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九話 雑誌記者の女性

「ええっ!?売り上げアップ間違いなしと言われてたグルメ企画が、ポシャッてなくなったぁ!?」

「ああ、忌々しいことに他社からもっと好条件を出して頂いたので残念ですが今回は....だと。ったく、そういうのはもっと早く言えよなー。構想練ってゲラ刷りする寸前だったっつーの」

「じゃ、じゃあウチがもっと好条件を出せば」

「お前なぁ、それ本気で言ってんのか?ウチの経営状況、知ってんだろ。常にギリギリ。これ以上好条件出すのは無理だ。諦めろ」

「そ、そんなぁ~....じゃ、じゃあこれからどうするんです!?」

「まぁ、全く策が無いわけじゃない。そこで、だ」

「そこで....何ですか?」

「お前、町内の都市伝説を集めてこい。出来るだけ怖いやつな。目ぼしいものがなければ作れ。怖いもの見たさに買う客が増えるだろ。提出期限は長めに取っといてやる」

「都市伝説....うう、怖いのは苦手なんですよぉ~....それに捏造はちょっと....」

「ガタガタいうな。ほら、行ってこい!」

「ひえぇ~」


大大大大ピンチ、です。

わたし、ドラマで見た雑誌記者さんに憧れて出版業界を目指して、なんとか小さな出版社さんに就職することが出来ました。

お仕事はとーっても楽しくて、上司や同僚の皆さんとも切磋琢磨して日々過ごしています。やっぱり出版業界を目指して良かったです。なのになんでよりによって大大大大大~の苦手な怖い企画をわたしがやることになったのぉおお!?

「無理だよぉ~....うう、断れるものなら断りたい!やだやだやだ!なーんて言っても仕方ないし、実際断ったら編集長の雷飛ぶの間違いなしだよね....それはそれで怖い!想像するだけで泣きそう!仕方ない....まずはよく行く定食屋さんに聞いてみよう....収穫なくても頑張ったねって誉めてほしいなぁ....誰にって言われたら困るけど....」

行くよ、がんばる。....本当にやるしかないのかなぁ、なんて未練たらしく嫌ですオーラを一人で出しつつ取材準備はしっかりします。なんだかんだ押しに弱いんです、わたし。さあ、覚悟を決めるのよ。がんばれわたし。できるぞわたし。明日は大好きなティラミスを食べよう。自分へのご褒美にするんだ。




「え、白装束の女の人が映るカーブミラー!?」

「ひぃっ、車で通過したら血の手形がつくトンネル!?」

「いやぁあっ、子供の幽霊が見える廃校!?」

――もう噂だけで倒れそう。

「なんなのもおおおぉ、この町って、町全体が心霊スポットじゃないのってくらい怖い噂だらけなんだけど!一つ一つ書き留めて検証....するんだよね。思ったより長期間になりそう。うぇえ....」

頭がショートしそう、というか、してます。今日は十分に情報収集したよね。既にめげそうだよ....癒しを補給しなきゃ。(明日はティラミス食べること決定だけど明日は明日、今日は今日だ)そうだ、いつもの雑貨屋。あそこなら沢山癒し補給できるかも。すぐ行こう。もちろん都市伝説取材はナシで!



――カランコロン

「店主さん、こんにちは」

「いらっしゃいませ。いつもご来店ありがとうございます。今日は何をお探しですか?」

雑貨屋【みずいろめがね】。アクセサリー好きにはたまらない品物の数々が売られているお店です。(他にもアンティーク雑貨とか色々売ってますよ!)私もアクセサリー大好き!今持っているアクセサリーの殆どはここで買ったものなんですよ。この間買ったクローバーの形をした石がついてる指輪、休みの日には必ずつけるくらいお気に入りです。今日は何を見ようかな、買おうかなあ。

「うーんと、ブレスレットとか指輪の新作ってありますか?」

「新作ですと、こちらの指輪は如何でしょうか?群青色のストーンがアクセントになっております」

「うわぁ....綺麗!」

家にある青いワンピースと相性ばっちりな予感!きました、癒されゲージがぐんぐん上昇していきます!大収穫です!ここに寄って正解だったなぁ。私もだけど、リピーターが多いのも納得。良い感じのアクセサリー探してる友達にもこのお店のこと教えてあげなきゃ。きっと喜んでくれるはず。

「じゃあ、下さい....あれ?」

何気なく普段は目に入りづらい高さの棚を見る(身長が低いもので....か、悲しくなんてありません!....ちょっと嘘ついちゃいました)と、珍しそうな商品が目に入ります。

