第11話.コロニー放棄
シンッ……と静まり返るコロニー。
この場所を捨てるー…。
あまりにも突然突き付けられた現実に、誰もが言葉を失い 途方に暮れた。
そんな中
久遠がギリッと歯を噛み締め、大声で全員に向けて叫んだ。
「全員、なるべく荷物は軽く!!重要な物だけ持って行くんや!!
準備が出来た者は 西出入り口へ!!!」
久遠の声にハッとしたかのように、全員が一斉に走り出した。
涙を目に溜めながら、懸命にリュックなどに荷物を積み込む人々。
手を握り締めて歯を食いしばる久遠の肩は、わずかに震えていた。
言葉が出ない……。
何かが逆流するかの様な感覚が体中を駆け巡る。
何か……じゃない。分かってる。
……怒りだ。
…ージンッ……
ふいに、両腕の肘の内側あたりに熱を感じた。
そう……
今朝見た、バーコードがあった場所……
「…ちさん………いちさん……!!」
ふいに背中から聞こえたギンの声に、ハッとした。
「……あっ……、ごめんギン!!どうした?」
「僕の…ペーパーを…」
「え…?いや、ギンお前ちょっと休んだ方がいいよ?エネルギー消費半端ねぇじゃんか…」
「でも…追跡装置だとしたら、ナンバーがもう手下をこちらに寄越してるかもしれません…近くに来てるかも……!!メルの探知があれば、僕のタブレットに映して……」
「いや、でも……」
「メルがいないわ!!!!」
ノアが慌てて叫びながら走って来た。
「凪ちゃんもいないの!!!」
「え!?」
「凪は…人間探知を持ってます……。おそらくは、どこかの出入り口から一足早く莉音さんを追ったんでしょう…」
「メルも一緒についてった可能性が高いな……」
だとしたら、アンドロイドの探知機能は使えない。
敵の位置がわから………
あっ!!!
「黒子さん!!!」
「なんだ?」
「外にいる敵で、こちらに向かっている敵って わかりますか!?」
「外にいる鷹を使えば……」
「使ってください!!」
「………………」
物凄い嫌そう……。
ぬめりゴケの恨み、相当強ぇ。
すると、リーヴが黒子に向かって怒鳴った。
「黒子!!早くしろ!!!」
「はいぃ♪♪」
今度ぬめりゴケを両眼に塗ってやろう。
黒子は手元の鷹を腕に乗せてから静かに目をつぶった。
「………東の方角から第2区の隊が5小隊、首都の方からも第2区の隊が1小隊…………。さらに、南の方角から6区の隊が4小隊こちらに向かって来てますね……。」
2区の隊と6区の隊が同時にこっちに来てる……?
「じゃあ、2区の隊と6区の隊が衝突するんじゃない??」
「いえ。2つの区の隊とも、お互いを狙ってる様子はなく…まっすぐこちらに向かってます。」
それを聞いたギンが、瞬時に答えを口にした。
「つまり…。襲われたコロニーにいる2人のナンバーが、莉音さんの体に付けた追跡装置を使って 他の区の隊にまでも、このコロニーの位置情報を流したって事では………」
「そこまでして……っ……このコロニーを潰したいんかっ…!!?」
「第2区は、何故か今人間コロニーにこだわってるみたいですからね……。6区の方は、単に人間狩りをする気分で来てるんでしょうが……」
「ナメくさりおって……っ!!!」
久遠は握り締めていた手を広げ、上にかざすと大声でコロニーに響き渡る声で叫んだ。
「全員!!最低限の物を持って大至急西出入り口より脱出!!!
これより、このコロニーにいる者は中野博士のコロニーへと避難する!!!!」
久遠の声に、荷物を持った人々が全員強く頷いた。
………中野博士のコロニー!!?
「ちょ……久遠!!あそこは前に襲われてるんじゃ……!?安全とは言えないよ!?」
慌てて言った俺の声に、久遠がゆっくり振り向く。
「……っ……」
久遠の顔を見た瞬間、俺は一瞬背筋が凍った。
『あんま人間、ナメとんなや?』
初めてリーヴにキレた、あの時と同じ ……凍る様な冷たい目をしている。
「久遠。」
そんな時、久遠の元に1人の少女が1つの小さな箱を持って来た。
「楓。お前に預ける。俺は両手を使わなあかん。…任せてええか?」
「……命にかえても。」
楓と呼ばれた少女は、その箱を強く胸に抱いた。
「久遠……その箱、何…?」
「……中野博士なら、きっと完成させとる。…きっとや。」
「何を…?」
「元々はな、これが完成するまでの間 少しでも安全な場所に避難しておく為に、作ったんがこの場所やねん。
…最後の1つを作っとる時に、中野博士があんな事になってもーた…。
けど、きっと完成しとる。
博士がすぐ見つかる様な場所に置いとく訳が無い…。あのコロニーの何処かに隠しとるハズや。……楓、見せてやり。」
少女は、ゆっくりと俺達に向かって胸に抱いていた箱を開けた。
中には、綺麗な結晶の様な四角い物が3つ、動かない様に固定されて入っている。
「これ……何?」
首を傾げる俺だったが、背中にいるギンが息を飲んだ。
「…電磁波……装置……!!?」
「ギン坊、正解や。」
久遠が不敵な笑みを浮かべた。
「これをコロニーの4方向に置いて起動させれば、強力な電磁波がそれぞれの装置に向かって流れる。
アンドロイドは入る事はおろか、触る事も出来ん。
触ったが最後、電磁波が体に流れて即死や。」
「中野博士のコロニーに、最後の1個がある……?」
「……そう信じるしかあらへん。」
すると、リーヴが口を開いた。
「ならば、何故今まで誰もその最後の1つを取りに行かなかった?
それがあれば、今ここで起動出来たんじゃないのか?」
「地下では使えへん。
せやから、完成するまで俺は出来るだけの人をここで保護しとった。
作る為に必要な人数だけを、中野博士のコロニーに残してな。」
「博士は、これを完成させる。
俺は、それまで一人でも多くの人間をここに隠して守る。
……そう約束したから、俺は博士と離れてここにコロニーを作ったんや。」
久遠は、唇を噛み締めて悔しそうに
そう呟いた。




