだらけなのだが、確かに居心地は悪くないのかも、知れなくもないのか?


「そんなことよりも早く冒険者カードの確認をしましょ。実は気になってたのよね。」


「ラフィってマイペースだよな。さっきまで泣きながらほっぺをさすってたのに。」


「ですね…。」


 切り替えの早さに置いていかれた2人は静かに頷く。

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