第二話
情戦特区の人口は約三百万にも達し、その半分以上が学生。後の三割が何らかの形で学生に関わる仕事、二割がその他に該当する。
人口に比例するように面積もそれなりだ。中心街のある第八地区の他には研究施設やその他の関連施設が立ち並ぶ第七地区や住宅街の多い第二地区、その内第五地区と第六地区は学業関連施設が多く立ち並ぶ。
ちなみに千詠の研究室は第七地区に存在している。遊祉の通う嬰堂学園高等部は第六地区にあるので一々移動が面倒なのだが、千詠は学生が多く人通りも多い場所を嫌う為に第七地区に研究室を置いている。頻繁に通う必要のある遊祉にとっては迷惑な話である。
モノレールに乗って移動する遊祉の目的地である執行部第九支部は第五地区にあるそうだ(場所は千詠が教えてくれなかったので遊祉が適当に調べた)。モノレールと徒歩で一時間程。
目的地である執行部第九支部はビルの三階に居を構えていた。二階は会計事務所で四階は空き部屋だ。盾をモチーフとした紋章が執行部である事を主張している。
三階の入口にはかろうじて『執行部第九支部』と書かれた縦看板が置かれている他は下請けの中小企業の事務所という感じだった。垢抜けない感じが、とてもではないが情戦特区のエリートが集まるとされている執行部とは到底思えない。
看板の横には専用の認証機械が設置されていた。隣には旧式の呼出機。これが受付の代わりであるらしい。
「失礼します」
呼出機のボタンを押しつつ呼びかける。暫くすると女性の柔らかい声色で返事が返ってきた。
「はい、こちら執行部第九支部です。どちらさまでしょうか?」
「天上院千詠先生の紹介で来た新戸遊祉です。お話は聞いていないでしょうか?」
「天上院……、ああ、聞いてますよ。どうぞお上がりになって下さい」
呼出機からそう聞こえた途端、入口のドアが開く。遊祉は中に入った。
「こんにちは」
遊祉を出迎えたのは物腰柔らかそうな、朗らかな女性だった。とても可愛らしい笑顔を浮かべ、ほんわりとした雰囲気が感じられた。黒髪の長い髪をピンク色のシュシュを用いて一つのお団子状に纏めている。制服の下には女性らしい大きな膨らみ。こんなのが学校のマドンナと言われるのだろうか、と遊祉はそう思った。
「ようこそ、遊祉君。私は久慈川 真理。ここでは副会長を務めているわ。今日から宜しくね」
「宜しくお願いします」
差し出された手に応える遊祉。にこにこ、と笑顔を崩さない真理に遊祉は関心してしまう。
「じゃあ奥へ行こうか。会長が待ってるわ」
そう言って真理は奥へと進む。遊祉もそれに続いた。
中は外見の通り雑多なオフィスビルと言う感じだった。一角にソファーとテーブル、机と数台のパソコン、そして書類が山積みにされている机もあった。
真理が一角の机の前で唐突に止まった。遊祉もそれに習い止まる。
「深義会長、新戸遊祉君が来ましたよ」
真理が机の陰に向かって呼びかける。するとガタリ、と物音が鳴った。机の裏から唸り声が聞こえ、そこから現れたのはまるで刈り入れ時期の過ぎた小麦のようなくすんだ黄土色のボサボサ髪に、デカく目立った銀色のわっかのイヤリングを付けたホームレスのような男だった。
はだけたシャツの下には細身の身体が見えていて、ますます不真面目な印象を遊祉に与えた。三白眼がぎょろり、と遊祉を捉えると申し訳程度に右手を上げて笑みを作った。
「よお、お前が天上院教諭の教え子って奴か。よく来てくれた」
男は下から上までゆっくりと遊祉を眺める。
「執行部に来る奴がその格好か、……ふーん」
恐らくは遊祉のそのチャラけた不真面目そうな格好を言っているのだろう。
(やっぱ注意されるか。まあ駄目なら駄目で良いだろう)
