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二話 平凡な女子高生

「ねぇ、昨日のドラマみた?」

「見た見た!鶴有くんの演技チョー良かったよね!」

「えー?そこは竹本くんっしょ!」


なんてクラスメイトが話に花を咲かせているが私はそうなんだー、とか適当に相づちを打つだけ。だって、そのドラマ全然興味なくて見てないから。見ていなくても周りに馴染むように、浮かないように無難に立ち回る。かわいくもない。かといって頭の方も良いとは言えない私に出来るのは【波風を立てない】努力をするくらい。

もっと突出した何か、胸を張って誇れる何か才能があれば。或いは得意なことを死に物狂いででも作って掴めるよう頑張れば良かったなぁと前はぼんやりと思ったこともあったけど今の私がまごうことなき素の私なんだから仕方ない。せめて今をつつがなく過ごせるように。ちっぽけな私の精一杯であり、またささやかなモットーなのだ。




「はー、今日も一日私なりによくがんばりましたっと」

放課後、友人と別れてから大きく伸びをして、自分を誉める。

自分で自分を誉めるとか空しくない?という突っ込みはナシでお願いしたい。誉めないと毎日やってられないって。褒めた結果僅かでも心が潤うんだから究極のエコでしょ。そうに違いない。

あ、そうだ。心の潤いといえば。

「今日金曜日じゃん。あそこ行こうっと。あの店に行くのも貴重な心の潤い補給ーってね」


あの店というのは、

「お邪魔しまーす」

「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。今日も可愛い雑貨、揃っていますよ」

「わぁ....素敵」

雑貨屋【みずいろめがね】。

かわいらしい看板に毎回胸踊らせて、これまた私好みの質感とデザイン(色も私の好みにドンピシャなのだが、これ以上言うと生暖かい目で見られそうなのでやめておく)のドアを開けると美人の店主さんと様々な魅力溢れる雑貨たちが歓迎してくれる。ここを心のオアシスと言わずなんと表すというのか。

ああ。出来ることならずっと店に入り浸っていたい。それか商品が入る度にお買い上げして家で愛でていたい。

しかし悲しいかな二つとも願いを叶えるのは不可能なので、せめて決まった曜日に店を訪れて金銭的な余裕がある時だけ何か気に入った雑貨を買うことにしよう、というわけで。毎週金曜日には決まって店を訪れている。現在絶賛心の潤い補給中。最高。あー生きてて良かった。


「店主さん、何かオススメってありますか?」

「本日のオススメは....そうですね、このペンダントなんて如何です?お客様によくお似合いなのでは」

「えっ!?この細かさで、この完成度の高さでこの安さなんですか!?買う!買います!買わせてください!」

店主さんからオススメされたペンダントは、綺麗な赤色の石が品よくあしらわれたシルバーチェーンのペンダント。媚びすぎず、控えめすぎずという素晴らしい造形美。おまけに私のお財布の中身でも十分お釣りがくるというのだから買うしかないだろう。

「ふふ、そんなに気に入って頂けて何よりです。お買い上げありがとうございました。またいらして下さいね」

「ありがとうございました!また来ます!」



「はああー....」

家に帰るなり恍惚の表情での溜め息。余韻に浸りたくて即刻自分の部屋にこもる。家族に不審がられたのも気にならないくらい今の自分は満たされていた。

「今日の買い物は当たりだったな。早速開けてつけてみよ....ってあれ?」


ぽろり。


ペンダントが入っていた袋から何かペンダント以外の物が零れ落ちる。

「これは、種?にしてもずいぶんカラフルだなぁ」

もしかすると店主さんがこっそりオマケでつけてくれた物だろうか。色は摩訶不思議だけど形はひまわりの種に似ている。


「心の潤い補給にガーデニングも追加....うん、いいかも!」

思い立ったが吉日。何の花が咲くか興味津々なのか親も興奮気味に了承してくれ道具も揃い、数日後無事に種を育てる準備が整った。

「土を入れてー、種をまいてっと。水も如雨露でやって....これでよし!やばい私ガーデニングのプロになれるかもしれない」

なんて戯れ言を言いつつも平凡な私の日々は過ぎてゆく。

種から芽が出て、成長していくにつれ種の正体への推測とある【記憶】が過るのは自分の気のせいではないと思いたい。

やがて真っ白な 花が咲く。


(もしかしてこの種って...この花って、月下美人?)

月下美人。一日しか咲かない儚い花。朧気に形に見覚えがあるのはまだ赤ちゃんだったころに一度もう亡くなった祖母と見たことがあった....からのような。


――綺麗ねぇ、素敵だねぇ

――まっしろでつやつや、○○ちゃんみたいやねぇ


祖母は私が産まれて二、三年で亡くなった(らしいと両親から聞いた)背景もあり忘れていたのも無理からぬ話。なのに今は


涙が溢れて、溢れて、わけがわからないくらい溢れて、止まらない


月下美人の種ってカラフルな色と形だったかな?

ささやかな疑問など、頭から消えたまま。





数日後。雑貨屋【みずいろめがね】にて。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ。ずいぶん荷物が多いですね。どうされました?」

「実は、今日はお別れとお礼の挨拶に伺ったんです。隣町に引っ越すことになりました」

「それは....ずいぶん寂しくなりますね。お客様はこの店の常連さんですし、楽しそうに雑貨を選ぶ素敵なお顔が印象に残っています」

「店主さんには本当に感謝しても仕切れないです。この間のペンダントと種もありがとうございました」

「ふふっ、種はお楽しみ頂けましたか?」

「ええ。実は祖母のことをあの種がきっかけで詳しく思い出したんです。隣町には祖母の墓があるので....落ち着いたら挨拶に行こうと思います」

「そうですか。それは良かった。またこの町に来ることがあったら寄っていって下さいね」

「もちろんです!あっ、家族を待たせているので....名残惜しいですが、失礼します」

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」








「ニャー」

「ああ、もうご飯の時間か。少し待っていてくれ」

「ニャァン」

「何?どうしてお客様にこっそり種を渡したか?あのお客様なら悪いことは起こらなそうな気がしたからだよ」

「ニャァン?」

「理由?強いて言うならカンというやつだ、そう、カンだ。ほら、ご飯の用意が出来たぞ」

「ニャー」

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