第42話.ギンとシュカ(1)
俺は、地面にケータイを置いてスピーカーにした。
「ほぅ…。携帯電話とは、これまた珍しい…」
シュカさんが、興味津々な様子で地面に置かれたケータイを見つめた。
『初めまして。僕は第2区で情報処理班に所属しておりました。ギンと申します。』
「…はぁ…。」
え、いきなり自己紹介?
ちょっと待って、正体バレたらどうすんの?
『知能ランク726のギンと言った方が分かり易いですかね?』
それを聞いたシュカさんの顔が、凍りついた。
「ブレイカーの、ギン……ですか。」
やっべぇええええ!!
バレるってー!!
「ちょっと待ってぇえええ!?
すいまっせぇん!!この子ちょっと頭がおかしくてぇ!!最近妙な事を口走るんですよ!簡単に信じちゃダメですよ?シュカさん!!すいまっせぇん!!」
『…ちょっと。何言ってるんですか?頭が壊れているのはあなたでしょう!?』
「いいや!壊れてる!壊れてるよ!?すいませんねぇ…なんかちょっとね、この子記憶があやふやになっちゃってるみたいで。ははは、ほんとすいまっせぇん!!」
『それはあなたでしょうが!!!』
「あははは。知能ランク726なんて、そうそういませんよ?
しかもランクの数字が、まぁーピッタリ。
記憶があやふやならば、そうはいきますまい?
これは驚きましたね。僕達の地区で貴方はとても有名人だ。」
『あぁ、すいません。何度も情報盗みに入ってしまって。』
「いやいやいや。この僕達のセキュリティを突破してハッキングするなどという、まさに気の狂った所業とも言える事をしたのは貴方ぐらいしかおりません。お会いできて……あ、いえ、お話出来て光栄です。」
これ、もう完全に正体バレたじゃん。
『落ち着いて下さいよ。僕はわざと自分の正体明かしたんですから。』
「何でだよ……。」
『僕は彼らの地区では有名人だって彼が言ってたでしょう?何度も情報盗んでるんです。自分の弱みを握っているかもしれない相手に対して、優位な立場を取ろうとはなかなか出来ないのが頭脳派の痛い所。』
おおおギン様…
なかなかの腹黒さですね。
チラリとシュカさんを見ると、シュカさんは笑顔のまま 少し首を傾げて呟いた。
「しかし、おかしいですね?ブレイカーのギンさんは処分対象になったと聞きましたが?なぜまだ存在しているのです?」
「…えっ…」
他の地区にまで、処分対象は伝わるのか…?
でも、脱走した事までは広まってないんだな…。
なるほど。
今の俺達の状況が外ではどうなってるのかを知れるのは、ある意味有り難いな。
こーゆう事も狙ってギンは自ら正体をバラしたってのもあるのか?
『運良く脱走する事が出来ましたので、今こうして貴方とお話をしているのです。』
「…ふむ。では、もう第2区所属のアンドロイドではないと?」
『もちろんです。ですから、あの原尾コロニーにいる第2区の者達に味方する者ではありません。貴方が言う、第3者という事で間違いありませんよ。』
ああ…!!
その証明も出来るのか!!
『いちさん。三つ巴戦のセオリーは相手同士を潰し合わせる事だという話でしたが…。もう一つあるんですよ?』
「え?どゆこと?」
『三つ巴戦のもう一つの戦法は、どちらかの相手と利害関係を一致させ、残る敵を共通の敵にするという戦法です。』
「…ああ!!なるほど。つまり、俺達と手を組もうと?」
「まぁ、そうなりますね。あなた方は、少なからず あの原尾コロニーのナンバー達と因縁がおありの様ですし?ねぇ?」
そう言って、シュカさんはチラリと久遠を見た。
「10番の女がおっしゃってました。地下コロニーから炙り出し、チビキメラで人間をたくさん殺したと。これ、結構な因縁…になりますよね?」
5番の男が大声で騒いでいる時も、ナッツが喋っている時も、シュカさんは手を口に当てて何かを考えている素振りをよくしていた。
こいつ……あいつらとの会話を聞きながら、既にこの共闘戦法まで考えていたって事か…。
『それで?』
「…え?」
「…え?」
ギンのアッサリした返事に、シュカさんと同様に 俺まで首を傾げてしまった。
『貴方と共闘するには、僕達にもリクスが高すぎるのですけれど?