「あのカラフルな種は、何ですか?」

「あれはフォーチュンシード、という不思議な種です。興味深い運試しが出来ますよ」

「へ?運試し....って、どうやって?」

「フォーチュンシードは育てれば通常の植物と同じように花を咲かせ、実を結びます。ただし何の花が咲くのかは解らない。全てはお客様次第。....信じるかはお客様にお任せします。あちらも購入されますか?」


キター!指輪に引き続き収穫、きました!わたし、怖いものは大嫌いですけど占いは大好きで、血液型占いとか星座占い、その他もろもろ全面的に信じてます。趣味でタロットもやってるんです。自分のことだけじゃなくて、上司や同僚の人たちのこともたまに占ったりしてます。お遊びの一環ながら面白いって好評なんですよ!えへん!

そんなわけで、植物を使った運試しも信じちゃう!なんて素敵!何が育つかわからないなんて夢があるじゃないですか!メルヘンチックでわたし、きゅんきゅんします!あっ、都市伝説....のうちに入るのかな?これも。なら、尚更買わなきゃ、ですよね!

「買う!買います!指輪とフォーチュンシードひとつ、ください!」

「ふふ、ありがとうございます。....丁度頂きます、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」




「えへへへぇ....」

帰ってきていきなりの間の抜けた笑い、失礼しました。でもでもっ、笑っちゃうのも仕方ないと思うんです。だって怖い思いを忘れちゃうくらい、嬉しかったんだもの!....お隣さんに聞かれていたらどうするのか、ですか?はうっ、確かに家は壁が薄いマンションですけど大丈夫....なはずです!希望的観測!

「明日が休みで良かったぁ、新しく買った指輪、追加でつけていこう。そうそう、種も鉢に植えとかないと」

鉢も、スコップも、如雨露も、土や肥料も気合い入れて選んできました。土を入れて、種を植えて水やりして....と。

「かんせーい!どんな植物が育つかなあ....楽しみだなぁ♪」


日にちは過ぎて――


「わぁ....!綺麗な花!」

ピンク色のコスモスに似た花が、咲きました!(細かい部分が違うのでやはりフォーチュンシードが咲かせる花は自分だけの花です!)

私だけの花なんだ、世界でここにしかないんだ!

「大事に大事に育てなくちゃ!っと、いけない。そろそろ出社の時間!」

慌ててパンとスープを胃におさめつつ、会社へダッシュです。今朝はお花を見るのに夢中だったのと、日課のタロット占いをしていたら出発が遅くなってしまいました。

「間に合ったぁ~!おはようございます!あっ編集長、今日は火傷に注意、だそうですよ」

「おう、おはようさん。何だぁ?火傷に注意って。またお前さんお得意のタロット占いか。はは、ずいぶん具体的だな。わかったよ、気を付けとく」


――編集長!避けてくださーい!

「ん?一体なんだって....おわっ!?」


――ガッシャーン!

「あ、危ねぇ....間一髪」

「す、すいません!朝礼前に皆さんにお茶を、と思って配っていたらよろけてカップが飛んでしまい....編集長、火傷や怪我などされていませんか?大丈夫ですか?」

「あ、ああ。俺は大丈夫だ」

「良かった。直ぐ片付けますね」

「....火傷に注意、ね。....お前さんの占い、当たりだったかもな」

「びっくりです....」


それからというもの、社員の皆さんのことを占ったら結果がことごとく的中。中には結婚を私が言い当てて、寿退社した社員さんもいらっしゃいました。今では社員の皆さんがこぞって私の占いを朝一番に聞きにきます。前まではこんなことなかったのに。これもフォーチュンシードの力かも?





数ヵ月後。雑貨屋【みずいろめがね】にて。

「いらっしゃいませ」

「あのー、あそこに並んでるオレンジのリング、ください!」

「畏まりました。少々お待ちください、取ってまいります」

「お前、オレンジのものなんて普段つけてたっけ?」

「ううん。でも雑誌でオレンジのものを身に付けるといいって書いてあったから」

「占いねぇ。当たるのかね、そんなの」

「あー、信じてないな?また雑誌貸したげるよ。当たるんだから」

「お待たせしました。こちらでお間違いないでしょうか」

「はい、ありがとうございます!お代金こちらです」

「――円お預かりします。――円のお釣りです。....ありがとうございました、またお越し下さいませ」

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