第21話.約束
近づいて来るたくさんのチビキメラ達が土を蹴る足音に混じって、俺の耳に入って来たのは ノアの叫び声だった。
それに続いて、リーヴとギンの声も聞こえた。
俺の状況に気付いたのだろう。
3人とも……俺の名前を叫んでいた。
随分離れているのに。
どんだけでかい声で叫んでんだよ あいつらは…。
楓ちゃんにも聞こえているのだろう。
俺の腕の中で、どんどん震えが大きくなり しまいには声を上げて泣き出してしまった。
あぁ……もう……。
俺も、そんなに涙腺強くないんだけど。
でも、俺の名前を叫び続ける3人の声を聞いてたら やっぱり泣けてきた。
こんな俺が主人とか、ほんと笑える。
ただ最初に偶然目が覚めたってだけなのに。
……主人……と………か……
…………あれ…?
俺なんで………
その瞬間、俺の1m程側で足音が消えたかと思うと、走って来たチビキメラの勢いが連れて来たと思われる風が僅かに俺の身体にかかった。
先頭のチビキメラが、飛びかかる為に飛び上がった事がわかる。
…来た…………!!!
覚悟を決めて、目をギュッとつぶった
…その瞬間だった。
……………ー…バチンッッ!!!!
激しい音が鳴り響く。
「………!?」
それは、俺に対する攻撃の音ではなかった。
目を開けて振り返ると、チビキメラ達の姿は俺達から数メートル離れた場所で止まっている。
その周りには、砂煙が舞い散っていた。
なんだ………?
チビキメラ達は、全員倒れているかの様に見えたが 1匹を残して 11匹のチビキメラがすぐに立ち上がった。
おそらく、倒れている1匹は1番先頭を走って来たチビキメラだろう。
何かで弾かれ、そのまま後ろのチビキメラ達に向かって吹き飛んだのだ。
そのぶつかった勢いで後ろのチビキメラ達は1度全員雪崩のように転がってしまった。
いや……何かに……じゃない。
俺はこれを知ってる。
豚が爆発した時と、黒子が気絶した時。
あの2回と同じ……あの…電気みたいなやつ。
「……っ…!!いって……」
腕が、焼ける様に熱くて痛い。
あの………バーコードがある場所。
流石に馬鹿でもわかる。
あの電気みたいなやつは……やっぱり俺がやったんだ…。
このバーコードと 何か関係がある…。
「……い…いちさん……一体何が…?」
「……っ…あ……」
楓ちゃんの声に、ハッとした。
顔を上げると 残りの11匹がすでに俺達の方に向かって構えている。
ど、どうすればいいんだ?
どーやって出たんだあの電気……!?
やり方がわからない……。
勝手に出るのか!?
方向は!?範囲は!?
楓ちゃんに当たらないのか!?
思わず腕を掴む手に力が入ったその瞬間…目の前のチビキメラ達が、低く身構えた。
飛びかかる体制だ。
11匹1度に来る気か……!?
ゴクリと唾を飲み込んで俺も身構えた時
後ろから 物凄い早さで 俺の真横を、大きな物体が通り過ぎたのだ。
その物体は、ズシンッ…という大きな音を立てて 俺とチビキメラ達の視線上に入って止まった。
地面が揺れ、先程とは比べ物にならない程の砂煙が舞う。
「……なっ……!?何だ!!?」
「きゃっ……」
勢いで舞った砂煙と共に、物凄い突風が俺達にも届く。
砂煙が収まり、視界がハッキリとして来た時には…それが何なのかは、すぐにわかった。
とても大きな、キメラ。
「………きぃちゃん…。」
俺の声に振り向きもせず、きぃちゃんは目の前のチビキメラ達に向かって四本足で立っていた。
…そう、立っていたのだ。
左前足を 地面につけて。
「きぃちゃん!!!ダメだって!!足を地面に付けちゃダメ!!早く飛んで!!!」
しかし、きぃちゃんはそのまま11匹のチビキメラ達に向かって走って行った。
「きぃちゃん!!?」
11匹のチビキメラ達が、全員で一斉にきぃちゃんに飛びかかった。
きぃちゃんは、そのうちの2匹を右手で叩き落とす。
しかし、右手を浮かせて攻撃した分 その反動で左足に思いっきり重心がかかってしまった。
『キュアアッ……』
きぃちゃんが、苦しそうに声を出して左によろけた。
あの大きさだ…。
どの位の体重が左足にかかってしまったのか、俺には想像もつかない。
だけど物凄い激痛が走っただろう事は、俺にだってわかる。
「きぃちゃん!!それ以上左足を地面に付けちゃダメ!!飛んで!!!きぃちゃん!!!」
俺が必死に叫んだ瞬間、きぃちゃんは身体を左右に激しく振った。
しがみついてるチビキメラ達を振り払う為だ。
しかし、それだって 更に左前足に負荷がのしかかる行為。
そして、また きぃちゃんは右手を振り上げて大きく地面に叩き付けた。
振り落とされ、また飛びかかって来たチビキメラ達を叩き付ける為に。
『キュアッ………』
激痛に、きぃちゃんが声を上げる。
「きぃちゃん!!!きぃちゃん!!」
…ダメだ。
言う事を聞かない。
チビキメラ達は、今何匹になったんだ…?
とにかく、加勢しないと……!!
俺は急いできぃちゃんの左側に回り込む様に走る。
なんとか、チビキメラ達の姿をチラリと見る事が出来た。
あと……7匹……?
しかしその時…、きぃちゃんは俺に気付いたのか、 すぐに左側に自分の身体をずらした。
再びきぃちゃんの身体で、チビキメラ達の姿はすぐに見えなってしまった。
「ちょっ……きぃちゃん!!」
再び きぃちゃんは、右手を振り上げて地面に叩く。
「………きぃちゃん……?」
ちょっと待てよ……?
これ…………わざとか……?
俺からチビキメラ達が見えない……
つまりそれは、チビキメラ達からも俺は見えないという事。
きぃちゃんは………
わざと飛ばないんだ。
きぃちゃんが飛べば、身体の小さいチビキメラ達の視線上に 俺達はすぐ映る。
…自分の身体で、俺達へのチビキメラ達の視線を遮断してるのか……?
ふと、きぃちゃんの身体が左側にふらついた。
右側が空き、振り払われたチビキメラ達が俺達に気付く。
ヤバイ!!楓ちゃんから少し離れちゃってる…!!
俺は素早く楓ちゃんの近くに戻り、こちらに向かって走り出して来ているチビキメラ達に構えた。
その瞬間、また きぃちゃんは右側に自分の身体をずらした。
…チビキメラ達と、俺達の間に。
こんな無茶してまで……
さっきした約束を守ろうとしてるのか………?
『お前も、俺達を絶対見捨てんなよ?』
「きぃちゃん………」
きぃちゃんの左前足は、もう限界のはずだ。
もう………くっつく可能性はなくなってしまったかもしれない。
それでも、自分の身を犠牲にしてでも俺達を守ろうとしてくれてる。




