第25話.平民の男(俺?)
「えええええ!?何あれ!?俺カッコイイ事なんか、なんもやってないんだけど!!」
俺はびっくりして、リーヴに助けを求めた。
「…いやぁ、いち。あれはなかなか男らしかったぞ?」
「僕コロニーで読みましたよ?今みたいなやつ!!平民の男がお姫様を命懸けで守り、結果お姫様はその平民の男に恋をしてしまったんです。」
「……なんだそりゃ……」
「お姫様は、しょっちゅう城を抜け出して平民の男に会いに行きました。
平民の男は とても貧しい中でも懸命に働き、村や家族を守って暮らす…とても明るくて優しい男でした。ただ、貧しい平民ですけど。
お姫様は、そんな平民の男にどんどん本気で恋に落ちていきました。
でも、男は平民です。」
平民平民うるせぇな……。何回平民言うんだよ。
「お姫様は多くの国の王子様から求婚を申し込まれていました。しかし、あの平民の男以外は考えられない。と、全ての求婚を断ってしまったのです。」
「……ねぇギン。平民の男って名前ないの?」
「忘れてしまいました…。分かりづらいですかね?では、平民の男を仮に“いち”とします…………いった!!いたいいたい!!いちさん、いたい!!!」
ギンのほっぺは今日もとても柔らかい。
ギンは、ぶすっとしてほっぺたをさすっていたが、話をやめる気はないらしく、当たり前の様に続きを語り出した。
……まぁ、続きは気になる。
「怒った王様は、いちを殺しました。」
「ちょっと!!!!何それ!?はしょりすぎだろ!?何でいきなりそうなった!?」
「とても悲しみ、涙に暮れたお姫様は、いちを探す旅に出る事を心に決めました。」
…なんだ。実は生きてて何処かに逃げたのか。
肝心な所を、はしょりやがって!!
今度ギンに物語の話し方を教えてやらないといけないな。
「お姫様は、自ら首を吊って 天国にいちを探しに行きました。めでたしめでたし。」
「めでたくない!!!!!!」
つーか、なんだその本!?
うちのギン君に何て事教えてくれてんだよ!?ぜってぇ燃やしてやる!!エロ本よりタチ悪いわ!!!!絶対燃や………
あ
燃えるのか……。
爆破するんだもんな。
「と、とにかく!!たかがキメラの口に手を突っ込んだだけで、どんだけ大袈裟なんだよ皆……。」
ため息をつきながら、ノアの傷に塗り薬を塗る。
結構傷多いなぁ……。
女の子なのに………。
「……あ!!さっき肌色の塗り薬使ってる人いたよね!!?ちょっと貰って来る!!」
そう言って、俺は前を歩くコロニーの人達の中に走って行った。
後に残ったリーヴとギンは、ポカンとしている。
「……口の中に腕を突っ込んだ所か?」
「いやぁ……その前でしょう…どう考えても。」
「だよなぁ……。」
治療をしている人達の周りをキョロキョロしていると、楓ちゃんが走って来た。
「いちさん!!肌色の塗り薬を探してるって聞いたんですけど……」
「あ…!!楓ちゃん。あるかな?肌色の塗り薬……」
「ありますよ。この缶がそうです。どうぞ。」
「ありがとう!!」
薬の缶に手を伸ばすと、缶を持ってる楓ちゃんの手に俺の手が 微かに当たった。
「ひゃ……」
「うぉっと…」
楓ちゃんは真っ赤になって、とっさに手を離してしまったので 危うく薬を落としてしまう所だったのだが、なんとかギリギリでキャッチ出来た。
うわぁ……
何この甘酸っぱい感じ。
ベッタベタすぎて、むず痒い!!!
なんか恥ずかしい!!