遊祉はそんな風に気軽に構え、これから言われるであろう小言に備えていたのだが、会長であるらしい男は立ち上がるや否やツカツカと歩いてきて、遊祉の肩をバンバンと叩いた。
「いてッ」
「その格好……ふむ、実に気に入った!」
「……はあ」
男は遊祉の微妙な表情などお構いなしとばかりに笑った。
「型に嵌らない、そのパンクな精神! 執行部という場所に校則をぶっちぎりで破っているであろうその格好でやって来る勇気! ふむ、実に俺好みだ! さすがは天上院教諭の担当生徒! 面白そうな奴じゃないか」
「ちょっと深義会長! そこは注意する所じゃないですか」
呆れた様子で真理が肩を竦めた。しかし深義会長は悪びれること無く、かぶりを振る。
「俺たちの仕事は飽くまでも行き過ぎた生徒の取り締まりだ。校則を守らせることは俺たちの仕事の範疇にない。遊祉、他の執行部なら問答無用でつまみ出されるところだったが、うちなら大歓迎だ。良かったな、会長が俺みたいな怠け者で」
「は、はあ……」
「ごめんなさいね、遊祉君。深義会長はこんな人でして……、出来れば学校の校則に従って規律ある格好をして欲しいのだけれど……。まあ、飽くまでも原則って事で、強制ではないから。その辺は貴方の自由意志に任せるわ」
「と言う訳だ、遊祉。執行部だからと言って変に息苦しく感じる必要は少しもない。あくまでもフランクで居てくれよ」
男はかか、と笑って元の席に戻った。
「俺の名前は深義 憩心。高三だ。どちらかと言えば働かない方の会長で、第九支部の連中には随分と助けられている。その辺はありがたい事だが、ここの連中は優等生だけあって、そこに居る真理同様に硬くていけねぇ。その辺、お前みたいな奴が入ってきてくれて嬉しいぜ。お前とは気が合いそうだ」
「深義会長。遊祉君にあんまり変な事教えないで下さい」
「ほらな。こいつは優しそうな見た目だけど俺には結構厳しいんだ」
「それは会長がいつもてきとうだからです!」
そう言って真理はぴしゃり、と憩心を叱る。
(この人が本当に執行部の会長なのか……。さすがは千詠先生の知り合いと言う事か)
遊祉はそんな風に妙な納得を覚えた。
「さて。早速だがお前には俺らの仕事を手伝って貰おう。天上院教諭から話には聞いていると思うが俺らは人手不足だ。現在の執行部メンバーは会長である俺と副会長の真理に加えてあと三人。その内二人は出払っているんだが、一人はそろそろ帰ってくる。まあ計五人だな」
「五人、ですか」
「そう。お前を加えて六人目」
憩心は遊祉を指しつつ、言う。
これが少数精鋭からのメンバー構成か、はたまた単純に人材が不足し過ぎている所為なのか。それは遊祉にはあずかり知らぬところだが、どちらにしろ千詠もとい遊祉に助けを求めるくらいだから手が回っていないのは確かなのだろう。
「そんでお前には見回りの人員と書類整理に加わって貰おうかと――――」
「失礼します」
説明する憩心の声を遮って支部に姿を見せたのは少年――かと思いきや見た目がボーイッシュな女の子だった。
一見男の子に見えたのは彼女がショートカットで、更には体躯が小さく体型に凹凸が少ない幼児体型であったからだろう。それでも女の子だと分かったのは制服を着ていたからだ。袖の短いワイシャツと胸元に付けた水色のリボンが爽やかで明るい印象を与える。チェック柄のスカートは膝下まで伸びていて彼女が模範的な生徒である事がすぐに分かった。
女の子は遊祉を見るや否やキッとその大きな目で睨みつけた。童顔で背が小さい為に迫力には欠けるが、視線に込めた敵意は遊祉は元よりその場に居た全員に伝わった。
「やっぱり貴方だったんですね――――ニート先輩」
「お前は……志燎か」
遊祉はこのちんちくりんで生意気な少女を少なからずとも知っていた。
「お、何だ知り合いか? やけに親密そうじゃないか」
