第0章 プロローグ 「らしくない」
初めまして、十 アムです!初めての作品ということで至らないところが多くあるかと思いますが、楽しんで読んでもらえるように頑張りたいと思うのでよろしくお願いします。
私はふと思う。この世界は弱肉強食だ。
チカラを持つ強者が弱者から何もかも奪い取る。これは種族間だけで起こることではなく同種族の中でも必ず格差が生まれ、弱者は食べ物、住む場所、最悪命を奪われることだってザラにある。
だが強者が悪いなんてことも思わない。自然淘汰されることでピラミッド型の食物連鎖のバランスは保たれ、今まで地球は生物を繁栄させてきたのだから。ただ人間が物理的なチカラを捨て、頭脳というチカラを発達させてからはそのバランスも崩れてしまったが…。
もちろん私なんかがこんなことを考えても世界のバランスは治らないし、繁栄の蜜を吸っている身としてはこのまま平和に生きていきたいものだ。
そしてふと考える。昔は弱者だった人間も今ではもはや敵なし状態だ。だが仮にも、もしその存在を危ぶませる敵が現れたのなら、今度も人間は繁栄を勝ち取ることができるのだろうか、それとも弱者としての位置付けになってしまうのだろうか、それとも…
そんな冒頭で始まるラノベを閉じる。大人気でアニメ化も決まったということで、内容も確認せずに買ったのだがまさか重たい系のSFものだとは思わなかった。
好みとしてはコメディー系異世界もので、もちろんハーレムがあればなお良しだ!だが、最近たいした過程もなく主人公にまとわりつくヒロインが多すぎるような気もする。
そろそろ自己紹介をしよう。
俺の名前は田中真司。
素っ気ない紹介で申し訳ないが、17歳の性別は男、身長は170くらいで中性的な顔をしているらしい普通の高校2年生だ。特に不満なことはなく、平凡な生活を送っている。
ただし、中学のころは高校生になれば簡単に経験できるであろうと思っていた、いわゆる大人になるための重要なステップが未だに踏めそうにないのは緊急に会議が必要な案件だ。
そんな高2の冬休みの今日、大寒波が日本列島を襲った。小説を閉じてカーテンから顔を覗かせると、比較的温暖な地域で知られている俺の地元でも雪が降っていた。
翌朝、いくらか降り積もっている雪に、男の子だからであろうか、高校生になった今でもなんとも言えないワクワク感を抱きながら、俺はある目的のために真っ白な絨毯に足跡をつけながら歩いた。
それは予約済みである待望の新作RPGの入手である。そしてこのタイミングで両親は旅行中…駆け抜けてやるぜ!
幼少期からゲームは好きで、その頃から続いているシリーズの最新作の発売日が今日なのである。予約した店は徒歩15分ほどのところにあり、雪を楽しむのもそこそこに早歩きで買いに急いだ。
散歩中の犬も雪は珍しく、いつもの散歩よりも楽しいらしい。飼い主よりも雪の不思議に夢中だ。
無事にゲームを入手後、帰宅途中にあるコンビニで食糧を手に入れ、家に向かう。今度は野良猫を見かけたのでパンを少しやったが、残念ながらご飯派だったらしい。不満そうな顔で去って行った。
なんで不満そうなのがわかるのか?そんな疑問を持つかもしれないが、なんとなく分かるだけだ。
昔から動物の考えていることがなんとなく分かってしまうので、人間よりもはるかに正直な動物に戸惑うこともあるが基本好きである。
家に着くと足早に自室に入り、ろくに効かない暖房のなか、冷え切った自室にこもってゲームをやりまくった。
全クリをして、初めてセーブした。俺には中断という手は存在しなかったらしい。気付いたら2徹しており、疲労はかなりのものだ。
寒波はまだ続いてるらしく、外はまだ真っ白だ。凝り固まった体をほぐし、疲労回復と寒さに冷えた身体を温めるために鼻の下まで湯船に浸かった。自分的にはまだ臭くなかった、自分的には。
(あー、疲れた。結局駆け抜けて、一気に全クリしちゃったよ。今回のはグラフィックが綺麗になって、モンスターとの戦闘も激しくて良かったな。
しかしながら主人公はよくあんな巨大なモンスターと戦えるよな、自分が戦わせてるんだけども。
モンスターと戦うゲームをして毎度毎度思うけど、自分がもしモンスターと戦うとしたら絶対に魔法か弓の遠距離攻撃だろうな。自分がビビりなのはよく知ってるから、近接武器で勇ましく戦うなんて俺らしくないのはよく分かっている。剣なんかモンスターとの距離が近過ぎて、絶対腰が抜けて産まれたての子鹿みたいになる気がする。
それにゲームの世界の住人が戦えるのはまだ分かる。だって産まれた時からモンスターがそこにいて、そいつらと戦うのが常識としてその世界にあるだろうから、けど、ラノベみたいに異世界に飛ばされて、すぐに戦えるのは百歩譲っても納得できん。
設定では俺と同じ日本人だよね?日本人の中の戦闘民族とかでもないよね?それなのにモンスターとの戦いをヒャッハーと楽しめるのはおかしい。俺なら無理だ、自信がある!)
(… それにしても、風呂がこんなに気持ちよく感じるなんて久しぶりだな、気持ちよすぎて溶けそう。でも行けることなら異世界に行ってみたいなぁ。〔あ、溶けそう〕もちろんチート能力で無双して、〔体に力が…〕色んな女の子と仲良くなって、〔溶け…〕勇者なんて呼ばれたり、あ、でも有名になるのは、いや、だ、なぁ…。〔気持ちいい〜〕)
ブクブクブクブク…。
「ブハッ!ハッ、ハッ、はぁ…。」
危ない危ない、風呂の暖かさが気持ち良すぎて溺れ死ぬところだった。しっかりあったまったことだし、そろそろ出るか。体もほぐれて、意識もはっきりしたし、世界を救った後は気持ちが良いな!
「よっし、これから2周目に入りますか!」
なんたって今作は途中で、2人の仲間美女から嫁を選ばなければならず、片方とはお別れしてしまったのだ。片方はツンデレ、もう一方はヤンデレと設定が濃かった分、思い入れも強くどちらのストーリーも味合わなければ気が済まない。
このドアを開けば、再度俺は世界を救う戦士となろう!
ガララッ
「はうっ!」
冷たい空気に触れた瞬間に、頭に激痛が走る。頭痛なのだが、脳を直接殴られたかのような。経験したことのない痛みに立っていられず、思わずその場に倒れ込む。何が起こったかのかと焦る心とは裏腹に、頭の中はどうでもいいことを考える。
(意識が…せめて、バスタオル、だ、け、でも…。)
始まってしまった、作者が自分で自分の首を締めていく物語が…。
皆さんは寒い冬のヒートショック現象にはお気をつけてお過ごし下さい。
意見、感想などがあればどんどん聞かせてください。