「す……すみませんっ…!!」
「んん。大丈夫。ありがとね。」
「…あ、あのっ……」
クルリと背を向けた俺の服を、楓ちゃんが慌てて引っ張った。
「?」
「…あの…、その薬………一体何に……?」
「え?あぁ、ノアにね。女の子だからさ。出来るだけ傷は目立たない様にしてやりたいんだよね。」
「あ……キレイ……ですもんね。ノアさん……。」
「あー……うーん……。君はまだ中身を知らないからね………」
「え?」
「いやいや、何でも。じゃあ、これありがとね。」
そう言って俺はリーヴ達の元に戻った。
リーヴ達の近くまで来ると、俺は思わず薬の缶を落としそうになってしまった。
リーヴの背中に背負われているノアが、目を開けてこっちをガン見していたからだ。
ノア、気付いたんだ……!!!
「ノア!!」
嬉しくて嬉しくて、全力でリーヴの元まで走った。
ゼエゼエ言いながら辿り着くと、ノアが じぃっ と俺を見ている。
「ノア!!よかったぁ……気が付いぃでででででででででででで!!!!」
ノアは俺の腕を思いっきり掴み、そのまま握り締め……いや、握り潰すかのような勢いで握りし締……潰そうとしている。
「いだいいだいいだい!!ノアちょ、いたいいたい!!腕ちぎれるー!!!!しかもお前、そこ二の腕だから!!マジいたい!!!!ちぎれる!!ちーぎーれーるー!!!」
涙目で叫ぶ俺を見て、ノアはパッと手を離した。
「いち……」
「んあ゛?」
「……いちだぁぁ……」
そう言って、ノアは ふにゃっと笑った。
「………………」
えー………。
ちょっと何それ。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃ可愛かった…。
ふにゃってなんだよ。ふにゃって!!
ああちくしょう!!
俺は怒ってるんだぞ!!
「とりあえず、まだ寝てろよ。その間に薬塗っとくから。」
ふてくされて目を合わさずに薬の蓋を開ける。
「うん……。置いてかないでね?」
「は?」
「目、覚めた時、いてね?」
「………あ、うん。」
何この甘えんぼモード。
さっきから心臓鷲掴みにしてくるんだけど。
鷲掴みにしてるのか?暗殺術の一つか!?
いや、ツンデレ?これが世に言うツンデレってやつなんじゃないか?
いや、ツンツンっていうか……バカなだけなんだけど……………
バカデレ?
そんなアホな事を考えていると、俺達の前を歩いている人達の動きが慌ただしくなって来た。
「なに?どうかした!?」
慌てて声を掛けると、後ろの方を歩いていた人が俺達に状況を教えてくれた。
「サクから無線が入ったんだ!!莉音ちゃんと合流したって!!」
「ほんと!!?」
俺達は急いで列の前に走った。
そこでは、久遠が無線でサクと話していた。
《今、莉音ちゃんと回り道しながら原尾コロニーに向かってるんです》
「原尾!?けどっ……!!俺らは中野博士のコロニーに向かっとるんや」
《中野博士のコロニーに!!?何かあったんですか!?》
「10番の特大キメラがコロニーを襲いに来たんや。コロニーは放棄した。」
《……そっ……そんなっ……》
「後45分でコロニーは爆破される。」
《……えっ……?》
そんな時だった。
無線の向こうで何か激しい音がした。
「なんや!?サク!?どないした!?」
《……サクッ!!!あかん!!あいつらこっちに向かっとる!!!あっちに逃げえ!!うちが引き寄せるけぇ!!》
「莉音!?その声、莉音か!!?」
《…ザザッ…ちょっ…待って莉音ちゃん!!何言ってんの!?……ザザッ……》
ノイズが凄いな…
「サク!?どないした!?サク!?」
《…ザザッ…ダメだよ莉音ちゃん!!!俺も行く!!!………ザザザッ……………》
《ザザッ………ザザザザ……》
「…えっ……!?おい……サク!?莉音!?おい!!!」
次第にだんだんとノイズさえも聞こえなくなっていき、最後は 無音へと変わった。
…無線は、ここで切れてしまったのだ。




