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第1章 こんにちは異世界 「東端の街」

 俺とラフィは丘からは話すこともなく、スムーズに街に着けた。正確には街は外壁に囲まれているためにまだ街の中ではない。


 現在地は外壁の一部が門になってるところである。門自体は空いているが、勝手に入っていいのか分からない。


「ラフィ、これって勝手に入っていいのかな?」


「え、なに?」


「あ、え、ちょっ、ちょっと待って!俺も一緒に入るから!」


 ラフィは全く気にならなかったようで、1人で勝手に入ろうとしていたところを置いていかれないように呼び止めて、一緒に街への第一歩を踏み出す…。


 特に変わったことは起きませんでした。強いて言うなら門の近くで作業していたおっちゃんに変な目で見られた。やはり新参者だからだろうか、でもなんでラフィには無反応なのかは疑問に残った。


「これからどうするんだ?」


「そうね、まずはシンジの服を買うのはどう?」


 なぜまず服なのか疑問に思ったが、自分の格好を確認してみると、なぜラフィがそんな提案をしたのか、なぜ門のおっちゃんは俺だけを変な目で見たのか、この2つの疑問が一気に解決した。


 真っ白だった。下から上まで。天界で貰った白いサンダルを履き、白いシャツと白いジャージのズボンをずっと着ていたのを忘れていた。


 どうみても目立つし、晴天のために日光が反射して目立っているようにも見える。かなり恥ずかしい…。


「そ、そうだな、買いに行こう、今すぐ行…なぁ、金持ってるのか?」


 もはや答えは分かっていたが、一応聞いてみた。


「ないわね。」


「使えねぇな。」


「すいませーん!ここに変態が!」


「おい、こら!やめろ!いや、やめてください!」


「…っで、どうするの?」


 なんだろう、自分で言うのもおかしなことだが、ラフィがこの短時間で俺の扱い方に慣れ始めている気がして悔しい。


 それにしても見慣れない街並みで、一昔のような建物ばかりなのに街灯やら電線のようなものがある。本当に異世界に来たようだ。


「それに人の服装も違っ、え、あの人剣持ってないか?なんだ決闘でもするのか?」


 初めて剣を見た。しかもよく見れば、他にも槍や斧を持っている人もいる。これはもしかしたら、もしかするかもしれない。


「あの聞きたいことがあるのですが!」


 気付けば俺はおっちゃんに話しかけていた。




 お礼を言っておっちゃんに別れを告げる。変なことを聞くから不審がられたが、聞きたいことを教えてくれた。結果は期待通りだった。


「いいかラフィ。」


「う、うん。」


「教えてもらった通り、この世界には魔物がいて、冒険者がいる。そんな異世界に来て始めにする事は、冒険者ギルドに行くことだ。」


 まさに異世界。これでワクワクしないわけがない。さらに教えてもらった場所を指差し、言葉を続ける。


「そして冒険者ギルドはおそらくあの建物だ。冒険者になればお金も稼げてこの服からもおさらばできる。よし、行くぞ!」


 俺は門をくぐってすぐに気になっていた、一際大きく、冒険者らしい人が出入りしている建物に向かった。



(…あれ、俺は何を?確か、ギルドらしき建物の扉までラフィと行って、開けたんだよな?それから、その中を見回したら…あれ、なんで覚えてないんだ?それにここはどこだ?)


 全く見覚えのない部屋のソファで寝ていた俺は、座った状態へ体を起こして部屋を見回す。


(なんだこの部屋、女の子の部屋か?壁もソファもピンク一色で...ピンク、ピンク?あっ!)