「止めて下さい、深義先輩。私はそこの軽薄そうな方とは親密でも何でもありません。むしろ敵視しています。敵同士です」
「だって渾名で呼んでいるじゃん」
「ニート先輩という呼び方は私の敵意と拒絶の表れです! 生涯相容れることの無いという意思の具現です! 私はこの人が大ッッッ嫌いなんです!」
少女は眉間の皺を更にキツくした。少女から本気の嫌悪が伝わってくる。
それを見て遊祉は困ったように頭を掻いた。この少女、志燎 涼穏とは以前、ちょっとしたトラブルを起こした際に知り合った仲だった。
しかしそのトラブルのお陰で遊祉は彼女に嫌われる事となってしまったという訳だ。
『ニート先輩』と言うのはその時の名残だ。新戸の呼び方を変えて『ニート』。先輩はまだ中学三年生である彼女なりの気遣いなのだろうか。恐らくは彼女自身、例え嫌っているとは言え年上には一応の敬いを見せているのだろう。なんとも真面目で融通の利かない少女である。
(それにしても……、そうかも知れないとは思ったが、本当にこうなるとはな)
遊祉は涼穏との浅からぬ縁を感じて、肩を竦めた。
彼女が執行部である事は以前から知っていたが、第九支部である事など知らなかった。本当に運命とはそら恐ろしいものである。
「深義先輩!」
遊祉が神の采配に思いを巡らせる最中、涼穏は机に座る憩心に詰め寄った。
「前にも言いましたよね! 私はこの人の執行部入りに反対だって! 例え手伝いの立場とは言えこの人、クラスⅠですよ! 【パープルユーザー】です! こんな人がここに入って役に立つなんて到底思えません!」
遊祉に向かって指を刺す涼穏。その物言いはあまりに正論過ぎて何も言い返す事が出来ない。
いや、そもそも言い返すつもりなど遊祉には毛頭無い。これで執行部で働くなんて面倒事が有耶無耶になってくれれば遊祉にとっても万々歳だ。
しかし、飽くまでも笑顔を崩さぬまま憩心は涼穏へと向かう。
「まあまあ。落ち着け、涼穏。それに遊祉の執行部入りを取り消すのはもう難しい事だ」
「どうしてですか!?」
「書類は提出しちゃったしな。それに俺は取消の申請をする気もない」
「だからどうしてですか!? その理由を聞かせて下さい!」
「理由か。まー、色々あるが、強いて言うなら俺が役に立つと思ったから置いている。それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「だからそれを聞かせて下さいと――――」
「落ち着いて、涼穏ちゃん」
ここで趨勢を見守っていた真理がフォローに入った。
「ごめんなさいね、涼穏ちゃん。でも深義会長の言う事にも一理あるのよ。一度申請の通った書類を取り消すには面倒な処理を必要とするわ。それよりも遊祉君には遊祉君の出来る事をやって貰った方が良い。深義会長はそう言いたいんじゃないかしら」
「ああ、成程。俺はそう言いたかったのか」
かか、と会長が他人事かのように笑った。それを見て涼穏の表情が更に険しくなる。
「深義会長」
それを見て真理が注意を促す。憩心は右手をひらひらと振った。
「もう! ……貴方の言う事も分かるわ、涼穏ちゃん。けれどね、例え貴方達に何かしら事情があったとしてもユーザークラスで差別するのはよくないわ。ただでさえ情戦特区はそういう事が問題になり易いんだから。それを取り締まる側である私達がそう言う事を口にするのはきっとよくないわ」
「いや、えっとその、私だってユーザークラスで差別なんかしません! ……けれどこの人は特別で、その……」
「ごめんなさいは?」
「……すいませんでした」
涼穏は遊祉に向かって頭を下げた。その表情は納得いかない、とばかりに頬を膨らませていたが。
