第41話.深夜の来客
不気味だ。
自分から、不利になる相手地区での、相手の籠城を提案。
シュカ……って名前だったっけ。
俺達は、とにかく見つからない様に草むらを何重にも重ねてから、その中に身を隠した。
停戦の間に見つかる訳にはいかないしな。
非常食は、有難いことに久遠の飴玉があった。
「暗いけど、我慢出来るか?発光ゴケを使うわけにもいかないからさ。」
横でカタカタ震えるノアに声をかけると、ノアはコクンと頷いた。
よほど暗闇が怖いのか、しっかりと俺の手を握っている。
今日は、流石に徹夜だな……
そう思った瞬間、俺の背後から知らない声がした。
「こんばんわ。」
「……!?」
全員が、膝を立てて警戒態勢に入った。
「あ、待って下さい。えーと…それ蛹ですよね?あぁ、凄いな…本物だ。えーと、久遠さん…すいませんが怖いんで刀から手を離してもらえるとありがたいのですが……」
すでに、抜刀の構えをしていた久遠に、その男は後ずさった。
「………4区のナンバー3、シュカさん。何の御用で?」
俺の言葉に、シュカさんはポカンとした。
「ああ…目が合ったのは貴方だったのですね。」
誰と間違えた。
「なんだかこの当たりから殺気を感じていたので、5番の彼が言っていた例の僕達4区2人の兵士かと思って見てみたのですが……。何だか殺気のさの字も感じない方ですね?」
俺の手を握っているノアが、ギュウッと手に力を入れた。
殺気を飛ばしたのコイツだーー!!!!
あれだ!!ネオの話してた時か!?
あの時キレてたもんな!?
殺気滲み出ちゃってたの!?
「……これは失礼。貴方への殺気ではなかったのですが…」
「あぁ!!そうなんですか?それは良かった。」
シュカさんがポンと手を叩いて笑顔を浮かべた。
ちくしょう他人への殺気を受け取んなよ面倒くせぇなコイツ!!!
「でも、5番の彼が言っていたウチの兵士2人……って、ここにいるどなたかの事ですよね?」
あっ、そうです。まさに僕です。
「ナンバーだと勘違いされた方がいらっしゃるみたいですが……彼は確か、女の方だとか……」
シュカさんが笑顔のまま、目線をノアに向けた。
「もう一人の女の方は、人間のご様子ですし。あと一人は子ども型…………………と、言う事は………ですね?」
目線をノアから逸らさないまま、シュカさんがニッコリと笑って首を横に傾ける。
この暗さだ。恐らくノアにはシュカさんの目線なんかは見えていないだろう。
シュカさんがいくらノアをジロジロ見ても、ノアと目が合う事はきっとない。
それに気付かれるのは、マズイ気がする。
だってこいつ、ただでさえ不気味なのに4区は頭脳派集団だろ?
ノアの弱点を知られるのはマズイよな。
ノアはフードコートで顔は隠してはいるものの、声がする方向に向かって なんとか顔を向けている状態だ。
「あんさん、なんで俺ら人間見ても殺気すら出さんねん?」
「え?」
シュカさんが久遠に顔を向けた。
とっさに、久遠が自分に目を向けさせてくれたんだ。
助かった……。
「アンドロイドっちゅーんは、俺ら人間が大っ嫌いとちゃうんか?」
「あぁ……えーっと……
今でも、そうなんですかね?」
「は?」
「すいません。僕達第4区は、あまり人間の方と接する事がありませんので。」
「……4区も、人間全滅したんか!?」
「……も……?……あぁー……そうか、久遠さん…あなた第5区の人間でしたね。」
「!?」
「なんで、知っとるん!?」
莉音ちゃんの叫び声に、シュカさんがゆっくりと振り向いた。
「三枝莉音さん。三枝久遠さんの妹さんですよね。すいません。僕達、こっちがちょっと素晴らしくて。」
そう言って、シュカさんが自分の頭を指さした。
「ただでさえ素晴らしいのに、ほら僕……3番ですから…さらに素晴らしくて。ほんとすいませんー。」
「腹立つわーコイツ。」
「えっ」
シュカさんが驚いた顔をして俺を見た。
あっ。
思わず声に出しちゃった。
「…第4区の人間は、全滅しとらんのやな?あんまり接する事がないっちゅーのはどーゆう事や?」
またシュカさんが久遠を見る。
すいません。久遠さん、ほんとすいません。
「お互いに興味がないと言いますか、まぁ、そんな感じですけれども。」
「共存…しとるんか?」
「そうなるんですかね?うーん……どう言えばいいんでしょう。
そうですね、例えば……いちいち、そこら辺を歩いてる小さな虫を殺して回りますか?害がない虫なら、別に放っておきませんか?
