第49話.窮地に追い討ち。
まさに、最悪のタイミングだった。
「……ゴ……ゴガ……ゴガ!!ウゴイ…テ」
5番のじゅんが、ここで動いたのだ。
「……っ……ギン!!正門前にいるダイヤモンドキメラは!?」
『全て自爆不可能には成功していますが、まだ2匹残ってます…』
「……ダメだ……!!
今じゅんを正門前に行かせたらっ……」
間違いなく莉音ちゃんとシュカさん、生き残った数名の4区兵士は殺される。
戦えるのがシュカさんしかいないのに、ダイヤモンドキメラ2匹に加えてじゅんまで相手する事なんか出来る訳が無い……。
しかも、恐らくシュカさんだって無傷とは思えない。
現在チビキメラ殲滅に、ダイヤモンドキメラも3匹倒している状態って事だ。
かなり激しい戦闘だったはず。
それに、2区の兵士だってまだ残ってるはずだ…。
「……戻って合流しよう。シュカさん一人で何とかなる状況じゃない。」
「…分断は諦めるしかないって事やな」
「早くしないと……!!莉音ちゃんだってそんな中に置いとけない!!早く治療しないと!!」
「……分かっとる!!けど、俺らが戻って合流したとして5番とダイヤモンドキメラの相手しながら何の治療が出来るんや!?」
「…………」
「…5番を…正門前に行かせる訳にはいかんやろ……」
久遠が手を握り締めた。
分かってる。
何を言おうとしているのか、もう分かってる。
「…俺が、囮になる。
どっかに5番を引き付けるわ。
せやから、誰か1人を正門前に行かせてや。
シュカとそいつで、残りのダイヤモンドキメラ頼むわ。」
……やっぱり。
じゅんは久遠と戦いたがっているかもしれない。
それは、ついさっき話したばかりだ。
「ダイヤモンドキメラが片付いたら、シュカこっちに寄越してぇな。
……そんで、そいつはそのまま莉音と他の負傷兵の手当を。
終わったら……頼む、莉音を中野博士のコロニーに運んでくれ。
楓が医療の知識持っとるけぇ…。」
「…ちょっと待って久遠。」
「はよせんと、5番が正門前に行ってまうやろ!!」
『…いちさんの言う通りです。待って下さい久遠さん。』
「ギン坊まで、なんや!?」
『……貴方が5番を引き付けるとして。
建物の中のナッツにはダイヤモンドキメラが2匹ついてるんですよ?
蛹なしで、どうやってダイヤモンドキメラを倒せと言うんです?赤金は正門前にあるんですよ?』
「………」
ギンの言葉を聞いた久遠は、黙って腰に付けている蛹を掴むと、鞘ごとノアの目の前に突き出した。
「姉ちゃんに預けるわ。あんたの剣術なら、こいつさえあればダイヤモンドキメラなんか敵やあらへんやろ。」
ノアは目の前の鞘をジッと見つめながら口を開いた。
「……鞘なしで、あんたがじゅんの相手を出来るとは思えない。」
「…持って来た他の剣を使うけぇ大丈夫や。」
「重さが全然違う。じゅんはスピード系のアンドロイドなのよ?」
「俺かて、剣速は自信ある。」
目の前に差し出された蛹を受け取ろうとはしないノアは、久遠を睨みながら呟いた。
「……ナンバーなめんな。」
ノアの言葉に、久遠は俯いた。
「……別に、ナメとる訳やない…」
「私達アンドロイドは、最悪死んでも記憶が受け継がれる可能性はある。
でも、人間は違うでしょう?
死んじゃったら終わりでしょう!?」
「………もう…いい加減、分けるのやめようや。」
「………は?」
久遠は、静かに笑いながらノアの手を取ると
蛹をその手に握らせた。
「あんたらは、もう俺ら人間と同じや。
あいつらとは違う。」
久遠の言葉に、ノアは言葉を失ったかのように動きを止めた。
久遠は、そのまま笑いながら俺に視線を移す。
「…せやんな?」
「……ずるいなぁ、久遠は。」
「知っとるわ。」
19歳。
久遠は、まだ19歳だ。
19歳の男の子が こんな穏やかに笑いながら、当たり前の様にこんな覚悟が出来る物なのか?
おかしいと思ってしまうのは俺の記憶がないからなのかな。
「…ゴ…セイモンイリグチ、チガウデシ!!」
「…え?」
ふいにメルが叫んだ声に全員が固まった。
じゅんは、正門前に行ってない…?
「…え、ちょ、じゃあどこに行ったの!?」
「アッチャ!!」
メルは、じゅんが出て来た中央の建物の奥を見つめた。
ギンから預かった地図を広げて確認すると、じゅんが向かった方向には一つの建物があるのが確認出来る。
武器庫だ。
「…あいつ、武器を補充してから行くつもりなんか?」
「…でも…ダイヤモンドキメラが2体残ってるんだから、ナッツのリンクで正門前の状況はわかってるはずだよね?
