第48話.正門前の危機
建物の中は薄暗かったが、窓がいくつかあった為か 真っ暗ではなかった。
部屋の中には本棚がいくつもあり、色々な本がびっしりと敷き詰められている。
ギンが見たら発狂して喜びそうな場所だ…。
本棚は高さがあるので、そこにびっしりと詰められた本は、ある意味壁の様だ。
ここは身を隠すには最適な場所でもあった。
そして更に都合のいい事に、ここにある本棚は奥行が深い本棚ばかりで
手前の本を取ると奥にも本がある。
俺達は一度本を出してから、奥に本が並んでいた場所に、隠しておく為に持ってきた武器などを置き、その前にまた本を並べて奥に置いた武器を隠した。
後は、じゅんが中央の建物から出て行くのを待つだけだ。
俺は、びっしりと並んだ本棚を見てふと思った。
「…なぁ、メルもここに隠しといた方がいいんじゃね?」
「アゥ!?」
「敵が探してるメルをわざわざ持ってくってのもさ…。捕まった時の危険性を考えると…」
「ヤ!!ヤ!!」
メルが俺の服にしがみついて、必死に首を振る。
「でも、メル…。もし捕まっちゃったら…」
「ヤァ!!ヤ!!」
「この建物が攻撃の対象にならないって保証はないのよ?いざという時そばにいないと守れないかもしれないじゃない」
「それは…確かにそうなんだけどさ。
ごめん。なんか鴨がネギ背負ってく感じに思えちゃって…」
「なんで鴨がネギを背負うのよ。背負わないわよ鴨はネギなんて。鴨知らないの?あ、知らないんだったわね。記憶ないんだもの…やだごめん…鴨はね、ネギは背負わないのよ。」
お前にことわざを言ってしまった俺が悪かった。
「…ダイヤモンドキメラの自爆とかさ…予想外の事がいきなり、とっぱじめから起こったから…なんか一気に不安になっちゃって…。ごめん。弱気になってる場合じゃないよね。きっと直ぐに俺達も戦闘に入るんだ。気合い入れなくちゃ。」
すると、そんな俺を見ていた久遠が窓の方を見つめながら呟いた。
「…いや、そんなすぐにはならんやろ。恐らく正門前は、かなり時間かかるで。」
「…え…、シュカさん達が苦戦するって事!?」
「いちはんの言う通りや。あのキメラの自爆は予想外すぎたわ。」
久遠が荷物を床に置いて座った。
俺達もその近くに座る。
窓があるからとはいえ、身を隠す以上窓からは離れている場所にいなければならないので、本棚と本棚の間など、どうしても薄暗い場所になってしまう。
ノアが不安げに隣に座り、また俺の手を握ってきた。
明るくないから怖い。
理由はわかってるんだけど、こうも躊躇なく手を握られるとドキドキするもんです。
しかし、時間がかかる……か。
莉音ちゃんもいるし、赤金持ってるのはシュカさんだし…。
拘束されてるダイヤモンドキメラなら、何とかなるんじゃないかなぁ。
ここまでを考えた時、俺は思わず あっ と声を出してしまった。
気付いたか…といった顔で久遠が頷く。
そうだよ…。
ダイヤモンドキメラの自爆で、4区のBランカーは全員死んだんだ。
彼らが撃った鎖は、普通の鎖なんかじゃなかった。
きっとエネルギーを込めた鎖だっただろうから……
Bランカーが、撃ち込んだダイヤモンドキメラの拘束は、外れてる……。
シュカさんが鎖を撃ち込んだダイヤモンドキメラは、確か自爆用の爆弾を切り取った奴と、もう一匹自爆した奴だったから……
残りの4匹のダイヤモンドキメラは、全員Bランカーが撃った鎖が外れて自由になってしまっているんだ。
シュカさん達が優勢にならなければ、きっとじゅんは建物から出て来ない。
ナッツとじゅんの、分断が出来ないー……。
「でも、じゅんは出て来るかもしれないわ?」
ふいに口を開けたノア。
「なんで?」
「赤金の存在で、久遠が居るって事には気付かれたじゃない?
あいつ、戦闘マニアな所があるから。戦いたいんじゃないかな?ウズウズしてると思うのよ。」
「なんで俺やねん。」
「お前が強いからだろ?え、何?いいのよ謙虚にならなくて。
見たでしょ?ナルシストシュカを。
あそこまで行くとキモイけど、謙虚過ぎるのも腹が立つわ?」
「……っ……」
久遠が目を見開いてノアを見た。
うん。わかるよ。
ほんとにハッキリ物を言う子だよね。
「…お前って言ったでコイツ!!信じられへん!!女がお前とか言うなや恥を知れ!!」
そっちか!!
つか、同じような事俺もノアに言った事あるぞ?
「まぁ、でもノアはネオにもお前とか言ったらしいからねぇ。」
「それは見事や。でかした。」
どっちだよ。
「てゆーかさ、久遠が居るってバレてるって事は俺達も居るって分かってるんだよね?別行動部隊がいるってバレてる…よね?」
「うーん…。どうかなぁ?ナッツ自体、私達が久遠に味方してるってハッキリ言っても首傾げてたぐらいだからね。
そもそも、信じてないと思うわよ?
私達アンドロイドが、久遠達人間に味方してるなんて。」
「でもさ、4区の中に莉音ちゃんもいるし、赤金があるんだから……少なくとも4区と久遠が手を組んでるのはバレてるよね?」
「………ナッツ、そこまで考えるかしら?あの子本当に頭悪いから。物事をきちんと考えないのよね。」
…ノアに言われるんだから、ナッツは相当頭が悪いんだな。
頭脳派集団の4区って、地味に脳筋肉集団の2区にとっては相性が悪いと思う。
考え込んでいたその時、ふいにポケットに入れていた携帯電話が震えた。
『いちさん…』
「ギン!!良かった…正門前の様子わかるよね?黒子の鷹で見てるでしょ!?どうなってる!?」
『………すみません…』
「…え?」
『ダイヤモンドキメラが自爆するなんて……予想し切れなかった僕のミスです…』
「や、あんなの予想しないって普通。
あのダイヤモンドキメラを使い捨ての爆弾にするなんてさ…」
『……ダメです……もう、聞いてられません……いちさんっ……』
「……ギン?」
ギンの声が震えている。
それだけで、嫌な予感しかしなかった。
「正門前は……どうなってるの…?」
『………』
「ギン!?」
「ギン坊……なんや…?どないしたん……?正門前は!?」
久遠が真っ青な顔をしてケータイのスピーカーボタンを押した。
『……ほぼ……全滅しました。』
「………は?」
『チビキメラを殲滅する事は出来ましたが…鎖が外れて自由になったダイヤモンドキメラにより…莉音さんが、重傷を負い……
今、ほとんどシュカさんが一人で戦っています…』
「…ほとんどって……他の兵士は!?」
『……生きているのは、莉音さんと数名。…ですが、全員負傷しています。……戦えません…』
そんな………。
ほぼ、全滅って………
「……アッ…!!」
目の前が真っ暗になったその時、恐らくこの場にいる全ての者がゾクッとした。
メルが声をあげたからだ。
「…5バン……ウゴイタ…デス……ヨ…」




