第28話.二筋道(2)
「ここから向って右が、中野博士のコロニー。左が、原尾コロニーや。」
真逆の方向に伸びる、分かれ道。
ついに…ここからは別行動になる。
その道の真ん中で
ギンが、久遠に色々と質問責めをしていた。
「原尾コロニーの内部構造って、久遠さんは詳しいんですか?」
「え…いや、普通に行った事はあるで?同盟組んどったし、交流あったけぇな。…けど、中の細かい所までとなると……」
「……そう…ですよね。やっぱり地図があった方がいいと思います。ちょっと盗みますね。」
「は?」
ギンは背中の巻物から紙を引っ張り出すと、それを地面に置いてから静かに目を閉じた。
再び目を開けたギンの瞳は、たくさんの英語やら数字やらがびっしり並んだ文字。
それが下から上に流れている。
「……盗むって……ギン坊それ…ハッキングしとんのか!?」
「すいません。うちのギン君がすみません」
「え?…あ、いや、かまへんけど…あそこにはもう人間はおらんしな……。ハッキング出来るっちゅー事に驚いてんねん。あそこのセキュリティーも凄かったはずやけど…」
「ありがとうございます。うちのギン君、出来る子なんです。ありがとうございます。」
ギンが触っている地面の上の紙に、ジワリジワリと湾曲している線が浮かび上がり、次第に直線が何本もスイスイと走り出し、最後にカクカクとした線がいくつも図面に足されて行く。
おおおぉ……という歓声が沸き上がった。パチパチと拍手する人までいた。
「ふぅ……」
と、大きなため息をついてから目をゴシゴシとしたギンは普通の黒目に戻り、手元の紙を持ち上げて満足そうに頷いた。
「出来ました。結構複雑なコロニーですね。建物がたくさんある。……いちさん、地図読めますか?」
「読めるわ!!!」
ギンは、いつまで俺を出来ない子扱いして からかうつもりなんだか。
俺の返事を聞いてホッとした表情になったギンは、地図を黒子に向けた。
あ、冗談じゃないんだ。
本気で心配してたんだ…。
「黒子さん、ナンバーがいる場所はわかりますか?」
「ん?私が見た時に居たのは、ここですが……。ここの3階に。」
黒子が、地図のど真ん中にある大きな建物を指差した。
「あぁ……、原尾コロニーの中枢やなぁ。会議室やら集会所やらがここにあんねん。俺らは、いつもここに通されてたなぁ。
ここなら、周りの建物を盾に出来るし見通しも悪い。近付くのは有利かもしれんな。」
「ここの建物と、その周りの建物5つ程ですが…」
「そこに他の敵を配置しとるんか?」
「いえ。それ以外の建物は、もうありません。」
「……………なんて?」
「10番の特大キメラ達や、5番が暴れまして。
この6つの建物以外、平地になりました。それはもう、きっれーいな平地に。」
「………………はぁぁあ!?」
「ちょっと!!!それ、僕が地図を写す前に言ってもらえませんかね!!?」
久遠の叫び声と同時にギンまでもが悲痛な叫び声を上げた。
「申し訳ございません。聞かれなかったもので。」
ケロッとした顔で答えた安定の勝手人。
「ついでに申し上げますと、ほとんどの建物を破壊したのは
そこにいる、私を踏んづけた特大キメラでございます。」
皆の視線が、きぃちゃんに集中した。
きぃちゃんはグイイッと首を右に傾けてキョトーンとした顔をしている。
「やだもう…きぃちゃんってば。」
取り敢えず、はははっ と笑って流してやろ……
…いや、ちょ……ほとんどの建物って………え、ほとんど!?
一番の暴れん坊さんだったの!!?
あの女、とんでもない化け物を手放したな……。
ギンが溜息をついて、言われた建物以外の部分を指でなぞる。
ギンが指先が通った後は、まるで消しゴムで消したかの様に消えて行った。
「………これはまた……。随分と見晴らしのいい事で……」
原尾コロニーは、外壁を残してほとんどが平地に。
建物はわずかに6つしかないという、寂しい図面となった。
「久遠さん、無線は他にないんですか?僕達は黒子さんの鷹でそちらを見れますが……こちらからの一方通行では……」
「私の鷹が、莉音さん達で全て落とされなければの話ですが……」
リーヴが、うーん……と唸る。
確かにさっき、既に速攻で1匹落とされたんだ。
黒子の鷹は残り6匹…。
「そうなったら、他の黒子の鷹を借りよう。」
「そうですね…。あの辺には、2~3人他の黒子の鷹が飛んでいましたし……。
しかし借りるとなると、金が発生致しますので 奪いましょう。」
「いやいや、買い取ろうよ……。」
俺の言葉に、黒子は目を丸くした。
あれ?
そう言えば、金ってどーやって手に入れるんだ!?
買い取れなくね!!?
ヤバイ……この世界の金の流通ってどーなってんだろ。
「ふっざけるな貴様!!!!いくらすると思ってんだ!?私が今までどれだけ苦労してコツコツと金を貯めて来たと思っている!!!」
「え!?金ってどうやって稼ぐの!?」
「他の黒子の鷹を奪って、売っ払って来た。コツコツと。」
「買い取りなさい。」
「んなぁあああああ!!!?ダメだ!!!この金はリーヴ様の金なんだよぉおおお!!!」
「はぁ?」
リーヴが驚いて声を上げた。
「リーヴ様。リーヴ様の老後はこの私がお世話致します。我々アンドロイドが、どれほど長く生きていくのか ご存知ですか?
壊れ、停止さえしなければ 人間の寿命とは比べ物にもなりませぬ!!
そんな長い人生……一体どれほどの金が必要になると思います!?
いえ!!リーヴ様はお知りになる必要はございません!!!全てこの黒子にお任せ下さいませ!!」
「そうか。買い取れ。」
リーヴの返事に、黒子は全力で肩を落とした。
老後貯金て…
凄い凄いとは思ってたけど、黒子のストーカーレベルは半端ないな…。
黒子の妄想では、もう結婚は終わってるんだ……。
「すまない。グズグズしてはいられないのに、時間を取らせてしまった。」
謝るリーヴを見て、黒子が両手を頬に当ててウットリとした。
え、何それ?
自分の為に謝るリーヴに萌えてんの?
前から思ってはいたけれど
やっぱり俺は心が狭い。
だって今、こいつを全力で殴りたい。




