第44話.過去の欠片
煙を眺めながら、ふとシュカさんが思い出したかの様に呟いた。
「…あぁ、そういえば…先程10番の女が“地下コロニーから炙り出した”とか何とか言ってましたね。
あの煙は、その地下コロニーなんですか?」
「……せや。」
「…自爆…ですか。正しい判断ですね。」
「………」
「…あっ!!待って!?シュカさん、貴方の部下が中野博士のコロニーに行ったでしょ!?」
「はい。搜索に2小隊を送りましたけど。」
「撤退させて。俺の仲間がいるんだ。」
「中野博士のコロニーに!?…もしや、ブレイカーギンさん…貴方そこに!?」
『はい。大丈夫ですよ?いちさん。全員片付きましたから。シュカさんには申し訳ないですけど。』
あ、そうか…。
じゃなかったら、今こうしてケータイで話せてないもんな。
「全員倒しちゃったんですか。へぇ…。捜索とはいえ、そこそこの兵士を行かせたんですがねぇ。」
…ちょっと待てよ?
捜索……?
「シュカさん。何を捜索しようと…?」
シュカさんは不思議そうに俺を見た。
「第2区が、とんでもない物を探しているという情報を手に入れたので。
ナンバーがいるという原尾コロニーと、技術者として どの地区でもすでに有名な程名前が通っている中野博士のコロニー。
どちらかにある可能性は高いのではないかと思いまして。」
「…やっぱりシュカさんも狙ってるんだ?それ。」
「うーん……。狙っているというよりは、少なくとも2区の手にだけには渡したくないという感じですね。だからその手に入れた情報をリーダーに伝え 、下位のナンバーを派遣しようとしていたリーダーにお願いして私が自ら来させて頂きました。」
自ら……?
「何でそこまで…?2区の手にだけは渡したくないって……」
シュカさんは顔を下に向けながら、呟いた。
「…ネオがそれを手に入れたら…、恐らくは全地区を狙うでしょう。我々4区も例外ではないですが。
…しかし、それ以前に……第2区と対等の強さを持つ…あの第1区までが危険になる……。
……私は…何としてもそれだけは防ぎたいのです。」
『第1区を守りたいんですか?シュカさんは第4区でしょう?
第1区に比べて遥かに劣る第4区の心配を、まずするべきでは?』
「……そう…なんですけどね…」
シュカさんは、俯いて不安そうな顔をした。
『あなたは、第1区に随分と肩入れしてらっしゃいますね?もしかして、第4区と第1区は同盟でも結んでいるのですか?』
「……はは。それならば、リーダーに黙って第1区にお忍びで行く必要がないじゃないですか。」
個人的に、第1区に何かあるって事なのかな??
シュカさんは、覚悟を決めたかのような顔をして俺を見た。
「……いちさん。ご兄妹は?」
「へ?アンドロイドに、兄弟とかあるの?」
『基本的には、血筋的な兄弟とかは存在しませんけど……』
そうだよな。たって流れてるの血じゃなくて赤いオイルだもんね。
血縁関係ってのは、ないんじゃないかな?
『……ちょっと待って下さい。さっき僕が言った、貴方がたびたびリーダーに内緒で1区に行っているのって…その話に関係してるんですか?』
シュカさんは、口元に手を当てて少しの間考え込んでいたが、ある名前を口にした。
「…いちさん。…双葉さんという名前に、心当たりはありませんか?」
その名前を聞いた瞬間、心臓が物凄い勢いで飛び跳ねた。
同時に、頭に頭痛が走る。
「いち!!」
あまりの頭痛の激痛に、地面に手をついてしゃがみ込んでしまった俺の身体を、ノアが心配そうに支えた。
[双葉]
俺は、この名前を知っている。
正確には、記憶を無くす前に知っていたんだと思う。
そう、よく夢の中で
「ーーー……を、探せっ!!」
と言う言葉が響いて来た。
あれは
「双葉を、探せっ!!」
と言う言葉だと思う。
なぜか、そう確信した。
そんな俺を見て、シュカさんは俺の側にしゃがんだ。
「……やっぱり……何か関係があるのですね?」
「……すいません…。分からないんです…。でも……その名前、多分知ってるんだと思います。シュカさん、なぜ俺にその人の名前を?」
「…………似てるんです…」
「似てる?…何が?」
「顔が、似てるんです。双葉さんと、いちさん。」
シュカさんがそう言った瞬間、電話口で意外な人が意外な言葉を言った。
『……いち。お前………まさか…』
「リーヴ?」
『お前……なのか?』
「……え?」
そのまま、リーヴは黙り込んでしまった。
シュカさんが俺の顔を見て反応した事から始まった、まさかの記憶の手がかりの連鎖。
双葉……って人…
俺と顔が似てるって、どういう事なんだ?
シュカさんの言い方だと、多分第1区の人なんだよな?
ぐるぐると頭の中に色んな考えが回る。
そんな俺の手を、ノアがぎゅうっと強く握り締めた。
『ー…記憶を取り戻したらさ、
今のいちって…どうなっちゃうの?』
『今のいちのまま?』
ノアに言われた言葉が頭の中に響く。
「……シュカさん。」
「はい?」
「明日の戦闘が終わったら、少しお話する時間を作って貰えますか?」
「…わかりました。」
俺の記憶に関する事だからなのかな。
何となく、気まずい雰囲気になってしまった。
「よし!!じゃあ明日の戦闘の話、続きしよっか!!」
『あ……はい!!』
話し合いは朝方までかかり、空はもうすっかり明るくなっていた。
地下コロニーから上がっていた煙も消えてしまい、久遠も、コロニーの人達も、もう戻る場所はない。
何としても原尾コロニーにいるナンバー2人を倒して、中野博士のコロニーに対する危険を消しておく事が
今一番重要な事。
色々考えるのは後だ。
とにかく、今は今の為に出来る事を。
俺達は、部隊に戻ったシュカさんを丘の上から眺める。
俺が今まで経験した戦闘では、1番大きな戦闘になる。
そんな戦いが始まろうとしていた。




