第5話.今を。
涙が止まらなかった。
コンテナで目が覚めた時、なんで俺は記憶がないんだって…その事が凄くショックだった。
だけど、辛い過去を持つリーヴの方が 俺よりずっとずっと辛いのかもしれない。
もし俺がなくした記憶を取り戻したら……。
その時、俺は今のリーヴの様に 辛い過去を受け入れて生きて行く事が出来るんだろうか…。
「……えっ…!?…ちょ、いちさん…泣いてるんですか!!?」
ふいに俺達の元に歩いて来たギンが、俺を見て目を見開いた。
「うぐ…ギンー…。」
「ええええ……」
びっくりして対応に困るギンに、リーヴが口を開く。
「…ギン。そうなんだ。どうやら、いちは人間に作られたアンドロイドの可能性が出て来た。」
「……なんと…。では、僕のデータになかったのは それが理由なのかもしれませんね……。」
考え込みながらウロウロ歩き回ったギンは、ふと泣いているサクの前で足を止めた。
「…こちらも豪快に泣いておられますね。」
「……う…。」
さらにサクはボトボトと大粒の涙を流し始めた。
「えーと…。すいません。さっき読んだ本では…泣いている人間にはハンカチを渡すのがセオリーだと……。しかし、僕はハンカチを持っておらず……」
「ギンは、トイレットペーパーがあるじゃん。」
「トイレットペーパーでは、ありません!!!」
俺の突っ込みに対してプイッと顔をそむけたギン。
その瞬間にギンの袖がヒラヒラと舞っているのを見たサクが、ギンの袖を掴んだ。
「……なんですか?僕の袖で拭くのですか?」
「……あ、えっと……君……両腕が…」
「ありませんけど。」
「……………ない…の…か。」
「?」
ギンの袖を掴んだまま、うつむくサクを見て ギンは首を傾げる。
「あの……さ、ちょうど君ぐらいの背丈の子の義手…が、あるんだけど……」
「義手?」
「片手なんだけど……。前みたいには動かすのは無理だけどさ、日常生活には使えると思う………んだけど……。」
「……?」
そんなサクとギンのやり取りを見て、リーヴが口を開いた。
「…サク。お前ギンより年上だと思うぞ?」
「え?」
「なぜそんな、シドロモドロ喋るんだ。ノアを突き飛ばした勢いはどこに行った。」
「……あっ……。ご、ごめんノアさん…。俺謝ってなかった…」
「ほぇ?」
はい。ノアちゃん忘れてたー。
「そうじゃなくて、サク。俺の話聞いて変に後ろめたさを感じてるんなら、やめろ。」
「……………」
「責めるつもりで話したんじゃない。あぁ…まぁ、ノアを突き飛ばした時は、正直責めるつもりで言ったがな。」
「うん…。」
「いちが言っただろう。その先の話をしようと。そのつもりで俺は話したんだが。」
「…………うん。」
「わかったら、ギンにビシッと言ってやれ。」
「うんっ。」
サクはキリッとギンの方を向き、ギンの両肩を持って言った。
「義手つけよう!?」
「は?」
「片手だけど、あるんだ。俺のね、結構自信作なんだ!!皮は再現出来なくて、機械感丸出しなんだけど……。か、格好は悪いんだけど……。見た目気にしなければ、今よりは便利になると思うんだけども!!!!」
「はぁ…」
「み、見た目気にする!?気にするなら…そうだな……もっとこう……どうしよう!?」
「あの……ちょっと失礼。義手作れるんですか?」
「あ、うん。ていうか…君サイズなら片手分はあるんだけど…。前にね、君くらいの子の義手を作ってたんだけど……その子、亡くなっちゃって…。……あ、そういうの、嫌かな?なら新しく作るよ!?3ヶ月くらい待ってもらえれば超速で…」
「いえ、それ頂きます。」
「えっ…」
「今あるやつ、頂きます。」
「いいの!?」
「それ、僕のセリフなのでは…?」
「じゃあ、早速工房行こう!!俺の工房あっちだから!!」
「いちさん……ついて来てください。」
「はい。ギン君行ってらっしゃい。」
「…………」
サクに引っ張られながら、こっちを見ているギン。
うーん……。
この子達は寂しがり屋さんが多い事多い事。
あれ?暗号じゃないよな?
ギンとサクが工房に歩いて行くのを見送っていると、ふとサクがこっちを振り返り 大声でリーヴに叫んだ。
「リーヴさん!!あのね!!大人用の義手もあるんだ!!!サイズ変えてリーヴさん用に作ってもいい!?最強の右腕にしてあげるから!!!!」
リーヴは少し驚いた顔をしていたが すぐに微笑み、肘から上しかない右腕をサクに見える様に揺らした。
嬉しそうに笑ってギンと共に歩いて行くサクを見ながら、リーヴは俺の顔を見て呟いた。
「サクに話したのは……間違いだったと思うか?
例え昔の人間があれだけの愚行をしていたのが事実だとしても…。
今のサクが負うべき罪ではなかったな…。」
「うーん……。そうかなぁ…?昔の過ちを知った上での涙って、今のこのどーしよーもない世界を変えるためには一番必要な涙だったと思うよ?」
「あんた、時々物凄いクサイ台詞吐くわよね。」
「せめて綺麗事と言ってくれ。」
「綺麗事吐くわよね。」
「あのね!?考えてみて?誰も吐かないんだもの!!例え綺麗事でもね?俺が吐かないと、誰も吐かないの!!これどーなの?記憶あると、みんな汚れるの?みんな汚れたらどーなっちゃう!?破滅の予感しかないよ!?どーする?」
「……………っ……。吐くわ!?私も吐く!!」
「お前は違うの吐きそうだからいいよ。俺が吐くよ。」
「吐く吐く言わないでよ!!吐きそう!!」
「ほらな!!!」
また騒ぎ出した俺達を見て、リーヴがクッと笑った。
「世界を変えるって……。凄い事言ったなお前…」
「思うのは自由とタダだから。言うのも自由とタダだから。」
「はははははっ…無茶苦茶だな」
「ねぇ、しばらくここにいるのよね?」
「え?…出来れば…いたいよね。」
チラリとリーヴを見ると、リーヴは笑いながら頷いた。
やった!!!
「じゃあ、明日は中野博士のコロニー行ってみようよ」
「そうねぇ…。莉音ちゃんも無事に帰って来た事だしねぇ。久遠の用事ってのは、莉音ちゃん達救出部隊の援軍か様子見ってとこだったんでしょうし……。」
「出来れば、その襲われたコロニーにも行っておきたいな。何かいい素材や、生活の足しになる物を補給する事が出来るかもしれん。」
俺は人間に作られたアンドロイドかもしれないんだ。
中野博士のコロニーに行けば、何か俺の事が分かるかもしれない。
居場所が出来た事。
人間という、新しい仲間が出来るかもしれないという事。
記憶の手掛かりが掴めるかもしれないという事。
少しずつ、いい方向に向かってる様な気がしてた。
だけどそれは
この日1日だけだったんだ。