断然有利のこの状況で、わざわざ時間使ってまで武器を補充する?」
「そうよね。今ならダイヤモンドキメラだっているし、じゅんが加わればシュカ1人なんて楽勝のはずよ。
でも時間をかけてしまったら、ダイヤモンドキメラがシュカに倒されてしまう可能性がある。」
「そうなったら、シュカさんとタイマンになるんだよな…。」
戦闘マニアなら、それをしたいのかもしれない。
でも、ダイヤモンドキメラを倒されてしまうと状況がわからなくなったナッツが出て来るかもしれないんだ。
そうなれば、タイマンどころの話じゃなくなる。
という事は……じゅんが、シュカさんとのタイマンを望んで武器庫に寄っている訳ではないという事だ。
じゃあ、じゅんは何の為に……?
じゅんはメルの存在を知ってるんだ。
まだ姿を見せていない久遠や、恐らくナッツに聞いているであろう人間についてる俺達アンドロイドの存在だって知っているはずだ。
その上で、あえてナッツと離れて1人で武器庫に……?
だとしたら、罠か…?
「んあああ!!もぉわっかんねぇ!!ギン!!ギ……」
俺は床に置いていたケータイに向かって叫んだものの、そこにケータイはなかった。
「…あれ?……凪ちゃん?」
少し離れた場所で、凪ちゃんがケータイを耳に当てている。
言葉が話せないのに…なんで??
一瞬そう思ったが、凪ちゃんはケータイをトントンと指で叩いてから床に置き、再びスピーカーのボタンを押した。
「ギン??」
『…あ、はい。…いちさん、えっとですね。その武器庫は中から鍵を締めれます。』
「…中から??」
『敵襲を受けた際に、敵に武器を奪われない様にと中から鍵を締められる様にしているみたいです。
最終手段として、籠城出来る場所。
それが武器庫です。』
…成程…。
だとしたら、じゅんをそこに閉じ込めれば…ナッツと引き離したまま戦えるって事だよな…。
もちろん、じゅんだって中にいるんだから中から鍵を開けて出られちゃったら意味ないんだけど。
でも、扉さえ死守すればいいんだ。
籠城出来るぐらいの建物なんだから、他に出入り口なんかを作ってるとは思えない。
4人でなら……きっと扉を死守しながら戦える。
『いちさん、少しメルを休ませて下さい。』
「…えっ?…あ…」
そっか。
すでにメルは探知機能を使いまくってる。
残りのエネルギーの心配をしなきゃいけないんだ。
「メル、少し眠りな??」
「ヤデシャ。」
「痛い痛い痛い!!メル、爪食い込んでる!!爪が食い込んでるーー!!」
メルは俺の腕に爪まで立てて、しっかりとしがみついていた。
…いや、ここに隠して行こうなんて言ってしまった俺が悪いんだけど…。
「メル、置いてったりしないから。
凪ちゃんのリュックに入ってな??」
「ヤデシャ!!」
「いや、俺さ。多分戦いになったら…あの電気使うと思うからさ。
メルにまで当たっちゃったら大変なんだよ??」
「……デンキ??」
メルは俺の腕にしがみついたまま、首を傾げた。
そうか。
メルは、地下コロニーから出た後 チビキメラ達に襲われた時いなかったんだった。
「もし、メルにまで電気流れちゃったらさ。メル壊れちゃうかもしれないんだよ?」
「………ナンゼ?」
「…え、うーん…。良く分からないんだけど、あれアンドロイドの動きを止めちゃうみたいなんだよ。」
すると、メルはポカーンと口を開けたまま俺をジッと見つめて答えた。
「ハカセガ、ツクッタ…デンジハデス?」
「電磁波………?」
俺が首を傾げた時
俺とメルの会話を聞いていた久遠が、手をポンと叩いた。
「…あぁ!!それやそれ!!
あんとき、いちはんが出したあの電気みたいなの見た時に、一瞬思ったんや俺も。
電磁波なんか…?って。」
「え??いや、でも…。中野博士が苦労してやっと作れるようなのが、電磁波結界なんでしょ?
そんなのポンポン俺が出せるとか、おかしくない??」
「……うーん。それなんよなぁ。
だいたい、いちはんが出した時にいちはん自身に何も害はないんか?って少し不思議やってん。」
「…害……」
確かに、俺から出るなら…
何で俺は感電しないんだろう?
アンドロイドの動きを止める事が出来るのは確かだと思う。
というか、一時的に機能を停止させる……って方が正しいかもしれない。
黒子は、俺のあれを喰らった後 気絶したまま何日間も目を覚まさなかったんだから。
上手く当てる事が出来れば、ナンバーにだって効くかもしれない。
「……戦える。」
俺は自分の両手を握り締めて、そう呟いた。
ここにいる誰にも、剣術、体術、そして記憶がない以上戦闘の経験でさえ遠く及ばない。
足を引っ張る事しか出来ないと思ってたけれど…。
この電気が俺の武器になるかもしれない。
この時は、単純にそう思ったんだ。
だから少し嬉しかった。
この力の代償に、俺はまだ全く気付いていなかったから。




