第30話.サクside~プロローグ~
昔から、そうだった。
大切な物。大切な人。
それはいつも、俺の手の中には残らなかった。
ー…守る事。
それがどんなに難しい事なのか、俺は痛い程よく知っている。
父と母は 俺を守る為だけに その命を捨てた。
何の役にも立たない。ただ震える事しか出来なかった小さな子どもの俺の命なんかよりも、両親2人の命の方がずっとずっと大きいはずだったのに。
アンドロイドの人間狩り。
俺の村がその被害に合った時、俺はまだ8歳だった。
家の裏に掘って作った小さな地下室。
お母さんは、俺をそこに入れた。
「絶対に出て来てはダメ。声を出してはダメよ。」
「暗いよ…怖いよ…どうしてお母さんは一緒に入らないの?お父さんは何してるの?」
家の中で、皿やコップが割れる音が響く。
家の中にアンドロイドが入って来ているのは、子どもでもわかる。
お父さんが皿やコップを投げたって、そんな物で勝てる訳ないじゃないか。
「どうして逃げないの?お母さん、一緒にいてよ…怖いよぉ…」
震えながら服を掴む俺の手を握り締めて、お母さんは言った。
「サク……大丈夫よ。大丈夫。絶対にお母さんとお父さんが助けてあげるからね。」
そして、お母さんは扉を締めてから土をかけ始めた。
「お母さんっ……」
「サク、声を出してはダメ。大丈夫だから。ね?大丈夫よ。」
それが、俺が聞いた母親の最後の言葉だった。
それから何日たったか、わからない。
中にあった水も底を尽きて、息苦しさも限界だった。
そんな時、助けに来てくれた人がいたんだ。
中野博士。
博士と一緒にいた女の子が、地下にいた俺を見つけてくれた。
外に運び出された俺が見たのは、全焼してしまった俺の家だった。
何もかもが焼けてしまい、俺の手には両親との思い出の品は何一つ残らなかった。
中野博士のコロニーに着いてからは、毎日泣きじゃくっている手のかかる子どもだっただろう。
中野博士は、そんな俺に色んな物を作ってくれた。
材料を入れるだけで、勝手にジュースになる機械。
俺の心を掴んだのはこれだった。
博士は何でも作れる。
いつも、何かを作ってる。
俺はそれを見るのが凄く好きで、気が付いたら博士の作業を手伝い始めていた。
物を作るのは、凄く好き。
だって、何かを生み出せるんだ。
それって凄いと思う。
俺は奪われて、無くしてばかりだったから。
博士は、俺の家の地下室を見て
地下にコロニーを作る事を考え始めたらしい。
時々、そのコロニー建設の手伝いにも行った。
そして、博士のコロニーで、博士の手伝いをしながら暮らしていた2年目の夏に、俺は博士が連れて来た2人の兄妹と出会った。
久遠さんと、莉音ちゃん。
2人とも、親が殺されてしまったという俺と似た経験を持っていた。
何だか怖くて、いつも凪ちゃんの後ろに隠れていたけれど……
ある日、莉音ちゃんが俺の元に走って来て、「にぃの義足を作って欲しい」と頼んで来たのだ。
博士の手伝いをしているうちに、ロボットの知識もついてきていたから義足はつくれるかもしれないけれど……
初めてだから、時間がかかるかもしれない。
そう言ったら、莉音ちゃんは「ありがとぉ!!!」と、満面の笑顔で答えてくれた。
いつも思ってたんだ。
同じように、親を無くしたのに
2人はいつも前を向いている。
アンドロイドに恐怖を感じるどころか、戦う意志を少しもなくさない。
俺はこの2人が大好きだった。
戦う事は下手だけど、違う事で2人を支えていけたらいいな と思っていたから、8ヶ月かかって完成した久遠さんの義足を久遠さんが付けて、「最高や!!」と走り回っているのを見た時は涙が止まらなかった。
横を見たら、莉音ちゃんも泣いていたんだ。
「なんやサクは泣き虫やなぁ」
「莉音ちゃんだって泣き虫じゃんか」