「よろしい。あとね涼穏ちゃん、遊祉君と私達はこれから一緒に働く事になるのよ。遊祉君の素行に問題が無い事は天上院教授によって証明されているし。だからね、ここでは出来る限り普通に接してくれると嬉しいわ」
千詠の言う事を真に受けるのはどうかと思うが。遊祉はそう思ったがここでは口に出さない。
「…………」
涼穏は無言のまま五秒ほど瞑目した後に口を開いた。
「……分かりました。久慈川先輩がそう言うならそれに従いましょう。しかしニート先輩、私は貴方の事なんて絶対に認めませんからね」
「涼穏ちゃん」
「う……すいません」
涼穏は真理の指摘を受けて目線を外側に向けた。
「ごめんね、遊祉君。涼穏ちゃん、根はすっごく良い子だから許してくれると嬉しいわ」
「いえ、元は俺のせいですし。それに別に気にしませんし」
「そうか、それは良かった。お前ら二人にはチームを組んで動いて貰わないといけないからな」
憩心はぽつりとそれがさも当然であるかのように、聞き捨てならない事を言い放った。
「え? あの、どういう事ですか?」
「あれ、言ってなかったか、涼穏。お前と遊祉、二人にはチームを組んで動いて貰う」
「何言ってんですか!」
冗談じゃない、と言わんばかりに涼穏は激しく首を横に振る。
「それ、本当なんですか?」
遊祉もこればっかりは口を挟まずには居られなかった。
執行部で同じ活動をするのは構わないが、チームを組むとなると……。
遊祉は兎も角として涼穏が猛反対することは想像に難くない。
「冗談じゃないですよ!」
想像通り涼穏は頑なな拒否を示した。
「私がニート先輩とチーム? そんなの無理ですよ! そうでなくとも私はこの人が嫌いなんです! それにとてもじゃないですが、この人が私のサポートを出来るとは思えません!」
「でも涼穏ちゃん。私達執行部は正式な活動の際、出来る限り二人で動くように指示されている事は知っているわね? ここでは貴方だけ、チームが決まっていないの」
「いや、えと……久慈川先輩は」
「私は会長の補佐を勤めないと。会長は仕事が沢山あるからとてもじゃないけれど他の仕事を受け持つ事は難しいし。それに他二人は二人でチームを組んじゃっているから」
「で、でも……」
「しかしな、涼穏。お前は企業との専属契約が出来るほどの優秀なプログラマーだろ。バランスを考えたらクラスⅠの遊祉とチームを組むのは当然じゃないか。なあ?」
「志燎が『専属企業契約者』?」
遊祉はぽつりと疑問を口にした。
『専属企業契約者』とは戦術プログラムを専門に扱う『企業』と呼ばれる業者と個人的に契約を結んだプログラマーのことである。
情戦特区にいる学生は講義での配布が無い限りは自身でプログラムを用意しなければならない。しかしながら戦術プログラムの入手はそう簡単ではないのだ。
戦術プログラムの入手には二種類の方法がある。自分で構成、作成する。もしくは人から貰う、買うかのどちらかだ。
自分で戦術プログラムを作成出来るならばそれで良い。だが自分で戦術プログラムを、あるいは実践的な戦術プログラムを作成するのは容易な事ではない。情戦特区で戦術プログラム構築に関する講義を幾つも受けて研鑽を積み重ね、それでいてようやく正常に動作する戦術プログラムを作る事が出来る。
それも実践的なプログラムとなるとより専門的な知識が必要となってくるのだ。
戦術プログラムの作成には大きく分けて二つの工程が存在している。
【構築】と【デバック】である。
【構築】とはそのままの意味だ。『IERA』と呼ばれる専門的なプログラミング言語で記載された命令記述を元にして『順次実行』『条件分岐』『反復』処理を行うスクリプトを作成する。