「思い出した、ピンクだ!!」


 扉を開けて中を見ていた俺は、突然ピンクの服を着た人が俺に向かって『好み~!!』と叫びながら猛進してきたこと、それにビビって動けなくなったこと、そして無抵抗のままに抱きつかれたれたこと、最後に気を失ったことを思い出した。


(なんだか上半身が締め付けられたような痛みがあるけど女の人に抱きつかれたくらいで気絶するか?あれか、可愛い子だったから嬉しすぎたのか?それとも俺が健全だったばかりに大人の魅力に耐えられなかったのか?...違うな、どれもしっくりこない。なにか根本が違う気がする。そう、例えば女性ではなく、)


 嫌な予感がしていると、ドアの開く音がした。


「あら、もう起きたのね!いきなり気を失っちゃうからビックリしちゃったわよ。」


 俺が声をあげたから起きたことが分かったのだろう。俺が気絶した原因がピンクのドアを開けて入って来た。


 俺の予想は正しかった。しかしこればかりはその予想が外れて欲しかった。


「どうしたの?うふふ、やっぱり可愛い顔してるわね。早く食べちゃいたいわ~。」


 どう見ても男だ、しかもゴリマッチョだ。


 顔と体格は全くピンクの服装に似合ってないのに、キャラ的には合ってる気がするのは異世界だからだろうか。それにしてもなぜ女の子だなんてバカな発想ができたのだろうか。


 俺の目は節穴なのだろうか、眼科に行きたい。


 しかし言葉だけで命の危機を感じたのは初めてだ。食べちゃいたいってそれはどう言う意味だろうか?焼かれるのだろうか、煮られるのだろうか、それとも貪られ…いや、これ以上の意味のない追求はやめておこう。知りたくない。


 さて、そろそろ状況を確認させてもらうか。パニック寸前の頭で整理できるか分からないが。


「えっとー、どちら様でしょうか?どうして私はここにいるのでしょうか?」


 丁寧な口調なのは気にしないでくれ、ゴリゴリにビビってるわけではない…嘘です、すいません、ビビってるからです。


「そんなに畏まらないでいいのよぅ〜?アタシとしては仲良くしたいんだから、んふっ。」


 仲良くなったら最後は食べられるんだろう。物理的に…。


「そうね、私の名前はキャロリーナよ。みんなからは《キャロ姉》と呼ばせ、」


「えっ?」


 聞き逃してはならない言葉が聞こえた気がするが、聞き逃さなければならない気もした。


「こほん、呼ばれているからあなたもそう呼んでね?」


「か、かしこまりました…。」


「畏まらないでって言ったわよね?」


「はい!了か…分かった。普通に喋るから、近づくな!あとその笑顔やめて!」


 化物に命を刈られる人の気持ちがよく分かった。


「分かればいいのよ、んふっ。さて、シンジちゃんがなんで気を失って、ここ、私の店の休憩室にいるのかといえば…あっ、隣にいたラフィちゃんからあなたのことはシンジちゃんって聞いたわ。」


 できれば知られたくなかった。余計なことを言いやがって。


「それは私がちょっと強めに抱きしめ過ぎちゃったからなのよね。」


「でしょうね…想像付きました。」


 まだ横腹がズキズキと痛むのがその証拠だろう。


「一瞬息が止まってびっくりしちゃった」


「止まったの!?」


「ごめんなさいねぇ〜。それでお詫びとしてはなんだけど、あなたをここで雇ってあげるわ!」


「え、いや、なんで?」


 殺されそうになったことも気になるが、なぜ雇われる経緯に至ったのかも疑問だ。


「他にもあなたたちのことをラフィちゃんから聞いて、少し信じられないのだけどお金はないし、冒険者かと思ったけど冒険者カードを持ってないどころか存在さえ知らないなんてね。」