しかし、泣きながらもお互いに最後には笑っていた。
それから約2年間、俺達は中野博士のコロニーで暮らしながら、地下コロニーの建設に勤しんだ。
博士の研究の、色んな事を教わって
どんどん俺も皆の生活の役に立つ物を作れる様になって行ったんだ。
そして、地下コロニーの完成。
久遠さんがリーダーとなって、殆どの人が中野博士のコロニーからそこに移動する事になった。
博士が、電磁波結界を完成させるその日まで。
電磁波結界の最後の1つを作る作業員と、凪ちゃん、メルだけを残して皆は地下コロニーへと移って行った。
俺も、残るべきなんだと思った。
博士の助手が出来る程にまで、俺を職人として育て上げてくれた恩師だ。
しかし、博士は「行きなさい」と俺に言った。
地下コロニーで、皆の生活の役に立つ物を作るのもお前の仕事だと。
本当は、博士は気付いていたんだと思う。
俺が、莉音ちゃんから離れたくないという気持ちに。
出発の日博士は、俺の頭を撫でて言った。
「攻める事より、守る事の方がずっとずっと難しい。だがお前は、守れる人になりなさい。両親のように。」
お父さんが皿やコップを投げつけて割っていたのは、子どもの存在を隠す為。
子どもがいるとわかれば、アンドロイドは喜んで子ども探しを始めるだろう。
だから、お父さんは俺が暮らしていたという痕跡を必死に消していたんだ。
家に火までつけて。
お母さんは、地下室の扉を隠す為に自ら外に出て土をかけるという行動に出た。土と扉の間には、遮熱シートが置かれていたという。
おそらくは、サーモグラフィから俺を少しでも隠す為。
そして最後はお父さんの元に走り、共に暴れて家中の物を壊した。
先に殺されたのがどっちなのかはわからない。
どちらも、俺の自慢の両親だ。
ー…守れる人。
中野博士の言葉を心に大事にしまって、地下コロニーでの生活が始まって数ヶ月後。
中野博士のコロニーがアンドロイドに襲われ、壊滅した。
皆、首都に連れて行かれて殺されたと聞いて愕然とした。
俺にとって中野博士は、2人目の親だったんだ。
1人工房で涙が止まらなかった俺の横には、ずっと莉音ちゃんがいてくれた。
しかし、驚く事に 凪ちゃんとメルは無事だったのだ。
脱走して来たという凪ちゃんは、アンドロイドを5人も連れて俺達のコロニーに来た。
いちさん、リーヴさん、ノアさん、ギンさん。気絶してる人。
初めは嫌いだった。
アンドロイドなんか見たくもなかった。
殺す事しかしない奴等だと思っていたから。
でも、今は大好きだ。
この人達は、全然違った。
俺が知っているアンドロイドとは、全く違っていた。
不思議だな。
リーヴさんは、なんか雰囲気がお父さんに似てるんだ。
リーヴさんは、お父さんよりもずっとずっと若いのにね。
そんなこと言ったら怒るかな。
ああ……。
リーヴさんは、怒らないだろうなぁ。
優しく頭を撫でて笑うだろうな。
やっぱりお父さんに似てるよ。
「サク、笑っとんのかぃな(笑)!!!」
俺の顔を見た莉音ちゃんが、吹き出した。
そりゃそうだ。
俺達は、今 あのナンバーに追われてるんだから。
「さっき、無線切れちゃったけど…心配してるかな…」
「してるやろなぁ……。ったく。ウチが引き寄せるけぇ逃げろ言うたんに。サクはアホや。」
「だって莉音ちゃんは、人1倍寂しがり屋だからさ。1人には出来ないよ。」
「何アホな事いうとるん…あんたまで死ぬことあらへんのに……アホ」
「あははは」
莉音ちゃんがアホって言う時は、ありがとうって言いたくても言えない時なんだ。
4年間ずっと見てきたんだから知ってる。
大丈夫。莉音ちゃんは絶対に久遠さんにまた会えるよ。
俺じゃ頼りないけどさ。
出来るだけ、やってみるよ。
諦めずに立ち上がり続けた、貴方達兄妹の様に。