一方【デバック】は構築したプログラムにバグが無いかを確認する作業だ。戦術プログラムは通常の意味でのプログラムと同様にバグが発生する事が多々ある。それが無いかを確認するのがデバックである。
このデバック作業を疎かにするとプログラム起動中にフリーズを起こしたり、酷いものであればプログラマーのメモリを破壊してしまう症状【過情報化識失症】を発症してしまう危険性すら有り得る。
つまるところ素人が下手に戦術プログラムを作成するのは危険性が伴うのだ。当然ながら戦術プログラムの既製品自体を買うのでは無く、その骨組みなどを買って必要な部分は自身でプログラムすると言ったプログラマーも多いが、既製品自体を買ってしまう者も勿論多い。
そんな中、企業が専属企業契約を行うメリットは言わば実験台の側面が強い。
実のところ、戦術プログラムを構築する者、『情報技術技能技師』――『戦術エンジニア』は戦術プログラマーでない者、つまりメモリ開発を受けていない者も大勢居る。
こう言った技術者にはメモリ開発を受けた者、中でもメモリの高い優秀なプログラマーの協力者と言うのが必要不可欠なのだ。
よって優秀なプログラマーと専属の契約を結ぶ事で試作段階にあるプログラムを使用して貰いそのデータを収集する。転じて言えば専属企業契約者とは企業と個人で契約を結べるほどにプログラマーとして優秀、と言う事になる。
要するに志燎涼穏はプログラマーとしては桁違いに優秀と言って良い、と言う事だ。
遊祉のそんな驚きを察したのか、涼穏は胸を張ってみせる。
「驚きましたか? 私はニート先輩とは比べ者にならない程、優秀なプログラマーなんですよ」
得意顔をする涼穏。遊祉はそれに対して素直に感嘆した。
「確かにそれは凄いな。お前、意外と優秀なプログラマーだったんだな」
「そうでしょうそうでしょう。――って意外って私を何だと思ってたんですか」
「いや、まあただの生意気な奴だとばっかり」
「なんですか、それは! やっぱりニート先輩は嫌な奴ですムカつきます!」
またも遊祉を睨みつける涼穏。感情表現が豊かな少女だ。
「お願い涼穏ちゃん! 天上院教授の紹介とは言え、遊祉君を一人で行動させる訳にはいかないわ。貴方だけが頼りなの。涼穏ちゃんもそろそろここでの仕事に慣れたと思うし、新人さんを指導してあげて欲しいわ」
「指導、ですか」
ピクリ、と指導と言う言葉に反応する涼穏。
それを見て憩心はにやりと笑った。
「頼む、涼穏。これは優秀なお前にしか出来ない頼みなんだ。是非とも遊祉にプログラマーとは何なのか、一から教えてやってくれ」
「そ、そこまで言うのならしょうがないですねえ。この優秀な私が特別にニート先輩の指導を買って出てあげましょう。本当に特別ですよ」
「……ちょろ」
「え、何か言いましたニート先輩」
「いや、別に。指導、宜しく」
遊祉が涼穏に頭を下げると、彼女は上機嫌な様子でにんまりと笑った。
「それじゃあ決まりだな。涼穏、遊祉に普段の見回りを教えてやって――――」
「みんなあ、助けてえ!」
憩心が涼穏に指導を促そうとした矢先の事だった。ドバン、と。入口のドアを思い切り開けて事務所へとジャージに身を包んだ小柄な女性が飛び込んできた。
「ごめん、皆。大変な事になっちゃった!」
泣きべそを掻きながら女性は言う。
ウールのような黒髪ウェーブに黒縁眼鏡、小柄な身体にジャージ姿と見るからに地味な姿をした女性で、それに反比例するように発育した胸がチグハグさを覚えさせる。
何処か小動物を思わせる動きと外見の持ち主だった。
「ごめんね、本当にごめんね!」
真理が話を聞きながら宥める間も女性は泣きべそを掻き続けていた。
何のことかさっぱり分からず遊祉が憩心を見ると、憩心は苦笑いを浮かべながら肩を竦めていた。
それを見て遊祉はこれが厄介事であるのを知った。