 冒険者ギルドの存在を知ったばかりで、冒険者カードは知らなかった。異世界に来たばかりなので知らないのも当たり前だが。


「まさに一般常識ってものが欠けてるのが分かったのよ。」


「否定はできないな。」


「戦闘経験もないっていうから依頼もまともにこなせないだろうし、本当にどこから来たんだか…。まぁ、言いたくないこともあるでしょうから、聞かないでおいてあげるわ。」


「それはありがたい。」


 こちらとしてもどう説明して良いのか分からないので、話さなくて良いのならその方が助かる。


「それでこれも何かの縁だと思って、明日から働いてもらいたいのだけど、いいかしら?」


「俺としては嬉しいんだが、ラフィも一緒に雇ってくれるのはダメか?ワガママだけど、あいつも面倒見てもらえると助かる。」


 それにしてもラフィの姿が見えないが、どこにいるのだろう。


「心配はいらないわ、ラフィちゃんは妹に任せてあるから。シンジくんが気を失ったときは心配してたけど、ハキハキ喋るし文字も読めるようだったから多分ギルドの受付をしてるんじゃないかしら?」


「ラフィが心配してくれたのか、ちょっと感動した。」


「その認識はヒドイんじゃないかしら。」


「それはそうと何から何まで助かるよ、迷惑をかけるかもしれないけど、甘えさせてもらうよ。どうすればいいか分からなかったから、本当に助かる。」


「いいのよ、アタシの方がシンジちゃんをお世話したいからね、んふっ。」


 あ、やっぱやめといた方が良かったかもしれない。本能から注意報が鳴り響いている。


「それで仕事ってなんだ?あんたの、」


「キャロ姉。」


「…キャロ姉の店ってのも気になる。」


 注意報は警報に変わった。


「そうね、私の店はシンジちゃんの入った建物、冒険者ギルド内で隣接してる飲食店兼酒場ね。そこでシンジちゃんには交代でウェイターと洗い物をやってもらいたいの。」


 やっぱりあそこは冒険者ギルドであってたようだ。本当にあるなんて感激だ。


 それにしてもこれはラッキーだ。ウェイターならアルバイト経験がある。


「それなら経験があるからできそうだ。なんなら今からでも仕事はできるぞ。」


「バカね、通貨も知らないで働けないわよ。」


 確かに、それもそうだ。ぐうの音も出ない。


「今日は店が忙しくなる夕方まで私が一般常識を教えてあげるわ。それ以降はラフィちゃんと一緒に冒険者カードを作って街の中を探索してきなさい。あ、さすがに泊まるところは探しておいてね。」


「ありがとうキャロ姉、そうさせてもらうよ。」


「じゃあ、さっそくこの世界、国、街のことから教えてあげるわね。」


 どこから持ってきたのか、いつの間にか黒板が現れた。この世界にもあるんだな。


「この世界は《アレク》と呼ばれているわ。ちなみにお金の単位も《アレク》よ、物価はあとでね。名前の由来は物語にもなっているくらい有名なのだけども知らないのよね。」


 お金という概念は存在し、しっかり機能しているようだ。全く理が違えば理解にも苦しむところだが、意外とすぐに順応できそうだ。


「簡単に言えばアレクサンドニアという人物が人と魔物を統一して、世界をひとつにしたからその名前になったと言われているわ。本当の話かどうかは昔のことでよく分かってないらしいけどね。今では魔物が左半分を人間が右半分にそれぞれ国を持って争いあっているのよね。」


 世界を救う。具体的に何をしろとは言われていないので謎だが、この争いが関係しているのではないだろうか。


「そして人の国は《プラム》、魔物の国は現在もほとんど分かってないわ。この(メクロス)はプラムの東の端の街で、魔物が最も弱いから初心者冒険者の街と呼ばれてるわ。そういえば魔物の存在は知っているのかしら?…」


 俺はこの夕方までにこの世界の一般常識をキャロ姉から聞いた。この世界で生きていくためには不可欠なことばかりだっただろう。


 そしていよいよ実感してきた。今日から始まるのだ、ここ《メクロス》の街で俺の新たな冒険が!




 …あ、冒険っていっても魔物とかまだ見たことないし、命の危険があるのとかはごめんだな。世界を救うことは一旦忘れて、うん、ほのぼの過ごして安全な冒険をしよう、ピクニックみたいな…。

よくある異世界転生だと、転生したらまず冒険者登録ですが、ここでは転生したらまずアルバイトです。

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