何ですか?一緒に挟み撃ちにされて心中しましょうっていうお誘いですか?それなら、お断り致します。』
「いえ…ですから、仲間を殺された恨みを私達と共に晴らそうではないですか、というお誘いなのですが?」
『その恨みという物を、貴方はどれ程まで理解出来ているのでしょうか?』
「分かりますとも。分かるからこそ、ここに来たのです。」
『分かる?相手虫なのに?』
「は?」
『人間は虫なのでしょう?虫の気持ちが分かるのですか?貴方。凄いですね。』
「………あ、いや、あれは例えの話でありまして。そんな、虫だなんて思ってませんよ。」
『共闘したい相手を虫呼ばわりする様な者を信用しろと?それで共闘しようなど、よく言えた物ですね。』
「………」
ギン君は怖い。
『僕達が共闘しなければ、貴方は明日第2区からの援軍によって挟み撃ち確定になる。なのに、共闘したい相手へのその軽率な発言。
さて。本当はどんなカードをお持ちで?』
「……これは参りましたね。」
シュカさんは、諦めた様に笑って手を上げた。
なんだコレ?降伏のポーズしてんの?
ケータイごしのギンには見えないんですけど。馬鹿なの?
「ではそのカード、お話するしかありませんか。」
シュカさんはそう言って、ノアに向かって頭を下げた。
「ナンバーと間違われる程の実力。かなりの強さを持っている方と、お見受けします。共闘を張る以上、実力者の素顔は拝見させては頂けないでしょうか。」
「共闘者の顔を見ておきたいっちゅーんなら、俺なんか別に顔隠してへんけど。」
「久遠さんは、手配書で見飽きました。」
手配書なんか回ってんの!?
でも…ノアは、やっぱりマズイ気がする。
ネオのお気に入りって時点で、余計に見つかる訳にはいかないじゃないか。
『シュカさん。その方の顔を見るのはやめた方がよいですよ?横の男が怒りますから。』
「え?」
横の男……?
キョロキョロしてみた。
ノアの横にいる男は、俺だった。
『ほら、シュカさん綺麗な顔してますから。その女がシュカさんに惚れちゃったりしたらその人泣きますし。怒り狂いますから。それこそ、僕達まで殺しかねない程に理性を失いますから。』
「…ああ…独占欲の塊の様な男ですね。」
………ちょっと。
『そうなんです。手が付けられなくなりますので、やめておいた方が身の為です。』
どうしたいのかはわかるんだけど、ギンは後で絶対殴る。
「…あぁ!!もう、分かったよ!!俺の顔を見せるからさ。それでいいでしょ?俺、コイツの主人なんで。価値はあるでしょ?」
「…え?主人?そうなのですか。では、ウチの兵士を2人殺したのも貴方の指示だと?」
「そうですよ。」
「………なるほど。」
そう言って、俺はフードコートのフードを脱いだ。
「…い、いち……」
心配そうなノアの声。
でもノアがバレて、下手したらネオがノア連れ戻しにくるかもしれないって考えると、これが一番いいと思う。
ギンも、違う理由はあるのかもしれないけど、こっちの方がいいという判断なんだろう。
すると、俺の顔を見たシュカさんが、持っていた武器やらナイフやらをゴトゴトンッという音を響かせて全て地面に落とした。
「……?」
「……そっ…その顔……。なぜ……!?」
え?
シュカさん、オレの顔知ってるの!!?
ちょっとまって!?
記憶喪失になって、初めて俺の事知ってる人に会ったんだけど!!!
『………チッ。』
ギン君舌打ち。
このシュカさんの反応は、ギンにとっては予想外の事だった様だ。
まさか俺の顔に反応するなんて、そりゃ思わないわな。




