第1章 こんにちは異世界 「チャラ男」
(チャラそうな男が1人。)
扉の先にいた人物を見た現場からの感想は以上だ。
それにしても質素な部屋だ。チャラ男が、会社によくありそうな質素なデスクに座っている。しかも椅子はパイプ椅子だ。
男は、身長は座ってるからよく分からないが180cmくらいだろう。赤い髪に黒を基調としたスーツの様なものを着て、複数のピアス、指にも高価そうな指輪が何個も付けていて、イケメン顔。それがパイプ椅子に座っているのだから、違和感しかない。
「初めまして〜、まずは自己紹介をしておこうかな〜。僕は地球を担当しているサリクリッド・トリニスティア・ウルボロス。長いから頭文字3つとって、サトウと呼んで欲しいな〜、なんちゃって〜。」
「はっ?」
色々と気になるところがあって、素の反応が出てしまった。
「うん、ごめんなさい。久しぶりのお客さんでテンション上がってました。」
思わず懐疑的な視線をバイトリーダーに送る。
「安心して、ちゃんとこの方は神様よ。」
そんなことを言ってる本人の目が明後日の方を見ている。
「本当に地球がちゃんと管理されているのか不安でいっぱいなんだが…。最近多発している異常気象とか実は監督不行届とかじゃないよな。」
独り言で言ったつもりだが、サトウとかいうチャラ男の目が泳ぎまくっている。
「おい、まさか心あたりがあるんじゃ、」
「あー!そうそう話を進めないとねー!」
こいつ、分かりやすく話を遮りやがった!ただ、話が進んでいないのも事実なので、言いたいことはあるが少し黙っておこう。これを機に気を付けてくれることを祈る。
「こほん、僕がシンジ君をここに招いた理由をまずは伝えておこうかな〜。」
現在では、直接神様が対応したり話を聞いたりすることはまずないそうだ。
「なんでなんだ?」
「喧嘩してて終わらなさそうだった、っていう理由もあるのだけど、よく見てみると君に面白いことが起こっていたからね〜。」
「面白いこと?」
そんなこと起こっていたか?いや、自分でも一つだけ気になっていたことがあった。
「動物と話せるようになったことか…?」
動物と言っても、あそこにいたのはお猿様ばかりだったが。
「そうだよ〜。話が早くて助かるよ〜。その能力は生きている間に芽吹いていて、こちらにやってきたときに形になったようだね〜。」
分かってもらえないし、自分でも完全に信じられなかったので誰にも言ってこなかったが、動物の声や表情、動きでなんとなく考えが分かる時があった。そのことを言っているのだろうか。
「色々分からないことだらけだ、やっぱり最初から説明してくれないか?」
ふと、神様相手に無礼な喋り方だと思ったが、当のチャラ男は何も言わないし、バイトリーダーなんて興味ないのか足を組んで豪快なあくびをしている。チャラ男の後ろに座って、見えないことを良いことにリラックスなさっている。
「後ろのおサボリさんが、しなきゃいけない説明をしていないことは知っているから、もちろん経緯とともに説明をしてあげよ〜。」
さすがは神様なのか、全部知っているようだ。後ろのおサボリさんが冷や汗を流しているのもお見通しなのだろう。
「まずはシンジ君が死んでしまったところから…」
やはりというか、俺は本当に死んだらしい。俺の死因は、疲労と急激な温度変化による脳出血だった。若いからって慢心していました、すみません。死んだことは悲しいが、自業自得なので何も言えない。
しかもデリヘリに送られた時にバスタオルは手に持っていただけで、丸出しだったらしい。オランウータンの長老には感謝してもしきれない。
「ここから少し難しい話になるけど〜、君は魔力にあてられたことで能力が発現したんだよ。地球には魔力がほとんど存在しないからね〜。」
「魔力?魔力ってあの魔力なのか!?」
今の状況も大概だが、魔力なんて言葉を聞いてワクワクしないわけがない。
「そうだね〜、シンジ君が思っている魔力でいいんじゃないかな〜。こうしてシンジ君の頭を覗いているこの【鑑定】も魔力のおかげだしね〜。」
その能力があるから俺の名前も考えも見通せるらしい。ただ能力にもレベルみたいなものがあるらしく、チャラ男の【鑑定】は特別級で神様だからこその能力だとか。
「なら魔法なんてのもあったりするのか!?俺も使えちゃったり、」
ピンポンパンポーン
急に、懐かしく感じる音が部屋に響く。
「な、なんだこの音?」
「すまないけど、後ろが詰まってしまって時間がないようだ〜。ここからは質問なしで、僕からのお願いを聞いてもらおうかな〜。」
「っ!?」
これも能力なのだろうか。手をかざされたと思ったら口が、声が出なくなった。それにしてもお願いとは何なのか。俺は死んだのだから、天国か地獄に行くはずなのだが。
「単刀直入に言ったしまうね〜。ある世界を救って欲しい。異世界転生というやつさ〜。転生といっても今の姿、知識を持ったままだよ〜。」
世界を救う?俺が?これには流石に女神とやらも驚いたようだ。
「シンジ君は天国も地獄も嫌らしいし、ちょうど良いと思ってね〜。」
確かにどちらも嫌すぎる選択肢なので、他の選択肢を与えてくれたことは助かるが、急に行ってらっしゃいと言われても不安でいっぱいなのも事実だ。
「あぁ、この子の紹介を忘れていたね〜。この子は僕の補佐の1人だけど女神だよ、見習いだけどね〜。そしてシンジ君に服を渡した子も補佐で天使という役職名さ〜。」
「ちょっと今はそんなこと関係ありませんよね!特に見習いの部分は要らないと思うのですが!」
チャラ男のサトウを店長と見れば、思った通りこの見習い女神はバイトリーダーだった。見習いのが付くのがどうにも気にくわないらしいが。
「関係はあるよ〜。君も一緒に行って、シンジ君のサポートをしてもらうからね〜。」
「え、嘘ですよね?」
俺と女神のいる床が光り出す。ご丁寧に口だけではなく、体も動かせなくなっていた。
「本気なの!?」
「後ろが詰まってしまってるからもう送るね〜。」
時間がないからと言って、ほとんど情報を与えずに世界を救えとか、この神様とやらは頭がおかしいのではないだろうか。せめて俺の能力くらいちゃんと教えて欲しい。
「話を!」
見習い女神も光る床からは出られないらしくジタバタしている。
「行ってらっしゃ〜い。」
「聞きなさいよー!!!」
サトウの「さようなら」と同時に俺と、見習い女神は青い光に包まれ、見習い女神の「聞けー!」の叫び声とともに目の前が真っ白になった。
ーーー直後の天界ーーー
1人残った神は席を立つ。
「ふぅ、また担当外の異世界に干渉しちゃったから始末書書かなきゃね〜。」
「ただ、おサボりの罰であの子も一緒に送ったとはいえ、時間がなくて何も説明ができてないことは申し訳ないね〜。でもお願いとはいえ、君の新たな人生、説明書もあらすじも必要ないよね〜。」
インスタントコーヒーの粉をお気に入りのマグカップで溶かす。
「シンジ君、君が全てを救うことを期待してるよ。」