そんな感じです。虫です。ただの虫。殺すのも面倒くさいというか、殺す労力を使う価値も無いというか。
うん。共存ですね。共存してます。」
「…腹立つわー。」
「えぇっ」
シュカさんが、また驚いた顔をして俺を見た。
「…あぁ…もう…。」
久遠はため息をついたものの、すぐにキッパリと言った。
「腹立つわ。」
「腹立つなぁ。」
「…………」
「私コイツが歩いてたら速攻で踏みつぶすわ。」
「フミツブシャッ!!」
久遠に莉音ちゃんが続き、凪ちゃんも頷き、どさくさに紛れて爆弾発言かましたノアにメルが乗っかってしまった。
シュカさんの目が見開く。
「……なんとっ……!?子ドラゴンッ!?まさか!?なんと!!」
「ムキャ!!!」
「……っ!!」
物凄い速さでメルを抱き上げたシュカさんの手を、凪ちゃんが掴む。
「離せや。手ぇぶった斬んぞ?」
気付けば、凪ちゃんが掴んでいる手とは反対側の手に、久遠の蛹がピッタリと当たっている。
「……おやおや…。これはこれは…。失礼。」
そぉっとメルから手を離すシュカさん。
メルは、すぐさま凪ちゃんの胸に飛び込んだ。
すいません。手がちぎれそうなんですけど。
ノアが俺の手をちぎりそうな勢いで握り締め…握り潰してるんですけど。
気持ちはわかるよ?わかる。
しかも見えないからこそ、余計にメルに何が起こったのか…何かされたのではないかと大きな不安がよぎったのだろう?
けど、お前が余計な事喋ったからだろうがこの馬鹿!!!
「…あぁもう!!久遠っ!!寸止めなんかしなくて良かったのに!!」
「えぇぇっ!?」
またまたシュカさんが驚いた顔をして俺を見た。
「あのね、シュカさん。その子はね、その子のフワモコはね、順番待ちなの!!勝手に順番すっ飛ばして触ってんじゃねぇよ手がちぎれるかと思ったじゃねぇか!!!」
「ええぇぇっ…そ、それは大変な事を……。えっと……どの位の順番待ちで?出来れば今夜中にお願いしたいのですが。あの、ほら、明日2区の方達とドンパチるので。出来れば早めに順番を回して頂けませんかね。」
どんだけ触りてぇんだよ。
「てゆーか、シュカさん。あんた何しに来たの?」
俺の言葉に、シュカさんは名残惜しくメルを見ながら顔だけこっちに向けた。
「何って…お話をしに来たんですよ?」
「まぁ…、そうだろうね?俺のバック取ったのに、わざわざ声を掛けて来たんだから。」
「………おや。なかなか話のわかる方がいらっしゃるみたいで。」
「…どうも。」
だって、単純に殺しに来たんなら
初めの時点で俺は死んでるからね。
「我々の兵士のフリをして、5番の彼を煽ったという事は 私達と2区の潰し合いを狙っているのでしょう?」
「………」
まぁ、普通は読まれるよな。
ただでさえ頭のいい地区のナンバーなんだから。
「ですから、もし第3者がいるのなら……と過程しますと、こちらの方が良い手になるのでは?と、思ったものですから。こうしてご相談に参りましたよ。」
俺はケータイを耳に当てて、呟いた。
「……どうしよう。難し事言われて分からない。この先、もっと分からなくなりそうなんだけども。」
『……でしょうね。』
繋がったままだったんだよね。ケータイ。
『そちらも、スピーカーにしてもらえますか?僕が話します。』
何しろ相手は頭脳派集団。
お話しに来られても、話についていけない可能性がある。
我らの頭脳、ギン君に出てきてもらうしかないのです。




