第1章 こんにちは異世界 「摩訶不思議」
バッバッバッバッ
んん?うるさいなー。なんだこの音?人がせっかく座って寝てるっていうのに。
あれ、俺って寝てたか?風呂から上がって、ゲームの2周目をやろうと、ってこの音ってなんだかヘリみたいだな。まぁ、乗ったことないから分からないのだが。
まぁ、それもこれも目を開けて確認すれば良い話なんだが、何故か目を瞑っていた方がいいような胸騒ぎがする。開いてしまうと後戻りできないような、でも気にはなるし…。
えぇーい、まどろっこしい!いくぞ、せーので、せーので目を開けるからな。せー、
「Heaven or Hell?」
「いや、どういうこと!」
はっ、しまった。つい声が出てしまった。恥ずかしさのあまり素早く俯く。
だけど仕方ないと思う。色々頭が混乱していたところに、急にさらに謎の女性の声が聞こえたのだから。普通Beef or Chickenだろ。なんだよHeaven or Hellって、死んだ後みたいで不謹慎だな。
ゆっくりと首を起こし、勢いで開いた目で声のした方を見ると、摩訶不思議な光景がそこにはあった。
まず、俺の声に反応して振り向いたのだろう、翼を折りたたんだ状態の綺麗な女性と目があった。
「あ、起きたんですね。あなたの順番は、えっと…最後みたいなのでそのままくつろいでて下さい。でも着替えを持って来させるまでは、そのバスタオルで隠すところは隠しといて下さい。」
「へ?隠すところって、うおっ!」
何故翼が生えているのか、なんの順番だとか気になることはあったが、それよりも大事なところをバスタオル一枚でどうにか隠れている状況に驚いた。
そうか、思い出してきた。俺は確か風呂から上がる時急に意識が遠のいて、バスタオルだけは掴んだのだ。そこからどうなってここに連れて来られたのかは分からないが、少なくともここは人間のだけのための場所ではないようだ。
どうやらここは軍事ヘリのようなところで、なぜか様々な動物が、隣にも向かい側にも座って?いる。そして翼の生えた女の子は、その動物たちに色々と話を聞いているようだ。
何故会話ができているのかお前に分かるんだ、と当然の疑問を投げかけられそうなので先に言っておくが、どうにも俺も話が理解できるようだ。いや、頭のキャパはとうの昔に超えているから、これ以上負担をかけないで欲しい。もう頭が痛くて仕方ない。
進行形で女性と話しているのはニホンザルでその隣には、チンパンジー、ゴリラの順で並んでいる。進化の過程みたいだ。違うのは知っているけど。
それよりもニホンザルのもう片側の席はずらっと空席が並んでいるのだが、そこにはもともと居なかったのだろうか、それともまさか…。
小さな窓からは、今は雲の中を飛んでいるのか、白く何も見えなかったが、自分が機内から落とされる想像をしていると自分の近くの扉から全身真っ白な衣装の人が現れた。
「田中真司さんですね?」
なぜ俺の名前を知っているのか、そんなことが一瞬頭の中をよぎったが、どうすればここから脱出できるか、その扉の奥には何があるのかに意識は勝手に集中した。
「この扉はあなた様の準備が整うまでは開きませんので、どうぞお待ち下さい。」
そんな考えを見透かされたと思うしかないくらいの言葉に冷や汗が額を流れる。
「おい、ここはどこなんだ!それにこの状況を説明してくれ。えっと、あとなんで鼻と目と口の窪みだけがあって、あとは真っ白な仮面をつけてるんだ、あんたの着てる真っ白のタキシードに合わせてるのか?白過ぎて変だぞ。」
初対面の人に質問責めからの、急にディスりだすという自分でも頭のおかしいことをしている自覚はあるが、こんな状況なので許してほしい。後半は気付いたら口に出ていた。
「大変参考になる御意見をありがとうございます。すみませんが、私がお教えできることは、ここは今後の行き先を決める重要な場所であること、とだけは。今は落ち着いて、こちらの服を召された方が良いことだけでございます。では、失礼します。」
「お、おい!」
呼び止めを気にもせず、扉の向こうに消えていった。消えたという表現だが、扉の向こう側にいる気配がせず、本当にいない気がするのだ。
今後の行き先を決める…確かに白い奴はこう言い残したが、さっぱり分からないので、言われた通りに俺はもらった白い網かごに入った白いシャツと白いパンツ、白いジャージのようなズボンを着て、これまた白いサンダルを履いた。白過ぎだろ。
さて身なりも整えたし、再びここの情報収集を再開しよう。ゲーマーの勘だが、何か理解するためのヒントが隠されている気がする。本当なら歩き回って色々見て回りたいが、なぜか腰に巻かれたシートベルトがビクともしないので、座っているしかない。
一番気になるのは、もちろんあの女の子とゴリラの会話内容だ。女の子の声はあまり聞こえないが、ゴリラの方はさっきから『バナナ、バナナは必須だ!』とそんな感じに大声で言っている。
そして他の席にも座っている者がいて、リスザルとかボノボとか…サルばっかじゃん…。俺の隣はオランウータンだし。え、何だ、ここはサル限定の施設なのか?俺は人間と思い込んでいただけのサルなのか?
「ウホ!(Hell!)」
残念な想像が膨らみ、頭を抱えていると話が終わったらしくゴリラが立ち上がった、それもHellと叫んで。
状況が飲み込めず動向を見守っていると、例の扉の前に女の子が案内し、扉を開けた。
こちらからは扉の奥が見えないので、様子は窺えなかったが、あんな真剣なゴリラの顔は見たことがない。何かを覚悟したかのような顔だった。真面目な雰囲気の中、その威圧感でちびりそうになったのは内緒だ。
扉を潜ったのはゴリラだけで、女の子は扉を閉めて、次の順番なのだろうチンパンジーに尋ねる。
「Heaven or Hell?」