第32話.5番の男~サクside~
「……サクッ……!!!」
莉音ちゃんが、すかさず俺と男の間に身体を入れた。
俺の右手に刺さってる剣を見て、莉音ちゃんの声のトーンが低くなる。
「……お前……何してくれてんねん…」
『ん?ごめんね?痛かった?人間って柔らかすぎるよねぇ?ブッスリいっちゃったねぇ。』
唇を噛み締めた莉音ちゃんだったが、その手には武器を持っていない。
さっき使っていた短剣は数歩後ろにあり、俺が使っていた莉音ちゃんの誕生日プレゼント用の短剣も、手を伸ばして届くか届かないかの場所。
足音が全く聞こえなかった。
この男は、スピード系だ。
ほんの少しの動きが、致命的になりうる。
「あんた、今まで何してたん?」
『ん?』
「ウチを追って来てたんは、全部部下やろ?その身軽さなら、すぐウチ捕まえられたんに、何でそうせんかったん?」
『人間って、本当に狩りの楽しさを忘れてしまったんだねぇ。
…君、あの久遠の妹なんでしょ?ちょっとは楽しめるかな?って思って君にしたんだぁ。…ふふ…悲劇の生き残り♪』
刺された右手がジンジンする。
血も止まらない。
けど、そんなこと今言ってる場合じゃないんだ。
莉音ちゃんがなんの武器も無しに戦える相手じゃない。
『そしたらさーぁ?君、まさかのコロニーに帰っちゃうんだもん!!笑っちゃったよぉお!!コロニーの場所げっちゅ?さらに久遠も炙り出せちゃった?笑いが止まらないぃ!!君さぁ、君みたいな子の事…何て言うか知ってるぅ?』
莉音ちゃんの右足が微かにうごいた。
重心を右に……か…。
俺も覚悟を決めた。
そして男は、大笑いしながら莉音ちゃんを指差して叫んだんだ。
『ピーーーーエロッ♪♪』
「莉音ちゃん!!!!」
俺は右手に刺さった剣を引き抜き、右側上空に投げた。
莉音ちゃんはそれを受け取り、そのまま男に斬りかかる。
『お?』
おお振りだった一発目はかわされたが、瞬時に莉音ちゃんは、そのまま刃を返して鋭く縦に斬りかかった。
ー……燕返し…。
莉音ちゃんがよく使う技だ。
しかし、男はギリギリで身体を逸らして、そのままバク転しながら後ろに下がった。
「……チッ…」
莉音ちゃんの舌打ちに、男の顔から笑顔が消えた。
『……へぇ。…速いじゃん。』
「そらどーも。
けど、にぃはもっと速いで?
相手がウチで良かったなぁ?これがにぃやったら、お前今ので死んどるわ。」
『…………』
かっこいいなぁ……。
やっぱり莉音ちゃんの背中はかっこいい。
俺はいつも、この背中に守られて来た。
莉音ちゃんは剣先を相手に向けると、左手を添えて 手首を少し左上に傾ける。
莉音ちゃんがこの構えをした時に、相手が突っ込んで来て瞬殺されるのを
俺は何回も見て来た。
『今なんてった?久遠はもっと速いぃ?』
男はニヤリと笑うと、その場から消えた。
俺には、消えた様に見えたんだ。
しかし実際には、男は莉音ちゃんのすぐ右側にいた。
「……!?」
莉音ちゃんが気付いて振り向いた瞬間、男は莉音ちゃんの腹部を蹴り飛ばし、莉音ちゃんは左側に吹き飛ばされたまま、木にぶつかって倒れた。
「……げほっ……」
「莉音ちゃん!!!!」
かろうじて立ち上がろうとするものの、腹部を抑えてうずくまってしまう。
『人間て。柔らかすぎるし軽すぎるし、脆いし。大変だねぇ。』
右手は痛い。けど、身体は動く。
大丈夫。俺には聞こえたんだ。
大丈夫。
俺は、莉音ちゃんと男の間に立って、男を睨んだ。
「……サク…ッ……あか…ん。逃げっ………」
後ろから、莉音ちゃんの苦しそうな声が聞こえる。
莉音ちゃん。
莉音ちゃんは、一度原尾コロニーでコイツ見てるんでしょう?
仲間が一瞬で殺されるの見てるんでしょう?
あんなに震えてたのに、今こうして目の前に立った。
本当にかっこいいよ。
莉音ちゃん、俺は今初めて莉音ちゃんに背中を見せてるんじゃないかな。
「……悪くないね。」
俺がそう笑った瞬間、首にヒヤリと冷たい物が当たった。
男の手だ。
「……っ……」
『あぁ、ごめんね?たったこれだけの力で苦しいんだ?このくらい緩めたらいいのかな?話せる?』
「……何を……?」
『うん。話せるね。あのね?僕達探してる物があるんだ?誰に聞いても知らないって言って死んじゃうんだぁ。』
コイツらナンバーがわざわざ出て来てまで人間コロニー潰して探してるってやつか………
『ねぇ、知らない?どこにあるか。』
「………」
『君、物作る人でしょ?そーゆう人の方が知ってるんじゃないかって思うんだよね。』
「………あぁ…。あれか……」
『…!?知ってるの!?どこにある!?』
「…………」
『どんな形をしてるんだ!?おい!!』
「…………」
知らないよ。
お前らが何探してるのかなんて、知らない。
形さえも知らないのか…。
逆にそれ情報貰っちゃったよ?
「…お前っ……サクを離せやぁあ!!殺すぞ!!!!!」
『女の子なのに、口が悪いなぁ。嫁の貰い手なくなっちゃうよ?ねえ、そう思わない?』
「思わない。」
大丈夫だよ、莉音ちゃん。
莉音ちゃんは攻撃を受けた瞬間だったし、木にぶつかった衝撃音とかで聞こえなかったかもしれないけどさ。
聞こえたんだ。
昔、博士がコロニーの子ども達の為に組み込んだって言ってた。
外に遊びに行きたがる子ども達に、危険を知らせる時の為に。
「至急、コロニーへ帰還せよ!!」
子ども達への緊急勧告。
17キロヘクトの、超高周波音。
メルの鳴き声。
モスキートーンだ。
男のすぐ背後に、フードコートを被った一人の少女が姿を表した。
長い付き合いだ。
フードコート着ててもわかるよ。
凪ちゃん………。




