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第十七話

 喫茶店を出た花音は先の真緒との会話を思い出し溜息を吐いた。


(どうしたら良いのかな……) 

 花音には一体どうすれば涼穏の為になるのか分からなくなっていた。


 真緒の言う通り再来週の間だけでも涼穏を執行部から遠ざけたとしよう。

 ただ、真面目な涼穏の事だ。ただ、遊びに行こうと誘っても断られるのは目に見えている。


 だからと言って理由を話す訳にはいかない――――いや、いっその事全てを話してみるのは。



 ……それについて花音はどうしても躊躇を覚えてしまう。


 何せ涼穏は真緒の事をとても尊敬していたのだ。

 それは当然の事だろう。成績も器量も良く、そして涼穏の事を可愛がっていたよき姉だ


 今、どうして彼女がこうなってしまったか、それは花音には伺い知る事は出来ない。

 しかし、そこにどんな理由があろうともこれは許されない事だし、それを涼穏に話せば彼女がどう思うか、それは火を見るより明らかだ。


 問題の先延ばしも難しい、かと言って真緒の言う事を聞くのも骨が折れる。


「もしもし、そこのお嬢さん」

 花音がそんな風に頭を悩ませている時、不意に彼女へと声を掛ける者が居た。


「少し宜しいでしょうか?」

 最初、花音はこの人物を女性だと思っていた。


 しかし違った。まるでモデルか、それとも俳優のように整っている中性的な顔立ちだが男性だった。鼻が高く、筋が通っている。讃えた微笑は優しげで一目で警戒心を解かせるような、そんな表情。金色の肩まで届く長髪が驚く程似合っていて、つい見惚れてしまった。一方、格好はラフなものでジーンズにシャツと言った何処にでもいそうな格好であるにも関わらず、何故かその格好すらも人を寄せ付ける、そんな風に見えた。

 金色の瞳は花音の目を捉えたまま離さない。しかし不思議と嫌悪感を抱けなかった。


「道をお聞きしたいのですが、宜しいでしょうか?」

「え、ええ」

 外国人である事は間違いなかったので身構えていた花音だったが、彼の口から飛び出したのは驚く程流暢な日本語だったので面食らってしまう。彼はにっこりと笑う。


「モノレールに乗りたいのですが……、駅はどちらでしょうか?」

「駅は、えっと、あちら、です」

 花音は駅の方向を指差した。人が多く密集する先、十分程歩いたところに駅はある。


「あちら……あー、真っ直ぐかな?」

「一つ曲がるわ、……曲がります。それで少し歩いたら右手に見えてきますから」

「んー……、少し難しいな」

「あの、宜しければ案内しますよ」

 花音はそう申し出る。男はその申し出に喜ぶ。


「あー……、君が良ければ頼まれても良いかな?」

「ええ。観光、ですか?」

「敬語でなくとも問題ないよ。君、慣れていないんだろう?」

「あー、……ごめんなさい。ちょっと苦手で」

「良いよ。こちらは頼む側だからね。僕の名前はクレミア。観光、みたいなものかな。ちょっとしたビジネスも兼ねての事だけど」

「そうなんだ。あたしは花音。少しの間、宜しくね」

 花音はクレミアの差し出してきた手を取り、握手を交わした。

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